コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第四十一話 勇将健在

 

 

 デラーズは出撃し、この辺りのはずと見込んだ宙域に索敵をかける。戦争前のヘリウム輸送航路などを手掛かりにして発見の可能性を高めている。敢えて変えたのでなければいるはずだ。

 果たして連邦の輸送船団が見つかった!

 目的のヘリウム輸送船だったらよし、もし違ってもそれはそれでいい。ヘリウムばかり襲われたらそれこそ連邦も怪しみ、目的を悟るかもしれない。それは大局的に非常にまずいことだ。

 

 発見したのはコロンブス級輸送艦などの軍用輸送艦ではなかった。

 大きさはかなりある。まず間違いなくヘリウムを輸送するタンカータイプだ。それが十隻ほどの船団を組んでいる。連邦も軍用物資ではないので油断しているのか護衛はごくわずかしかいない。

 そこに襲い掛かる。MSを出すまでもなく、船団も護衛駆逐艦も砲撃で片付けた。

 

 

 初回とその次もこれで済んだが、三度目はこうもいかなかった。

 遭遇した相手は輸送船団ではなく部隊移動中の立派な一個中隊だったのだ。

 こちらは五隻だが、相手は八隻の艦隊、素直に逃げるという選択肢がある。

 しかし、デラーズはここで勝負を挑む!

 マイクを取り、全艦隊に指令を下す。

 

「退くことはない! 命令を伝える。各艦、距離を取って凹型陣を取れ! 敵は必ずこちらの弱いと見た部分を集中して破りにかかるはずだ。その進路を読み切った段階でMSを使って叩くぞ!」

 

 連邦艦隊は読み通り、デラーズ側に合わせて更に広く展開させることはなく、むしろコンパクトに収束させてきた。

 序盤の砲撃戦の後、やはりこちらの左翼のみを狙って突進してくる。

 連邦艦隊にとっては当然の戦法だろう。散開に付き合わず数の優位を活かした各個撃破をかければ、どの場面でも危なげなく勝てるからだ。

 

「よし、かかったな! 左翼は後退に転じ、他は網を閉じていけ。しかし決して早すぎるなよ。こちらの移動速度を誤認させる。そして油断を誘いながら、MSだけを先行させて一斉攻撃だ」

 

 デラーズは、艦で間に合わない包囲網を演じながら、MSは先に一点に集中させていく。

 連邦側も決して無能ではなく前進速度を上げてきた。それに直掩MSを展開させるのには間に合っていた。

 ここで一斉にMS戦に突入する。

 数はやはり連邦側が少しばかり上回る。

 だが、デラーズ側の隊長機、ラカン・ダカランの圧倒的気迫はその差をあっさりとひっくり返す。

 

 ゲルググを駆りながら、敢えて接近戦に持ち込み斬り伏せていく。ジムの残骸が辺りを漂い、技量を見せつける。

 

「連邦のハエどもめ。失せろ!」

 

 連邦MSに大損害を与えて怯ませると、直ちに対艦攻撃にかかる。たちまち三隻を行動不能に陥らせてしまった。

 

 この時点で連邦艦隊は完全勝利を諦めた。

 MS戦で競り負けたら、長く艦隊戦を行うのは危険に過ぎる。相手が少数だと思っていたら思わぬ精鋭だったようだ。素直に相手が悪かったと認めざるを得ない。

 こんな遭遇戦で勝負する必要はないのだ。

 連邦艦隊は最大加速をかけ、この場を離脱にかかるが、その進路にデラーズの艦の一部を捉えている。つまり行きがけの駄賃に一隻でも二隻でも踏み潰しながら離脱しようという算段なのだ。離脱と同時に、受けた損害を少しでも取り返す、合理的というべきだろう。

 

「逃げるなら完全に後退して逃げればいいものを。相手の司令官は教科書的過ぎて思い切りが悪かったな」

 

 そしてデラーズは思い描いていた通りの勝負に持ち込む。

 

「連邦艦隊の正面にある艦は全速で斜め方向に離脱、他は包囲速度を一気に加速し、横撃にかかれ! 主砲、充填終わり次第連邦の旗艦に向け斉射!」

 

 これで終わりだ。

 初めに旗艦を失い、算を乱した連邦艦隊を、横あるいは後方から砲撃できるという圧倒的優位な態勢で次々仕留めていく。

 戦闘は連邦艦隊全隻撃沈の成果で終了する。ほぼ完勝だ。

 

 

 エギーユ・デラーズ、並の用兵家ではない。

 

 ギレンの信頼した、練達の指揮能力を持っているのだ。

 今もまた切れ味のいい艦隊指揮で艦数に勝る相手を破り去る。

 そして、勝因の大きな部分を占めるのは、各艦が決して怯むことなくデラーズの指示通りに行ったこと、つまり信頼とカリスマである。

「ジオンに兵なし」とは故レビル将軍の言葉であった。

 しかし、ジオンには誇りあるエースもいれば実力ある将もまだまだ残っている。

 

 

 ただし戦いの後、デラーズは受けた損害に眉をひそめることになる。

 

「MSの損害が大きいな…… リック・ドムが六機も撃墜されたのか。報告にあった連邦MSの進化は本物だったか。難しいことだ」

 

 

 

 一方、それと同じ頃、ジオン本国にいる俺は四苦八苦している。艦隊の再編成を進めていたのだが、これが難しい。

 

「コンスコン、約束通りの戦力補充だ! これで全体26隻の艦隊になるな。そして驚け! こいつが俺からのプレゼントだ!」

「ドズル閣下、こ、これは!」

「驚き方が足らんぞ! コンスコン、もっと驚け!」

「驚きました!!」

 

 正直ドズル閣下からのプレゼントという言い方が気持ち悪い。

 だがこのプレゼントには嬉しさがこみ上げる!

 

「閣下この艦は、ティベ級! 新造艦ではありませんか!」

「そうだ。今のジオンはMSに力を注ぎ、艦を作る能力はあまりない。あってもお前が言う通りザンジバル級が主だ。そんな中で作った貴重な艦だぞ。ほれほれ、こいつを旗艦に使ってみろ。グワジン級のような豪華設備はないが、砲撃力はかなりのものになっているはずだ」

 

 俺はグワジン級が数少なく、しかも新造する余裕などあるわけないのを知っている。このティベで充分にありがたいと思う。

 

「本当にもったいないことです。存分な働き、お約束いたします!」

「うむ。そうしてくれ。実はゼナがお前の活躍を聞いて、褒美をやれとうるさいのでな。ティベが良かろうと思ったのだ」

 

 そこかよ!

 またそんな家族内の理由!?

 でもまあいい。この艦でこれまで以上に活躍するぞ!

 

 

 次に俺は増えた艦を併せて再編しようとしたのだが、ここで気付く。コンスコン機動部隊は俺の昇進と共に艦が急に増えていったため、任せられる分艦隊司令がいないのだ。

 本当なら旅団あるいは師団といっていい規模なのだ。分艦隊を駆使すべきところである。

 でもそれを言っても仕方がない。ドズル閣下のところも、キシリア閣下のところも、本当に将が足らない。一方で新兵ばかりが増えている。これではよほどうまく編成しないと艦隊行動が上手くいかない。

 おまけにMSパイロットでも新兵が増えている。あの髪の変な女はいないようだ。そこはほっとしたが、皆15,16歳くらいの幼い若者だ。

 

 俺は再編し、MS隊をいくつか新設しようと思い立つ。

 ティベやチべの一隻に載せられるMS機体数を基本として、幾つかの隊を作るのだ。

 

 

 俺がそんなことを考えていると、なぜかツェーンやクスコ・アルが度々視界に入ってくる。

 あれ? 何だろう?

 MSのことを考えていたから目に付いたということではなく、明らかに目に入る機会が増えている。艦橋周辺でも、通路でもそうだ。

 俺の周りをチョロチョロしているといって過言ではない。

 いったいどうして?

 

 ここで俺はようやく気付いた。

 別に俺自体がどうとかではない。

 おそらくだが、ツェーンやクスコ・アルはアナベル・ガトーの持つことになる新しいMS隊の副隊長を狙っているのだ。

 分かり易いといえば分かり易い努力である。

 

「最強のMSに守られるモビルアーマー、これで打撃力は万全! これ以上の相乗効果は無いわ」

 

 そんなことをクスコ・アルが大きめの呟きにして周囲に流している。もちろん俺に聞こえるように。

 そうかと思えば、今度はツェーンが意気込んで報告してくる。

 

「副隊長カヤハワが隊に復帰しました! もう気合充分、そのまま隊長を代わりにできるほどです!」

 

 

 ああ、面倒なことになった!

 ガトーの副隊長を巡ってこんなことに。

 だがしかし、この問題はいきなり解決することになる。何と、新しく補充された兵の中に、ガトーが哨戒艦隊を転々としていた頃の旧知の部下がいたのだ。

 その名をカリウス・オットー、これもまたガトーと似て生真面目な感じのパイロットだ。

 

「…… お久しぶりです。大尉、いえ少佐」

「…… 確かに久しぶりだ。カリウス」

 

 

 交わした言葉は驚くほど少ない。しかしこの中に思いは充分に込められている。それが漢同士というものだ。

 もうこれは、自動的に同じ隊にするしかないではないか。

 

 俺の旗艦ティべにはガトーのMS隊を置く。これが最大機動戦力になる。

 副隊長にカリウス・オットー、そしてツェーンのドム隊からアインスなどを異動させた。従順なアインスならば適任だ。そこへ補充兵の中でも、ある程度腕が立つと見込んだ者を加える。総勢16機になる隊だ。

 別のチべにはシャリア・ブルのMS隊を編成している。そこには補充の中でも新兵を中心とし、学徒兵も多数混ざっている。総勢14機だ。渋く温厚なシャリア・ブルは学徒兵を育てるには適任だろう。副隊長としてツェーンの下からフィーナを異動させた。気が強いフィーナが隊を引き締めてくれるだろう。

 また一つのチべにはツェーン、カヤハワの気心が知れた組み合わせをそのまま置く。補充兵を加え、これも14機のMS隊とした。

 最後にクスコ・アルのエルメスとその護衛のためのMS8機で一隊を形作る。

 

 これで四つの隊が出来上がる。

 

 

 我ながら非常に順当な編成をしたつもりだ。

 ちなみにア・バオア・クーの戦いの後、ガトーは少佐に昇進している。ツェーンは大尉だ。クスコ・アルは非常に難しいところだが、隊を率いる関係上正式に中尉とした。

 

 この人事に納得している者もいれば、納得していない者もいる。

 

「ちょっと納得できない! なぜあの女だけが!」

「同じ艦に、どうしてあの女が残るのよ!!」

 

 ツェーンとクスコ・アルが異句同音に叫んだ。

 

 それはセシリア・アイリーンだけがガトーと同じ旗艦ティベに残ったからだ。

 お互い、シーマ・ガラハウのように正式に宣戦布告したわけではないが、女の勘でコイツは敵だと認識しているのだろう。

 

 しかしながらセシリアは後方統括として旗艦に置くべきなのは当たり前だ。 

 

 

 


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