コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第二十三話 神の化身vs地獄の使者

 

 

 思いもしないジオンの苦戦の跡を見ながら、シャアが当然の疑問を言う。

 

「しかし、おかしいな。キシリア閣下は精鋭を投入しているはずだ。サイクロプス隊は重力戦線において半減したそうだがまだ残ってるだろうし、キマイラ隊だって出たのだ。そういえば、名前も知らないが、キマイラ隊といえばあの自信ありげなイチゴMSパイロットはどうしたんだ?」

  

 

 

 そしてシャアの言うサイクロプス隊の隊長機がいる。

 もはや戦い敗れ、機体は中破を受け、片腕しか動かせない状態で。

 

「キリング中佐! キリング中佐! くそっ、母艦もやられたか。バーナード、ミハイル、生きていれば返事をしてくれ!」

 

 ビームサーベルを左腕で持ち、こんなことになった全ての元凶を見据える。

 

「お前ら…… そうか、いよいよ俺で最後ってわけか」

 

 隊長機は逃げることなど考えてもいない。

 ここに至って敵に背中は見せない。最後の一人として、やるべきことをするだけだ。

 闘志を奮い立たせる。

 

 前方に見える相手、フルアーマーガンダムはその気を感じたのだろうか。一瞬止まっている、だがここは戦場、容赦なく戦う気だ。

 ビームサーベルを選択し、背中から振り抜くと、一気に恐ろしいほどのスピードを乗せて迫る。

 そのまま、電光石火の速さで斬り払う。

 隊長機のゲルググは何の仕事もできないまま致命傷を負った。

 

「クソッタレめ。サイクロプス隊はこれで終わりだ。おい、ジョニー・ライデン! 聞こえているか! 俺はお前らキマイラ隊が昔から気に入らなかったし、その中でもお前はとびっきりだ。だけどな、この連邦のクソMSより百万倍好きだぜ。後は任せた」

 

 わずか残り数秒の間に思いを乗せる。少ない言葉に託して伝える。

 それが漢の最後というものだ。

 

「頼む、ライデン、俺の可愛い部下たちの仇を取ってくれよ。じゃあな!」

 

 隊長機の誇りと共に、サイクロプス隊はここに消えた。

 

 

 

 一方、そこからやや離れたところで、キマイラ隊のMSが大量の連邦MSに囲まれている。ジオンの防衛線は既に決壊している。勢い付いた連邦MSが雪崩れ込んできているのだ。

 

 しかし、さすがにキマイラ隊である。

 普通の隊なら間違いなくエース級のパイロットを集めて作られた精鋭揃いだ。しかも、身分や士官学校卒かどうかになど拘らず実力で抜擢されている。

 そして現在に至るまで期待に違わず目覚ましい戦果を挙げてきたのだ。

 

 キシリアの大いなる功績である。

 

 能力、あるいは結果を重視するキシリアの方針のおかげだ。単に趣味嗜好の問題だったのかもしれないが、その方針は間違っていなかった。埋もれていた原石が多数、そうして輝いた。

 そして、軍内でどちらかといえば弾かれていた彼らが一躍誇りある隊に選ばれたのである。キシリア麾下の宇宙突撃軍にあってキマイラ隊は勇者の誇りだ。

 ゆえに彼らはキシリアを信奉すること尋常ではない。もちろん士気も高い。

 

 その高い技量でなんとか連邦MSの群れに逆撃を食らわせる。

 まともに当たるのではなく、機動力で惑わして一対一に持ち込んでしまえば、キマイラのゲルググが負けるはずはなかった。逆に言えば連邦MSが隊列を崩さず数の利を保ってこられると分が悪い。

 結局のところ、大きな損害を出しながらも活路を開くことができた。

 もちろん隊長機ジョニー・ライデンの圧倒的な技量がものをいう。

 連邦MSを蹴散らしていく。恐怖を感じた連邦MSは包囲を解き、いったん広がり遠巻きに見るだけになった。

 ジョニー・ライデンの撃墜機数はあっという間に跳ね上がっている。だが、その数を誇れるような甘い戦闘状況でもない。語り継ぐべき味方がいなくなれば無意味だろう。

 

 そんな時、ジョニー・ライデンはサイクロプスの隊長シュタイナーの通信を聞いた。

 

「……言ってくれるぜシュタイナー、俺もお前のことは嫌いだったからお互い様だ。だがシュタイナー、その遺言は聞いてやる。隊員を失う隊長の気持ちくらい分かってやるからな!」

 

 

 だが、その時には逆にフルアーマーガンダムがキマイラ隊の方へ目を付けていた。

 

「こちらフレミング、空母ビーハイヴ、応答してくれ。クローディア、聞こえてるかい? ジオンに生きのいいMS隊がまだ残ってるようだ。こいつらを片付けてから帰投する」

 

 フルアーマーガンダムがキマイラ隊に向かい、直線で加速をかける。

 

「ああそうだ、ビアンカに言ってくれ。MSなんか乗らなくても、俺が全部片づけてやる。だけどその間、艦に置いてるドラムやキーボードが壊れないよう、守ってくれよ! 戦いが終わればすぐセッションだぜ!」

 

 一気に距離を詰め、キマイラ隊にフルアーマーガンダムが迫る。

 一番近くにいたゲルググが気付いてビームライフルを撃つ。

 しかしまったく当たらない。

 

「俺を墜とすなんざ、できっこねえ!」

 

 イオ・フレミングのフルアーマーガンダムは高機動を使い、余裕をもって躱す。

 

「サンダーボルトのスナイパーだって無理だったんだからよ!」

 

 逆にゲルググをフルアーマーのビームライフルが貫く。一撃で返り討ちにした。

 慌てて寄ってきたゲルググをもう一機斃す。この間わずか数秒だ。

 

 

 これを見たジョニー・ライデンが急行する。

 

「あのチェスターと、バッツがやられたのか、一撃で…… こいつがサイクロプス隊を殺った連邦MSか。シャアの追っていた連邦の白いMS、いや、聞いていたのと違うな」

 

 フルアーマーガンダムの異様に一瞬驚く。その強さが伝わってくる。

 

「隊長機から全隊に通達! お前たちでは敵わん。距離を取れ! このMSは俺が斃す!!」

 

 ジョニー・ライデンはそれでも挑む。

 ジオンの精鋭、誇りあるキマイラの隊長として。

 

「いくぞッ 連邦のMS! 俺が真紅の稲妻だッ!!」

 

 ゲルググが加速しながらビームを放つ。さすが、動きながらでも狙いは正確だ。

 だがフルアーマーガンダムの背部懸架装置に付けられた盾が動き、そのビームを簡単に弾き飛ばした。

 驚いている暇はない。

 第二、第三撃、全て豆鉄砲かのように弾かれた。

 逆にフルアーマーガンダムが撃ってくる。すんでのところでジョニー・ライデンはゲルググの盾を持ち上げて防いだが、そこに大きな穴が開いてしまったではないか。対ビームコーティングがあるのに。同じビームライフルでも威力において格段に違うのだ。

 ゲルググの盾では数回以上のビームには耐えられない。性能差は明らかだ。

 

 しかしフルアーマーガンダムはこのままビーム戦にするつもりは無かった。

 急接近すると共にビームサーベルを使う。素早く確実に仕留める気だ。さっきのビームの応酬で、このゲルググが少しばかり厄介だと感じたのだろうか。

 

 ゲルググもビームサーベルを繰り出す。

 

「よし、来てみろ化け物! 斬り合いなら望むところだッ!」

 

 戦いが始まる。

 だが、すぐに判明した。はっきりとフルアーマーガンダムの方が強い。

 反応速度も威力もケタ違い、まるで大人と子供の戦いだった。

 十合ほども斬り合うが、まるで逆転の目など無い。

 

「く、くそッ、俺は真紅の稲妻だ!! こんなところで負けてたまるか!」

 

 フルアーマーガンダムはまるで遊びにも飽きたと言わんばかりだ。

 それまでとは段違いに速い斬撃を入れてきた。

 

 易々とゲルググの左腕を斬り飛ばし、更に胴体部へ斜めに斬り込む。

 コックピットまで斬撃が届き、空気が漏れる。ノーマルスーツのおかげでまだ生きていられる。真っ二つにされなかったことだけは、さすがに真紅の稲妻といえるだろうか。そこまでが精一杯だったが。

 当然のごとくフルアーマーガンダムはとどめの第二撃を入れる。

 

 

 

「隊長ーーー!!」

 

 そこへ横から飛び込んできたゲルググがいた。青く塗られた機体だった。

 

「やめろ、ユーマッッ!!」

 

 そのユーマ・ライトニングの乗るゲルググは、フルアーマーガンダムとジョニー・ライデンの間に割って入る。

 当然の結果として、フルアーマーの斬撃を代わりに受けた。

 

 だが、これで中破されてもユーマはゲルググのビームサーベルを取り出して戦う。

 フルアーマーと三度は斬り結んだ。しかし、四度目はそうはいかなかった。フルアーマーの方が速く、ユーマのゲルググを切り裂いた。

 

 その時、周りにいたキマイラ隊のゲルググたちから幾条のビームが注がれた。

 今まで接近戦を演じていたため手を出せなかったが、ここに至っては誤射を恐れていられない。

 しかしそんなビームは全て躱されるか、フルアーマーの盾で防がれてしまう。

 ただしその間に、エンジンが死んでいなかったユーマのゲルググが、大破したライデンのゲルググを曳航していく。

 少しでも距離を開けるのだ。

 

 だが、再びフルアーマーはその二機を追う。

 

 

 そこへビームライフルを撃ち放しながら、またしてもキマイラ隊のゲルググたちが邪魔に入る。

 

「隊長とユーマに手を出すんじゃねえッ! この悪魔がッ」

 

 しかし、フルアーマーガンダムはこれらにビームライフルで反撃を撃った。一機のゲルググが四散する。

 次にもう一機を進路上に捉え、あっさりビームサーベルで両断した。

 

 こうして二機のゲルググを撃破してもなお、フルアーマーは更にしつこくユーマとライデンを追う。他のゲルググとは違い、ここで逃してはならないと実力を認めているからだ。

 

 

「クルツ! ラザフォード! お前らまでが…… キマイラ隊ッ、隊長として命令だ! もうあの連邦MSには手を出すな!! 俺やユーマがやられても振り向くな。お前らだけでも逃げろ! 分かったな!」

 

「ライデン隊長…… 済みません。その命令だけは聞くわけにいきません! 隊長がいてこそのキマイラ隊ですッ! キマイラ隊に居られて俺たちは幸せでした。お願いですから隊長、俺たちのことは気にしないで下さい!」

 

「お前ら、何て馬鹿なことを言うんだ。俺より先に死ぬ姿を見せないでくれ。早く行ってしまえ、頼む……」

 

 通信は音声しか伝えない。

 漢たちの涙は伝えない。

 

 それでいい。

 戦場において残るのは漢の高貴な魂だ。涙の姿ではない。

 

 

 

 

 邪魔をしてくるゲルググをもう一機斃し、ライデンとユーマにもうわずかで追い付くというその時。

 

 フルアーマーガンダムの目の前にビームの網が張られる。

 その進路を正確に塞ぎ、どんなに躱して進もうとしても、絶対にそれ以上行かせないという鋼鉄の意思表示で。

 

 

 

「大佐の命令とあれば、わたしがこのMSを斃します。大破したゲルググは今のうちに退避なさい」

 

 それは大型モビルアーマー、エルメスから聞こえる声だ。

 不世出のNT、ララァ・スンがこの悪鬼に立ち向かう宣言を放った!

 

「ほう、ジオンも何だか妙なものを出してきたな。これは丁度いい。のろまな4ビート野郎どもが相手では退屈で眠たくなったところだ。このとんがり帽子、お前なら眠気覚ましにくらいなってくれるか。8ビートくらいイケてるんだろうなッ!」

 

 

 ララァのエルメスが、この戦場に降り立つ。

 

 周りに、九体の守護天使達を引き連れて。さっきのビームはこの天使たちの矢だ。

 

 

 神の化身対地獄の使者が、今、相討つ。

 

 

 


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