コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第四十四話 会戦前夜

 

 

 更に違う場所、グラナダではジョン・コーウェン中将が宙を睨んで呟いている。

 その目に見えるのは、復興が進んだグラナダ基地のまばゆい光とどこまでも漆黒の宇宙の鮮やかなコントラストだ。

 

「あの馬鹿どもが…… 戦えばいいというものではない。これからも地球から宇宙への移民は続く以上、アースノイドとスペースノイドの区別など意味がない。元は同じ地球発祥の人間、そこへ対立を持ち込んでどうする。無用な確執は人類全体が弱るだけだ。連邦も落としどころを見つけない、いや見つけようともしていないとはな。ジオンという過激勢力は倒さねばならないにせよ、必要最小限の犠牲にすべきだ。人類がようやく国という枠組みから離れて誕生した連邦、そこからサイド3が分離して独立国家になるのは認められないが、自治公国くらい認めてもいいではないか。それくらいなら分離主義が地球に飛び火することはない。あとは連邦軍が絶対的抑止力として働き、二度と悲劇が起きないようにすればよいのだ」

 

 ジョン・コーウェンは人類の発展を見据えながら、これからを考える。

 内部にいろいろゴタゴタはありつつも、人類がようやく手に入れた単一国家、すなわち地球連邦の価値を信じ、その枠組みを信奉する軍人である。ただし、視点は先を見ている。

 

「サイド3の住民にとってもその方がいい。今は戦争中だからまとまっているが、元はザビ家、トト家、ラル家、カーン家といった特権階級が存在するいびつな社会構造ではないか。移民時の階級をそのままひきずってしまっている。ダイクンもそれを直すには至らず、途中で斃された」

 

 そしてジョン・コーウェンは一枚の報告書を手にする。

 ジョン・コーウェンは単純な穏健派ではなく、彼なりの軍事的強化策を考えている。

 その報告書も秘密裏に行っている新兵器開発についてのものだった。

 

「だからこそこの情勢、思想が社会の発展に追いつくのを待ってはいられない。今は力づくで平和を維持する。そのためには強大な連邦軍にならねばならないのだが…… くそ、ガンダム計画は予定通り進められそうにないのか…… あの高性能ガンダムをそのまま量産に持ち込むことができれば良かったのだがな。そうすれば誰も反逆することはできない」

 

 

 報告書の内容は、ジョン・コーウェンのひそかに進めるガンダム量産化、つまりガンダム計画が頓挫した経緯が綴られてあった。技術的な困難さが述べられていたが、その文の裏側に連邦軍でMSの供給を担当しているアナハイム・エレクロトニクス社の都合が透けて見える。

 

 実のところ、アナハイム・エレクトロニクス社にとって高性能MSの開発は必要事項ではない。

 はっきり言うとしたくないのだ。

 なぜなら、多少安価であっても、大量に発注してもらえる方が利益が出るに決まっている。MSをコンスタントに造り、そして順次「消費」をしてもらい、また発注される。そのサイクルを続けて利潤を稼ぎたい。

 もちろん、対戦相手のジオンよりもよほど低性能MSであれば企業の存在意義が問われる。その意味では開発自体をやめるわけにもいかない。

 しかし正直なところ、ジム程度のMSを使って消費してくれれば一番儲かる。その企業の理屈の中に人類社会の行く末や、まして兵士の命などということに対する配慮など存在しない。

 

「ガンダムの試作続行は断る、量産化もしないとはな…… ジオン技術の解析を待ってより良いものを造りたいなど、アナハイム・エレクトロニクスもよくも言葉を飾ってくれたものだ。まあ、下手に連邦軍内で少数派の私と組んでいると見られたくもないのだろう。政治的な配慮というやつか。いや、ひょっとしたら開発費の回収さえ危ぶんでいるかもしれん。ただ働きは嫌がる連中だからな。それで結果的にガンダムの残りは一機だけか……」

 

 ジョン・コーウェンはそう言って悔しがる。ただしスペースノイドの都合を理解しようとする彼をもってしても、ダイクンの語ることを本当の意味では理解はしていない。良心的政治改革者だったという認識に留まっている。今の戦争は社会構造の問題や、民族主義的なもの、あるいは政治闘争の発露がたまたま発展したものと考えているのだ。ダイクンの宇宙移民がもたらす人類の革新はお伽話と思っている。やはりアースノイドとしての認識であり、その点については連邦の他の将と変わりがない。

 ひいてはガンダムの驚異的戦果も機体性能がもたらしたものと考えていたのだ。

 

 

 

 

 連邦軍、動き出す。

 ジオンでもそれは掴んでいる。

 激しく動き始めた連邦の各艦隊の行動、急速に集結しつつある様子、これは正に大作戦の予兆としか考えられない。

 もちろんサイド3、ジオン本国侵攻だろう。

 

「推定される連邦艦隊、艦艇数二百から二百五十隻! ソーラ・レイからの陰になるア・バオア・クー宙域にいったん集結してから侵攻する模様」

 

 そういう報告員からの言葉にドズル閣下も緊張している。

 

「どうだ、コンスコン。やはり連邦はここらで仕掛けるか。奴らにとってすればあと一歩だからな。政治工作や内部崩壊など待たず攻める気だ」

「おとなしくしてくれませんでしたか…… しかしこれを弾き返せばしばらくは動かないはず。いかに連邦でも戦力が無限でない以上」

「それはそうだがコンスコン、こっちはせいぜい百二十隻、無理してかき集めても百四十隻といったところか。艦船の修復はともかく、新兵の訓練が追い付かんのだ」

「数で単純に押しまくられたらこちらの負けでしょう。それに付き合ってやる義理はありませんが」

「こちらはソーラ・レイのために戦術バリエーションがとれるだけマシか。どこでどうこれを使うか、有効に活かせたらまだ勝負になる」

 

「ドズル閣下、そこでなのですが、ソーラ・レイの運用について是非申し述べたいことが」

 

 俺は本来作戦参謀ではない。

 艦隊司令官と参謀とは明確に役割が違う。

 参謀とは豊富な知識と事例を知り、状況を正しく分析するものだ。そしてあらゆる可能性を見落とさず、最善策を考え提示し続けるのが役割だ。司令官はそれとは違い、重大な決断を素早く断固として行う立場である。

 しかし今、ジオンは将が不足し、俺もドズル閣下の相談役になってしまっている。

 

 もちろんそれを予期して既に俺なりの迎撃作戦を考えていたんだ。

 

 今、この段階ではキシリア閣下もデラーズ准将も到着していない。

 そしてドズル閣下は皆を集めて一からの話し合いで作戦を決めようとは考えていない。時間がかかるのと、キシリア閣下とデラーズの仲がまだしっくりきていないのを知っているからだ。骨子となる策を出してから調整しようと思っている。

 

 俺は考えた作戦をドズル閣下に述べた。

 自分でも意外な作戦だと思うが、最善と信じている。

 

「な、何だとコンスコン、そんなことを!」

 

 ドズル閣下も驚くが、速やかに納得する。

 そしてドズル閣下の大いなる美点、決断力が次に示されたのだ。

 

「分かった。それでいこう。キシリアとデラーズにも俺から説明しておく」

「えっ、そんな、皆の意見も」

「それが一番良さそうだ。だったらそうする。それでいいではないか、コンスコン」

 

 

 

 今、ジオンは戦力をかき集め、まとめにかかる。少しでも戦力を充実させておきたい。

 もちろん艦船の数で連邦にかなわないが、MSの数においてはもっと差がつけられている。MSを開発したジオンが連邦の大量生産に圧倒されているのは皮肉だ。

 せめて質では絶対優位を確保したいところだが、マ・クベの手による新型MSの量産はまだまだこれからというもので、ロールアウトしたものはない。

 

「間に合わないか…… 仕方がない。急ぎ現有の試作機を各艦隊に配布しよう。少しでも戦力の足しにするのだ」

 

 マ・クベは各種機体の試作機を説明員も付けず配布に踏み切った。

 それら試作機の送り先もまたマ・クベの勘に近いものだ。

 

 

 そして俺の艦隊にも試作MSが届けられた。

 ちなみに俺の艦隊はもう大隊規模を超えているので機動部隊とは呼ばない。かといって特定の方面軍ということもなく、単にコンスコン機動艦隊と言われている。

 

「コンスコン司令! 正規補給ルートではありませんが、マ・クベ准将から特別に送られてきました。MSの試作機、新型です!」

「そうか! それは嬉しい。では早速使えるかやってみよう。セシリア・アイリーン主計部長、すぐにガトーたちを集めてくれ」

 

 

 


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