コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第三十八話 連邦の進化

 

 

「閣下、からかうのはお止め下さい」

「そうだな。しかし話はそんな楽しいことばかりではない。今のお前に話すべき、いや話したいことがある」

 

 キシリアの言う通り、シーマは今や誰にも見せたことのないような表情をしている。たおやかで、ほころんだ表情だ。いや、これがシーマ本来のものだったのか。

 逆になぜかキシリアの方が表情が硬い。

 

「回りくどい言い様をしてしまった。私もこういうことには慣れていないし、難しいな。しかし言わねばならない」

「何をです? 閣下」

「毒ガスの件だ」

「!」

 

 一気にその場が緊張する。

 シーマ・ガラハウの苦しみの元になった事件だ。せっかくの表情がみるみるうちに強張る。

 

「ギレンの兄の差し金で海兵隊に来たアサクラ大佐、その者がお前にコロニーへの毒ガス注入をさせた。世間ではどういうか知らんが、実際はそうだ。しかしそれもまたアサクラ大佐が自分で考えたのではない。大元はギレンの兄が計画したことだ。命じられたアサクラ大佐は保身のために自分は手を下さず、お前に丸投げした」

「そ、それはそうなのですが…… 」

 

「その話自体を言いたいのではない。問題は、私も知っていたということだ。ギレンの兄は、ジオンに敵するコロニーを始末する汚れ役を自分のところだけではなく、私の宇宙突撃軍にもやらせようと企んだ。さすがにドズルの兄にもちかけはしなかったようだがな。だがギレンの兄は少なくとも私くらいは共犯にしたかったのだ。それが目的でなければ無理にアサクラ大佐が来るものか。奴は小物であるがギレンの兄の腹心だからな。ただしそうと知りつつ、私は呑み込んだ。兄上との政治的な駆け引きを優先し、それを黙認した」

 

 シーマも今まで何度も考えたことのある疑問だ。

 なぜ自分は騙されてまで毒ガスを使わされたのか。

 それを今、キシリアは自分の口から告白してきたのだ。

 

「ジオンの暗部を私は知っていた。しかもそのことでお前がずっと苦しんでいたことも承知していた。毒ガスの罪を一身に背負い、お前が世間の厳しい目に晒されていること、いやそれだけだったらいい。お前は自分の良心からひどく苦しめられていたことも。だが私は知らぬフリをしてしまった。小さな損得ばかり考え、いつかお前に話さねばと思いつつ、ここまで来てしまった。せめて私が分かっていると伝えられたら、お前の心もずいぶん救われたに違いないのにな。今回の脱走もおそらくそれに関係することなのだろう? それでも頑張ってきたお前が突然脱走するとは、よほどのことだ」

「キシリア閣下……」

 

「済まなかった、シーマ・ガラハウ。この通りだ。赦してくれ」

 

 何ということだ!

 

 およそ人に頭を下げたことのないキシリア・ザビ、勝気な少女時代から、今では硬い鎧をまとった女になった。

 そんなキシリアが、なんと今、紫のマスクと尖った飾りのついた帽子まで取った。

 そしてシーマ・ガラハウに頭を下げているのだ!

 

「! か、閣下! お止め下さい! 部下にそんな謝るものではありません! どうか頭をお上げ下さい」

「私もギレンの兄がいれば謝るなんてことは絶対に無理だったと思う。しかし兄がいなくなった今、自分がいかに無理をして、強がって、周りと壁を作っていたのか分かってきたのだ。今頃になって、ようやくだ。お前に対しても遅すぎた」

「今頃とはいっても、充分間に合いました! 閣下。ありがとうございます。本当に、ありがとうございます。このシーマ・ガラハウと海兵隊はいっそう閣下をお支えいたします。全霊の忠誠を持ち、何があろうと、最後まで」

 

 

 この一連のやり取りをマ・クベが背後から佇んで聞いている。

 そして小声で呟く。

 

「キシリア閣下は変わられた。シーマ・ガラハウも」

 

 ギレンは長いこと色々な意味で重しだった。そして、ギレンの死はキシリアの無駄な強がりを解き放ったのだ。

 今のキシリアに政治的なライバルは誰もいない。

 ドズルはキシリアにとって立ててやりたくなる相手であって、ライバルではない。もしも政治的に対立してしまい、謀略戦になればいつでも勝てるという余裕がある。そうするつもりは全くないが。

 つまり、今や頭を押さえられていた絶対的存在は消え去り、柔軟さと闊達さが戻ってきたのだ。

 ここで、シーマの心を分かりつつ見殺しにしていたことを認めて口に出すくらいに。

 政治の得意なキシリア、そこにようやく人としての温かみが加わった。

 

 そしてマ・クベはこれからのジオンとキシリアの行く末を見たいと強く願うのだ。

 

「…… ジオンは、もっと強くなる。必ず」

 

 

 

 

 そうしている間にもジオンの軍事行動は止まっていない。

 同じ頃、シャア・アズナブル准将はア・バオア・クー近傍で盛んにゲリラ作戦を行っている。

 

 連邦は大量の資材や食糧をア・バオア・クーに運び込まなくてはならない。

 ジオンはこの要塞の撤収にあたり、食糧などの消耗品を全て持ち去っている。

 それも問題だが、重要なのは補修や交換などに使う工業製品だ。要塞の工廠は破壊されず、そのままにしておかれていたが、むろん原材料は無い。しかし原材料があったとしてもジオンと連邦は製品の規格がまるで違う。そのため直ぐ使えるパーツの生産などできるわけがない。製造データの書き換え以前の面倒な問題だ。結果的に連邦はそういう工業製品も全て持ち込まなくてはならなくなる。

 人員についても、要塞を稼働できるようにするだけでもかなりの人数を使う。そういった後方要員がそれだけ必要なのだ。つまりこのア・バオア・クーを維持するだけで大変である。ソロモンも同じような状況に晒されている。

 それなのにルナツーやフォンブラウンからの補給線は余りに長く、その生命線を守り切るのは困難を極める。

 

 シャアはララァのエルメスを伴い、またしても襲撃に出ていく。

 

 今回の獲物、コロンブス級輸送艦の六隻が見えている。

 問題は護衛だが、ゲリラ戦の最初の頃はせいぜいサラミスの二隻がいいところだった。しかしこの襲撃が二度、三度に及ぶと護衛もまた増えてきているのだ。

 四度目からは軽空母を伴うようになっていた。サラミスは砲撃は強いがMS搭載能力が低く、業を煮やした連邦は直掩のMSを増やしにかかった。

 いずれは護衛任務に木馬とガンダムが付けられることになるのかもしれない。ただし幸運なことに木馬は強襲揚陸艦、戦地や要塞に突撃して橋頭堡を築くのが本来の目的であり、そこを輸送艦の護衛に運用する発想には連邦も今のところ至っていないのだ。連邦上層部の頭の固さが幸いしている。

 同じような理由で戦艦マゼランが回されることもない。もっとも、シャアにとっては木馬よりマゼランの方がよほど組し易いのだが。

 

 今見えているのはサラミス四隻、それだけではなく後方に隠れて軽空母がいる。おそらくそこから発進してきたであろう連邦MSが、ざっと十二機はいるだろうか。けっこうな戦力だ。襲撃も五度目ともなればこうなるのは当然だ。

 

「ララァ、MSを適当に片付けておいてほしい。私は輸送艦の方を叩く」

「大佐、いえ准将、輸送艦はともかくサラミスの対空砲火には気を付けて下さい! もしも准将に何かあれば、復讐のためサラミスの人たちを一人ずつ真空に放り出します」

「……ララァは怖いな。私なら最低限弾幕を避けるくらいのNT能力はあるつもりだ」

 

「でも心配です! やはり准将はわたしのビットの中にいるべきです」

「大丈夫だ。心配しないでほしい。それよりララァ、連邦MSを一気に叩かないでくれないか。あまり力の差があるように見られると、次の護衛が増えすぎてしまう。苦戦していると思われた方がいい」

 

 それは確かにシャアの言うことが正しい。相手が油断していればこそゲリラ戦ができる。襲撃する側が圧倒的に勝ったりすれば、当然、次には護衛がこれでもかとばかりに強くなってしまうだろう。程々がいいのだ。

 本気を出せばララァのエルメスなら十二機のMSを倒すのにそう苦労はしないのだが。

 

 シャアとシャアの率いるゲルググの部隊が連邦輸送艦を目指す。シャアとしては信頼できる二、三機もいれば充分なのだが、さすがに准将になれば一つの部隊を率いなくてはならない。シャアを含めて八機が出撃している。

 それを危険と見て追ってくる連邦MSの前にララァのエルメスとビットが立ち塞がる。

 シャアの言う通り、相手のビーム・ライフルを苦労して躱しているように見せかけながら、ゆっくりと料理していく。力をセーブして一機ずつビットで撃破していく。

 その間にシャアの方はサラミスの対空砲火を躱し、コロンブス級輸送艦に近付く。

 

「あ、赤い彗星が来た! もうダメだ、散開して逃げろ! 物資の全滅だけは避けるんだ!」

 

 輸送艦が慌てて散開しようとしても無駄だ。シャアはあっという間に接近し、艦壁スレスレに取り付くと、エンジン部を狙って繰り返し撃つ。

 

 輸送艦は大破では意味がなく、爆散させておく必要がある。

 六隻のコロンブス級は一隻ずつ残骸になっていく。

 全て片付けると、その宙域に積み荷の一部が燃え残ってバラまかれているのが見えた。

 

「今回の補給物資には、食糧が多かったのか。缶詰まであったようだ。要塞の連邦兵も辛いだろうな。食べ物を減らされては士気も落ちるだろう」

 

 あとはさっさと撤収だ。サラミスを撃沈する必要はない。

 適当に選んだ一隻だけを沈め、後の三隻は残す。ララァの方もMSを九機ほど墜としたところだ。ちょうどいい程度の数である。

 追撃など考えさせない圧倒的速度で手早く消える。

 

 ア・バオア・クーへの補給活動は連邦兵士にとって楽な任務どころではなくなった。

 正に命がけの仕事になったのだ。

 そして赤い彗星だけでも戦意を消し飛ばすのに、謎の無敵モビルアーマーを相手にしなければならないとは、何の冗談だろう。

 

「ア・バオア・クーの亡霊」

 

 そう言って連邦兵士はエルメスに恐れをなすことになる。

 もちろん乏しい物資をやり繰りしている要塞兵士の方はもっと大変だ。水と酸素だけは要塞の岩石そのものに含まれるものを使えばいいが、食糧はそうもいかない。ア・バオア・クーはジオンにとってすれば本国に近く、補給線は短かかった。そのためわざわざ食糧生産プラントを内部に設置したりしていなかったからである。

 

 

 シャアは今回もうまく襲撃をやり遂げ、補給を寸断し連邦を大いに苦しませる。

 だが戦いの後、戦闘詳細をもう一度見てみた。

 若干の違和感があったためである。

 

「ララァ、妙だな。連邦のMSが強くなっている気がする。むろん、エルメスが苦労するようなものではない。私やララァにはどうという差ではないが…… 」

 

 解析の結果は驚くべきものだった。見かけはあまり変わらないが、連邦のMSは大幅に進化していたのだ。

 

 

 

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