セシリアの報告を受け、各パイロットに早速新型MSを試させた。
一応、通信で送られていた資料には目を通し、俺にもある程度の考えはあった。
先ずはギャンの後継だ。
ツェーンとシャリア・ブルのギャンは、これまでの戦いでもう機体は限界に達し、各種の疲労と不具合が重なっている。交換部品も尽き、しまいにはゲルググの部品まで使ってだましだまし延命してきたがここで廃棄にする。
この二人には代わりにガルバルディ試作機に乗ってもらう!
ガルバルディは基本的にギャンと操作系は変わっていない。ビーム兵器使用などのオプション追加のためにやや煩雑になり、また機体性能が上がったことで反応がより鋭くなってはいるが。
「なんとかいけます! 慣れればむしろ使いやすいかも、です」
「大丈夫でしょう、司令。ビーム・ライフルをもう少し確認しておきます」
こう言って二人ともガルバルディ試作機に乗り換えた。なんとかなりそうだ。
それならば、いずれは現有のドム隊もガルバルディ量産型に切り替えることになる。そこで比較的順応性の高そうなカヤハワを選び、テストケースで機種転換を試してもらう。多少時間はかかったが可能だった。
そして我が艦隊のエース、アナベル・ガトーにも試作機を試してもらう。
もちろんガルバルディではなく、ジオン史上最高性能というふれこみのアクト・ザクだ。
ただしとんでもなく扱い難いといういわく付きのMSである。
乗りこなせるパイロットがいるのか、というレベルだそうだ。
ならば俺の艦隊でガトーができなければ誰にも無理だろう。
ガトーは定石通り基本動作から始め、一つ一つ機体の反応を確かめていく。多少の戸惑いはあるが修正していき、順次各種機動バリエーションを試していった。
わずかな時間でどんどん進み、やがて限界機動まで至った。
結局、ガトーは乗り始めてわずか三時間で苦も無く操るようになったではないか!
それだけではない。
機体の各所にかけられたリミッターまで外していったのだ。
「おおっ、やはりエースパイロットは違う! 凄いもんだ。しかしガトーも意外と新しいもの好きなんだな」
俺の驚嘆の声を聞き、側にいたツェーンが「新しもの好き…… つまり若い方が有利……」などと呟いていたのは聞かなかったことにしよう。
いったん使いこなすとさすがに高性能機アクト・ザク、格段に動きがいいのが傍目にも分かるほどだ。もちろん今までのゲルググでもガトーなら動きにはっきりと他とは違う切れがあったが、それ以上の動きにほれぼれする。
他にもアクト・ザクを使えるパイロットがいないのか試すがそうそういるわけはない。
嬉しい誤算でもう一人だけ副隊長カリウス・オットーも乗りこなす技量があった。カリウスは器用でありアクト・ザクもガルバルディも扱えるが、いったんアクト・ザクを与え補修パーツが減って来ればガルバルディに変更することとした。ガトーのアクト・ザクを優先にする方針である。
ひとまずこれでコンスコン機動艦隊はガルバルディ三機、アクト・ザク二機を保有することになる。
そして当座利用予定のない余った試作MSはマ・クベ准将に即刻返す。
それを命じるとセシリアに動揺が走った。人の好いセシリアでもせっかく手に入れた試作MSを手放すとは予想外だったのだろう。
「は? コンスコン司令、何と仰いました!? 試作MSの返却、でしょうか」
「そうだ。この艦隊で当面必要な分は賄った。他の艦隊で必要としているところがあるだろう。残りは最大限有効活用してもらおう」
「し、しかしどこの艦隊でも余剰があれば抱え込んで出したりしないような……」
「主計部長、敢えてそこで返すんだ。この艦隊はジオン全体のことを考える規範とならねばならん。皆が皆、自分のところばかり考えて小狡いことをしていては、全体がおかしくなる」
正道である。
この言動により、俺は若干の尊敬を受けることになる。
分かってはいたことだが、話を伝え聞いたガトーが一番感動してくれたらしい。ガトーは今さらだが、他はいないのか……
MSの機種転換について、他の部隊の様子も漏れ聞こえてきた。
シャアはアクト・ザクに乗り換えなかったとのことだ。「今のゲルググに不便はなく、変える必要がない」といういかにもシャアらしい、実にあっさりした理由だ。
シャアにとってMSは便利な道具にしか過ぎず、あくまで自分に合えばいいだけなのだ。
すると逆にアクト・ザクに乗りたがった者が存在した。
キシリア閣下のキマイラ隊、ジョニー・ライデンだ。
「俺は真紅の稲妻だ! この俺が赤い彗星と間違えられるのは前々から不本意だった。しかし今、向こうがゲルググのままなら、敢えてこっちが機体を変えてやるぞ。形の違うアクト・ザクなら誰からも間違えられることはない!」
何とも自分勝手な理由で機種転換する。
だが結果的に苦労しながらもなんとかアクト・ザクを乗りこなすまでに至ったそうである。意地とは凄い。
それから他にアクト・ザクに乗れる者がピンポイント的にカスペン准将のところに一人、そしてデラーズ准将のところに一人いるらしい。
戦機熟す。
連邦艦隊は堂々の移動を開始した。
当然それに先立ち、連邦の艦隊司令部だって作戦を定めている。
連邦は最終的に240隻に及ぶ大艦隊を擁するとはいえ、ただ前進して攻めるということをするはずがない。各部隊が上手く機能し、最大限効率よく勝てるようきちんとした作戦を立てる。
ジーン・コリニーもダグラス・ベーダーも油断はしない。
また作戦を立て実行する能力があるからその地位に到達したのだ。
初めにジーン・コリニーが大まかなところを言う。
「さて、敵ジオンの最後の抵抗を粉砕し、サイド3を突くこの作戦は『星二号作戦』と名付ける。その戦術を定めよう。敵の残存兵力は少ないとはいえ、だからこそ足をすくわれてはならんのだ。後が無い連中は何をするか分からん」
「閣下、通常なら大軍であることをストレートに活かすところですな。編成もオーソドックスに前衛・中央本隊・右翼左翼・予備兵力を配置し、そのまま圧し潰すのが常道。しかし、ここでコロニー・レーザーという不確定要素は無視できず、その対処を考えるとなると……」
「それだけが厄介だ。といっても取れる作戦は限られているだろう。難しい選択肢ではない。コロニー・レーザーの射線からひたすら逃げながら、サイド3の裏側まで大きく迂回して攻める、それも一つの方法」
「言うまでもないですが、それは戦術の選択肢を狭め、なおかつ補給面で制約が出るかと」
「確かにそうだ。艦隊行動を激しく行えば、大軍であるだけに補給物資は三日と持たず、それだけで撤退させられる羽目になる。それもまたリスクだ。ではもう一つの方策しかない」
「それは陽動、でしょうな」
ジーン・コリニーらは愚将でも無能でもない。
ここできちんと理屈の通った戦術を組み立てる。
それはジオンの切り札とも言えるコロニー・レーザー自体と戦うことなく、丸ごと無力化する恐るべき作戦だった。
「全体兵力の一割を先行させ、ジオン側のコロニー・レーザーを惑わす。おそらく巨大レーザーといってもその発射は会戦中一度だけのことだろう。向こうとしてはコロニー・レーザーを無駄撃ちをすればそれで終い、使うタイミングに迷うに決まっている」
「そこが勝負ですな。当然陽動の方を先走って撃ってしまうか、あくまでこちらの本隊を待って撃つか迷いが出るでしょう。それに頼っているだけに」
「そしてこちらは頃合いを見て本隊を急進させ、間髪を容れずにジオンの兵力とぶつける。そのまま適度にあしらいながらサイド3に雪崩れ込んでやる」
「向こうの兵力を避けず敢えて戦いながら、しかし過度に掃討もしない。つまり敵味方を混合した状況を作る。そうすればコロニー・レーザーそのものを使えない状況に持ち込める、と」
「いわゆる並行追撃だ。こちらの兵力が大幅に勝るのでそれができる。コロニー・レーザーを確実に使わせないためにはそれが一番だ。しかし万が一敵が血迷い、味方ごと撃ってくるかもしれん。念のため俺とは離れた位置にいてくれ、ベーダー」
大兵力をダイナミックに活かす。そしてコロニー・レーザーが一度きりしか使えないことを見透かして動く。
俺のジオン側も布陣を開始する。
ア・バオア・クーからかなり思い切った本国寄りのところだ。
ここを突破されれば、本国へわずか4時間で到達されるという距離である。それはギリギリまで連邦に補給線を伸ばさせるという意味がある。
その中央本隊はドズル閣下と俺の艦隊を併せて七十隻だ。そこにドロスなどの三空母も含まれている。
右翼はデラーズ准将の二十隻余り、左翼はキシリア閣下の五十隻、それぞれ出し惜しみせずグワジン級戦艦を投入している。だがしかし、小型の駆逐艦を多く含んでやっとこの数字であり、内容的にも戦力不足は否めない。
大まかにこの三つの隊が横陣を形成している。細かい前衛などの区別はない。
それらから少しばかり離れ、コロニー・レーザー直近にはカスペン准将が布陣している。ヨーツンヘイムとカスペン戦闘大隊を直掩に置いて守り、コロニー・レーザー自体はようやく修復したギドルで操作する形になる。
そしてエネルギーの充填は一度の発射に充分なところまで蓄える。
ジオン側は本国や茨の園に最小限の兵力を残している以外、ほぼ総力を展開しているのだ。
連邦艦隊はゆっくりとサイド3周辺宙域に侵攻してくる。
コロニー・レーザーを警戒し、やや散開した形だ。
そこから二十隻余りの艦隊が先んじて急進をかけてきた。前衛にしては本体と離れすぎ、遊撃というタイミングでもない。
明らかに陽動だ。
連邦のその陽動部隊はやや迂回しながら、ジオン左翼に取り付く動きを見せる。
本国会戦と呼ばれる戦いの幕は切って落とされた。
ジオン側は当初固く陣を守って動かない。
互いに射程外から威嚇を撃ちかけるが、どちらにも実害は出ない。業を煮やして連邦の陽動部隊は射程ギリギリまで近づくが、それでもジオン側の突出を誘えない。
「何だ、ジオンは予想より消極的だな。あの数の陽動にも食いつかないとは。ひょっとすると守りを固めるのに徹すると決めているのか……劣勢を自覚して。後がないのは事実だからな。ならば、陽動部隊をコロニー・レーザーへ向かわせろ。そうすればいくらなんでも無視はできまい」
ジーン・コリニーは多少当てが外れた。
もっとジオン側は慌てると見込んでいたのに。
しかし直ちに思考を切り替え、陽動部隊に対しコロニー・レーザーそのものへの攻撃を掛けるように指示した。これにはたまらずジオンも何かの対処をするだろう。
だがそれでもジオンは動かない!
いや、わずかな変化がある。それは攻勢に出るものではなく、全体を薄い壁のような陣形に変えるものだった。
ここから戦いは戦史に残るものとなる。