コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第四十話  デラーズ、始動

 

 

 悩んでも決められず、袋小路に入ったマ・クベは相談相手を求めることにした。

 他の派閥の人間に尋ねてけげんな顔をされるのも嫌だし、しかし同じキシリア派でもシャアに聞くのは抵抗がある。

 

 

「…… それで私の所へ来たわけか。マ・クベ」

「は、はあ。非常に難しい判断ですので、お知恵を拝借いたしたく、キシリア閣下」

「私は兵器に詳しくない。いや、はっきり言うが何も知らんぞ」

 

 堂々と言い切る。

 その通りだから仕方ない。

 

「それでも閣下、お知恵はあるかと」

「お前も知っての通り、私はMSに乗るどころか実戦をあまり見たこともない。艦隊指揮も人任せだったしな。自慢できることではないが」

 

 しかし、そこからマ・クベはかいつまんで状況を説明する。

 連邦のMSが予想よりハイペースで進化すること、ジオン期待のアクト・ザクに操縦性という思わぬ足かせがあったこと、ドワスにビーム兵器が使えないこと、ゲルググは変に統合された機体のため整備泣かせなこと、しかもゲルググの高機動タイプやスナイパータイプへの改修はコストがかかること、他のケンプファー、ドルメルなども欠点があり主力にできないこと、などである。

 

「……なるほど、確かに難しいな。兵器開発にもいろいろ考えることがあるものだ」

 

 

 そこでキシリアにも感じることがある。

 

「マ・クベ、お前が私の所へ相談しに来た理由がなんとなく分かった。要するにお前は自分で結論を出しているのだろうな。だがそこに自信がない。だから無意識にでも私を選んだのだ」

「そ、そうかも知れません。しかしこれはジオンにとりまことに重大なこと、今後の戦局を左右する決定になります。意見は多いほど良いのではないかと」

 

「お前は何も分かっていないな。ドズルの兄がお前に任せたのはなぜか考えたことがあるか。気軽にドズルが言ったように思うならそれは大間違いだ。人の気持ちを分かれというのは、とても私が言えたことではないのだが、ここは敢えてそう言う」

「確かにドズル閣下は私などに一任されましたが……」

「ドズルの言ったことは深い意味があると思え。マ・クベ」

「ふ、深い意味とは?」

 

「私の口から言うのもなんだが、言っておこう。大事な決定というのは会議室で決めるものではないのだ。そこでは誰もが無責任になり、流れで決まってしまう。誰もがダメと分かる結論さえ通ることがある。そしてたいがい失敗するのだ。そうではなく、誰かが重荷を負い、責任の重大さに歯を食いしばってこそ良い決定ができる。だからマ・クベ、ドズルの兄はたった一人、お前に任せた。お前なら責任を感じながら最善ができると踏んだのだ」

「だから、いきなり私だけに……」

 

「逆に言えばな、責任を感じるという時点でお前にはそれを担う資格があるのだ。自信を持て。マ・クベ」

「ありがとうございます、キシリア閣下」

「お前の決めることで、歴史が作られるのだ。MS選定というのはそれほどのことなんだろう? 戦争が変わってしまう程の。面白いではないか。これを面白いと言わずになんという」

 

 ようやくマ・クベの顔が晴れていく。迷いが解消されてきた。

 

 特に難しいことをキシリアが言ったわけではないが、その言葉はマ・クベを勇気付けるには役に立った。

 キシリアはついでに自分の考えを一応述べる。

 

 

「よく分からんのだが、新兵に使えるMSにビーム兵器が無い? マ・クベ、それは最初から無理、論外だろう。おそらく新兵は格闘戦など完全に無理だからな。操作性や性能、まして技量の問題ではない。目の前の人間を斬り殺すなどできまい。いくら生身ではなくMSでもな、人間一人の人生を自分の手の動きで消してしまうということなのだぞ。これは人間としての気持ちの問題になる」

「…… なるほど閣下、やはり、新兵は遠距離からの射撃のみにしないと計算できる戦力にはならない……」

 

 意外にもキシリアは面白い視点からものを言う。

 考えるとそこに答えが見つかってくる。後はマ・クベが明晰な頭脳で形にしていくだけだ。

 

「ああ、それからマ・クベ、前から思っていたのだが、要塞を攻めるのと、艦を沈めるのと、敵MSと戦うのと、どうして同じMSが要るのだ?」

「? それは閣下」

「どうした、私が何か変なことを言ったか」

 

 思わずマ・クベは含み笑いをした。

 確かにキシリアはその点素人同然だ。

 

 政治のキシリア、その地位にあるのは情報操作や駆け引きといった政治面の能力のためである。指揮官として勝利を重ねた結果成り上がったのではない。

 兵器の用途別運用と必要能力、そんなことは基礎中の基礎ではないか。

 特にMSはわずかのスペックの違いでも設計思想も内部構造もまるで違ってくるものだ。そういう絶妙なバランスを職人芸的に追及する兵器である。その違いにより運用目的も変わってくる。キシリアはもちろん紙上のデータや型番を知ってはいるのだろうが、具体的な戦闘場面は知らず、だからMSを見ても皆一緒の兵器にしか見えないのだろう。

 キシリアもそのことは自覚している。分からないものは分からない。そのためマ・クベの表情を見ても不快には思わなかったようだ。

 

 しかしここでマ・クベははたと気が付いた。

 キシリアがなぜそんなことを言うのか。それは先のア・バオア・クーの戦いを見ているからだ。その時はさすがにキシリアも最前線にいて戦いを見ている。

 

 マ・クベが思い返すと、その戦いで各MSの運用は決して適切ではなかった。

 いや、基本を忘れたデタラメといっていい。

 リック・ドムはジャイアント・バズをつるべ打ちに撃ったが、何の役にも立っていない。連邦のMSはそれに当たるほど鈍くなく、ほとんど無駄だった。おまけに連邦は艦とMSを分けて運用していたのだが、ドムがMS相手の弾幕運用など間抜けでしかない。ドムが威力を持つのは、艦相手に強襲をかけ、致命的な一撃を与えるスタイルで運用してこそなのに。

 逆にザクなどが艦へ向かっても、防御が弱すぎて防空網にかかって撃ち墜とされてしまう。

 

 ジオンがそれでも戦いになっていたのは、連邦MSが油断してドムと接近戦になってしまうことも少なからずあったのと、ゲルググの高性能を活かせる場合のためである。

 つまりア・バオア・クーでは各MSの持ち味を活かせない酷い総力戦だった。とにかく出ていって戦うというだけだ。

 

 運が良かったのは、連邦がジオン以上に酷かったからに過ぎない。連邦もマゼランを後方にして主砲を撃ちかけて支援に撤し、空母を隠して運用し、強襲揚陸艇を快速で突入させれば良かったのだ。しかしソーラ・レイのために混乱し、編成が乱れたまま戦闘になった。

 

 

 今、マ・クベに閃くものは多々ある。

 

「ありがとうございます! キシリア閣下。国力の乏しいジオン、せめて知恵で上回らせねば戦いになりません」

「そうか、では私も役に立ったと思っていいのだろうか。まさか兵器開発で私が…… 素直に嬉しいな」

 

 キシリアに謝意を述べて、急いでその場を後にしていく。

 後は一刻でも早く報告書を作らなくてはならない。

 

 

「となると、新兵とドム系の組み合わせで対艦攻撃を主にさせるよう徹底だ。これからますます学徒兵が増え、嫌でも適性の低い者まで投入せざるを得なくなる。そもそも練習量さえ充分に取れず、錬度も低いだろう。それらには防御の高いドムで一撃離脱、これしかない。対艦攻撃に限っていえばジャイアント・バズも充分に有効で、ビーム兵器無しでも構わない。また推力が高いことは積載量の多さにストレートに反映する」

 

「次に一般機としては、バランスが良く整備性も高いガルバルディで決まりだ。整備性が高ければ、当然稼働率を高く保てて理想的だ。性能面でもビーム兵器を使え、機動性もゲルググ並みかそれ以上、連邦のMSにまだまだ対抗できるだろう。操作性もまあ問題になるレベルではない。それと主力生産ラインをガルバルディに一本化できるのは大きい。そうなれば大幅に生産性が上がる」

 

「どうしてもドムから転換できず、しかも接近戦が得意な者には試作ドワスだな。接近戦だけならドムより関節可動域が広く、ガルバルディよりパワーもあって押しきれる」

 

「逆にエースパイロットならば操作性が多少過敏でも大丈夫だろう。現時点の最高性能機アクト・ザクが使えるのなら使ってもらう。試作機用ラインを使ってそのまま生産を続行だ。あるいはパイロットの好みにより、アクト・ザクではなくゲルググを高機動型へ改修して使うこともありえる」

 

「それと逆にリック・ドムIIは不採用に決定する。ドム・フュンフも不採用、設計段階のドルメルも凍結としよう。ドム系を少しばかり改良してやっと今の連邦MSに追いつく程度の性能ならば意味が無い。この先必ず不安が残る。ケンプファーも可搬性に優れるという面白いコンセプトだが、防御力が低いのはどうしても気になる。私もカスペン准将に感化されたようだ。人命を最重視すれば防御の弱いMSなど使わせられない」

 

「それとモビルアーマーもポッド系は全面中止だ。ビグザムは検討余地もあるが、優先順位は高くない」

 

「問題があるとすれば、ツィマッド系のMSがほぼ全てになってしまう。ジオニック社のリソースも有効活用したいものだ。ツィマッドはガルバルディの生産準備に全力としても、ジオニックには連邦技術の解析と、未来型MSの研究をやってもらおう。連邦の技術を素早く盗み、活かさなくてはこの先の開発競争には勝てない」

 

 マ・クベは次々と答えを出した。

 もはやここまでくればマ・クベのイメージというより勘に近い。どうせ今模擬戦をしてもパイロットや戦い方によって結果は千差万別になり、あまり参考にならない。

 ここはジオンの勝利を願うマ・クベの勘が、未来を拓くのか。

 

 最終報告書はガルバルディを選定し、移行を速やかに行うよう強調して締めくくる。

 ジオンの次の主力MSはガルバルディ、それはゲルググよりやや細身で高機動である。しかも直線加速が良い。やはり素材の改良で強度と軽量化を同時に達成しているからだ。これならばパイロットの技量次第で一撃離脱も格闘戦も両方こなせる。

 だが実戦投入は早くて一ヵ月後、そこまで待たなくてはならない。

 

 

 

 その前にジオン戦略は始動している。

 シャアのア・バオ・クー補給線寸断作戦も重要だが、戦略の根幹をなすのは連邦への重水素とヘリウムの供給を断ち、エネルギー面から干上がらせることだ。

 

 最初はあくまで偶然を装い連邦のヘリウム輸送艦を叩く。

 大々的にではなく、いかにもジオンの戦力が枯渇してゲリラ戦しかできなくなったように装いながら行う。いずれ連邦もジオンの意図を悟る時がくるだろうが、それが遅ければ遅いほどいい。

 悟られてしまったらその時点から本格的に輸送船を叩きまくる。おそらく輸送途中ではなく木星船団からヘリウムの受け渡しを終えた直後を襲うようになるだろうが、それはまだ先のことだ。

 

 初期の作戦はデラーズが担当した。

 

「よし、我らも出番だ! ここで他の艦隊にばかり活躍させておくわけにいかない。埋没してはいかんのだ。ギレン総帥の志を受け継ぐ我らこそ、正統なるジオンである。それがジオンに栄光をもたらすと自他共に認められねばならん」

 

 デラーズ自身が指揮を執り、チべやムサイら五隻で出撃する。こういう襲撃戦にグワデンまで動員せず、茨の園に留めておく。

 代わりにMSでは精鋭部隊を使う。

 デラーズが認めた一人のパイロットへ先に訓示する。

 それはデラーズと似て、いかにも古いタイプの軍人気質の者だった。見た目も中身も堂々たる武人だ。

 

「あのキシリア、いやキシリア閣下にはシャアを始めとしてジョニー・ライデンなど多くのエースが付いている。わざわざ集めたのだから当然だ。ドズル閣下にもシン・マツナガが控えている。配下のコンスコン中将にさえアナベル・ガトーという者がいる。残念なことにギレン閣下は多数を操る戦術を重視していたため、あまりエースにこだわることはなかった。しかし、今は我が陣営にもエースが必要なのだ」

「それはいったい、何のために」

「我が陣営の存在感を増すため、注目すべき何かが必要だからだ。ジオンを奮い立たせる象徴がいるのだ。それができる技量があると踏んだので作戦を任せる。頼んだぞ、ラカン・ダカラン」

 

 

 


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