コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第二十二話 フルアーマーの恐怖

 

 

 サラミスはもちろん強力な巡洋艦で、数の上では連邦の主力だ。しかしながら戦力で見るとそうではない。マゼラン級戦艦の方がはるかに強力な火砲を持ち、砲撃戦での主力だ。

 それと何よりも、MS戦が主流になった今、MS搭載空母が連邦の戦力に大きな比重を占める。

 これらが無傷なら連邦にとって大した痛手にはならない。

 

 ざっと戦場を見ると、そのマゼランが十隻近く浮いている。

 

「よし、次は一番近いマゼランをやる。そこへ向かって進め! 途中で編成を組み替え、チべを前に出すんだ」

 

 チベを中心としてムサイを従えた矢型の陣形にした上で突き進む。

 狙ったマゼランを射程内に捉える。

 そして撃たれる前に撃つ!

 

「このチべから順に、メガ粒子砲、撃て!」

 

 メガ粒子砲の美しくも凶暴な線が一直線に伸びていく。

 最初の着弾はマゼランの砲塔のやや下だ。いち早く相手の砲撃力を奪いながら、誘爆を招く。そんな絶妙の位置だ。

 

「マゼラン、艦体中央部に爆発、大破!!」

「よし、後はチべ全隻で叩け! ただし、撃沈が確定したら中止」

「了解しました。しかしそれは?」

「連邦の艦といえど乗員が逃げられる時間くらい残してやれ」

 

 初弾から三分もしないうち、そのマゼランは爆散して消えた。

 

 砲撃戦の行方を決定づけたこの圧倒的な初撃を可能にしたのは、このチべの砲手、ダリル・ローレンツをおいて他に誰もいない。

 射程内であればメガ粒子砲の威力も充分だ。超精密に狙った場所に撃ち込めさえすれば、あのマゼランでさえ一撃で大破に追い込める。

 この結果は連邦も予想外、慌てて回頭してくる艦がいくつもある。

 俺はもう一隻に狙いを定め、同じように砲撃戦で斃した。

 

 この調子でマゼランをもう少し沈めておくか?

 いや、優先順位は違う。

 先に空母を潰さねばならない。もちろん、戦闘開始からけっこうな時間が経っているため、空母にMSはあまり残っていないだろう。しかし、補給や整備のためにMSが帰ってくる以上、空母が減れば稼働率が大幅に落ちるのは自明だ。連邦のサラミスやマゼランはあまりMS搭載能力がなく、空母を別に設定しているところがこの場合運用上の弱点にもなる

 

 あまり時間がない。

 うかうかしていると俺の艦隊の方が連邦MSに囲まれてしまう。いくらこちらのMSが強いとはいえ、数百ものMSを同時に相手にできるはずはない。

 

 艦砲の弱い空母の群れに思い切って接近すると、思うさま砲撃を加えてこれらを斃す。

 俺のチべではダリル・ローレンツの第一砲塔に集中してエネルギーを回しているため、砲身冷却が必要な時間以外、連続で撃てる。そして、ダリル・ローレンツは精密なだけではなく連続速射も可能だった。

 

 むろん空母には直掩の連邦MSが付いているものだ。

 それらの連邦MSの相手はやはりMSの役目だ。こっちのガトーなどのMSが討ち払う。

 さっそく発進させるが、単機で充分なものは単機で、しっかり隊を組むべきものは隊で戦闘をこなすようにした。

 シャリア・ブルはそのため単機だ。しかしあれ? ガトーとエルメスが一緒だ。それほどの強敵はいないはずだが。

 

 だが、ここで思わぬことが起きた!

 

「あっ、ツェーン機に異常! 操縦系失われています! 通信も応答なし!」

「ど、どうした! ツェーンが!? 攻撃を受けたのか!」

「コンスコン司令、いえ、機体に被弾はありません! 故障でもないようです」

「原因のことは後回しだ。とにかく救助を急げ! 動けなければ、ただの標的だぞ!!」

 

 この事態に最も早く動いたのはアナベル・ガトーだった。

 対空砲の雨を驚くべきスピードでくぐり抜け、動きの止まっているツェーンのギャンの腕をさっと捉え、曳航していく。

 ツェーン機が対空砲火の餌食になる寸前で救助できた。

 

 ガトーはツェーン機を俺のチべに置きながら、原因の手がかりを言ってくる。

 

「おそらくギャンの中で気を失っているんだろう。そういえば、他でも似たような話を聞いたことがある気がする」

「医療班です! ガトー大尉、それはどんな」

「ニュータイプという能力が発展途上にある者は、近くで人の死があまり多いと、精神にダメージを受けてしまうそうだ。今のツェーンはそんなダメージのせいだろう。こんな大規模な戦場は初めてじゃないか。俺だってそうだが」

「受けたダメージの回復は?」

「それほど時間が経たないうちに意識は戻るそうだ。そして戦場に慣れればそういうこともなくなると聞いた」

 

 俺はそのガトーと医療班の会話を聞きながら、心から安堵した。

 大事には至らない。しかし、話の内容からすると、ツェーンはやはりニュータイプの素質を急速に開花させているのだろうか。

 

 そこで俺は意識をこの戦場に戻した。まだ戦いは続いている。

 いや、一つの区切りに近づいていた。

 連邦MSの排除は思ったより順調に進んでいたんだ。

 

 その光景は順調というべきか空恐ろしいというべきか分からない。

 ガトーが去ってツェーンを救助した後、そこにぽつんと残されてしまったクスコ・アルのエルメス、それがいきなりビットを全て放った。

 これまでにないほど遠距離へ、全方位に展開させると、それを使って連邦MSを容赦なく狩り始めた。絶え間ないビームが連邦MSの隊をバラバラに切り刻み、消滅させていく。

 圧倒的だ。もう向こうは既に戦意ゼロなのがスクリーン越しにも分かる。

 

 もちろん戦果が大きいのは嬉しいことなんだけれど…… 

 ちょっと怖いよな! 

 もしかしてもしかするとエルメスさん、八つ当たり、であらせられるのでしょうか……

 

 

 その後、俺は連邦の空母隊を思うさま叩く。

 むろん全部なんかは無理だ。しかし半分に砲撃を当て、その更に半分は大破以上に追い込んだ。

 そして直ぐに撤収に転じる。

 連邦MSが本気で前線から空母直掩に戻ってくる前に、なんとか迂回してジオンの制空権内に入れた。

 岩礁を避けて飛ぶ艦隊運動なら負けやしないよ!

 

 

 ここからは他の隊と共同歩調で連邦と戦う。

 自分で言うのもなんだが、俺の一連の行動により、ジオンに風が吹いている。

 このNフィールドの戦いはジオンの有利に転じそうだ。

 俺の艦隊の周囲にいたドムたちは学徒兵なのだろうか。素人くさい動きをしているのだが、見る間に生気を取り戻して攻勢に出ている。

 

「よくやった、コンスコン! 見ていたがお前の戦術は見事だ。おかげでNフィールドは連邦を押し返せるぞ。もうひと踏ん張りだ」

「ドズル中将、ありがとうございます。し、しかし、連邦はSフィールドへも艦隊を向かわせたはず。もう到着したと思いますが。決して弱い艦隊ではありません。そのことは申し上げたく」

「それか、それならSフィールドに来ているが、もうキシリアを迎撃に付けた。劣勢は劣勢になるだろうが、少しくらい持ちこたえてくれるだろう」

「それならよろしいのですが……」

「キシリアの秘蔵っ子になっているシャアもいることだ。どこまでやれるのかは知らんが」

 

 そして俺はNフィールドで、砲撃戦にMS戦に更なる激闘を続ける。周りにいた隊もコンスコン機動部隊の超絶優れた能力に驚いているようだ。

 ちょっと誇らしい。

 俺の力ではないけどな!

 

 気になることといえば、俺の隣にいる隊が若干勢いがない、というか消極的に見えることだろうか。

 まあ、激闘を続けて疲れたのだろう。俺の気のせいかもしれない。

 一応、その艦隊をチェックする。

 俺の欲しいグワジン級戦艦が旗艦なのかよ!

 艦の名はグワデン。率いる司令官はデラーズ大佐という名前らしい。

 

 

 

 同じ時、シャアのゲルググとララァのエルメスはSフィールドのゲートから出ている。

 

「…… これは、酷いものだな」

「ええ、大佐」

 

 その光景は地獄だった。

 

 激戦を多く見ていたシャアの目にさえも酷いと映る。

 激闘の名残り、艦やMSの残骸が数多く宙に浮かび、静寂の中でダンスをしている。それがさっきまで命を含んでいたとは思えない無残さだ。しかもその残骸の多くがジオン側のものである。

 

「Sフィールドにキシリア閣下の艦隊が50隻は出たはずだ。ゲート内で予備兵力となっているマ・クベ大佐の艦隊を除いたとしてもだ。連邦が70隻程度なら、こんなに一方的になるだろうか」

 

 動いているジオン艦はもう20隻を切っている。しかも刻々と削られていく。

 放たれる砲撃の勢いが違う。

 連邦の侵攻艦隊は傘にかかって大攻勢をかけ、ジオンに数倍する数の射線を伸ばしている。

 そして何より違うのがMSの数だ。ジオンのMSはほとんどいない。

 詳しく見れば、さすがに連邦艦隊の右翼には、艦列の乱れと損傷した艦があるようだ。ジオン艦隊の抵抗によって叩かれた跡なのだろうが、逆にいえばたったそれだけでしかない。

 

 

 

 この惨状をもたらした元凶がいた。そのためにジオンのMSは犠牲になったのだ。

 

 あまりに禍々しい。いつものガンダムの姿に、背部から懸架装置のようなものが付けられている。それぞれが対ビームコートのあるシールドを支えていて、合わせて何と四つもある。その他に武装としてキャノン、ビームライフル、ビームサーベルを背負っているのだ。空いている両手を使って好きな武器で戦える。

 

 それは、地獄の使者の姿だった。

 

 

 


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