コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第二十四話 漢の生き様

 

 

 エルメスは遠距離からビットを先行させる。

 もちろんフルアーマーガンダム相手に接近戦は論外だ。それに持ち込ませるつもりなどない。

 

 先手を取り、ビットから続けざまにビームを放つ。

 フルアーマーガンダムはやはり盾を動かし、全てを弾き飛ばした。連邦の技術の粋を集め、惜しげもなく考えられる限り最高の材質を奢って作られたMSだ。連邦は試しながら技術を積み上げて試作機にしたのではない。最初から限界いっぱいのものを作り、そこから量産するのに必要な簡略化、コストを下げるための材質変更をしたのだ。

 次にフルアーマーガンダムがビームライフルを撃つ。

 

 それらをエルメスが易々と躱す。

 いや、ビームを避けているという甘いレベルではない。

 ビームを撃つ直前からその射線を外し、もう移動しているのだ。

 

 この小手調べで互いに実力を推し量る。

 どちらも、自分の相手が尋常ではなく、危険なものだと認識した。

 

「イケてるじゃねえかッ! とんがり帽子さんよ!!」

 

「飾りを付け過ぎたクリスマスツリーさん、さっさと切り倒してあげるわ!」

 

 

 次は本気の連射に入った。

 今度の先手はフルアーマーガンダム、そのビームライフルが続けざまに火線を吐く。しかし、いくら撃ちかけても全て躱される。

 ただし、エルメスのビットがいくら応射しても、これも防がれる。背面からビットを回り込ませても躱すか盾で防がれるのだ。全方位攻撃が通じないとは、驚く他ない。

 

「…… そう。これならどう?」

 

 次はこれまでにない輝きだった。

 エルメスのビットが同時にビームを放ったのだ。空間を全て把握し、全方向から見ることができる、ララァ・スンのNT能力がそれを可能にした。

 九体のビットがただ一点に向け、ビームを絞り込んだ。

 それを当てられたフルアーマーガンダムの盾は、輝きに呑まれ、一瞬にして残骸と化す。

 

 イオ・フレミングも驚く。

 ビットがビームを当ててくるだけでも尋常でないのに、同時にビームを、しかも同じ場所に当ててくるとは。

 強力な対ビームコーティングを張ってあるはずの盾、ガンダムシールドでも、これは設計値をはるかに超えていて耐えられない。

 フルアーマーガンダムはたまらず場所を高速で移動する。

 だが、エルメスのビットがそれを逃さない。

 またしてもビームが捉える。これでもう一つ盾がダメになった。

 

「そうか、なめてかかった俺が悪い。だがな、これで優位に立ったと思ってもらっちゃ、気分が悪いぜ!」

 

 そして何と、フルアーマーガンダムは背中の懸架装置を自ら外した。壊れた盾も、無事な盾も捨てた。ついでに重い遠距離用バズーカも捨てた。どのみちそんなものをこのとんがり帽子相手に当てられるわけがない。

 敢えて身軽にしたのだ。

 これでさっきより更に動きが速くなる。

 

 この高機動に、エルメスのビットでも狙い通り当てるのは難しい。

 その間、フルアーマーガンダムはビームライフルとビームサーベルだけを両手に持ち、エルメスに突進する。遠距離戦ではフルアーマーガンダムといえど勝機はなく、ここはやはり接近戦で叩かねばならない。

 

 もちろんエルメスはビットを駆使して接近を防ごうとするが、うかつにビットを近付けてしまった。そこを逃さずフルアーマーのビームライフルが撃ち抜く。

 守護天使の一体が墜とされてしまった。

 

 その時、ララァはこの状態に違和感を持っている。

 

 相手がいくら速くても、ただ速いだけなら自分が対処できないはずがない。この空間を全て把握しているのだ。

 しかし、この連邦MSの動きはとても読みにくい。

 だから今も対処が遅れ、ビットを墜とされてしまった。

 

 その原因がおぼろげながら分かってくる。

 

「このMSのパイロット、意識が掴めない。いいえ、獣のような本能で動いている」

 

 いくらNTでも未来自体を知っているわけではない。

 人の意識を読んで、行動の前に感じ取れるから先読みができるのだ。

 それが異次元のNTララァの強みの源泉である。その力で楽々とビームを躱したり撃ったりできる。だが、このフルアーマーガンダム相手ではその意識の読みがうまく働かない。そして意識下の本能までは読み取れないのだ。

 さっきまでの機動力では可能でも、今の素早い動きでは予測にブレが出てしまい、攻撃も防御も精度を欠く。

 

 そしてついにエルメスにとって危険な間合いへフルアーマーガンダムが踏み込もうとしている。

 やむを得ずビットを固めてビームの壁を作りにかかるが、そうするとやはりビットが狙われ、また一体撃ち墜とされてしまう。

 

 エルメスは全力噴射でひとまず距離を開けにかかった。

 

 対処を考えるのは後に回す。いずれは工夫するにしても。

 このままでは接近戦になり、そうなればサーベルなど持たないエルメスが叩き斬られてしまう。

 幸いにもエルメスの機体性能で直線加速だけならフルアーマーガンダムとそう変わらない。ビットのビームを時折牽制に使えば充分だ。

 結果、両者の距離は変わらず保たれる。

 

 

「ララァが頑張っているのに、私が何もしないわけにいかないな」

 

 そう呟いたのはシャアだ。

 その目にも、エルメスとフルアーマーガンダムの戦いが互いに決め手を欠き、しばらく膠着状態に入ったのが分かる。

 

「できることと言えば、例えばそうだな」

 

 シャアはララァの元に行くのではなく、別のことを選択した。要は連邦のMSを引き剥がせばいいのだ。

 目的の物を探すと、それは案外近くにあった。

 連邦の軽空母が浮いていたのだ。正確にはあのMSの母艦かどうかは分からない。しかし試してみて損はないだろう。

 シャアはその空母目がけて最大速度で突進し、射程外からでもビームライフルを放つ。艦壁は通らなくても、もし艦橋に当たれば儲けもの、そのビームで司令所を潰せる。

 

 偶然にもその空母はフルアーマーガンダムの母艦、ビーハイヴだった。すぐさまフルアーマーガンダムにも通信が行く。

 

「こちら空母ビーハイヴ! ジオンのMSに攻撃を受けつつあり! 直掩MSを出しても捉えきれない! 相手は赤い彗星、シャア・アズナブル!! 至急行動中のMSは戻られたし」

 

 この報に慌てたのはイオ・フレミングだ。急遽旋回し、母艦を目指す。

 そこを逆にララァのエルメスとビットが追う形となった。

 間もなくイオとララァの目に、その空母が見えてくる。次に、その周りを飛び回りながら、連邦MSを軽くあしらっているジオンMSがいる。

 赤い彗星、シャアだ。

 

 当然イオ・フレミングはシャアに向かって直進しながら叫ぶ。

 

「おいッ、そこの赤いお前!! よくもクローディアに手を出しやがったな! お前だけは絶対に赦さねえ! 死にさらせッ!」

 

 だが怒りの程度で言えば、ララァの方こそ精神のメーターを振り切っている。

 

「大佐と戦うなど、このわたしが絶対に赦さない! あなただけは消えてもらうわッ! 地獄に戻りなさいッ!!」

 

 

 エルメスの全推力を使って、先回りにかかる。ビットをいくつかぶつけて犠牲にしてでも無理やりフルアーマーガンダムの進路を曲げにかかっている。

 

「邪魔するな! ならばお前から先に片付けてやるッ!!」

 

 フルアーマーガンダムがエルメスに向き直った。

 すると、元々エルメスの方が追ってきていたのだ。直ぐに距離が縮まり、接近戦の間合いに入る。このチャンスを逃さず即座にフルアーマーガンダムはビームサーベルを振りかざし、躊躇なくエルメスに斬りかかる。

 

 だが、実はこれを待っていたのだ。

 エルメスは本体に武装が何も無いわけではない。メガ粒子砲を二つ積んでいる。

 

 だが通常は使わない。単なるビームではなく、本来モビルアーマーに似つかわしくないほど強力なメガ粒子砲だ。もし撃つとその衝撃は全体に伝わり、激しい振動と音になる。

 戦艦の砲塔だけで宇宙に浮いているようなものだからだ。

 当然、パイロットにもダメージになる。

 

 ララァはわざとこの時まで使わずに、フルアーマーガンダムの油断を誘っていた。

 

 今、近づいたこの間合いで、必殺のメガ粒子砲を放った。

 対衝撃性に優れたコックピットでさえ揺れは消しきれず、ララァは軽く気が遠くなる。

 

 だがしかし、フルアーマーガンダムはそれでもやられていなかった。驚くべき反応力だ。それでもビームサーベルを持っていた右腕は無残に消された。

 ついでに後ろの方向に向かって飛ばされていく。

 ただし、ビームライフルは左腕にまだ持っている。フルアーマーガンダムは尚もエルメスを攻撃する意志を捨ててはおらず、反転を図っている。

 

 

 

 だが、そこに十条ものメガ粒子砲の火線が通り過ぎる。

 

 驚いて振り向いたイオ・フレミングは新たに出現したジオン機を見ることになる

 それは、足のない大型のMS、いや、モビルアーマーだった。そんなものは初めてだ。

 

 その機体が何か分かるのは、戦いを遠目に見ていたシャアだけだ。

 今、ララァの救援に急行しながら不思議に思う。

 

「あれはジオングだな。どうしてジオングが出撃している。一定以上のNTでないと扱えない代物のはずだが。いったい誰が乗っているんだ?」

 

 

 そのジオングに乗っているのはキマイラ隊のユーマ・ライトニングだった。

 大破した自分のゲルググを捨て、無理やりジオングで出撃したのだ。

 ユーマ・ライトニングが今度はジオングでフルアーマーガンダムに立ち向かう。

 

 元々ジオングは、ほぼ短期突撃だけの特攻兵器だ。

 もちろん普通のMSよりは大きいのだが、それでも武装のバランスがおかしい。何門ものメガ粒子砲を搭載している。当てればサラミスなどは一発撃沈というほどの威力のものを。

 それを可能にするため、非常識なほど大型のジェネレーターを積んでいるわけだが、それと引き換えに航続距離は極端に短くなっている。

 

 それなのに今、ユーマ・ライトニングは惜しまずに砲撃を放っていく。帰還のことなどもはや考えてもいないようだ。確かにこのメガ粒子砲ではフルアーマーガンダムといえど当てられたらあっさり溶かされて消滅するだろう。いや、かすっただけでも充分だ。

 だがこのジオングの激しい連射を右に左にフルアーマーが躱していく。当てられなければ問題はない。

 おまけにフルアーマーガンダムはビームライフルで反撃する。

 ジオングの外装を貫き、ダメージを少しずつ確実に与えていく。

 

 

 また、ジオングから離れてジョニー・ライデン隊長もこれを見ていた。

 ユーマの再出撃をすんでのところで止められなかった。そしていてもたってもいられず僚機に曳航されてここまで来ている。

 

「馬鹿ッ! やめろユーマ!」

 

「隊長、俺はずっとフラナガン機関のオモチャでした。長いこと恨んでました。あれをコンスコン少将が潰してくれてスッとしたくらいです。でも今はちょっとばかり、フラナガン機関に感謝しています。俺は強化人間として、このジオングを操れたんですから」

 

「そんなことを…… お前は強化人間でも何でもいいじゃないか! お前は人間なんだッ 俺の部下なんだッ!」

 

「嬉しいんです。隊長のために、ジオングを使って強敵を斃せることが」

「おい、何を考えてる、ユーマッ!」

 

 戦況としては今、はっきりとジオングが不利になっている。

 強力なメガ粒子砲も全く当てることができず、一方的に撃たれ続けている。簡単に沈まないジオングの堅牢性のためにまだ動けているだけだ。

 

 

 そこでフルアーマーガンダムはより接近し、致命的となるビームを叩きこもうとした。

 

 その瞬間を狙っていた。

 ジオングは全力噴射でフルアーマーガンダムに向かって突き進む。いきなり相対速度が上がり、一瞬のうちに距離が詰まる。

 ジオングが頭部のメガ粒子砲を使って最後の砲撃を撃ち放つ!

 だがこの一撃も躱されてしまう。

 

「ジオンは芸がないな。やることがさっきのとんがり帽子とまるで同じじゃないか。しかしまだ迫ってくるとは、何だ? 体当たりか? ふん、当たると思っているのか」

 

 ジオングが尚も速度を上げて進む。

 それを見て取ると、フルアーマーガンダムは紙一重でジオングを躱しながら至近でビームを叩き込む気になった。

 

 だがそうはならなかった。

 ユーマの作戦勝ちだった。

 すれ違いにフルアーマーガンダムのビームライフルを食らいながら、ジオングは既に最大限に伸ばしてある腕を使い、そのワイヤーを大きく動かした。

 そしてフルアーマーガンダムを絡めとったのだ。これを読めなくするためわざと指のメガ粒子砲を使わず頭部のものを使っていた。

 そして捉えたフルアーマーガンダムをジオングに引き寄せていく。重量のあるジオングが力では優る。

 

「何だこれは? つまらん。馬鹿めが。無駄だ。無駄なんだよ!」

 

 フルアーマーガンダムにはまだ武器がある。頭部バルカンを撃ち込んでジオングの腕を一つ破壊した。すばやく振りほどいて出ようとする。

 だがその瞬間だ。

 

 

「隊長、俺を人間に見てくれて、ありがとうございました」

 

 閃光があたり一面に迸る。

 ジオングが自爆したのだ。最初からフルアーマーガンダムを抱き取り、道連れにするつもりだった。

 

 煙が拡散すると、もうジオングの姿はない。

 ジオングの強力なジェネレーターの爆発は、全てを四散させた。

 

 フルアーマーガンダムは今、残されていた左腕も、肩も失った。右足も無い。あれほどの爆発に巻き込まれながら砕き尽くされなかったのは驚きだが、もはや原形を失うほどの大破だった。

 それでもバックパックをなんとか使い、離脱していく。

 

 その場に残されたのは、若者の輝く意志の残滓だけだ。

 

 

「ユーマ、大馬鹿野郎。お前は俺の部下だ。いつまでも、俺の可愛い部下なんだぞ。心にある限り、ずっとな」

 

 

 Sフィールドの戦いは、こうして一つの区切りを迎えた。

 

 

 

 

 


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