艦橋に着いて間もなく、俺はまた病室に行く羽目になった。
「コンスコン司令、捕虜の一人に意識が戻りました」
「ん? あのMSから救助した者のことか? 重傷で病室に入れたという?」
「そうです。容態は安定しているので、簡単な聞き取りなら可能だということです」
「なら私が話してみよう。まあ、情報を引き出せるかどうかは分からないが、話して損ではあるまい」
そして俺は衛兵によって警備されている病室へ行った。
「救助して頂いたことには感謝する。ジオンにも人間味のある艦があったのだな。だが一切、情報を搾り取ろうなどと思わないことだ。最初にそれは無理だと言っておく」
「それはこちらも期待していない。そして人間味ということなら、ジオンだから存在しないということはないだろう」
相手は日に焼けた顔に金髪で、目に力のある精悍な男だった。いかにも頼りがいのある隊長、という感じだ。
そして捕虜になっている今も毅然としたものである。
「コロニー落としをやったジオンがそれを言うとはな…… 俺の部下にも聞かせてやりたいものだ。それで一瞬にして恋人を失った者もいるのだが」
「…… それは今の話題ではないだろう。話を元に戻そう。ドズル中将麾下宇宙攻撃軍機動部隊司令コンスコン少将だ。貴官の救助は本当に幸運だ。大破したMSの自動救助信号を受けて近づいたら、負傷で気を失っていた貴官が中にいた。おそらく意識があれば、貴官は抵抗し、こちらはやむなく爆破しただろう。バニング大尉」
俺はこのバニング大尉が、とても立派な士官に見えた。多分意識があれば最後まで戦っただろう。連邦のためか、あるいは部下のために。
「こんなことになったのは俺も意外だ。しかし、名前くらいは機体情報から取ったのか。だがコンスコン少将、さっきと同じことを言うが、感謝はするが情報は出さん。作戦についても、部下についても」
「そこまでは期待しない。まあ、ゆっくり養生すればいい。戦いが終わったら、捕虜交換協定に基づき、貴官も連邦に戻れるかもしれない。その時までこの艦が残っていればだが」
「この艦だったら墜ちやしない。俺が保証するのもおかしな話だが、この艦はめっぽう強いからな」
「褒めてもらえたと受け取っておこう、大尉。素直に嬉しい。そう、この艦もMSも、俺の部下は強いぞ。俺は助けてもらってばかりいる」
「……面白いな。俺はジオンは嫌いだが、あんたは嫌いじゃないぜ。少将」
ある意味、良い話的な流れになってしまったじゃないか。
情報はやっぱり何も得られなかったけどな!
だがその頃、深刻な雰囲気の場所も存在した。
ア・バオア・クーの中央指令室である。そこではドズル中将が迎撃の指揮をとって奮戦していた。
「第二次防衛線、破られつつあります!」
「ドロス、ドロワ、ミドロの三空母は交代しながら砲撃の手を緩めるな! 何としてもMSを近づけさせてはならん! 敵の密集しているところへ岩礁ミサイルを撃て!」
「あっ、敵MSに突破されました! ドロスに至近です!」
「何!? こんなに早く!」
メインパネルにそれを拡大投影させると、ドズルは驚くことになる。
ジオンのドムを次々と打ち倒し、まるで野獣のように跳ね回る連邦MSがいた。進むことが目的ではなく、あたり一面のジオンMSと戦うことが目的のようだ。しかもビームで貫くだけではない。コックピットを狙って踏みつぶすなどの戦い方をしている。
「あのMSを叩け! シン・マツナガに連絡!」
その後、白く塗装されたゲルググが移動してきた。ジオンMSに多大な損害を与えた野獣のような連邦MSを見定める。
互いに認識した。
そしてゲルググはビーム・サーベルをゆっくり正眼に構え、その後一気に距離を詰める。
連邦MSの方も素早い反応速度でビーム・サーベルを抜き放った。返しの一撃をくれてやるつもりだ。横薙ぎの姿勢を取る。
だがしかし、ゲルググの方が技量において勝った。
ビーム・サーベルが一閃!
連邦MSを袈裟懸けに斬り払い、ゲルググはそのまま後方に飛びすさる。一瞬後、連邦MSは爆散して果てた。
連邦空母の一隻ではこの一騎討ちを罵る声があった。
「ジャマイカン艦長、ヤザン・ゲーブル中尉、戦死!」
「ちっ、口ばかりの奴が! 一騎討ちなど馬鹿なのか! せめて相討ちにでもしたらよかろうが!」
ア・バオア・クーの方では、ドズル中将が一息つく。
「連邦の突破口を封じ、立て直せ! 移動できる岩礁砲台を使って盾にしろ。だが、そこだけは何とかなったが、全体として不味い。MSの数も足らないのに、その上脆過ぎる。やはり学徒兵ばかりでは士気は高いが技量は心もとない。いや、それは逆だ。せめて士気が高いことを褒めてやらんとな。ジオンの未来ある若者たちだ」
そこへとびっきりの凶報が舞い込む。
希望の芽を刈り取るようなニュースをオペレーターが叫ぶ。
「あっ! Sフィールドに新たな敵影!」
「どれくらいの規模だッ!」
「艦数、70から80隻、MS多数、急速接近中!」
「くそ、連邦め! 別動隊といえど大戦力だな」
そしてドズル中将は、同じく戦況を見ていたキシリアに言う。
「キシリア、Sフィールドの迎撃を頼む。こちらからも応援を出したいが、今すぐは無理だ」
「分かりました。では私は副指令室に行って迎撃の指揮を執りましょう」
「頼んだぞ。取りつかれないようにしてくれ」
「しかしドズルの兄上、今のうちに提案があるのですが」
「何だ? 早く言ってくれ」
「二人とも指揮を執るのなら、二人が死ぬか捕えられればザビ家の者は幼いミネバだけということに。それはいかにも不味い事態、今のうちにギレンの兄を後方へ送ってはどうかと」
「……なるほど、万が一のため、か。確かにそうだなキシリア、ミネバだけにするわけにもいかん。ならば兄貴は早めにズム・シティへ送ろう。Eフィールドにいるカスペン大佐から艦を出してもらうか」
「Eフィールドから。なるほど連邦は来ていない。今であれば」
そしてキシリアは中央指令室を出た。腕のインターホンを使ってオペレーターに指示を出す。
「私だ。シャア大佐につないでくれ」
「シャア大佐なら、ゲルググに搭乗して発進直前です」
「構わん、早く頼む」
「キシリア閣下、驚きました。これはさすがにお目が早い。私がジオングを使わないのをもう知っておられたとは」
「? そうなのかシャア。そんなことはどうでもいい。伝えたいことができたのでな」
「一体何を? キシリア閣下」
「ギレン総帥がEフィールドから脱出予定だ。サイド3方向へ向かう艦があればおそらくそれに乗っているだろう」
「分かりましたが、それで私に何を?」
「なに、連邦との争いに巻き込まれて失ったりしないようにな。そんな間違いが起こらないよう、あらかじめ注意をしたかっただけだ」
「…… なるほど。それでわざわざ伝えて下さったとは。では、ギレン総帥が失われるなどといった不幸な事件が起こらないよう、微力を尽くします」
「それでいい、シャア」
そんな一連のことなど知らない俺は、艦隊を率いてNフィールドへ急行した。ここはジオンの庭のようなものだ。案外早く辿り着けた。
そこで見えたものは正に激戦、ジオンと連邦、共に百隻近い艦艇とその数倍にもなるMSの戦いだった。しかしながら、詳しく見れば均等ではない。はっきりとジオンが押されている。戦線維持が精一杯のように思えた。ただしジオンの巨大空母三隻は健在のようで、激しい対空砲火を放っている。
「よし、直ちに戦いに加わるぞ! 連邦をなんとか押し返す」
「作戦はどうします、コンスコン司令」
「ムサイを前に出した縦列直線編成を取れ。先ずはサラミスを沈めて連邦の目を此方に引き付けるんだ」
こうして俺はさっそく連邦の艦隊へ斜め後方から襲い掛かる。
ア・バオア・クーの方でもコンスコン機動部隊の参戦は観測されている。
「ドズル閣下、コンスコン機動部隊発見! 戻ってきたようです。チべ三隻を含む十六隻、連邦艦隊へ向かって突撃中!」
「なに! コンスコンが。これは助かる! しかも奴め、艦をほとんど失っていないとはな。そして今は縦列をとって…… なるほど、そういうことか。さすがにコンスコンだ。相変わらず戦術が上手い」
さて、俺が突撃すると連邦艦隊も気付いたようだ。早めにサラミスの一隊が分離して回ってきた。
そして俺の艦隊が縦列と見てとったのだろう、それらのサラミスは散開して戦いに臨む。
理由はよく分かる。
当然そう来るだろうな。
ムサイは前にしか撃てない。
しかし、逆にサラミスは前に撃てるのは半分しかない。
これは艦の構造の問題だ。
サラミスはムサイと違い、艦の前後に砲塔が分かれているんだ。そのため、まっすぐ向き合ってしまうと後ろの砲塔が使えなくなり、威力が半減する。サラミスの艦隊としては横向きにすれ違いになりながらの砲撃戦に持ち込みたいのは理の当然だろう。また包囲した方が動きを抑えられるのも基本である。
ただしそれを待っていた。俺の戦術はドンピシャだ!
「こちらのMSの待機範囲内にサラミスかかりました!」
「よし、MSで奇襲、沈めまくれよ!」
俺は最初からMSを出して、広げておいたんだ。
そこへ散開した連邦のサラミスが自ら引っ掛かっていく。サラミス同士の距離が開いていれば、当然対空砲火は薄くなる。MSで叩くには理想の条件がこれで整った。
すぐさま俺のMS隊がサラミスに取り付く。
「ガトー機、サラミス撃沈!」「シャリア・ブル機もサラミス大破!」「ドム隊、アインス機、フィーナ機でサラミス撃沈!」「更にガトー機、もう一隻撃沈!」
狙った通りだ。かなりの戦果を上げていく。
しかし浮かれている暇はない。