コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第三十六話 心で見るもの

 

 

 今度はアナベル・ガトーが海兵隊隊長機の相手をする。

 ガトーはビーム・サーベルを振り抜き、正面からそのゲルググ・マリーネに向かって急接近していく。

 

「海兵隊の隊長機、投降を勧告する!」

「何だいあんた。投降だって? 嫌だね。どうせ軍規では脱走兵は銃殺しかないさ。それよりも戦って死にたいよ。ここであんたが戦ってくれるのかい?」

「なに? お前は…… 」

「あは、それがいい。あんたは相当腕が立ちそうだ。あたしの最後の一花にちょうどいいさね」

「死ぬために戦うなんて止めろ! それは戦いじゃない」

「いいから相手しな! ただし他の海兵隊には手を出すんじゃないよ! いや、手を出さないでおくれ」

 

 接近戦の間合いに入った。

 互いにビーム・サーベルを繰り出す。その速さ、これはエース同士の戦いだ。だが幾度か斬り結んでいくと判明してくる。ゲルググ・マリーネは確かに優れた機体だった。現時点のジオンで最高の機体だろう。だから、気が読めないとしても全方位空間把握ができるNTクスコ・アルのビットの攻撃さえ、基本回避行動で避けられたのだ。

 だがしかし、パイロットとしての技量では歴然とガトーの方が上だった。

 

 ついにガトーはゲルググ・マリーネの右腕を切り飛ばした。これでもうゲルググ・マリーネのビーム・サーベルはない。

 

「やっぱり思った通りだ。やるね、あんた。でもあたしは投降しない。止めを刺すんだね。でももう一回は言わせておくれ。部下は助けてやってくれないか。皆、あたしについてきただけで、罪はないんだ。それだけは頼むよ」

「 ……その部下思いは本物だな。投降したら極刑は免れるかもしれん」

「褒めてくれるのかい。でもさ、あたしはダメなんだ。名前を聞いたことあるかい」

 

 

「海兵隊隊長、シーマ・ガラハウ中佐だろう」

「そうさ。毒ガスのシーマ・ガラハウさ。民間人殺し、虐殺のシーマだよ! みんながそう言ってあたしを憎む。それだけのことをしたんだから仕方がない。あんたもまともな軍人ならあたしのことは嫌いだろ?」

「 ……しかし実行したのは命令があったからだろう。それならどうしようもない。断われば別の人間がやっただけだ」

「そう言ってくれるのは嬉しいね。あんたは優しい。だけどなんにも分かっちゃいない。虐殺をやったのは間違いなくあたしだ。コロニーの人間はこの手で殺した。みんな、あたしを恨んで苦しみながら死んだんだ!」

 

 

 この会話をしながら、シーマ・ガラハウは後ろにゆっくり流されていく。ガトーに気取られないように。

 そして最後にさっと左腕を伸ばす。そこには、さっき斬られた右腕に握られていたビーム・サーベルがあった。ガトーもそれに気付く。

 

「これで帳消しにしておくれ!」

 

 ガトーは攻撃を予期して身構えた。しかしゲルググ・マリーネはガトーに仕掛けたのではない。

 

 何と自分のコックピットにビーム・サーベルを突き立てる!

 ゲルググは敵に機体を渡さないよう自爆装置を備えている。しかし、パイロットがいればそれは作動しない。だからシーマはこうするしかなかった。自分を消してしまうためには。

 

 だが、そこを素早くアナベル・ガトーが反応した。

 ゲルググ・マリーネのコックピットが破壊される寸前、その左腕も薙ぎ払ったのだ。これで再びビーム・サーベルも腕も失い、自壊するすべもなくなった。

 

 

「あんた! 邪魔するのかい! もう終わりにしておくれよ。あたしの罪は死ななきゃ終わらない」

「それは違う。生きてこそ自分にも部下にも責任がとれる」

 

「確かにそうなんだろうね。それが真っ当な考えってもんだろう。でもあたしはもう無理だ。疲れたんだ。分かるかい? 今も毒ガスで死んだ人たちの呪いの声が聞こえてるよ」

「……」

「もうダメなんだよ。周りの真っ暗な宇宙にさ、みんながあたしを睨んでる。あんただって笑うだろ。誰でもそうさ。あたしがそんなの見えてるはずないって言うのさ」

「いや、お前はそれが見えている」

 

「あはは、本当にそう言ってくれるかい? 今もさ、このゲルググ・マリーネの周りに目玉が浮かんでるよ。数える気もしない。何万あるんだろうね。一つ一つがどれだけ恨みを込めてるか。笑えるよ。これだけ呪われて、あたしゃもう地獄にいるのかねえ。もう疲れちまったよ。教えておくれ、ここはもう地獄なんだろ? 目玉に睨まれながらMSで戦い続ける、地獄なんだろ?」

 

 シーマ・ガラハウは精神のタガが外れかけていた。

 ここに至って、こらえられなくなってきたのだ。

 

 そこをガトーの声が切り裂いた。

 

「俺は分かった。お前にはその目玉が見えている」

「そうさ! ここはあたしのための地獄だからねえ」

「お前はそれにずっと囲まれてきた。いつも、何をしても」

 

「…… 本気でそう言ってくれるのかい……」

「お前には楽しいことなど何もない。どんな時も苦しいだけだ」

「……」

 

「だが知っておけ! お前には目玉が見えている。しかし、俺にはそんな目玉は見えない。それも事実だ!」

「何が事実だって言うんだよ!」

「事実だから事実だ! 俺にはそれが見えない。それも間違いない。どうしてか分かるか!」

「な、それは……」

「その闇に浮かぶ目玉はお前の心が見せている。お前が、自分に見せている」

「だけど! だけど! 見えるんだ。あたしだって見たくないけど、見えるんだよぉ……」

 

 激情が涙になる。

 手足は強張り、体は前に傾き、そのまま涙を落とす。

 

「お前は苦しい。苦しんだ。しかも逃げられない。自分が自分から逃げられないのは当たり前だ。それでもお前は部下のため、責任のため、頑張ってきた」

「あたしは……」

「ずっと頑張ってきたんだ」

「頑張ってきた……」

「そうだ。お前は、今までそうしてきた」

 

「あ、あたしは、頑張ってきたんだ! 苦しかった。苦しかったんだよ。あたしは誰にも赦されない。赦されないことをした。だけど苦しい。誰か助けておくれ…… あたしは苦しいんだ。でも、ずっと頑張ってきた」

 

 とめどない涙が、これまでの年月を押し流していく。

 

「ずっとずっと、頑張ってきたんだよ……」

 

 

 この時から、シーマ・ガラハウの闇は取り払われた!

 見えていた幻は亡霊の呪いなどではない。自分の良心が自分を傷つけていた。それでも頑張ろうとしてますます魂が引き裂かれていた。自分の手を踏みながら立ち上がろうとしていたようなものだ。それをガトーが突いた。

 

 心の傷は深く、直ぐに治りはしない。

 しかし、そこから流れ出ていた血はもう再び流れることはない。

 

 

 素直に力を抜き、中破したゲルググ・マリーネは無抵抗でチベへ曳航されていく。

 他の海兵隊MSも投降し、ゲルググには皆、一時動作停止のロックが掛けられた。これはコードを再入力しない限り解けないロックだ。

 リリー・マルレーンも機関の火を落として停止する。

 これをもって、一連の出来事は全て鎮まった。

 

 幸いなことにツェーンなどの俺の側も海兵隊の側も、どちらにも死者は出ていない。MSはさすがにお互い大破が数機出たが、それだけだ。

 

 

 やれやれこれで一安心、といきたいところだったが、俺はまた驚くことになる。

 チベ艦橋にオペレーターの声が響く。

 

「コンスコン司令! 後方より接近中の艦があります! ザンジバル級の単艦! 艦型照合出ました、マダガスカル!」

「な、何! マダガスカルといえばマ・クベ准将の艦ではないか。なぜ今ここに?」

「向こうから通信入っています!」

「出せ!」

 

「取り込み中のところ失礼申し上げる、コンスコン中将」

「……いや、騒ぎはちょうど今収まったところだ、マ・クベ准将」

「では用件を申し上げよう。この艦にキシリア閣下が乗っておられる。そして今からすぐそちらに移乗したいと仰せである」

「え、ええ!? そんな、キシリア閣下が! いや、もちろん仰せの通りに。しかしなぜ」

「もう移乗シャトルで出られた」

 

 うわあ!

 これは一体どうしたということだ。

 もちろんキシリア閣下を直ぐに出迎えるべきだが、その前にやることがある。

 ちょうど今チべに入ったシーマ・ガラハウ中佐の状態確認と、それに合わせた監禁指示をしなくてはならない。病室なのか、尋問可能なのか、そしてリリー・マルレーンを当座どうするかなどの話だ。俺はその方を優先してひとまずキシリア閣下の出迎えには副官を行かせた。

 

 俺のチベのMS発着場に腕を失ったゲルググ・マリーネが運び込まれた。

 ハッチを自ら開けると中からシーマ・ガラハウが出てくる。

 ひらりと着地し、辺りを眺め渡す。顔にかなりの涙の跡がある以外は堂々とした態度だ。

 

「海兵隊隊長、シーマ・ガラハウだ。単なる脱走兵だけどね」

「この艦隊の司令、コンスコンだ。シーマ・ガラハウ中佐、グラナダからの逃亡を認めるんだな」

「ああそうさ。でも部下は違う。あたしにくっついて来ただけなんだ。そこは分かってほしい」

「…… 事情がありそうだな。そのあたりの経過についてと、叛乱を起こしたアサクラ大佐との関係について聞かせてもらいたい。特にギドルと戦闘になった理由を。その結果次第で処罰も変わる。当面この艦にて拘禁させてもらうがよろしいかな」

「そうしておくれ、コンスコン司令」

 

 

 

「そこまでだ。コンスコン中将」

 

 直後、この場所に声が響く。

 

 キシリア閣下の声だ。

 振り返るとキシリア閣下と俺の副官がいる。おそらくキシリア閣下がさっさとここに歩むのを追いかけてきたのだろう。

 

「さすがにコンスコン中将、見事な火消しだった。とても感謝する。しかし、シーマ・ガラハウ中佐を拘束する必要はない。即刻開放してもらおう」

 

 話してくる内容は驚くべきものだ。

 俺は丁重にそれに答える。

「は、はあ、キシリア閣下。むろん仰せの通りに! ですが軍規によりますと脱走兵への処罰規定があり、これを曲げることは……」

「そこが誤認なのだ! 最初から間違っている。シーマ・ガラハウは脱走兵などではない!」

 

「キ、キシリア閣下、それはいったいどういうお話で……」

「シーマ・ガラハウ中佐は、私が事前に出した命令に従ってグラナダからここに来ていたのに過ぎない。グラナダからこのソーラ・レイまでの宙域確保のためだ。スパイ対策で極秘に行いたかったため敢えて脱走兵のフリをするよう命じたのも私だ。シーマ・ガラハウ中佐はここに至るまで忠実にそれを守った。グラナダのルーゲンス少将さえ騙されたのは、まあ誤算だ。つまり海兵隊がそういう任務を行なった、たったそれだけの話だ」

 

 これを聞いて驚いた顔をしたのは俺ではなくむしろシーマ・ガラハウ本人だ。

 キシリア閣下は何を言っている?

 自分はグラナダからのただの脱走兵なのに……

 

 

 

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