コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第二十五話 物量作戦

 

 

 Sフィールドの戦いも落ち着き、ようやくジオンが立て直した。

 

 ある程度の戦線の後退は余儀なくされた。しかしそうするとア・バオア・クーの岩礁砲台の支援を受けられるようになる。しかもア・バオア・クーの形状のため、より効果的な十字砲火に近づき、それはア・バオア・クーに近づくほど強力なものだ。敵味方損失比であまりに不利になれば、さしもの連邦といえど無茶な攻勢を続けてはいられない。 

 

 残り少なくなったジオンMSだが機動的に運用することでどうにか補っている。もちろん、残されたキマイラ隊が活躍している。失った仲間たちのため、気迫の弔い合戦を行っているのだ。

 そして逆に連邦の側ではあのガンダムさえ倒されたことが衝撃的だった。連邦の勝利の象徴、圧倒的な強者ガンダムが墜とされてしまったとは。士気に影響しないわけがない。

 

「無茶言わないで下さい、フレミング少尉」

「もうガンダムは無いのか! 予備パーツはあるだろ。どうにか組み合わせられないのか。俺はガンダムのパイロットなんだ」

「ガンダムは試作機、換えなんてそうそうあるわけがありません。予備パーツといってもコア部分まで損傷している以上、無意味です」

 

 

 

 だがここで、ジオンは余りにも大きな勘違いをしていた。

 連邦はNフィールドだけで攻略できれば良し、としていただけだ。

 それが無理の場合に限り、やむを得ずSフィールドへの分散攻撃に踏み切る予定にしていた。この二ヶ所への同時攻撃でア・バオア・クーを攻略できないことはないと踏んでいた。

 

 それが叶わないとは想定外である。だがそのことが確定すると、尚も兵力をつぎ込む決定をした。

 連邦は何が何でもア・バオア・クーを攻略すると決めている。

 

 そして、それを可能にするだけの物量が連邦の側にはあったのだ。

 予備兵力を残していた。

 それは元々、ア・バオア・クーを捨てて敗走するジオン戦力を見極めて、横撃を掛けるためのものだ。

 潰走する敵を叩くことほど楽で効果的な戦いはない。連邦としては非常に道理にかなったことだ。ジオンの戦力を確実に一掃するためには。

 その力を今、ア・バオア・クー攻略のために振り向ける。

 

 

「ようやく勝てそうだ。キシリア、よくぞSフィールドを守り切ったな。案外力量はあるじゃないか。いや案外と言ってしまったのは悪い。とにかくよくやってくれた。そういえばシャアとやらも相当活躍したそうだな」

「ドズルの兄上に褒めてもらえる日がくるとは。素直に嬉しいが、まだ勝ったわけでも…… こうなっても連邦に撤退する兆しが全く無い、それも妙なこと」

「確かにそうだな。連中もなぜか諦めが悪い」

 

 戦況に光明が見え、一息つきながら中央指令室のドズルと副司令室のキシリアが通信を繋げていた。

 しかし、そこへ突然割り込みが入る。

 

「し、失礼いたします閣下! ただいま急報が入りました! 複数の索敵ブイに反応があったそうです。連邦の新しい艦隊が接近中と思われます!」

 

「な、何だと! それはどこだ! その連邦の新手は、どれくらいだ!」

「進路方向推定、Eフィールドに向かっているようです! 詳細はまだ出ませんが、四十隻以上の予測!」

 

 ドズルは落胆した。

 底知れない連邦の物量に呆れる思いだ。

 そして連邦は一つのフィールドに密集させるより、別のフィールドを襲う方を選択した。どこか一つのフィールドだけでも破ればそこで勝ちだと知っている。ア・バオア・クーのどこの守りが弱いかある程度の予測はつくが、戦ってみなければ分からないという面があり、また連邦は同時攻撃をするにも余裕がある。

 

 しかし、ドズルはここで自分が動揺してはならないと思い返す。指揮官がしっかりせずにどうする。連邦の戦力が来れば来るほど、討ち果たすのみだ。そうではないか。

 

「連邦の兵力はどれだけあるというのか…… まるで天井が見えん。だがこうなれば仕方がない。取り付かれ、ア・バオア・クー内の白兵戦になれば厄介だ。最悪破壊工作をされてしまう。Eフィールドは、カスペンの隊だけでは支えきれまい。Nフィールドから戦力を引き抜いて応援を出さざるを得んな」

 

 そのドズルの言葉を聞いたキシリアが言ってくる。

 

「Eフィールドに連邦の新たな戦力とは…… ドズルの兄上、こちらのSフィールドは支えられている以上、少しはEフィールドに応援を出せるかと」

「おお、それはありがたいキシリア。こちらも後で応援をやる」

「折悪しく、ギレンの兄上もEフィールドにいることですし、どうしても守り切らねば。こちらの最大戦力シャア大佐を向かわせましょう」

 

 その後、キシリアはすぐさまシャアに連絡する。

 表情はその紫のマスクに隠されて見えない。

 

「戦いが始まる前に言ったことを覚えているか、シャア」

「どういうことだったでしょう、キシリア閣下」

「…… まあいい。今入った報告によると、Eフィールドに連邦の新手が来る。今のうちにEフィールドへ行って、自分の思う最善のことをしろ」

「自分の最善? なるほどキシリア閣下、ご命令は確かに。私もその方が動きやすくて助かります」

 

 

 そしてシャアはEフィールドに向かって発進する。

 むろんララァのエルメスを伴う。

 同行するはずの戦力であるムサイ六隻とMS中隊は一緒ではない。

 

「急がなくていい。準備を万端にしてからEフィールドへ向かえばいい。私が先に行っておこう」

 

 そう言い残したのだ。

 今はシャアとララァだけで飛行し、ア・バオア・クーを回り込みEフィールドへ向かう。

 

「大丈夫かララァ、私なら一人でもいいのだが」

「大佐が出るところ、私も付いていきます。どんな時でも。体調のことならもう大丈夫、差し支えありません。エルメスのビットも残り六個、わたしには充分です」

 

 途中、連邦の偵察MS小隊に遭遇してしまった。四機ほどの数である。

 一度だけではない。Eフィールドの近くまで来ると二度、三度立て続けに出遭った。

 その全てを打ち倒す。

 赤い彗星のシャア、並の連邦MSなど寄せ付けない。実際のところは、ララァがほぼ全て倒しているのだが。

 

「ララァ、私も戦いに来ているのだ。これでは公園まで親がついてくる過保護の子供ではないか」

「うふふ、大佐。いっそのこと私の子供になればいいのに」

「勘弁してほしいものだ。それに撃墜スコアに興味はないが、一つも伸びないのも具合が悪い。これでも私は大佐なのだから」

 

 今、シャアのゲルググはエルメスのビットが飛び回る、その絶対安全圏内にいる。

 まるで籠の鳥だ。先の戦いでララァは今さらのようにシャアを単独にする恐怖を覚えてしまったのかもしれない。いくら言われても離さないのだ。

 確かにこれではシャアの出番はない。

 

 

 Eフィールドに着くと、そこにいたカスペン大佐に挨拶をする。人に笑顔を見せることはないが実直な士官だ。むろんシャアの先任士官に当たる。

 

「シャア・アズナブル大佐です。キシリア閣下の応援部隊の先遣として参りました」

「それはありがたい。ここにはまともな戦艦もなく、いるのは実戦で役に立たない新兵ばかりだ」

「そうですか。他以上に大変そうだ。それで、ここの戦力は空母代わりの技術船だけですか。いや、チベも一隻見えるようですが?」

「ああ、しかしあのチベはギレン総帥をサイド3へ送るために用意されたものだ。だがここへ連邦が間近に迫っている以上、もはや出すこともできなくなった」

「…… なるほど。しかしギレン総帥を留めておく方が危険なのでは? キシリア閣下の意向は、ザビ家のものを一箇所にしておくのは万一を考えれば得策ではない、早く送り出すことと聞いていますが」

「その通りだシャア大佐。だが後手に回ってしまった。留めるのも危険、しかしもう無理だ」

「そうでしょうか。今からでも遅くはないでしょう、いえ今のうちです。連邦はまだ来ていません。本隊はおろか偵察すら。その証拠に、Sフィールドからここに来る間、連邦の部隊とはただの一度も出遭わなかったのですから」

 

 

 シャアは会話を思うように誘導していく。

 カスペン大佐は少し考えた末、ギレン総帥を今のうちに出すことに同意した。

 

「ギレン総帥は途中まで私のゲルググで送りましょう、カスペン大佐。Eフィールドの守りをお願いします」

 

 そしてシャアがチベ一隻、ムサイ一隻、ガガウル三隻の艦隊の護衛につく。

 

「ララァ、少しばかり別行動になる。こればかりは納得してほしい。そして、このEフィールドの守りに協力してやってくれないか。なに、私はすぐに戻ってくる。そう時間はかからない。それともう一つ頼みがある。さっきの連邦偵察隊との戦闘記録を、エルメスから削除しておいてほしい」

 

 

 

 そのわずか40分後、ジオン軍内を驚愕のニュースが駆け巡る。公式に発表された情報ではない。しかし、ことの重大さにたちまち知れ渡った。

 

「ギレン総帥、連邦の大艦隊と不運にも遭遇、戦死!」

 

 

 


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