コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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余話 50年後 ~ 戦いの予兆 ~

 

 

 クロスボーン・バンガードはア・バオア・クー宙域において、得意とする奇襲をジオンから逆に仕掛けられ、一時撤収を余儀なくされたのだ。

 ジオンは少ない戦力でも鮮やかな戦いを見せつけた。

 

 

 始めにア・バオア・クーをエサにして引き付け、向こうの取りうる戦術を限定した。

 その上で、包囲が完成する直前という油断の瞬間を狙いすましての奇襲攻撃だ。

 

 正直ジオンのMSは良くてザクⅢ、悪くすればケンプファーまでいる始末である。

 この動乱が予想以上に広がったことから連邦軍は渋々MSのデッドコピーを許したが、それはジェガンのベースモデルに限られている。もちろん技術情報をコロニー自治政府などに出したくないのが本音だからだ。しかも時期が遅れたために結局生産は間に合っていない。

 これでは連邦軍主力の改良型ジェガンや、やっと配備の始まったリゼルですらクロスボーン・バンガードの一般用MSデナン・ゲーにかなわない有様なのに、ましてジオンのMSが正面から立ち向かったら、あまりに困難な戦いを強いられる。

 

 そのため、ジオンは正攻法をとっていない。そして囮役となったヒル・ドーソン隊もうまくやったし、思いっきりのいい突進奇襲をかけたレズン・シュナイダーやアンジェロ・ザウパーもよく戦った。

 

「さあ、あたしも長く生き過ぎた。そろそろ空に還るよ。ただし、ここの全員を道連れにね!」

 

 なんとか戦いを優勢に持って行ったとはいえ、ジオンのMS隊はボロボロだ。性能差のため、一機、また一機と消えていく。

 

 その中で今のセリフをレズン・シュナイダーが言った。

 

 あの戦争の頃の強兵は既になく、貧弱になったジオン軍といえども、その士気と誇りは少しも風化していなかった。勇士たちへ脈々と受け継がれていたのだ。

 勇士が勇士たるべき姿、それは散り際に最も美しい。

 唯一の生き残りであるロニ・ガーベイが涙と共に伝えるばかりである。

 

 

 

 実は、ジオンがこの戦力差でも勝てるよう戦術を進呈したのは俺だ。

 

 土星圏にとどまっている俺は時間のかかる通信しかできない。それではわずかなことしかしようもないが、持てる戦力で最大の効果を発揮する戦術を考えることはする。練り上げたデザインを大まかに伝えることは可能だったのだ。

 

 だがこの奮戦でもクロスボーン・バンガードの戦力を大きく削いだわけではなく、態勢を立て直したクロスボーン・バンガードが再び侵攻してくることが予想された。

 

 しかし、そこはキシリア閣下が未然に防ぎ切った。

 

 キシリア閣下は小惑星帯にいるシャア少将をあえて呼び戻すことはせず、逆に小惑星帯の完全掌握を命じたのだ。

 元々月の裏側に位置するジオンは小惑星帯開発に有利であり、アクシズを拠点として開発競争では他のサイドを常にリードしている。そこが厳然とした強みなのである。そんなジオンが小惑星帯を押さえてしまうことは戦略的に重大であり、これをカードにして取引を持ちかけたのだ!

 結果、クロスボーン・バンガードの再侵攻を防ぎ、ジオンとの単独講和のテーブルに着かせることまでやってのけた。

 キシリア閣下はセンスと胆力で長くジオンを盛り立て、戦争では幾度も崖っぷちに立たされたジオンを助けてきた。ジオンが今、宇宙の有力な政治ブロックのリーダーになりおおせているのもキシリア閣下がいてこそだった。

 

 その政治手腕はまた最後に輝き、立派に引退前の仕事をやり遂げたことになる。

 

 ちなみにだが、ジオンがクロスボーン・バンガードと安易な妥協はせず毅然とした態度をとれたのは内政が揺るがなかったからでもあるが、これについてはザビ家へカーン家とセロ家が緊密に協力していたおかげだ。いや、今ではカーン家とセロ家は一つなのだが。

 

 

 この戦い以降、流れは変わった。

 勢いを失ったブッホ・コンツェルンとクロスボーン・バンガードは衰え、動乱は終結に向かう。

 ついにカロッゾ・ロナ自らが陣頭に出てテコ入れを図るが、それが逆に致命傷になってしまう。痛恨にも連邦の新規実験MSと優秀なパイロットに斃されてしまったのだ。

 カロッゾ・ロナは元々ただのメカ好きの少年だった。それがロナ家にかかわるようになり、一族に婿という形で入った。ロナ家の血統ではないため引け目を感じ、それがかえって周囲に虚勢を張り、孤独に君臨することになってしまった。

 自身が滅びると共に、やがて作り上げた体制もまた瓦解していった。それはシャルンホルスト以来の一族の夢が失われることでもある。

 

 

 

 だがしかし、この動乱は一つの現実を人々の前に明らかにしてしまったのだ。

 それは連邦政府の力が衰えたことである。

 

 本当ならこんな財閥による軍事的動乱が最初から起きないほど連邦はしっかりとしたものでなくてはならなかった。

 しかし現実に膨大な犠牲者を出してしまった。

 サイド3ジオンは何とか凌ぎ切ったものの、動乱の発端であり主戦場となったサイド5は被害甚大である。

 もちろんサイド1のブッホ・コンツェルン本拠コロニーも壊滅している。

 また、連邦軍基地のあった月面、ルナツー、サイド1ロンデニオンコロニーなども同様であり、ついでに巻き込まれる形でサイド4やサイド7の被害も少なくない。

 

 こうして各政治ブロックとも痛手を被ったが、相対的に最も損害が大きかったのは連邦だった。更に弱体化が進んでいく。

 良識派政治家として知られるリディ・マーセナスや、ハサウェイ・ノアらが努力しても連邦政府の斜陽はどうにもならない。

 結果的に動乱の戦後処理は甘くなってしまった。

 最も重要なのはブッホ・コンツェルンの莫大な富を押さえることだったのだが、その追求は余りにも遅かった。そのためクロスボーン・バンガードの残党が手早く秘匿してしまい、結果として残党の資金源は簡単に枯れるほど少なくはなく、それをもとに新たな蠢動を始める余地が残った。

 

 

 政治の表舞台ではこの動乱で漁夫の利を得たサイド2が台頭してくる。

 

 今やサイド2は全サイドの中で最大の人口と生産力を持ち、それを背景に勢力を伸ばしていく。しかも裏でクロスボーン・バンガードの残党と接触し、彼らと密かに取引をして欲しかった最先端軍事技術まで手に入れてしまった。

 サイド2に野望の芽が育っていく。

 良識派官僚のハンゲルグなどが反対しても動きは止まらない。各コロニー群を抑えるものが存在しない以上、力があれば覇者になれる。その誘惑は実に大きかったのだ。

 その下準備を進めていくが、ここで同盟を組んでいたサイド1が頼りにならなくなったため、新たな勢力を戦略パートナーに加えようと画策した。

 

 その相手が木星圏である。

 

 

 

 サイド2と木星圏は緊密な連携を軸に力を蓄え、いつか同時に決起する手筈だった。

 しかし思いがけないことにクロスボーン・バンガードの動乱からわずか四年後という時期、木星圏の方が先走って連邦に対し反旗を翻してしまった。

 

 それには幾つも理由がある。

 

 木星圏は水と鉱物の不足に悩み、常に耐乏生活を強いられてきた。それはどうにもならず、改善される見込みのない重い枷である。

 これだけでも地球圏をうらやみ、怨念ともいうべき感情が木星圏の人間には常に育っている。

 理屈ではどうにもならないことだが、それでも存在するものは仕方がない。

 

 今、何と俺と土星圏のせいで余計そういう感情が高まってしまったのだ!

 

 木星圏はもちろん土星圏という新興の開拓を横目に見ている。

 最初は懐疑的に思わなくもなかった。地球圏からすると木星圏ははるか辺境であり、そのことに負い目のあった木星圏としてはもっと遠い土星圏に対して逆に優越感を持ち、少なくとも弟分くらいには思っていたのだ。

 

 だが予想に反して土星圏の開拓は順調に進み、木星圏の方がはるかに先発していたのにもかかわらず人口ではあっという間に迫り、近いうちに肩を並べるのが確実視されている。それもこれも土星圏には何も耐乏するものがなく、しかも政治的に安定していたせいである。

 

 これでは木星圏の苦闘がいったい何だったのか。

 

 

 おまけに土星圏からのヘリウム3供給が始まったら、今まで木星圏が独占していた供給元が増えることを意味する。そして輸送コストはもちろん地球に近い木星圏が安く済むが、逆に採掘コストは高い。トータルでいえばもしかして不利になるかもしれない。少なくとも独占は不可能になるのだ。

 木星圏はかつてジオンの行ったエネルギー戦略を見て、その有効性に目を見張った。地球圏からヘリウム3を安く買い叩かれていると怨んでいた木星圏はそのやり方を非常に使える戦略オプションだと認識した。

 しかしそれもまた土星圏からのヘリウム3供給のせいで根本から覆されてしまう。

 

 最後に、ブッホ・コンツェルンの残党がサイド2を通して木星圏まで逃げ込んできたが、そのために貴重な軍事技術を手に入れることができてしまった。むろん残党はその見返りに早急な木星圏の蜂起を言い立てている。

 

 

 今、木星圏の総統クラックス・ドゥガチは決断した。

 

 地球連邦に対し木星船団公社の解体と接収、そして木星帝国の設立と完全独立を宣言した。

 

 同時に連邦に対し、木星帝国への莫大な生活資材輸送を要求した。そんなことは連邦が呑めないと知ってのことだ。

 木星帝国は軍事対決を最初から望んで事を起こしたのである。

 その最終標的は地球、自分たちのように生きるだけでも苦しみにうめく者たちのことなど知りもしない、恵まれた者たちに報復しなければならない。

 

 ただし木星帝国の戦略には順番というものがある。

 

 必ずやっておかねばならないことは後顧の憂いを断ち、併せてヘリウム3のエネルギー戦略を有効にすることだ。

 

 すなわち艦隊を派遣し、最初に土星圏を叩き、屈服させる!

 

 

 

 

 今、戦うため木星圏から艦隊が出港していく。

 

 ここから土星への距離が距離だけに、艦はバラバラに移動するのではなく、大型輸送艦ジュピトリスを中心に各艦が連結される形でまとまっている。戦闘前にはもちろん分離する予定なのだが、そうなるとジュピトリスの他に巡航艦と強襲揚陸艦を合わせて約三十隻の艦隊となるだろう。

 堂々とした艦隊だ。

 

 しかし、内部には少しばかり不協和音があった。

 

「……距離が遠ければ向こうに準備の時間を与えてしまう。この場合二年以上もだ。奇襲もできないのに、のこのこ土星圏まで出向くのはかなりの悪手に思えてしまうのですが、パプティマス・シロッコ総司令官殿」

「何が心配と言われるか、ザビーネ・シャル殿。ドゥガチ総統のお望みは土星圏を封じ込めるだけではなく、完全に征服し、連合化することにある。そう考えて頂かねば困る」

「だからこちらから出向くといっても、土星圏の戦力が分からないのに、わざわざ敵地に入り込んで戦うのは不利としか……」

 

「は、これは面白い! クロスボーン・バンガードの黒き死神とも言われた英雄ザビーネ・シャル殿が、何と戦いを恐れる御仁だったとは」

 

 

 ザビーネ・シャルは危うく激高しそうになったが抑えた。

 

 自分は確かに敗残者だ。ブッホ・コンツェルンのクロスボーン・バンガードの残党、そんな情けない立場であることは間違いない。

 しかしそこまで言われる筋合いはなく、むしろ実戦を知っているという自負心がある。

 

 かつてクロスボーン・バンガード内ではエースの中のエース、自分専用のMSベルガ・ギロスを与えられ、最精鋭の黒の部隊を率いて華々しく戦ってきた自分だ。

 連邦に敗れてから辛酸を嘗めることになり、それでも生き続け、今は木星圏まで流れて来た。

 それもこれも再興を夢見ているからだ。

 仲間たちともう一度国を造り、名誉と忠誠の証、クロスボーンの旗をもう一度立てたい。

 そんな自分を木星帝国総統ドゥガチが拾ってくれた。そして実力を買われてこの遠征艦隊の参謀に命じられたのだ。 

 

 だが今や言葉は丁寧であるが馬鹿にされ切っている。

 総統ドゥガチの片腕でもあり、今回の遠征艦隊を指揮するパプティマス・シロッコに。

 そこで思わず強く反論してしまった。その下地にシロッコについてとある噂があったからだ。

 

「この戦い、総司令官殿はずいぶん自信がおありのようだ。しかし、もしも土星圏のコンスコン大将が出てこられたら? 高齢のためまさかとは思われるが不可能ではない。過去の戦歴は凄まじく、幾度も劣勢を跳ね返し、奇跡の勝利を掴んできた伝説の戦術家だ。そんな将を相手にして戦うとなれば悠長なことは言っていられないのでは」

「それこそ望むところ! この遠征艦隊の圧倒的戦力の前に得意の戦術とやらが通用しない様を見て絶望してもらうまで。実に楽しみが増えた」

 

 パプティマス・シロッコがつまらない私怨を持っているという噂は真実だったと確認しただけに終わる。シロッコの私怨は土星圏のコンスコンに対するもので、噂ではかつて自分の野望が妨害されてしまった経緯があるらしい。

 

 

 

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