コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第十六話 ザビ家の話し合い

 

 

 俺は憤然としながらメカニックから戻った。

 

 まあ何か口出しをすることもできない。やれることは、自分の艦隊、コンスコン機動部隊の決戦準備を粛々と進めるだけだ。

 しかしそれもまた、補給物資のことから兵士の健康チェックまで本当にいくらでもやることがあり、優先順位を決めないと終わらない。

 俺の部隊だけでなく、各部隊それぞれで大忙しだ。

 命をかけた、しかしある意味巨大なお祭りが始まるからには。

 

 そんなことは部隊レベルの話だ。

 もっと上のレベルのことは、やはりそれなりの人間が考える。

 

 

 ア・バオア・クーの最深部、戦略会議室で作戦が話し合われる。しかし会議とは言ってもたった三人だ。ザビ家の者しかいない。事実上、この三人が決めることだ。しかも他の人間が知ってはならない秘匿にすべきことでもある。

 

「何? ギレンの兄貴! それでは俺の部隊は邪魔者か! 俺の戦力が部署を決めない遊撃だとは、いったいどうやって戦う!」

「ドズル、兄貴ではなく総帥と呼べ。そして別に邪魔者だとは思っていないさ。ソロモンの戦力の大半は脱出できたのだし、その戦力は貴重だ。ただし、ア・バオア・クー戦においては最初の部署を決めず、決定戦力として必要な場所へ必要な時に投入するというだけだ」

「その必要な時が来なければどうする!」

「それならそれでいいじゃないか」

「だが兄貴、最初からNフィールドが狙われることは分かっている! 最初からそこに戦力を集中させておく方がいいんじゃないのか。Nフィールドには兄貴の部隊だけ、いくらドロスの搭載MSが多くとも、支えられるのか。破られそうになってから駆けつけても遅いんだぞ。戦いには勢いってものがある。ただでさえ数の多い連邦が勢い付いたら止められん!」

 

 ドズルは戦術を考えている。多少どころかかなり無鉄砲なところがあるドズルだが、やはり第一線で戦ってきた闘将だ。戦場の流れとか、呼吸というものが分かっている。

 数の多い敵には、最小限精神的に引けをとってはならず、主導権を渡してはならない。

 その上で怯えさせ、浮足立つように仕向けるのだ。いったん相手に楽勝と思わせたら本当に楽勝にさせてしまう。

 

「俺の下には優秀な部下が多いが、特にコンスコンがいる。奴は強く、しかも運がいい。これまで負けなしだ。最初から使った方が良いぞ」

「決定事項だ、ドズル。Nフィールドは本国ギレン総帥府の軍で固める。意思統一的にもその方がよく、足並みも揃う」

 

 それなりの理由を付けてギレンが断を下す。

 優柔不断よりよほどいい。しかし、その裏を感じ取る者がいた。

 

「そして戦果を独り占め。総帥の奮戦でジオンは最後の最後で救われる。惚れ惚れするほどの宣伝材料、いっそう兄上のカリスマにも箔がつくことでしょうね」

「言い方に棘があるな。キシリア。つまらん邪推だ。そんな小さなことを考えているとでも? 考えるのは常に我がジオンとザビ家のことだ」

「本当に? もしそうなら、ソロモンの段階で送ったのがビグザムだけとは、いかなる理由で」

「それを言うならキシリア、そちらの応援もたかが十隻程度の艦隊、しかもギリギリ間に合ったとはどういうことかな」

 

「兄者もキシリアも、終わった話を蒸し返してどうする!」

 

 ドズルがそう言って中断させる。ザビ家は昔からそうだ。兄ギレンと妹キシリアは何かと反発しあう。今までは弟ガルマという接着剤があったのに、それは失われた。

 しかしここはジオンの行く末が決まる大事な会議、そんなことではいけない。

 

「……それでア・バオア・クーの防備の話に戻れば、私はSフィールドを守ればいいと?」

「その通りだキシリア。Eフィールドに艦隊を到着させたようだが、Eフィールドはカスペンの隊を回してあるから充分だ。Sフィールドに回ってくれ。そのSフィールドも敵襲を受ける可能性がないともいえん。連邦の立場に立ってみれば、同時攻撃で守備側を混乱させ、ついでに戦いながら一番突破しやすい場所を見極めて攻めるだろうからな」

 

 ア・バオア・クーを正面から見て、区分を四つに分けている。

 要塞の守備力は、岩石をそのまま利用した岩石弾と、砲台を取り付けた浮遊砲台に大きく依存している。コストが安く作れる分だけけっこうな数がある。

 その砲火を浴びながら無理に攻めるのは連邦としても負担が大きい。

 そのため、砲台の比較的少ないNフィールドを狙ってくると考えるのが最も順当だ。連邦が堂々と押し迫り、ジオンの機動戦力を壊滅させてから要塞に侵入するつもりならここしかない。

 だがしかし、隙をついて奇襲をかけてくるとすればSフィールドの可能性もなくはない。十字砲火を素早く通過できれば、そこが外郭からエネルギーユニットなどの主要部へ一番早く行けるルートだからだ。

 

「ただ、任せるといってもキシリア、グラナダから連れてきたのがたったの六十隻とは? おかしいな。グラナダには少なくとも百隻以上あったはずだが」

「精鋭を選んで連れてきたので。パイロットはそれなりの水準の者を。装備のMSもほぼゲルググ。それにあのシャアまでいるので、不足はないでしょう」

「シャアか。奴をだいぶ買っているようだなキシリア。ガルマを守れなかった程度の男だろうが。ああ、それでキシリア、重用するのは構わんが父上には隠しておいた方がいい。父上がグレートデギンで出るという噂もあることだ。ズム・シティで話をした際、父上はどうしても前線で兵士を督戦したいと仰ってね。私ももちろん反対したよ、キシリア」

 

「ち、父上が! グレートデギンでこんな前線に! それは危険過ぎる!」

「キシリア、お前は昔から父上のことばかり気にする。まあ、本当かどうか分からぬ噂だ。この私だってグレートデギンが、いつ、どこの航路で来るかなんて、全くもって知らされていないのだからな」

 

 

 

 そんな話し合いのことなど俺は知らず、目の前のことに単純に喜んでいる。

 ようやく俺の艦隊の陣容が整ったんだ。

 ドズル中将からチべとムサイを追加してもらった。

 またチべか! ありがたいけど俺は一生グワジンとは縁がないな。

 

 そして念願のギャンも三機ほど受け取った。

 やっぱりあったじゃないか。

 

 試してみたところ、やはりシャリア・ブルに合っている。

 格段に動きが良く、もうずっと前から乗っていたかのような堂に入った乗りっぷりだ。

 もう一つ、つまらないことだがマ・クべ大佐が乗っていると思うとギャンは微妙だったが、こうしてまともに向き合うとけっこうカッコいいな。

 

 ツェーンにもギャンが合っている。ザクより軽いほどの軽量級でありながらエンジンの反応性が機敏なギャンは動きにタイムラグが少なく、楽そうだ。

 意外なことだが他の隊員たちには誰もギャンは合わなかった。

 反応がスムース過ぎて、生身感覚でぞくっとするそうだ。

 同じ社の製品とはいえ設計思想の違うMSに乗り換えるのもストレスなので、他の隊員たちは使い慣れたドムに留める。

 

 アナベル・ガトーには、俺の艦隊でたった一機だけ支給されたゲルググを当てた。

 ガトーはMSの性能が上がれば上がるほど力を発揮するタイプだ。ゲルググにふさわしいのはガトーしかいない。それに操縦系が違うという評判だが、ガトーならそれほど苦労もなく対応するだろう。

 

 ジオンの台所事情が苦しいのは分かっているが、ゲルググが一機だけというのはどういうことかと一応後方部に文句を言った。するとパイロットにあわせたチューニングするというオマケを付けるので、それで勘弁してくれませんか、という返事がきた。

 しめしめ、渡りに船、実はそれが狙いだ。

 どうせガトーしか乗らないのなら、できるかぎり個人に合わせた調整で性能を上げてもらった方が良い。ゴネる中年は得をするな!

 専用機のようなものになる。それならカラーリングするかとガトーに聞いてみた。

 

「い、いえ、特には。コンスコン司令の思う色にして下さい」

 なんか誤解を招きそうな表現だな!

 結局、塗り直しはしていない。俺も少し考えたが、今まで使われてない色でこれといった良い色が考えつかなかったんだ。

 

 最大の問題であったクスコ・アルのエルメスについては、まあ解決したといっていい。半壊状態の自機を完全にぶち壊して制御系を抜き取り、新しいエルメスに移植するという荒業を使った。その上で、ビットの数を減らすという方法を同時に試している。

 

「エルメスの最大九個のビット、それを自在に操るのはララァにしかできないことだった。私はどんなに無理しても六個が手一杯だった。」

 

 ララァは能力的にノナ・ディレクターと呼ばれるレベルという話だ。九個のビットを操るが、それは実は順番が逆であり、ララァの能力を予測して作られたのがエルメスだ。

 クスコ・アルはビットをギリギリ六個まで操れるヘキサ・ディレクターというものらしい。一つの違いがとんでもなく大きな落差だということだ。また、ビットを増やすごとにパイロットへの負担が段違いになる。

 俺は六個では多いと判断して、ビットを四個にするように命じた。クスコ・アルはそれで非常に楽になったようだ。

 やはり人間、無理はいかんよ。

 年を取ってから響くんだよ!

 

 

 

 俺の方も悩みながらあれこれ準備を進めていたが、用意を整えているのは連邦も同じだった。

 

 あの木馬でさえ驚くようなことがことがあったんだから!

 

「アムロ、今度の大作戦で我々はサウス・バニング隊との共同歩調になる。先に連携の調整のため出向いておくんだ」

 

 そう言われたアムロが先行して進んでいく。

 星々が全天に見える。

 そのはざまに連邦艦の群れが浮かんでいる。黄色が多いが、他に赤や紫もわずかあるようだ。こうして見る限り、戦いの道具とは思えないほど美しい。できれば、戦いが終わっても美しいままで帰還すればいい。

 周りには演習なのか調整なのか、MSが動いているのも分かる。

 

 しかしそこで偶然目に入ったものに驚愕の声を上げることになる。

 

 

「ああっ! な、なぜそんな……」

「アムロ? どうしたの?」

 

「ホワイトベース! こちらアムロ・レイ、ガ、ガンダムを発見!!」

 

「どうしたんだアムロ、それは連邦のMS、敵ではない。別に驚かなくていい。ガンダムが一機しかないと思っていたか」

「で、でもブライトさん、いやブライト艦長、ガンダムがもう二機もあるなんて! いったいどこにそんな」

「まあ普通は試作機でいろいろ試してから量産化するものだ。特に連邦初のMSなんだ。サイド7だけが実験場ではなく、別なところで試作機があってもおかしくはない。ただ、アムロが驚くのも無理はないな。他の試作機を実戦投入していたとは知らなかった。あの傘の攻略に試作機まで集めて戦わせるとは、連邦もこの戦いに本気だということだ」

 

 アムロの目には、自分のガンダムの他に二機のガンダムが見えている。よく見ると確かに装備は色々と異なった点があった。それも実験の内なんだろう。一機はやけに武装が多く、もう一機はそうでもない。

 向こうもアムロを見つけたらしい。通信を入れてきた。

 

「ヘイヘイ、一番有名なガンダム乗り? この戦いが終われば二番目に有名なガンダム乗りになるけどな。俺はイオ・フレミング。サンダーボルト宙域を抑えてからやってきた。一つ聞きたいけどいいかい、暫定一位のパイロットさん?」

「え、ええ、僕はアムロ・レイ。聞きたいことって」

「ロックとジャズ、どっちが好みだい? どっちでもないなんて、言わないでくれよ」

 

 

 


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