コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第二十七話 撤退戦

 

 

 

 連邦はこのア・バオア・クーを囲み、叩き切る作戦に転じていたのだ。

 物量で圧し潰す。

 ジオンに何の希望も与えず、追い詰めていく。

 

 勝つことだけが問題なのではない。

 地球に逆らうことがどれほど無謀なのか、どれほど愚かしいのか見せつけることが必要なのだろう。

 勝ち目などなく、そんな希望はあり得ないことを教えるために。

 もちろん、戦後もスペースノイドが同じことを企まず従順でいさせるためである。独立など夢にも思わせない。壮大なデモンストレーションとしての戦いに移行しているのだ。

 

 

 この時、Wフィールドに最後に姿を現した艦隊、そこに木馬がいるということは当然ガンダムもいる。

 おそらく、俺が陽動作戦で連邦艦隊の後背に回り込んだ時に出会っていたものが、司令部から別行動を任命されてこのタイミングで来たのだろう。

 ジオンの士気を挫く決め手にするため、あえてそうしたのだ。

 

 この大包囲網はまた、ジオンにとって戦意を刈り取られるだけでなく、ア・バオア・クーからの安全な退路を失う危険性がある。要塞がジオンの棺桶になってしまう。

 

 

 俺はここでドズル中将に一つの意見を言う気になった。

 戦いの最中から考えていたことだ。

 

「ドズル閣下、作戦について少し申し上げたいことが」

「何だコンスコン、Eフィールドを守る算段についてか。それは頼んだ。全体として戦局は極めて困難なものになっている。安心できる場所の一つくらい欲しいものだ」

「いえ、そういう細かいことではなく、ア・バオア・クーの戦い全体のことでして」

「何、全体? 戦略的なことか。お前のことだから、決して無駄な話ではないのだろうな。俺と同じ考えかもしれんが、聞こう、コンスコン」

 

 

「連邦は物量を行使して、何が何でもア・バオア・クーを陥としにかかっています。ここはそれに付きあわず、ア・バオア・クーを捨てるのです。ここで全戦力をすり潰されてはたまりません」

「あえて放棄すると言うか。しかしそれではジオン本国までわずか半日の距離まで連邦の侵攻を許すことになる。それどころか立派な拠点をくれてやることではないか。大体にして今でさえジオンはア・バオア・クーの岩礁砲台があればこそ対抗できているだけなのだぞ」

「あのコロニーレーザーが使えます。いや、実際に撃つことまで必要はないのです。あれをいつ発射されるか連邦が分からなければ、おいそれとまとまった戦力でここから本国に来ることは難しいでしょう。連邦も半分の確率で一方的に焼かれて死ぬかもしれないが、それでも行ってこいと兵士に言えるわけがありません」

「それはそうだが、ジオンの乏しい国力をつぎ込んで作り上げた最大要塞を……」

 

「要塞をそっくりそのまま使わせてやりましょう。もちろん、資源や食料なんかの物資は一切置いていきません。すると連邦がここに戦力を置くほど、補給が大変になるのは自明。中途半端に使わせるのが一番いいのです。そして補給の途中を徹底して妨害すれば、連邦の物量を次第に削ぎ落してやることが可能に」

「ここをわざと取らせての吸血作戦、というわけだな。だがコンスコン、いつまでもそれを続けるのは無理だ。いずれは連邦の戦力はそれをも撥ね退けるくらいになる。逆にジオンは工業生産の二割はここでやっているのだから、その分を丸ごと失うぞ」

「その時はその時、改めて戦略を確定すればいいだけです」

「……なるほどな。分かった」

 

 

 ドズル閣下も歴戦の勇士だ。単純な猛将ではない。俺の言っていることを正確に理解した。

 この吸血作戦は言うほど簡単なものではない。高度なゲリラ戦を行える力量がなければたちまち破綻する。

 しかし今ここで玉砕してしまうよりははるかにマシだ。

 

 

 ドズル閣下はキシリア閣下と相談し、撤退の作戦を決めたようだ。

 決断するとなると早い。

 そして俺にもその概要が伝わってきた。それはおよそ考えられる限り最良の作戦に思える。

 

 粛々とそれを行っていく。

 

 先ずは連邦の新手の現れたWフィールド、そこは元々ゲートも少なく、艦船もほとんど置いていない。すっぱり諦めて、ゲートを爆破してしまった。しかも外見では分からないように巧妙に、トラップを幾重にも重ねるというオマケ付きで。

 Wフィールドのゲートに取り付いて侵入しようとした連邦は入った後で、それ以上内部へ進めないのが分かるだろう。これで時間がだいぶ稼げる。その間ガンダムの心配をしないで済む。

 

 主戦場であるNフィールド、そこでジオン側は戦力が尽きたかのように装い、戦線を縮小していった。要するに要塞へ引っ込んでいったのだ。連邦は勝ち誇って要塞に取り付いてくる。

 

「よし今だ! 岩礁砲台は撃ち尽くせ! 浮遊砲台もとにかく動け! 岩石ミサイルも全弾発射! どうせア・バオア・クーに残してはおけない。どんなものでも撃てるものは撃て!」

 

 このドズル閣下の号令の下、尋常ではないめちゃくちゃな攻撃の雨あられだ。これではさしもの連邦も大損害を受け、いったん後退せざるを得ない。同じことを二度までも繰り返せば、疑心暗鬼になって連邦も容易には距離を縮めてこなくなる。

 

 そこを一気に出撃していった。一隻も残すことのない、文字通りの全艦発進である。Nフィールドのゲートは艦船ノズルの白熱で満たされた。

 四十隻程度残ったドズル閣下の本隊が最大推力でジオン本国を目指す。その中に、空母ドロス、ドロワ、ミドロも含まれている。

 

 えっ! ちょっと待て!!

 正直驚いた。

 

 なぜかビグザムが出撃しているではないか!

 

 確かにビグザムはこういう短時間突進に向いているかもしれない。しかし、それでも危険は危険だろう。いくらビーム攪乱といっても100%じゃない。

 心配した連邦からのMS攻撃だけは、ドロスが一緒なら先ずは安心かもしれないが。

 

 意図したことではなかったのだろうな、と思った。ドズル閣下のことだから。

 だがしかし、結果的にこの敢闘精神はジオンの士気を保つ上で大いに役立った。この撤退戦、見方を変えればジオンの惨めな敗走だ。そこをしっかりまとめられたのはドズル閣下の無謀な出撃のおかげになる。

 それでもこんな危険なことは、俺としてはやってほしくない。後でこっそりゼナ様に伝わるようにして絞ってもらおう。

 

 

 そして、他にエギーユ・デラーズ大佐が旧ギレン統帥本部直属の三十隻程度を取りまとめている。あんな頑固そうな人間なのに人望はあるんだろう。いや、そういう人だから皆が付いていくのか。

 その艦隊は輸送船団を守りつつ脱出していく。資源や作りかけのMSパーツなどをア・バオア・クーに残しておけない。輸送船団の保護は重大な任務だ。

 

 その戦いは、俺も傍から見ていて舌を巻いた。

 鈍足の輸送船は、連邦のMSはおろか、突撃艇パブリクのミサイル相手にもカモになるほどだ。そんな輸送船を抱えて艦隊運動をするのは容易ではない。それをデラーズは敢えて「見せ玉」に使った。

 陣形を広げておき、分かり易いエサである輸送船を使って連邦の突出を誘う。そこを包み込んで叩く。

 これは上手い!

 艦隊戦では俺も少しばかり自信はあるが、デラーズ大佐も大した力量を持つ。友達になれるかは分からない、というか無理っぽいけれど指揮能力は凄い。

 

 

 俺の役割は、十五隻余りの艦隊を率い、Sフィールドの撤退支援をすることだ。

 

 急ぎSフィールドに向かったが、そこに見えたものは死力を尽くしての激戦だ。

 ドズル閣下と似たような作戦を取ったのだろう。キシリア閣下も全艦隊をゲートから展開させるのには成功していた。まとめて三十隻ほどのジオン艦が見える。その中にはすっかりおなじみになってしまったマ・クベ大佐のマダガスカルも見える。

 きっと壺もあるんだろうな。

 

 だがしかし、Sフィールドの連邦軍はジオンに比べて余りに数が多い。それを振り切れないでいた。

 俺は間髪を容れず戦闘への介入を命じた。

 

「全艦密集して砲撃! 手数を増やして実数より多く見せかけろ! MSは順次発進だ」

 

 そうしてから戦闘の詳細を把握していく。

 キシリア閣下の艦隊、グワジン級もザンジバル級もいる立派な艦隊だがMSが少なかったのだ。そのため各艦が連邦側のMSへ対空砲火と回避を強いられ、なかなか統一行動ができないでいた。

 ジオンのMS隊の方はというと、二十機程といったところだろうか。そこにはキマイラ隊と思われるゲルググ達もいる。少数でも味方として見るとなかなか大した動きをしていて、さすがに強い。連邦の多数のMSがキシリア閣下の艦隊にまだ取り付けないのはこの奮戦のおかげでもある。

 だが疲労はたまっているだろう。

 それはいずれ、瞬間的な判断ミスという形で表に現れてくる。相手が見逃してくれなければ即致命傷になる。

 

 こちらのシャリア・ブルとガトーがMS戦の応援についた。

 動きの速いこの両機に連邦のMSも翻弄される。

 

「俺はガトー。コンスコン機動部隊所属のMSだ。応援に入る」

「何! コンスコン機動部隊だと! ……以前にはあんなことがあったが、遺恨もなく応援してくれるとはありがたい。俺は真紅の稲妻だ」

 

 思いがけない通信だ。

 そしてお互い、先のひどい同士討ちのことは忘れ、共にジオンとして戦う。

 しかしその前に当人同士のレベルの低い話があった。

 

「……本当か? 真紅? しかし俺の目がおかしくなったか、全然真紅じゃない普通のゲルググにしか見えないんだが。それともあれか、真紅というのはものの例えというやつか。気持ちの問題? なんだかお前も奥が深いな」

「何だと! 下手に出れば馬鹿にしやがって。たまたま真紅の機体が大破して乗り換えただけだ!」

「俺は悪いと言ってるんじゃない。だが、真紅じゃない真紅なんてややこしいこと最初から言うな!」

 

 ガトーも意外とナチュラルに逆なでしてしまう。

 

「それはともかく、そっちのMSはそれだけか」

「……ああ、ひどくやられた。キマイラ隊の半分は負傷してしまった。サイクロプス隊もできるだけ救助したつもりだが、戦える状態じゃない」

 

 俺は知らなかったが、ガンダムとの戦いでキマイラ隊は損害を被っていたんだ。

 そこへ別のゲルググから通信が割り込んできた。

 

「ライデン隊長! クルツやユーマ達の意識が戻りました! ユーマは、再出撃したがっています!」

「そうか…… だがゆっくり休ませとけ! この命令を聞かなかったら縛り付けてもいい。ユーマもさすが強化人間と言いたいところだが、あんな怪我をしといて再出撃は認められん。ジオングとやらに脱出装置があったとは知らなかったが、手動ならまだしも自動では完璧じゃなかったからな」

 

「……なるほど負傷者が多いのか。しかし真紅のなんとか、残りもまとめて休んでくれて構わない。どうせこの戦いはすぐに終わる。コンスコン司令が手を打つだろう」

「変なところで略すな! やっぱりお前、馬鹿にしてるだろう。だが本当は助かった。実は、限界が近かった」

 

 

 俺はツェーンのドム隊を連邦MSへは向かわせず、逆に連邦艦隊の方へ進ませた。バズーカは艦隊攻撃の方が有効だ。

 連邦MSは連絡を受け、慌てて艦隊へ戻ろうとする。そこを狙いすまして艦隊からの遠距離砲撃だ。

 我ながら悪辣なことに、砲撃でかき乱した後、クスコ・アルのエルメスの一撃離脱戦法をとる。ビットを四機に補充した今のエルメスなら、単機でも戦闘力は充分だ。

 スピードを充分に乗せて突入し、連邦MSを何機か斃して飛び抜ける。そしてまた遠距離砲撃に切り換える。

 この戦法はいくら繰り返しても有効なのだが、こちらの目的はキシリア艦隊の撤退支援だ。

 目的をきちんと達成できれば、さっさとこっちも切り上げる。

 

 最後に斉射を行ない、俺の機動部隊もア・バオア・クーを後にする。

 

 

 

 

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