コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第十七話 グレートデギン

 

 

 部隊編成では順調な話ばかりになってしまったが、実は俺には悩みがある。

 ア・バオア・クーの戦い、その前には大きな事件がある。

 

 コロニー・レーザーだ!

 それはサイド3のマハル・コロニーを改造して作られた超巨大レーザーのことである。

 レーザーというのは、半透過鏡で塞ぎ、内部にエネルギーを貯め込み、位相のそろった光で放射するものである。そういう形に変換されたレーザーはただの光とは違い遠距離でもエネルギーの減衰が少ない。規模とその性格のおかげで巨大レーザーは連邦の鏡の兵器なんかの比ではない威力を持つ。

 

 俺はそれを知っている。ジオンでコロニー・レーザーを準備していることを。

 

 そいつは本当なら決戦が始まってから、ア・バオア・クーへ連邦の部隊を引き付け固めさせ、最大限の効果で使われるはずだった。ところが連邦の動きが慌ただしく、それを拡大解釈した士官が誤って早く発射してしまった。

 その結果、あろうことか味方のグレートデギンを誤射して沈めてしまうという悲惨な事故を起こす。ギレン総帥は即座にコロニー・レーザーの担当士官を処刑したらしい。

 しかも想定より早い発射のため連邦を殲滅することもできず、連邦の三つある隊の一つを半減させただけにとどまる。そして最悪なことにレビル将軍などの指揮系統を斃してしまう。

 このため連邦としても退く判断すらできなくなり、所定の作戦をそのまま実行し、なし崩しに戦闘に突入する。

 乱戦の末ア・バオア・クーは陥ちてしまった。ギレン閣下は責任を感じて自害、キシリア閣下も脱出できずサラミスに囲まれて撃墜されたそうだ。

 

 こんな流れだったか、それを知っている俺としては、なんとかジオン優位に事を進めたい。ただし一介の艦隊司令にしか過ぎない俺ができることは……

 

 ほぼ無い。

 

 ドズル中将ならともかく、他のお偉いさんに俺などがお目通りはできない。

 直訴など論外だ。それに、こうなりますから信じて下さいといって通じるわけがない。

 

 

 そんな時に突然、俺はドズル閣下から特命を拝領する。

 といっても簡単な任務だ。もちろん重大性ということでは、これ以上重大なことはないのだが。

 

「コンスコン、今のうちにお前に頼みたいことがある。ゼナとミネバをズム・シティへ送り届けてくれ」

「ええっ、ドズル閣下、ゼナ様がまだここに!? なんでまた」

「うむ、もちろんソロモンの轍を踏まず早めに出そうと思っていた。しかしゼナの方が離してくれなくてな」

「……」

「冗談だコンスコン。いや実はグワランはビグザム搭載に特化するよう改装に入っていて、意外に長引いてしまったからだ。疑うなよコンスコン」

「……」

「本当にそうなんだぞ! 本当だと言ったら本当だ! しかし今からグワランで本国に往復するのは時間がかかる。チべの快速なら往復で一日あれば足りるだろう」

 

 

 こうして俺は今さらズム・シティ往復に出た。確かにゼナ様とミネバ様は、ザビ家にとって非常に大事な次世代だ。確実にこなさなくてはならない。

 航海中、ゼナ様はほぼ自室にこもっていたため、艦橋で警戒態勢をとっている俺とは話すことはなかった。俺はゼナ様と言葉を交わせるかと期待していたのだが。ドズル閣下の何か笑えるエピソードを聞き出したかったわけではないぞ。

 

 さて、帰路は気楽である。

 もちろん、それなりに急いではいるが、連邦が仕掛けてくるのはまだ少し先と思われた。

 

 ズム・シティから最短コースのゲルトルバ航路を飛ばしていく。

 あと二時間もあればア・バオア・クーに辿り着けるところまで来た。

 しかしそこで、俺は前方に予想したくないものを見てしまったのだ!

 

 

「本艦より前方にグワジン級戦艦発見、艦型グレートデギンです。僚艦チべ三隻、ムサイ四隻」

「な、なに!? あのグレートデギンが、こ、ここに…… 通信は付けられるか?」

「いえ、通信封鎖かけられています。しかも、なぜかミノフスキー粒子が戦闘中並に濃くなっていまして、そのせいで一般回線も不可能です。もっと接近しませんと」

「何としても通信を取れ!」

 

 

 艦橋にいた周りの人間が妙な顔をした。副官もそうだ。

 確かにグレートデギンはデギン公王の乗艦、ジオン公国のトップが宇宙に出ているとは意外だ。

 しかし俺が慌てている理由にはならない。

 

「コンスコン司令、あと一時間もすれば、通信可能距離になると見込まれますが」

「一時間か! どうにかならないのか」

 

 

 のんびりしているオペレーターと俺との温度差がきつい。

 

 まあ、そうなったのは俺が悪い。

 俺は、コロニー・レーザーについて何ができるか考えていたが、自分の保身を全く考えていなかったかというと嘘だ。本当なら全力で当たって見るべきだったんだ。多くの人が一生懸命に戦い、そして死んでいくというのに自分のことばかり考えすぎていた。正直、軍人失格だ。そんな人たちに申し開きができない。

 しかしここで思い返したんだ。

 グレートデギンを含む目の前の友軍が消滅するのは耐えられない。

 本当なら敵である連邦軍にもコロニー・レーザーは酷だ。今さら偽善を言うつもりはない。騎士道など現実の戦場に無いのも分かってる。しかし、コロニー・レーザーは問答無用の一方的な兵器なんだ。手を上げて降伏する猶予もなく、意思表示など意味をなさない。虐殺と何も変わらない。これについてはどうせ答えなど見つからないだろうが。

 しかし少なくとも友軍は助けたい。

 

 俺は本気でグレートデギンを止めようと思った。

 しかし遅すぎた。今さらその方策が見つからない。

 通信できたとしても何と言ったらいいか。レーザーが当たるとも言えないだろう。

 しかしその前に通信を取ることさえできないとは!

 

「速度上げろ! 呼び続けるんだ」

「わ、分かりました。文面は『コンスコン機動部隊からグレートデギンへ、至急応答されたし』でよろしいでしょうか、司令」

「それでいい。一般回線、最大出力で頼む。つながったら直ちに教えてくれ」

 

 そう言ってから、不思議そうにしている副官へ命じる。

 

「いやなに、連邦はずる賢い。航路遮断してくる可能性を考えてな。グレートデギンは万が一にも失われてはならんだろう」

「なるほど、さすがはコンスコン司令! 連邦の動きを読んだんですね。それで護衛に付きたいと」

「……そういうことだ」

 

 しかし、最後まで通信が通じることはなかった。なぜかグレートデギンの方も速度を上げてしまったからだ。邪魔されてはならないとでも考えたのだろうか。

 

「グレートデギン、加速しながら連邦軍本隊の方へ向かっていきます! いったいなぜ……」

「やむを得ん。これ以上近付けない。先制攻撃を仕掛けるのかと連邦に誤解されたら困る。……追跡は中止だ」

 

 俺は断腸の思いで諦め、グレートデギンを見送ることになる。そしてア・バオア・クーに帰投した。

 だが俺の行動が思わぬ波紋となって広がってしまうとは!

 さっきの呼びかけが、いくつものジオン艦に聞かれていたのだ。

 ここへグレートデギンが来ているという情報がジオン軍の間に浸透していった。

 

 

 そしてコロニーレーザーが発射される。

 

 

 次に、グレートデギン、つまりデギン公王が味方に殺されたという事実が知れ渡る。

 グレートデギンがいることが分かっていながら誤射ということは考えられない。

 後付けのように理由が発表された。

 デギン公王は最後の和平交渉を望んでいたが、卑劣な連邦は公王を捕えようとした。自分を取引材料にされるのを恐れた公王は、ジオンのため、連邦艦隊と共に斃されるのを望んで託した、というものだ。

 どう考えても苦し紛れの言い訳だ。

 

 しかし、誰にとってもそれを考えている暇はなくなった。

 

 

 戦いがいきなり始まった。

 レビル将軍を喪った連邦がア・バオア・クーへ怒涛のように襲い掛かってきたからだ。

 

 

 俺はそれをドズル中将麾下の決戦兵力として宇宙から見ている。

 

 連邦はやはりNフィールドから攻めてきた。

 

 突撃隊形ではなく、やや横に広げた斜向陣だ。

 堂々と大軍を駆使する構えで来ている。マゼラン、サラミスを中心とする隊、他に空母が中心の隊などが観察できる。

 

 連邦の大攻勢、始めは当然ながら戦艦マゼランの強力な主砲を使ってきた。超長距離の艦砲射撃だ。

 光の塊のような斉射が放たれた後は、それぞれの艦で撃っている。それからも幾重の筋が流れていき、全く途切れることがない。

 

「これはどうせ牽制、挨拶のようなものだ。この距離でア・バオア・クーの砲台やベイに当たりはしない。そして外殻の岩石に当たったところでどうということはない。だがこう数が多いとショウとしては見ものだな」

「コンスコン司令、やはり連邦は恐ろしい数です」

「これからもっと凄くなるぞ」

「それは、どういう……」

「次はおそらく空母から露払いのMSを出してくる。そして支援に丸いモビルアーマーの大群が来ることになる。最後は揚陸艦を突撃させての白兵戦で乗っ取りか」

「迎撃は可能でしょうか」

「残念だが、とてもジオンのMS戦力では無理だろう。ア・バオア・クーに引き付けて岩礁砲台の力を借りんと押し返せんな」

 

 その言葉通り、やがて連邦空母からMSが星の数ほど発艦してくる。

 そこでジオン側も迎撃のMSを出す。双方多いが、やはり比べてみればジオンは半分にもならない。

 

「ドロスもドロワもMSを全部出したのか。しかし勝負にするには、それでも絶対的に足らん。連邦はまだ全部でもないのにな。こいつは厳しいぞ。しかしドロスはなぜ動かないんだ。まさか、砲台として使うのか! もしそうなら正に背水の陣というものだ」

「司令、我らの隊はいつ動くのでしょう」

「知らん。上の考え次第としか言えん。ドズル中将がタイミングを逸するとは思えんが」

 

 

 しかし、趨勢をじりじりと眺めていた俺に突如として命令がきた。

 聞き慣れたドズル中将の声で。

 

「コンスコン、頃合いだ。大きく迂回して連邦の横に出ろ」

「そして横撃を加えながら移動。これに驚いた連邦はMSを直掩に回すか迷いが出る。戦力差が大きく縮まる、というわけですね」

「そうだ、やはり分かってくれるか、コンスコン。その通りだ。向こうのMSに濃淡ができれば、付け込む隙も出てくる。分断や突破、やれることも増えるというものだ。せめて戦術で上を行かんとな」

「では閣下、さっそく行って参ります」

「コンスコン、頼んでおいて言うのもなんだが、無理はするなよ。それが終われば戻ってこい。あくまでちょっかいをかけるだけで、まともに相手をするには戦力不足だからな」

 

 俺はドズル中将の考えはよく分かっている。

 伊達に腹心をやってきたんじゃない。

 多くの言葉がなくとも、戦術の狙いや勘所はすぐに分かる。

 

 俺は艦隊を直ちに発進させ、半円を描いて連邦の横に出ようとした。俺の艦隊の得意とする流れるような動きである。

 途中で察知されたようだが、俺の行動の方が断然早い!

 

「進行方向に捕捉! 連邦のサラミス群、中隊構成のようです!」

「よし、全艦隊、主砲用意! 向き直ってくる前に食らわせてやれ!」

「相対速度計算、イエローゾーンまであと十秒!」

「イエローゾーン三秒前から主砲撃て!」

 

「コンスコン司令? 有効射程よりだいぶ前になりますが……」

「これは牽制を兼ねてだ、それでいい。撃ちながら斜め方向に接近、そのまま離脱にかかる。たまたま有効射程に入った運の悪いサラミスだけ墜とせばいい。それともう少しMSは待機だ。戦場が移動すれば収容が難しくなる」

 

「旗艦より順次主砲発射、着弾します」

 

 

 あれ?

 結果に俺は不思議なものを感じた。

 

「サラミス一隻に直撃、撃沈確認!!」

 

 偶然か?

 

 いやしかし撃沈とは! ただの一撃で。

 

 有効射程外ではメガ粒子砲は威力が落ちる。拡散するだけではなく、励起された粒子が光の形でエネルギーを自己放出し、温度を失うからだ。

 よほどうまく艦の弱点を突くよう当てなければ損傷を与えられない。そうでなければかすり傷にしかならないだろう。

 

 それ以前の問題だ。

 当たり前だが有効射程外ではまともな照準なんかつけられるはずはない。相手だって動いているんだ。艦のどこかに当てるだけで奇跡なのに。

 

「エネルギー充填終わり次第、次弾主砲撃て!」

 

「着弾、またサラミスへ直撃、爆散しました!」

 

 これは偶然なんかであるものか!

 

 俺はMSに自分が乗らないから、MSの本当のところは分からないかもしれない。

 しかし、艦隊戦ならよく知っている。

 こいつは異常だ。

 こんな、はるか射程外から一撃で仕留めるとは。

 

「いったいどこの艦の、どこの砲が墜とした? おそらく二度目も同じだろう。偶然でできることじゃない」

「ええ、そうです! サラミスを沈めたのは、どちらも同じ、本艦の主砲一番砲塔です!」

「この艦だと!? いったい、誰が主砲を使っている」

「管制はダリル・ローレンツ准尉です!」

 

 

 な、何! ダリル・ローレンツといえば手足を失った男ではないか。

 フラナガン機関の実験材料にされて。

 

「え、どういうことだ、副官。ダリル・ローレンツはカーラ女医に腕の再接合手術を受ける予定のはずだ、なぜこの艦にいるのだろう」

「それについて、本人の希望と報告されています。この大事な時に、コンスコン司令に恩返しがしたいと。手術は延期し、艦の火器管制に就きたいとのことで一番砲塔へ」

 

「そ、そうだったのか…… 副官、艦のエネルギー配分の変更を頼む。第一砲塔へ回路常時接続、エネルギーを最優先で供給だ」

 

 

 ありがたい。

 何とありがたいことか。

 この天賦の才、俺のチベは別物の火力を持つ。

 

 超遠距離から正確無比に撃ち抜く。破格の攻撃力だ。

 

 

  

 

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