コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第四十三話 連邦の将

 

 

 もちろんそこに至るまで連邦内でも盛んに意見が出ている。

 シャアとデラーズの活躍は嫌でも連邦を苛立たせていたからだ。

 宇宙はあまりに広く、物量のある連邦軍といえど護衛を完全に付けることは無理である。練達の指揮官によるゲリラ戦を阻止するのは最初からできない。

 

「向こうがゲリラ戦なら、こちらもゲリラ戦だ! サイド3を孤立させ白旗を上げさせる」

「馬鹿なのか。数の優位を持つ我らがなぜそれに付きあってやる必要がある。正面からとっとと粉砕して戦争を終わらせてやれ」

「向こうにはコロニー・レーザーがあることを忘れるな。勝てるとはいえ、一定の損害は出る。防ぐすべは無いのだからな」

「そんなことを恐れてはならん。サイド3のコロニーに一隊が取り付けば勝ちだ」

「その後はどうする。ジオン首脳部が仮に降伏してこなければ戦略的方策しかない。すなわちコロニー住民の虐殺だ。それを誰の指示でやったのか、歴史にそんな名前を刻みたいか?」

 

 しかし、議論は結局タカ派の意見に集約された。

 ア・バオア・クーの完全前進基地化を待たず、現有戦力を集めてジオン本国を突く。

 

 

 

 再びア・バオア・クー周辺宙域に連邦艦隊が集結し、ひしめきあう。連邦の生産力がどれほどの底力を持つかを端的に表している。地球連邦は相変わらず新造艦に新造MSを乗せ、次々と宇宙に打ち出す。また月のフォン・ブラウンにも工廠があり、生産ラインがいくつも存在する。

 艦艇はこのア・バオア・クー宙域に集まり、最後の調整を行う。

 

「見ろ、これだけの戦力だ。ジオンのカスなど一掃してやる。宇宙においても地球連邦こそ絶対正義であることを示してやるのだ。今無条件降伏をしてこないアホウどもは後悔しながら宇宙の塵に変わるがいい。その恐怖の記憶により、続く者など決して現れることはない」

 

 そう言うのは連邦軍作戦総司令官ジーン・コリニー中将である。

 

 その自信の根拠はむろん、総艦艇数およそ二百二十隻の威容を誇るこの大艦隊だ。先のア・バオア・クー攻防戦に参加した艦艇数はまとめると二百八十隻だったが、その半数近くが撃沈または離脱を余儀なくされたのにもかかわらず、連邦の力はここまでの回復を可能としている。

 

「この一年戦争の終幕にふさわしい華麗な戦いにするのだ。ベーダー、ハイマン、期待している」

「閣下、最初から力を見せつければ造作もなかったものを。これまでの慎重策など臆病者の言い訳でしたな」

 

 こう返したのはダグラス・ベーダー中将だ。

 故レビル将軍の子飼いの将であり、ア・バオア・クーの戦いでレビル将軍の弔い合戦とばかりに勇猛な戦いを見せつけた。

 ジーン・コリニーも元は同じくレビル麾下である。その意味ではダグラス・ベーダーと同格なのだが、地球連邦軍首脳部は作戦の総司令官をジーン・コリニーに指名した。

 建前上はジーン・コリニーの方が先任中将であり、格上なので順当だということにしてある。陰にはゴップ大将の意向があるとの噂だが、当のダグラス・ベーダー本人は人事など気にしていない。ジオン相手に戦えれば何でもいいという生粋の猛将だったからである。

 

 ここに連邦軍でも最もタカ派と目される将が集った。

 本来ならこれほどの大作戦に中将が作戦総指揮を執ることはないのだが、ジャブローのゴップ大将は背広組であり実戦には出ることは決してない。また、地球表面でジオン残兵の掃討を続けている将達が勝手の違う宇宙に上がることもなかった。

 

 だが、コリニーらの他にも宇宙での戦いを主とする連邦の中将クラスがいないことはなく、いや二人もいる。

 ダグラス・ベーダーがここで暗に臆病者と指したのは、そんな中将たちのことだ。

 

 一人はジョン・コーウェン中将といい、連邦軍でも以前から慎重論を唱えていた。

 連邦内では肩身が狭い立場だが、それでも同意する将校らと小さいながらも派閥を形成している。今はグラナダ占領軍の司令としてそのまま留まっていた。

 ジーン・コリニーらも作戦のためにわざわざ呼ぶなど考えてもいない。あくまでジオンに止めを刺す功績は自分たちのものだと思っているのだ。

 

 もう一人はグリーン・ワイアット中将だ。

 スペースノイドに対し主戦論を唱えるという一点においては似ているといえるが、ジーン・コリニーらの直情的な将とはずいぶん距離を置いている。

 ジーン・コリニーからすれば、「何を考えているか分からない」奴である。ダグラス・ベーダーはもっと極端に、自分たちとは気質の違う「悪趣味」「キザな野郎」と言ってはばからない。はっきりと嫌っているのだ。

 今、そのグリーン・ワイアットはルナツー駐留軍を預かっている。

 

 ここで気勢を上げるジーン・コリニーとダグラス・ベーダーを横目に、ジャミトフ・ハイマン大佐が控えている。

 ジーン・コリニーの懐刀として重宝されている参謀格だ。あまり地球から離れることはなかったがこの一大作戦のために呼ばれていた。普段は後方の物資や補給に携わる実務家として有能であり、ここで必要とされる。

 物資調達もこの場合重要になるのだ。本当ならア・バオア・クーに作戦用の物資が集積されているはずが、それどころか駐留要員の食い扶持にすら汲々としている有様である。ジオンのゲリラ戦のゆえだ。

 むろん、艦隊集結時に各隊は目いっぱい輸送艦を連れてきているが、平均すれば一週間分の物資しかない。うまく調整と配分を行いつつその間に決戦を仕掛ける必要がある。

 

 

 

 一方、そのグリーン・ワイアットは常に定時の紅茶を欠かさない。将官になってからはこの習慣を守ってきた。今もまた紅茶と一かけらのスコーンを楽しんでいる。ここは地球と遠く離れたルナツーの司令官室なのに。

 

「インド洋方面にジオンが来なかったのは幸いだな。向こうのラサ基地を叩き、ヒマラヤを越えさせずに食い止められたのが良かった。おかげで紅茶の産地だけは無事だ。私の好きなディンブラやヌワラエリヤが未だに楽しめる」

 

 今もティーカップの端を軽く弾く。かすかに澄んだ音が響く。

 

「閣下、紅茶の銘柄を楽しんでいる場合ではないかと。あのジーン・コリニーらは閣下抜きでジオンを陥としてしまいますぞ」

「慌てなくていい。君も紅茶をゆっくり飲んだらどうかな。ステファン・ヘボン君」

「で、ですが閣下!」

 

 紅茶紳士と呼ばれるグリーン・ワイアット中将、そして直属のステファン・ヘボン少将が会話を続ける。

 

「連邦が負け、ジオンが勝てば良し。せいぜい連邦の敗軍を収容してやり、あのジーン・コリニーに恩を売りつけてやればよい。泣きっ面を見てみたいものだ。向こうが意地にこだわり、こっちに応援を要請しなかったことも好材料になる」

「しかしその可能性は低いかと。分析では連邦とジオンの戦力比は少なくとも二倍、あるいはそれ以上になると想定されます。よほどのことがない限り連邦艦隊はジオンの艦隊などあっという間に蹴散らすでしょう。そのままサイド3に雪崩れ込めばすぐにでも決着が」

 

「ジーン・コリニーらが勝つなら勝つでそれもまた良し。ステファン・ヘボン君、どのみちそのまま治まるはずはないよ。スペースノイドどもは一筋縄ではいかんだろう。強硬策一辺倒では抑え込めず、ジーン・コリニーなどにうまい火消しができるとも思えんな。あるいはそのゴタゴタも含めて丸ごとゴップ閣下の目的かもしれん。戦争が終わり、平時になれば切り捨てるのも惜しくない人材と見られたのか。同情するわけではないが、哀れだとは思う。軍人も生き残りたければ政治感覚を持つべきなのだよ」

 

「では向こうに勝手に戦わせ、閣下は静観なさるので……」

「今はそれが最良だろう。打つ手が無いのに無理をすることはない。あのアサクラ大佐を逃したのは大きかったな。せっかく焚きつけて叛乱まで持っていったものを。あと一時間で迎えの艦隊が収容したはずだったのに、惜しいことをした。もし手に入れていれば情報を引き出し、それを功績にできたのだが」

「あそこまで下工作をやっておきながら残念です。せめてダルシア首相とのチャンネルは維持しませんと」

「そうだ。頭越しにコーウェンあたりとダルシア首相が結びつくのは阻止しなければな。連邦とジオンがあんまり仲良くなられても困る。我らの存在意義のため、適当に勝つくらいがいいのだ。ゴップ閣下もおそらく同じ考えだろう。ま、最終的にはジオンなど潰してやるが、急ぐことはない」

 

 グリーン・ワイアット、単純な軍人ではない。

 先のアサクラ大佐の叛乱を裏で糸を引いていたのだ。

 アサクラ大佐が甘い夢を見るように、さりげなく良いことばかり耳に入るようにしていた。その反面確約は何もしていない。

 結果的にアサクラ大佐本人は自分の握っているソーラ・レイの情報ばかり重要視し、連邦が歓迎してくれると勝手に思い込んでいたが、調べればコロニー虐殺への関与などの暗部が分かるだろう。そんな者を連邦が保護などするだろうか。逆に加担していると見られるリスクを負うことになる。グリーン・ワイアットがそんなうかつなことをするはずはなかった。

 

 連邦の生産力からすればどのみちジオンの戦力など問題にならないとは考えている。食卓に紅茶をこぼしたようなもので、拭きとれば終わる。その程度のことだ。

 この点でグリーン・ワイアットとジーン・コリニーの考えは同じだが、戦後のスペースノイドの利用の仕方、ひいては連邦内での力関係まで考えている点が違う。

 

 

 


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