コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第三十五話 落とし前

 

 

 シーマ・ガラハウは当然、ギドルの艦橋を狙った。

 ギドルを墜とすことは必要なく、アサクラ大佐さえ斃せばいいからだ。

 

 ゲルググ・マリーネはピタリと艦橋直前に止まり、そこからビーム・ライフルを撃つ!

 まともに艦橋を貫いた。

 グワジン級戦艦だったギドルはダメージコントロールも徹底されている。中央制御が失われたら自動的に艦の制御は即座に分散され、こんなことで沈むことはない。しかし少なくとも艦橋に詰めている司令要員が生きていられるはずはない。

 

「これであたしの最後の仕事は終わったよ。こんなことをしても仕方ないのにさ。あたしも馬鹿だねえ。でもさ、何か言ってくれてもいいだろ、マハル」

 

 だが直後に気付いた。なぜかギドルから今もなおミノフスキー粒子が散布されている。

 そして視界の端にわずか、エンジン付きの脱出艇が遠ざかっているのが見えた。既にギドルから発進していたのだろう。

 

「アサクラ大佐、あんたもしつこいね。マハルのことも、あたしらを騙して毒ガス攻撃をさせたことも、たぶんあんたのせいじゃないんだろう。上からの命令って奴でさ。それでもね、あんたを許せない。落とし前は付けてもらう」

 

 ビーム・ライフルがその脱出艇を狙い撃つ。一度、二度は外した。それは照準をつけるためのものだ。それを充分にフィードバックし、精密に照準を合わせる。

 

「先に地獄で待ってな!」

 三度目に撃った時、脱出艇を貫き、爆散させた。

 ここにアサクラ大佐は斃されたのである。

 

 

 その直後、リリー・マルレーンからゲルググ・マリーネに通信が入る。

 

「この宙域に艦隊接近! コンスコン機動部隊と思われます!」

「…… そうかい。追手が来たのかい。全員逃げな! あたしのことは気にしないでおくれ。追手は大丈夫だ。ゲルググ・マリーネがここを通さない」

「シーマ様! それはできません!」

「馬鹿を言うんじゃないよ! とっとと撤収しな!」

「いいえシーマ様、生きるも死ぬも、このマハルのみんなで!」

 

 

 

 

 俺はこの宙域にようやく到着できた。

 

 近づいて見えてきたのはなんとも奇妙な光景だった。

 グワジン級戦艦を改装して作られた技術指揮艦ギドルが攻撃を受けている。

 それがアサクラ大佐が叛乱を起こし、占拠したギドルだ。グワジン級のシルエットなど見誤るはずが無い。

 

 しかし一体ギドルは何と戦っているのだ?

 叛乱を察知して俺より先にここへ来ていた部隊がいたのか? ドズル閣下からは何も知らされていないが?

 MSの他、ギドルに相対している艦隊がいる。ザンジバル級一隻にムサイが何隻かの編成のようだ。おそらく攻撃しているMSはそこから発進したのだろう。

 

「いったい状況はどうなってるんだ。艦型照合と通信解析を急げ」

 

 そこで得た答えは困惑させられるものだ。

 

「ギドルから救助要請信号あり! そして攻撃しているMSと艦隊が判明しました! キシリア閣下所属、か、海兵隊です!」

「何だと? 海兵隊はグラナダの戦闘から敵前逃亡したと聞いている。あのザンジバル級がそうか。それが何でここにいる? アサクラ大佐と一緒に落ちあって逃亡か? し、しかしそれがどうして戦いになってるんだ」

 

 俺は意味不明ながらもこの戦いを止めさせなくてはならない。そして捕縛した後に事情を聴き、脱走兵は軍規に基づいて処罰するのだ。

 機動部隊を更に接近させる。

 ジオン同士の戦いなどしたくもないが、もしも抵抗するなら実力を行使する必要がある。

 

 投降勧告が無視されたのは予測の内だ。

 しかし不思議なことに海兵隊の艦隊は何も慌てているところがない。おまけにこちらを砲撃してくることもない。つまり死に物狂いで抵抗するというポーズが見えないのだ。

 俺は砲撃戦を選択しなかった。正直言えば、俺の機動部隊の編制なら、砲撃戦で方を付けるのは難しくない。しかし、それをしてはならないような気がしたのだ。

 代わりにMSを展開させる。

 

「シャリア・ブル、ツェーンのドム隊は投降を呼び掛けながら、向こうのMSをギドルから引き剥がせ。クスコ・アルのエルメスは隊長機を探し、それを無力化だ。ガトーは臨機応変に支援に回れ」

 

 

 こちらのMS隊が発進していくと、向こうのMSたちにも動きがあった。ギドルから離れてまとまりつつある。

 その後、意外なことに隊長機が先頭になって突っ込んできたではないか!

 かなり遅れて、他のMSたちもまとまって接近してきた。

 

「隊長機を見つける手間が省けたわ! ここで止める!」

 

 そう言ってクスコ・アルがエルメスのビットを展開させて迎撃態勢を取った。自信を持って待ち構える。この四つのビットから逃れられるMSなど、ガンダム以外に存在するはずがない。

 

 その時、通信機から向こうのMSの会話が切れ切れに入って来た。

 

「シーマ様! お戻り下さい!!」

「うるさいよ! 脱走兵のあたしが言うのもなんだけど、これは命令だ。全員リリー・マルレーンに戻りな。そして最大戦速でずらかるんだ」

「その命令は聞けません! シーマ様がいなければ、俺たちばかり逃げても仕方ありません!」

「…… 何度も言わせるんじゃないよ。お前らだけでも逃げておくれ、お願いだ」

 

 

 やがてその後続MSたちも隊長機に追いつき、一団となる。

 そして二つのMS隊が交錯した。

 

 エルメスのビットが順次ビームを放つ。

 だが、結果は驚くべきものだった。

 

 当たらない!

 

 当てられなかった。それでもエルメスは体勢を立て直す。

 だが、これでコンスコン機動部隊MSの目論見は外れてしまった。

 最初に隊長機を捕縛あるいは大破して、戦意を失わせ、包囲するというものだったからだ。

 

 戦いは一気に乱戦になる。ここで改めて思い知ったが、さすがに海兵隊のMSは強い。しかも機体はみなゲルググだ。高性能だが操縦の難しいゲルググを見事に操っている。

 そして数に大差はない。

 だがそれでも、全体としてはコンスコン機動部隊MSが押している。ツェーンやシャリア・ブルのギャンが全体をリードし、常に隊形を整えているからだ。なかなか一対一になる状況を作らせない。逆に隙を見ては、シャリア・ブルが死角から突進しゲルググの手足を斬り飛ばす。

 

 そんな中、艦隊指揮官シーマ・ガラハウ中佐自らが乗っていると判明した隊長機がエルメスに仕掛けてきた。この大型モビルアーマーを潰せばコンスコン側は怯み、活路が開けると踏んだのだろう。それも間違いではない。

 

 接近戦を挑んでくる隊長機、ゲルググ・マリーネにビットが狙いをつけるが、またしても外してしまう。ただしビーム・ライフルの狙いをつけさせるのを妨害した。

 するとゲルググ・マリーネはビーム・ライフルを捨て、ビーム・サーベルに持ち替える。これはエルメスの苦手な超接近戦にする気だ。

 

 

 こんな展開になるとは思いもよらなかった!

 俺は盛大に後悔した。

 エルメスであればMS相手に楽勝だと油断していたのだ!

 海兵隊の隊長機ともなるとエース級の腕前だろうとは思っていた。しかし、まさかクスコ・アルのエルメスが!

 やはり安全に遠距離砲撃戦を選択すべきだった。俺はスクリーンにエルメスを見て、今さらながら撤退を言おうかと通信を用意した。

 

 クスコ・アル本人もこんな展開に困惑している。

 そしておぼろげながら、なぜこうなっているのか理解できた。

 

 NTは相手の気を読む。そして先取りして動くことができる。

 だが今、このゲルググは自分を殺す気が無いのだ。

 もちろんこのエルメスを再起不能くらいにするつもりなのだろうが、そこに殺気はない。あるのは全てを捨てた、穏やかな覚悟だけだ。こんな相手には気が読めず、先取りが充分に機能しない。

 

 ゲルググ・マリーネがついにエルメスをビーム・サーベルの間合いに捉えた。

 だがクスコ・アルはビットを横から体当たりさせた。ビームの撃てないこの間合い、しかしビットを一つ犠牲にしてでも排除にかかった。

 エルメスのビットはビーム用のジェネレーターを積んでいて、決して小さいものではない。それなりに質量はある。

 ビーム・サーベルを振りかざした直後、ゲルググ・マリーネはビットを左横腹にぶつけられて飛ばされ、エルメスと距離をとられた。だがゲルググ・マリーネは破壊されたわけではない。再び体勢を取り直す。

 

 そこへ駆けつけてきたのがアナベル・ガトーだった!

 

「クスコ・アル、よくやった。後は任せるんだ」

「済みません。私としたことが、あのゲルググに後れをとるなんて」

「いや、充分だ。俺は当たり前のことを言うが、ビットなんかより、お前の方が大事だ」

「 …… 」

 

 

 通信を取ろうとした俺は唖然としてしまう。

 

 またかよ!

 ちょっと待って、ガトーさん!

 ここでそれ言うの!? 少し考えてよ!

 おそらくクスコ・アルの頭の中では、「俺はお前が大事だ」って都合よく略された文章ができちゃってるはずだ。

 そして、やっぱリードしてるわなんてお花畑なこと考えてるよ。

 それでいいの!?

 

 

 


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