この機械の群れは使い捨ての兵器に過ぎず、ならば高級な知能が載っているはずがないのだ。
とはいえミノフスキー粒子の濃い中で遠く離れた艦からの操作は無理に決まっている。
それを考えた上で、ギュネイ・ガスはついに目標を見い出した。
コントロールタワーが群れの中に潜んでいる。そこを叩く!
躊躇なく突進するがあっさり阻まれ、いったん距離を取り直さざるを得ない。密度の高い機械の群れを進み、深くまで辿り着くのは容易ではないのだ。
だが気合を入れ直す。
クシャトリアⅡたちの死闘を見ては自分が頑張らないわけにはいかない!
もはや取れるやり方など限られる。勢いよく増速し、ひたすら限界まで斬り払い、爆散寸前で脱出という捨て身の体当たりを敢行する。
ここまでしてようやくコントロールタワーを仕留めることができた。機械は自己保護の本能がないため回避の動きに入るのが遅いことまで読み切っていたのだ。
だがしかし、機械の群れの動きが変わった、と思えたのはわずかな時間だった。
実はコントロールタワーには予備が隠されており、破壊されると自動的に切り替えられる設計だったのだ!
けれどギュネイの考えは決して間違いではなく、立証もされた。それが情報として伝わっていく。
ギュネイは人生の大半をジュドー・アーシタという越えられそうもない壁を前に頑張ってきた。ただしそれが苦労ばかりだったかというと決してそうではない。ジュドーを中心としたチームに温かく迎え入れられ、一員として過ごしてきた絆がある。
「後は任せた、ジュドー!!」
今は互いを信じる、それだけだ。
一方、ジュドーとザビーネ、二人の戦いはまだ続いている。
比べてみれば少しばかりザビーネの方に損害が多いが、豊富な戦いの経験が決定打を許していない。それどころか落ち着いて逆転の機会を狙っている。
ただしこの頃には二人にも凶悪な戦闘機械の群れが見えてきていた。
「あれは! どういうつもりだ! 総司令はなぜここで使う! 私も私の部下も…… いやまさか」
ザビーネはそう言うが、現実に部下たちへ戦闘機械が襲いかかろうとしている。ジュドーと戦う時に騎士として一対一を望み、部下たちを遠ざけていたのだがそれが仇となった。
ここに至ってもザビーネ・シャルは木星を裏切る気はない、そもそも裏切るという発想がないのだが部下を護るのは何にも優先する。今は早急に戦闘機械を止めなくてはならない。
そしてザビーネは戦闘機械の弱点、コントロールタワーの存在を最初から知っている。元はといえばクロスボーン・バンガードの兵器だからだ。
ジュドーとの戦いのことは心配していない。
わずかな動きの違いで戦意の消失が伝わるはず、それは技量の高いもの同士なら通じ合う呼吸だ。
その通り、ジュドーの側はザビーネが自分との戦いをやめ、戦闘機械の方に対処しようとしていることを理解した。
ザビーネ・シャルは飛ぶ。戦闘機械を薙ぎ払いつつ突破し、愛機ベルガ・ギロスの中破と引き換えにコントロールタワーを破壊する。
だがそれでも自動的に予備のコントロールタワーが起動して引き継がれてしまう。
その頃ジュドーにもギュネイの仮説と行動のことが伝わっている。
「へへ、ギュネイの奴、泣かせるつもりか。練習マシーンから格上げしてやるぜ」
そんな軽口を忘れることはないが、仲間の思いを受け止めるのがジュドー・アーシタだ。
「引き受けたぜ、ギュネイ。美味しいとこ持って行って悪いな!」
ジュドーがコントロールタワーを破壊した時、ようやく全ての制御は終わった。それ以上の予備はなかったのだ。
そしてコントロールタワーの制御を失えば戦闘機械の脅威は激減する。
機械たちはそれでも止まることなく、ある程度の自律的な動きを継続しているのだが、全体の連動は失われてしまった。単純な動きだけになれば撃破も容易い。
リタ・バシュタと残った十二姉妹の手によって一気に片付けられていく。
一方その時間にも土星の先遣MS隊が進んでいく。
やはり最後はジュピトリス直掩のMS隊が出てきたので直ちに交戦に入る。さすが直掩は木星側の精鋭揃い、戦闘は熾烈を極め、簡単には抜けない。
しかし土星MS隊は出撃時に受け取った戦術指示を忘れていない。
ひたすらジュピトリスのエンジン部に向かって力押しにすると見せかけ、しかし二機だけを抜け出させ、別のところへ一気に向かわせる。
真の目標はジュピトリスの酸素と水のタンクだ。
「ビーチャ・オーレグだ。カミーユ・ビダンとユイリィ・ビダン、二人は目標へ行け。頼んだぞ」
それを聞いたイーノがビーチャにどうしてその二人を選んだのか聞いた。
「イーノ、言いたいことは分かる。あの二人は民間人だ。しかし明らかに俺たちより優秀なんだ。あの二人はここに来るまで五機も倒しているぞ」
「そうなんだ、ビーチャ」
イーノもそれを聞くと素直に納得する。そもそもカミーユらの撃墜数を知らなかったので聞いただけで他意はない。
こういうところが土星の真の強さなのだ。
曇りのない目で見て、実力がある者を素直に認める。だがこんな簡単なことができない組織、あるいは軍というのはいくらでもある。
土星の場合、ガトーやカリウス、ケリィといった勇者が基礎を作った。
正しいことを正しいという精神がしっかり根付き、受け継がれていたのである。
ついにジュピトリスに取りつき、タンクの場所を見極め、みごと撃ち抜くことに成功した。
この殊勲を上げたのはユイリィ・ビダンである。
ユイリィは土星から出撃の直前、命令無視で潜り込もうとしたレコア・ロンドを諌めて止めさせている。そのこともありレコアの分も戦果を上げようと頑張っていたのだ。
もはや勝負はついた。
これでジュピトリスは惑星間航行できる能力を失い、ここ土星圏で立ち往生するしかない。もちろん他の艦艇も同じ運命である。いくら無傷でも同じことだ。
この会戦場所から木星に帰ることはもちろんのこと、捨て身で進撃して土星圏コロニーへ行くこともできない。この戦場の位置はそういうポイントなのである。よほど土星側が詰めを誤らない限り早いか遅いかだけの差で、木星艦隊はいずれ降伏しか生きる道は残されていない。
この土星圏会戦は土星側が迎撃に成功したのだ。
ではなぜ土星側の艦隊が長距離輸送艦無しでここまで来れたのか。
戦場を想定し、二年のうちに補給ポイントを幾つも敷設していたからだ。もちろんそれらを木星の側が発見できることはない。
後世多くの者がコンスコンについて論評を繰り広げていて、それは非常に幅が広いが、一致しているのは先を読む目の凄さである。これに対抗できるのはそれこそグリーン・ワイアットくらいなものである。
この土星圏会戦は始めから準備の差が明白だった。全ては土星側の掌の中だったのだ。
「くそッ、どういうことだ! こういうはずではなかったのに!」
「シロッコ総司令官、残念ですが敗けは敗けです。長距離砲でもMSでも、おまけに戦闘機械でもどうにもならなかった以上、潔く敗けを認めましょう。ただし別に全てが終わったわけではなく、条件交渉の余地は充分にあります。なぜなら土星側としても木星を敵として泥沼化するのは決して望まないはず」
ジュピトリス内では思わぬ展開に緊迫した声が響く。
「なるほどカガチ、交渉で粘るとはお前は軍より政治家が向いているようだ。だが性に合わん。私はやはり戦いで活路を見い出す」
「 ………… 」
「カガチ、切り札があるのだ。特別なMSを用意している。私自身がそれに乗って出て、その圧倒的性能で一気に突破してくれる」
「そんな、無茶な」
「別に全部と戦わなくとも、コンスコン大将を生け捕りにでもすればまだ勝ちの目はある」
「しかし、それこそ…… 」
「それでもダメなら降伏でも何でも好きにしろ。ドゥガチ総統にはありのままを伝えていい。だがしかし、自分がただの無能者として歴史に名が残るのは我慢ならん。待ちに待った表舞台なのにこの結果は断じて認めん! せめて私の開発した最高傑作ジ・OⅢの素晴らしさを見せつけてくれる」
俺はチベの艦橋から会戦の行方を見て安堵している。
しかし、何やらこのまま終わりそうにない気もしている。
すると何とジュピトリスから一機のMSが出てきたのだ。
それは大ぶりで、いかにも特別製であるような周囲を圧迫する雰囲気を持ち、力に満ちている。今さら出てきても手遅れとしか思えないが、だからこそ出てきたのかもしれない。
その特別製のMSが発進し戦いを挑んできた。大きさにもかかわらず速い。
最初に狙われたのはジュピトリスのタンクを破壊したユイリィ・ビダンのMS、これを報復の初めにしたのだ。
ユイリィは一撃で大破されてしまった。
この頃にはビーチャやイーノも追い付いていたが、全く手も足も出ず同様の運命にされる。
ここで一機の土星MSがユイリィたちを逃がし、代わってこの強力MSの相手をする。
「戦場を好き勝手にしてくれて! もう意味がないのに、あんたは何で出てくるんだよッ!」
カミーユ・ビダンがこのパプティマス・シロッコのMSへ突撃する。
激しくも一瞬で戦いは決着がつく。
それが土星圏会戦の最後の光芒を飾ることになった。