コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第二話 こっそり潜伏

 

 

 

「コンスコン司令、打ち合わせなら出撃後でもできますが…… 今やれば出撃に間に合わなくなるかもしれませんよ?」

 

 チベの艦橋に入った俺は、何か言う前に副官からそう言ってよこされた。

 この副官は事務的だ。

 いや、はっきり言って内心では俺を嫌っているんだろうな。俺のせいで休暇も棚上げされての出撃になったからだ。これまでもそういうことは多かった。この艦隊は明らかに他の艦隊より出撃回数が多く、まあその分戦果も挙げているわけだが。

 

 しかしたぶん、それだけじゃない。

 俺の見た目が悪いせいだ。

 顔は威厳があると言えばそうだが、かなり悪顔でもある。それは俺の責任じゃない。だが体に締まりがないのは事実で、そこには責任があるかもしれない。でも誰でも体質っていうものがあるだろ!

 戦いで連勝している割には見かけでカリスマ性がない。ちょっと悲しいぞ。

 

 だが俺は副官からこんな塩対応を受けても普段とは違って怒る気にはなれなかった。

 このまま出撃すれば、みんな木馬と戦って戦死だ。故郷には還れない。

 俺と同じようにアホの見本のようになって犬死にだ。

 MSに乗って戦って死ぬならまだしも、この艦に乗ってるだけであっさり死ぬことになるんだ。俺にはもう親はいないが、この艦にいる兵士には親もいるはず、もう二度と会えなくなる。恋人だっているかも知れない。あ、俺には妻も恋人もいないけど。そこは凹む。

 

 とにかくこのままじゃいけない。出撃を回避しなくては。

 急に腹が痛くなったことにすれば。子供の仮病かよ!

 

 

 

 …… 結局何も思い浮かばないまま出撃する羽目になった。

 

 どうにもできないものはどうにもできない。

 ドズル中将がしっかり敬礼してくるもんだから、もちろん俺も敬礼を返しつつ出撃していった。

 任された艦隊は重巡チベ一隻、軽巡ムサイ二隻の計三隻だけだ。

 いつもの艦隊編成なら六隻、少なくとも四隻編成になるのだが、隠密性が要求されることもあってやや小ぶりの編成だ。それに小ぶりな方が補給も楽になる。連邦もジオンも補給ポイントを設定しているが、もちろんジオンの方がその数は少ない。

 

 さて目的地のサイド6だが、そこまでは結構な距離がある。ここソロモンがあるのはサイド1付近、そこから見ればほとんど一番遠いコロニーになるのだ。サイド7やルナツーの次に遠いだろう。

 巡航中は神経を使う索敵が続く。

 それと模擬戦闘訓練が欠かせない。俺はそれをいつもより厳しいくらいに課した。それでまた俺の評判が落ちても気にしない。なぜなら、これまでで一番激しい戦いに赴くのだから。

 

 

「右舷前方に敵艦発見! 光学認識はまだはっきりしませんが、大きさからみてサラミス級二隻!」

 

 いきなりきた!

 オペレーターが敵の発見を声高く告げてきた。遭遇から自動的に戦闘準備に入る。誰もが緊張の表情に切り替わる。今は訓練ではないのだ。

 

「コンスコン司令、どうなさいますか? ご決断を」

 

 三秒後、副官が不思議そうな顔をしてそんなことを言ってきた。

 いつもの俺なら聞かれるまでもなく最大戦速で会敵を命じただろうから、おかしいと思ったのだろう。見敵必殺、それがコンスコン機動艦隊のやり方だ。

 

 しかし、俺は閃いた。これをラッキーとして使えないだろうか。

 

「よく先手を取って見つけてくれた。ありがたい。敵の方はこちらに気付いたか」

「い、いえ、進路、速度共に変わりありません。おそらくまだ察知していないものかと」

「よし、ならばこちらはすぐにエンジンの出力を落とせ。熱源探知に引っ掛からないギリギリまでな。その上で進路はゆっくりと左へ変更しろ。慌てず、敵との距離を広げていくんだ」

「え? 司令、戦闘はせず、まさか逃げると仰るのですか?」

 

「そうだ。あれはおそらく敵の索敵行動に違いない。ここで我らの艦隊を知られるわけにはいかん。退避を優先する」

「し、しかし、索敵行動ならばそれこそ向こうが先に気付くでしょう。こんなに油断しているものでしょうか。小官には単なる移動に思われます」

「いや、あれは索敵だ! 絶対に索敵だ!」

「それに索敵としても、相手はサラミス二隻、一気に叩けばあっという間に排除できるのでは?」

「近くに敵の本隊がいる可能性が大きい。その方が危険だ。やり過ごせるのならその方がいい」

 

 俺の言葉が思いもかけないものだったのだろう。副官はそれ以上何も言わなくなった。そこで俺は言葉を畳みかけ、納得させていく。

 

「敵との距離が取れたら、ソロモンに通信を送れ。敵に大きな動きがある。コンスコン機動部隊は木馬追撃の作戦を中止、サイド6には向かわない。以後隠密行動に入り、最善を尽くす。定時連絡もしばらくは無しだと」

 

 俺は木馬を追わず、連邦の化け物MSと戦わない方便を見つけた。

 強引な論理で済まん。サラミスよありがとう。

 

「小さな戦果などどうでもいいんだ。近々大会戦があると見た。その方がよっぽど大事なんだ。木馬が囮かもしれんとは前から思っていた。ザビ家の末弟を斃した木馬、それこそジオンから目の敵にされるに決まってる。連邦としては囮として使うのにこれ以上のものはないだろう。そう思わんか」

 

 話の風呂敷はデカい方がいい。

 その方がいくら強引でも説得力がある。

 案の定、副官も艦橋の皆も、呆然とした顔から生気が戻る。話に納得してくれた。

 

「コンスコン司令、さすがです! サラミスの動きだけで敵の目論見を読んだんですね。木馬が囮、確かにそういう理由があれば分かった気がします。自分もガルマ閣下のことは残念ですが、だからといって木馬ばかり追うのはどうかと思っていました。キシリア閣下の艦隊もそのために結構な損害が積み重なっているとか」

 

 あれ、目をキラキラさせて賛同してくれるのはいいけど、ちょっと上層部批判に近いよね。

 なんとなーくだけど俺も分かってきた。俺は今までドズル中将の腹心だったから、周りからは俺がザビ家に媚びを売って異例ともいえる出世をしてきたように思われていたのかもしれない。それが息苦しさと俺への反感につながっていたとしたら笑えない。

 

「分かってくれたか、そういうことだ。この機動部隊は本当にジオンのため、動く。差し当たり大きく外側を迂回しながらソロモンに戻るぞ」

 

 俺は木馬とは絶対会いたくない。

 だけどジオンのために戦いをしないのではなく、犬死にが嫌なだけだ。戦うべき時には思いっきり戦う気だ。

 

 

 そして俺は知っていることがある。

 近々始まるソロモン攻防戦においてジオンの敗因はいくつもある。ギレン総帥からの増援がビグザムだけというふざけたことが一番大きい敗因だ。ましてキシリア少将の援軍などただの一隻も間に合わなかった。皆が皆自分の派閥ばかりを考え、人の良いドズル中将がババを引かされた格好だ。連邦との戦力差があるのに見殺しにされた。戦力の少ないジオンがそんな体たらくだったのだ。

 もちろん俺はそれに対し何もできやしない。

 

 しかし直接的にソロモンが陥とされたのは連邦の新兵器を使った戦術のためだ。

 鏡を思いっきり多数用意し、太陽光を反射させ、それを集めて敵を焼く。なんと単純な兵器だろう。

 ただしかし、単純ゆえに運用はかえって難しいはずだ。適切な距離にあれだけの大きさのもの運んで、精密に並べなくてはならない。そこが付け目になるだろう。

 

 

 俺はあの連邦の新兵器を潰す、そこに目標を定めた。

 

 

 

 


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