コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第三十九話 奮闘のマ・クベ

 

 

「私とララァではないジオンの他の部隊にとっては問題となるだろうな。特にゲルググ以外のジオンMSには。撮影したデータはマ・クベ准将に送っておこう」

 

 シャアは連邦MSがパイロットの技量に関係なく強くなっている気配を感じていた。機体の性能が上がっていたような気がしたのだ。見かけではそれほどの変化がないのに。

 

 シャアの急報及びデータを受け取ったマ・クベは直ぐにその重大な意味を理解する。

 解析の結果、外部に見える改変はわずかだが、連邦MSの性能が大幅に上がっていることが分かった。シャアの感じた通りだ。しかも、ハードウェア的な進歩とソフトウェア的な進歩の両方が認められるとのことだ。

 結果的に新型機と言っても構わないほどの性能向上になっている。

 元々連邦MSはジオンMSを解析した上に独自技術を乗せた設計をしている。そして更に質の良い材料を使った機体を作れる。

 しかし、それにもかかわらず性能は高いと言えるほどではなかった。その性能差は試作機ガンダムとあまりに大きい。それはひとえに一気に量産体制へ移るため、かなりの妥協をしているからである。もちろん設計は簡易化されて部品点数も減らされている。しかしそれだけではなく、各部材・各パーツに過度のゆとりを持たされ、しかもリミッターがあちこちにかけられている。

 そのためジムは連邦初のMSにもかかわらず生産工程の歩留まりは高く、深刻な生産ミスは起きていない。数を揃えることができたという点で連邦の戦略は成功した。

 全く新しいものを一発で量産できたのは工業的に言えばそれだけで驚くべきことなのだ。

 

 しかし逆に言えば、充分に進歩の余地を残しているということでもある。少しの改変が劇的に効く。そして連邦の技術開発も着実に進み、最適化の方策を順次見つけているのだ。

 この短期間にMSというものを理解し次へ進んでいる。

 

 ジオン情報部へ要請しての調査結果によると、連邦MSはジムと呼ばれる型なのだが、ジム・コマンドという型番に置き換えられつつあるとのことだ。

 嫌なことだが、おそらくはその次、更にその次さえもう用意されているに違いない。

 

 

 

 もちろんジオンの方もたゆまぬ開発努力を続けている。

 

 ジオンはどちらかというと生産工程からフィードバックして地道に改良するよりも、一気に設計を刷新して新型機を投入するのを好む。

 これは大きく見込みを外すことがなければ最も早い開発の仕方だ。

 MSの用途も戦い方も急激に進歩している以上、この一足飛びのやり方もまた正しい。時折せっかくの開発努力が無に帰す例、ズゴックなどの場合もあるがそれはそれで致し方ない。

 

 

 今やマ・クベは頭を抱えている。

 

「連邦の改善されたMS、これにドムで対抗するのは苦しい。今までも接近戦に持ち込めればようやく勝てる程度なのに…… ゲルググならまだ優位性が保たれているが、やはり新兵には扱いが難し過ぎる。一日でも早く新型機の目途を立てねばならんのだが……」

 

 

 今ではジオンの兵器開発はマ・クベに一任されている。

 先の将官会議でのドズル大将の決定を受けてそうなったのだ。

 

 次期MS開発は、ギレン派閥のシャフト技術少将が統括するジオン軍技術部と、ジオニック社などの上層部が癒着して決められていた。そのシャフト技術少将は決して怠けるような人物ではなかったし、技術に明るくないこともなかった。だが以前マ・クベ准将が指摘した通り、常識人過ぎた。

 あまりジオニック社などへ強圧的なことが言えず、開発も生産も主導権を奪われていたのだ。

 急な仕様変更や納期改変などを命じたことがない。MSであれほど先行していたジオンが、ビーム兵器で後れをとったり、ギレン総帥自らの肝いりで始まった統合設計案も半端なままで終わった。

 絶対的な性能に優れたゲルググが整備面で非常にやっかいであったり、操縦性が悪かったりするのもそのせいだと言える。

 

 マ・クベは先ず組織改革から断行した。

 ギレン派閥の技術開発部を先ずは何とかする。そうすることができる切り札はぺズン計画だった。キシリア派のフラナガン研究機関が設計してきた幾つかのMSを叩き台にしてスピードのある開発とはこういうものだということを皆に見せつける。

 非常に幸運なことに、技術開発部は他の部署と比べれば頭は固くない。そこの将校はギレン派ではあったがそこだけに拘っているわけではない。なぜなら技術というものは技術者にとって共通語であり、優れているものは優れていると認めざるを得ないのだ。数字は何も嘘をつかない。

 最初は反発を覚えていた技術部将校もマ・クベを受け入れた。

 新しいものに対する嗅覚、技術の本質を見抜くセンス、マ・クベは間違いなく技術の天才だったからである。

 

 もっとも、マ・クベ自身がMSを操縦してガンダムと戦った話を聞いた際には皆盛大に吹いたものだ。

 

「いや、技術者は、自分で性能を確認しなければ本物ではない。そうではないか」

 

 マ・クベはそこで小さな嘘をついた!

 

 シャアに対抗したくてとか、キシリアに認めてもらいたくてという理由は封印している。

 そしてマ・クベの言葉を真に受けてしまった技術開発部はえらく尊敬するようになった。

 青白い秀才の多い面々にとって、最前線で技術者自身が開発成果を試すなど異次元としか言いようがない。

 

 

 ぺズン計画に基づき、新型MSの設計が既にいくつか終えられている。

 ようやく試作機が出来上がってきた。

 次は入念なテストだ。いかに危急な時とはいえそれを省略はできない。しかもこの場合、複数の中から一機だけを絞り込むコンペを同時に兼ねている。

 その性能テストは、テストパイロット達、及び計測・記録・判定をするチームによって行われる。これらはカスペン准将の技術大隊から供給される。

 

「オリヴァー、先ずはアクト・ザクからよ! 機動性、視認性から主観的データにして頂戴。速度や姿勢制御は後でいいわ。数字で取れるものは外部計測で取れるから」

 

 モニク・キャディラック大尉の下、それは順次進められていく。

 だがのっけから新型機、アクト・ザクに欠陥が見つかった。ビーム兵器の稼働と高機動を両立する期待の新型なのに。

 

 テスト結果では、確かにアクト・ザクの戦闘性能自体は良い。

 ビーム・ライフルを含めた攻撃力も申し分なく、防御もいい。予想通り機動性もゲルググをかなり上回る。オリヴァー・マイといった技量の高いテストパイロットが扱えばそう見える。

 だがしかし、操縦性があまりに悪すぎた。

 ザクベースなのにそのシンプルさが全く活かされていない。その上で、ゴテゴテと後付け仕様が多すぎて重心バランスが良くない。おまけに操縦支援システムも増加した推力による俊敏さと合わず、しっくりこない。これではゲルググを難なく操るテストパイロット達ならまだしも、少なくとも新兵にはスムーズに扱うことはできないと思われた。いや、平均水準の一般パイロットでもその通りで、せっかくの機体性能が無駄になる。

 ザクがあまりにも完成度が高かったため、そこに引きずられてしまい、考え方の脱却ができていないのだ。一年戦争初期の成功体験が邪魔をして、そのしわ寄せがきている。

 

 

 

 テスト結果を踏まえて、マ・クベはカスペンの総括を聞きながらまとめていく。

 

「カスペン准将、アクト・ザクは予想スペック値では最有力なのに実機試験ではあまりに辛い点ではないか」

「操縦性で新兵には無理、これが結論だ。マ・クベ准将。新兵でまともに扱えたのはほぼいなかった。操縦録画を見ればそれが分かる」

 

 そしてその映像のダイジェスト版をマ・クベも見る。

 確かに新兵、学徒兵ではMSの性能を引き出しているようにはとても見えない。俊敏さを扱いかねて機動をかける度に機体はうねり、照準もままならない。

 しかしその中で妙なものを見つけた。

 

「きゃははーーーッ! これ最高! みんな何チンタラしてんだよッ!!」

 

「…… これは何かな、カスペン准将。MSテスト中とは思えないのだが」

「これは、無視してよいバグだ」

 

「……」

「このパイロットは学徒兵の中でも最年少、キャラ・スーンという者だが妙にMSを乗りこなす。こんなのは特殊な例だ。他の学徒兵では一番操縦の上手いジョルジョ・ミゲルすらアクト・ザクは扱えなかった」

 

 

 マ・クベは重い溜息をつく。

 

「アクト・ザクはダメか。しかし、操縦性のいいドワスはビーム兵器が使えない。それ用のジェネレーターもなく、伝達アタッチメントもない。簡単な仕様変更では無理だろうな。これからはビーム兵器の時代、この点で連邦に水をあけられてはならない。連邦はますます接近戦より射撃戦を重視してくる。だから、現時点だけを考えてドワスをメインに選択するのは誤りだ」

 

 考えても袋小路にはまる。

 ジオンの命運がかかったこの選択、マ・クベの負う責任はあまりに重い。

 

「ここは消去法でガルバルディをメインにせざるを得ないか。ギャンベースのくせに操縦性が易しいとも言えないが、それでもゲルググほど難しいわけではない。一応ビーム兵器が使えるジェネレーターの仕様が入っている」

 

 

 

 


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