コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第四十六話 狙う先

 

 

 連邦の陽動部隊の接近にもかかわらず、コロニー・レーザーはずっと沈黙を続けている。

 

「なぜだ? このままでは陽動部隊にコロニー・レーザーを発射できないうちに占拠される可能性すらあるのに」

 

 ジオン側の意図を掴みかねたが、やがてジーン・コリニーは相手の陣形が変化していく様子に気付いた。その横陣が徐々に広がり、ぴっちりした薄い壁のようになるのだが、艦が少数のためそうすればするほど陣の厚み自体は薄くなる。

 

「何だ、やはり敵は積極策を取らず、ここを突破させないことばかり考えているようだ。普通なら兵力の多いこちらに包囲陣を敷かせ、その上で自分は密集陣をとり、隙を探して食い破る方を選ぶだろうに。少数が勝ちたいなら兵力を集中して局所的に優位にしなければダメだ。そんな兵法の基本すら向こうは忘れてしまったのか。まあ、恐らくサイド3が近いので、ジリ貧と分かっていながらも、どうしても守りの戦術しか選択できないのだろう。気の毒だがこちらは嫌でも勝てるというものだ」

 

 ジーン・コリニーは思いのほか楽勝になりそうな気配に安堵する。唯一の勝機を敵は自分から投げ捨てたように思えたのだ。戦力差以前に、向こうが防衛に徹するなら少なくとも負けはない。

 

「よし、一気にいくぞ! 各隊急進し、あの薄い壁に取り付け! 敵は守りばかりで攻勢には出てこない」

 

 その言葉通りに連邦各隊は何の妨害も受けずに進み、壁の正面まで進んで交戦を開始する。ひょっとしたらと考えていた、ジオンが陣形を急速に変えて突撃を図る可能性も杞憂に終わった。伏兵もない。コロニー・レーザーも相変わらず沈黙を続けている。

 ここまでくれば、兵力は連邦が圧倒的に上なのだ。序盤は消耗戦になるとしてもどのみち壁は破れる。そうすれば最後までコロニー・レーザーを使わせずに済む混戦が作り出せるだろう。正にジーン・コリニーの思う壺だ。

 

 ジオンの壁は思ったよりは厄介だった。

 艦を並べて統率の取れた弾幕を張ってくる。それだけではなく、艦の横に守られるように配置されたポッドの群れが弾幕をいっそう濃くしている。接近戦に対して何もできない脆弱なポッド、砲のついた棺桶と言われたものだが、火力自体は決して弱くない。弾幕運用に徹すればそれなりの力を発揮するのだ。

 そのため、連邦のMS隊も思うように飛び込めないでいる。

 

 おまけに、強引に突破を図った連邦MSがいても、そこへ強力かつ正確な艦砲が飛んでくるではないか。それはジオン側のただ一艦が撃っているものだが、超々遠距離で主砲を使う。弾幕ではなく狙って当ててくるとは驚きだ。一撃ごとに連邦MSの一機か二機は墜としていくそれには手がつけられない。

 

「敵も思ったよりはやるな。各隊レベルでの実力は相当なものだ。それに向こうもサイド3の最終防衛、それほど必死だということか。だが無駄だな。単純な砲戦になったところで兵力の差はいずれ重く響き、その粘りも尽きる」

 

 次に、今頃になってようやくジオン側から10艦ほどの隊が飛び出てきた。

 いかにも苦し紛れで出て来たようなそれは、外側を迂回しつつ、連邦艦隊の後ろへ向かおうとしている。

 

「何だあれは。見え見えの陽動とは。退路遮断と見せかけたいのか…… いや違う! 後方の補給艦を狙っているのか」

 

 さすがにジーン・コリニーは判断が鋭く、そして電光石火の対処に動いた。するとそれは戦闘もせずすごすごと戻って行くではないか。

 

「持久態勢の上での補給撃破か。遠征軍を追い返すには常道、敵も狙いは悪くないのだがな。いかんせん戦力の不足とは悲しいものだ。思い切りよくそれを行うこともできやしない」

 

 連邦艦隊は余裕を見せていている。ジオンの打つ手などしょせん悪あがきに過ぎず、何ほどでもない。

 すると突然、連邦艦隊最左翼の眼前にジオン側から信号弾が放たれた。

 

「む、あれはいったい? 何のマネだろう」

 

 直後、その左翼に光の渦が襲い掛かる! 巨大な柱がまぶしく数秒続き、やがて流れ去った。何かなど考える必要は無い。

 

 

 コロニー・レーザーが撃たれた!

 

 これにはジーン・コリニーもさすがに驚いた。

 対処不能の巨大砲撃だ。まさかこのタイミングで撃ってきたのか!

 連邦本隊の移動中でもなく、陽動に向かってでもなく、最終局面の破れかぶれでもなく、今だとは。その意図が分からない。

 

「どうなっている! 被害状況を報告せよ!」

「報告します! 左翼に布陣していたマゼラン級一隻を含む四隻が撃沈! 大破三隻!」

「な、何? 何だ、あのコロニー・レーザーを撃たれて損害はたったそれだけか! はは、これで勝ったぞ! 馬鹿め、ジオンは焦って無駄撃ちしたな。こっちはかすり傷で済んだ。よし、もう向こうに奥の手は無い。このまま押せばいいだけだ!」

 

 ジーン・コリニーは勝利を確信した。

 全く拍子抜けだ。ジオンの虎の子のコロニー・レーザーはほとんど無駄に終わった。もはやその脅威はない。唯一の懸念すら無くなった今、思わず笑みがこぼれる。

 そして見たところ、ジオン側も奥の手の失敗に動揺したのか、壁の一部が崩壊しつつあるではないか。

 

「敵の崩れたところへ突撃だ! 勝機を逃してはならん! 一気に蹴散らしてやれ! もう混戦でコロニー・レーザーの無力化など考える必要もなくなった。叩き潰すだけだ」

 

 ジーン・コリニーは地味に押すだけではなく、華麗に勝ちたい。頭をよぎるのは徐々に連邦軍の中で求心力を増しつつあるグリーン・ワイアットだ。そんなワイアットの姑息な政治工作など、この勝利の実績で無に帰してやる。存在感でワイアットに差を付け、自分たちのタカ派を一気に連邦の主流にするまたとないチャンスである。

 それでなくともジーン・コリニーは果断をモットーとする将だ。

 ここで勝機と見て、艦隊を大きく動かす。

 その指示に従い、ジオンの崩れたところへ向けてダグラス・ベーダーを中核とした連邦の兵力が殺到していく。これまでストレスのたまる戦いを強いられていただけに連邦の各隊も勢いよく突破し、逆にジオン側は怖気づいたのかろくな抵抗もできない有様だ。

 

 ただし壁を抜けた連邦艦隊が見たものは、満を持していたジオン精鋭MSの隊列だった。

 

 

 

「連邦は編成が乱れている。そこを突けば恐れるに足りん。各MS中隊、ラカン・ダカランのアクト・ザクを中心に突撃せよ!」

 

 エギーユ・デラーズの一喝が響く。グワデンの指揮シートに背を伸ばして座りながら戦況を見ている。

 

「慢心はいかんが、これは勝ったな。この策を考えたコンスコン中将、かなりの傑物だったか。さすがにドズル閣下の腹心だ。こんな大会戦でまんまと策を成功させるとは尋常ではない」

 

 

 同じく戦況を見ながら、俺もドズル閣下に通信を付ける。

 

「連邦は思った通りに動きましたな。後は袋叩きに」

「心臓に悪かった、コンスコン。まさかこんな作戦を取るとは。ソーラ・レイの使い道を聞いた時には耳を疑ったぞ」

 

 

 俺は開戦前にドズル閣下にこう言っていたんだ。

 

「ソーラ・レイは連邦主力などには使いません」

「? 何だと? 何を言っているコンスコン。ソーラ・レイで連邦を最大限減らさなければ勝負にならんではないか。戦力は倍以上違うのだ」

「いいえ、もっと悪辣な使い道があるので、そっちに使います。連邦の艦隊を踊らせる方がよほど有効でしょう」

「躍らせる? それは、いったい何だ」

「そもそも少数が多数に勝つには、戦術的にいくつかの方策があります。例えば地の利を生かして隠密行動をとるか、陽動で不意討ちをかけるか。しかしこれらは無理でしょう」

「それはそうだろう。ここには岩礁地帯なども無いのだからな。いくらミノフスキー粒子を濃くしても索敵は容易だ」

「では戦力を集中して突破戦術をかけるか。ですがこれも現実的には無理。仮にそうしても連邦が柔軟に受け止め、その上で別動隊をジオン本国に向かわせたら万事休すです」

 

「……そうだ。では何も手がないではないか。コンスコン」

「いいえ、たった一つあります。それは包囲からの分断戦術です」

「コンスコン、それは一番無理だ。これほど兵力差があるのに包囲などすれば、数の少ないこちらは限りなく薄くなる。もし包囲できたとしてもあっという間に食い破られ、後は各個撃破の餌食にされるだけだ」

「大きく囲めばそうでしょう。そうではなく、こちらの内部に取り込めば、コンパクトな包囲陣の完成です」

「敢えて中に取り込む? それも危険が伴う。よほどうまく思ったところに誘導しなくてはならんぞ」

 

「そのためのソーラ・レイです。先ずは会戦が始まっても撃たずに連邦を充分牽制しておきます。その上で、敢えて無駄撃ちをして、同時にこちらは崩れた擬態をすればいいのです。その場所はたぶん本隊とデラーズ准将の間が良いでしょう。その擬態によって、心配していたソーラ・レイの脅威が無くなったことで勝利に浮かれた連邦は、必ず崩れたと見えたところから突破を図るに違いありません。落ち着いて考えればソーラ・レイがないのなら、連邦としてはじっくり兵力を活かした包囲でもすれば一番良いのでしょうが、おそらくそこまで考えますまい」

「なるほど…… 心理的な罠になるわけだ。ただの擬態では引っ掛からないかもしれない。だがソーラ・レイの無駄撃ちとセットならいかにもこちらが戦意喪失のように見えるからな。そこを突破したくもなる」

 

「ついでに連邦の補給輸送艦を狙った動きも付ければより良いかと。実際にうまく行く必要もありません」

「補給のことを頭に入れさせ、無意識にでも急戦に傾けさせるか…… いやこれは完璧だ、コンスコン」

 

 

 そして俺はドズル閣下の裁可を得て、詳細を詰めていった。キシリア閣下やデラーズ准将とも入念な調整を行う。この作戦は乱れが出ては何にもならない。

 そして実はもう一つ、俺はソーラ・レイに大きな仕事をしてもらうつもりだった。そこまでドズル閣下に言わなかったのだが、実はこれが一番の狙いかもしれない。

 

 ガンダムを斃す!

 

 たったそれだけのために、あのソーラ・レイの巨大レーザーを使ってやる。

 

 ガンダムはあまりにもジオンにとって脅威だ。通常の作戦ではどうやっても斃せるものではない。今、ソーラ・レイの一撃をこれに使わないでどうする。

 

 

 


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