俺は艦隊をそのまま進める。
そして目にしたものは、死闘だった。
先行して出したガトーのゲルググ、クスコ・アルのエルメスが見事な連携を保ちながら戦っている。
それでも倒せていない。
相手が何かなんて、決まっている。
見慣れたくないのに見慣れてしまった相手、あの化け物MSガンダムだった。
ま、またしてもガンダムなのか! 俺はガンダムを引き当てやすいらしい。
ガトーは一度ガンダムと戦ったことがある。そのとんでもない強さは分かっているはずだ。もちろんクスコ・アルも知っている。そのガンダムと戦って敗れたところを救助したのが俺の艦隊にいるゆえんだからだ。
できれば戦いたくないだろう。
しかし、俺の艦隊にガンダムを近づけさせないために、逃げるという選択肢はない。果敢に立ち向かっているんだ。
クスコ・アルがエルメスのビットを駆使して仕掛ける。
こいつはいつ見ても凄いと驚嘆させられる。色々な位置にあり、そしてバラバラに動いているビットから敵に向かってビームが放たれるんだ。しかも同時に。
間髪を容れず、次々と仕掛けていく。
まるで鳥かごのようにビームの線がガンダムの周囲に軌跡を描いていく。
だがこれで墜とされるくらいなら化け物ではない。ガンダムはそんな全方位から来るビットの攻撃さえ躱していく。
更に逆襲に転じてきたではないか!
ガンダムのビームライフルがビットを狙い撃つ。あっさりとビットを貫き、閃光と共に消滅させた。そしてもう一度、ガンダムは振り向きざまにビットを撃つ。これもまた命中し、消し去った。どうしてそんなことができるんだ!
しかし、この呼吸を読んでガトーが接近していた。
言葉に出す必要もない連携作戦だ。あえてビットに注意を向けさせ、ゲルググが接近する隙を作った。
ガトーがS字状のビーム・サーベルを回転させ、ぶつからんばかりに急接近し斬りかかる。
これは速い!
以前戦った時のガトーの乗機はドムであり、はっきりと動作に遅れがあった。しかし今はゲルググの性能を活かしている。
ゲルググはジオンの傑作機との呼び声も高い。
これまでのジオンのMS戦闘データを存分にフィードバックして優秀な戦闘支援ソフトウェアを作り出している。確かに連邦も驚異的な速度で優秀なソフトウェアを開発しているが、検討できるデータ量そのものであれば当然ジオンに一日の長がある。
ハードウェア的には、目新しいものはあまりない。ギャンのような流体アクセラレーターはない。材質もザクよりマシな程度、ただの高張力鋼であり、ガンダムのようなチタンではない。ギャンでさえ一部にモリブデン・バナジウム特殊鋼を取り入れているのに、それすらない。しかしながら手慣れた技術で非常にバランスよくまとめられている。
ジオニック社は円熟した技術をとても上手く組み立てる。外装も、無駄に尖った部材も意味の薄い装飾もない。合理的であり洗練された設計である。
ガトーのゲルググとガンダムが斬り結ぶ。だが、ここでもやはりガンダムはガンダムだ。
戦闘力はとてつもなく高い。接近戦でもガトーを打ち破る実力を秘めている。
しかし、今は戦いの場をクスコ・アルの操るビットが取り巻いている。
まだエルメスの二個のビットは残っているのだ。外側から盛んに撃ちかける。
誤射も恐れない猛攻だ。
ビームが途切れることがない。
さすがのガンダムもビットのビームを躱しながらガトーと接近戦を戦うのは骨だと思ったのだろう。いったんガトーのビーム・サーベルを打ち払うと、大きく距離を取ろうとした。
これをガトーは待っていた!
大きく上体を後ろに反らし、その反作用で足を前に出した!
そしてガンダムの足を引っ掛けたのだ。
まるで肉体の格闘戦である。思わぬことに体勢を崩したガンダムは不利な形で応戦せざるを得ない。
それでもなおガンダムは立ち直り、ガトーに相対する。
今までが本気でなかったかのように鋭い斬撃を繰り出し、ガトーのゲルググに迫る。
やはり化け物だな、と俺は思った。
だが、勝負は突然終わった。
ガンダムはなぜかまた大きく後退し、それでも撃ちかけるビットのビームを避けるとそのまま退いていったのだ。
どういうことか分からない。
勝負をいきなりお預けにするとは。
いや、その数分後に答えがあった。
「連邦艦隊、動き始めました! 一斉にエンジン全開にした模様です!」
「なるほど、連邦もこちらの艦隊など相手にする義理はない。ア・バオア・クーへの侵攻を始めたというわけか。しかもジオンが主力を置いていないSフィールドへ行く気だ。あのガンダムは木馬へ急に呼び戻されたのだろうな」
俺は副官に対して正直な感想を述べた。
連邦艦隊はこんなところで時間を浪費して予定を狂わせる気はないんだろう。
俺としては当然、追撃をかける。危険でもやるしかない。
「どうします、コンスコン司令」
「追うしかないだろうな。MSを全て収容、その後発進!」
ただしそれはさすがに甘かった。
連邦の指揮官も俺の艦隊に追撃させる気はなく、策を講じていたらしい。
オペレーターが突然叫ぶ。
「ああっ、前方に機雷群発見!」
「何、そんなものを」
「ミノフスキー粒子が濃くて、避けるのは困難と思われます!」
「連邦も馬鹿ではなかったのだな。なるほど、これでは後方から追尾は不可能だ」
非常に濃いミノフスキー粒子と、機雷を置き土産に散布していったのだ。こいつを進行方向に置かれると厄介である。短時間で排除はできない。
「どうします、司令」
「Sフィールドへ行けないとなれば、さっさと切り替えるしか方法がない。このコンスコン機動部隊はNフィールドへ向かって全速前進! あの連邦の艦隊は、Sフィールドにいるキシリア閣下の部隊に任せるしかない」
さて、Nフィールド到着までわずか空いた時間を利用して、俺はいくつかのことをしておきたかった。一つはカヤハワの見舞いだ。カヤハワはドムが大破されたものの救助された。打撲を負ったが重傷ではないと聞いている。
病室に入ると、なんだか人が多い。
カヤハワのベッドはドムパイロットの若い男たちに囲まれていた。
さすがに皆から人気のあるカヤハワだ。
俺はなんだか居心地の悪さを感じながらも見舞いの言葉を言う。
「どうだ、具合は」
「はっ、司令官! そう遠くないうちに復帰できます!」
「それほど焦らなくていい。副隊長はジョイスに頼むことにする。ゆっくり体を治せ。さて、艦内病室に花は置けないが、リンゴでも剥いてやろうか?」
「司令官殿、ジョイスです! カヤハワ副隊長のため、リンゴは小官が剥いておきました!」
「は、はは、そうか。ではお大事にな、カヤハワ」
ジョイスは生真面目そうな若者だ。俺の軽い冗談に真面目に答えてきた。確かに切られているリンゴが見える。
若者たちのいる場所にとどまるのは悪いような気がして、俺は早々と立ち去る。
別にカヤハワともっと会話したかったわけではないが、なんか寂しいな!
さて、次に戦闘の模様について直に聞きたいと思った。
特にあのガンダムと戦った人間から。
呼び出すより、こっちから出向いた方が早い。チべは移動に数十分以上かかるほど大きな艦ではない。
パイロット控室に向かう。入る直前、中から大きな声が聞こえる。
「ガトー大尉、あんな危険なこと、もうしたくないわ!」
「しかしそうしなければ、ガンダムに対抗できなかった。ビットのビームがあればこそ接近戦を演じられたのだ」
「でも、間違って大尉のゲルググに当たってしまったら! 取り返しがつかない。私はそこまで先読みなんかできないわ。私は、ララァじゃないのよ!」
「俺はララァという者のことは知らない。それがどんな能力かも。しかし、だからといってお前が自分をそんな風に思う必要はどこにもない。他の人間と比べる必要は、最初から無い」
「……」
「俺はできると思ったから任せたのだ。誤射の可能性など考えなかった」
「そんな、私などを信じて……」
「他の人間ではなくクスコ・アルという人間を信頼した。もし撃たれて死んだのなら、それでもいい」
「……」
ちょちょちょちょっと待ってよ、ガトーさん!!
それ言い方違うから!
ガトーとしては、ガンダムと戦う支援としてエルメスのビットを必要としたんだろう。
誤射寸前のギリギリのところで、それは成功した。ガトーは最初からエルメスを信頼に足ると判断したからこそ、その作戦にした。
充分成功の見込みがあったから頼んだまでだと伝えたくて言っているに違いない。
だけどさ! ガトーさんはクッソイケメンなんだってばよ!!
絶対誤解されるパターンだって!
分かんないの? 何でいっつも同じパターンなんだ。
もう少し、違う言い方あるだろ!
クスコ・アルはなんか考えてるじゃないか。
それで黙ってしまった。
俺は控室には入らず、そのまま後にした。
艦橋に戻る。途中、ちらりと休憩室が目に入った。そこではツェーンがミルクの入ったパックを手に皆と談笑している。なんとなく俺は、今パイロット控室にツェーンがいなくて良かったな、と思ってしまう。
なんで俺がそこまで考えなくちゃいけないんだよ! というか部外者過ぎる……
このア・バオア・クーの戦い、それは別名エースの戦いと呼ばれている。
たった一割の者が、実に戦果の九割を挙げているからだ。両軍ともそれは同じである。
今の戦いさえ、まるでそよ風のように感じられる、そんな激闘が始まるまでもう少し。