コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第五話 やりたくないけど突撃

 

 

 俺は見るはずのないものを見ている!

 

「あれは、まさか、ビグザム!? 何で、出て来るのーーー!!」

 

 ソロモンのゲートから、大型のモビルアーマーが出てこようとしている。MS用ではなく艦用のゲートを使っているのだが、それでも小さくは見えないほどのものだ。

 

 なぜ、ここでビグザムが?

 俺が連邦の新兵器を潰した。戦局は絶望から遠いところにあるはずだ。

 もう無理に出て来る必要はない。

 しかし結果的に俺はドズル閣下の戦闘本能を見誤っていたようだ。ソロモンの司令官室で指示を出すだけで収まらなくなったのだろう。陣頭に立とうとしておられる。

 

 ドズル閣下の精神は立派だ。

 俺は本当に尊敬できる上司を持てたことを誇りにさえ思う。

 

 しかし、これは非常にまずい。

 ビグザムは護衛を多数従えて突入攻撃で使うような兵器だ。

 確かにビグザムは強いだろう。特にビーム拡散防御は物凄い技術であり粒子砲による攻撃力も半端なく、しかも多数を同時に砲撃できるなんて凄いとしか言いようがない。

 

 ただしかし、悲しいことにモビルアーマーの弱点はそのままなんだ。

 

 MSのような関節というものを生かした即時対応はできない。姿勢制御も遅い。攻撃方向に制限があるのも弱点だ。MSのような柔軟な動き、特にねじる動きができないからだ。

 つまり接近戦に持ち込まれたらMSには勝てない。そのためこんな乱戦でビグザムが出るのは危険過ぎる。

 

 

 驚きからまだ回復もしていないうちに、視界の片隅へ恐怖の象徴が入ってきた。

 

 う、あ、あれは!!

 白い双胴型の強襲揚陸艦、木馬じゃないか! 奴がいる!

 全ての元凶だ。

 

 もしも、もしもあれから出てくる白いモビルスーツがドズル閣下のビグザムに目を付けたら……

 ドムを出して護衛に付けても、全く無駄だ。

 確実に仕留められる。

 

 俺は愕然としてしまった。

 

 急ぎビグザムの近くに行く。戦場は通信妨害が激しく、遠くからでは届かない。

 もどかしく画面を見つめる。やはり半分以上かすれて見えないが、音声なら通じるようだ。

 

「ド、ドズル閣下、ビグザム単機は危険過ぎます! ソロモンへ急ぎお戻りを!」

 

「おお、コンスコンか! 貴様、大した奴だ。見ていたぞ。連邦の新兵器を潰してくれたとはな! また勲章が欲しいのか」

「あ、その話はまた後でお願いします。今はとにかくソロモンにお戻り下さい」

「いや、俺も少しは暴れたくてな。兄者が送ってくれたビグザムのテストも兼ねてだ。それにな、ゼナも見ている。あいつも今はドレスを着ているが元は兵士だ。戦いの陣頭に立つという意味を分かってくれる、凄く貴重な妻なんだ。きっと俺の雄姿に惚れ直してくれるに違いないぞ!」

 

 何ですと! 家族の絆的な動機!?

 

 そこはまるっと無視しよう。

 ドズル閣下は我ら兵士の士気向上のために陣頭へ出て下さったんだ。

 うん、そうだ。そうに違いない。今の話は冗談であり、俺をリラックスさせるためわざと無理におちゃらけているだけなんだ。

 

「まあ、ゼナは俺に銃を突き付けて迫ってきたほどだからな。昔はすいぶん積極的だった」

 

 もう充分ですってば! その話題から離れましょうよ!

 というか迫ってきたという意味が違うでしょう。それは閣下が士官学校の校長だった時にゼナ様の捕虜になった話で、美談に変換しないで頂きたい。

 

 まあとにかく、ドズル閣下を絶対に守らなくてはならない。いろんな欠点はあれど俺にとっては敬愛する上司なんだ。

 しかし俺の思惑をよそにビグザムは近くの連邦艦に砲撃を始めた。

 一発でサラミスが轟沈する。凄い威力だ。

 あれ、違う。マゼランだった。

 俺が罠に嵌めてようやく損傷させたような、あの戦艦マゼランをたった一撃で屠ってしまえるとは。

 

 ただし、状況としてはかなりまずい。

 ビグザムがただ浮いているだけならまだしも強敵と認識されればアイツがやってくる。

 

 

 遅かった!

 モビルアーマー一機と、白い化け物MSがビグザムを認識した。明らかに注視している。

 

「閣下! ここには木馬がいるんです! あれに目を付けられたら厄介です」

「コンスコン? 当たり前だろうが。ここに木馬がいるのは。貴様は木馬を追って戻ってきたのではないか」

「え? あ、それは……」

 

 もう一つドズル閣下は誤解しているようだ。

 俺は木馬を追っているんじゃなくてむしろ逃げているだけである。向こうが勝手にソロモン攻防戦に参加しているんだ。

 それでも閣下が木馬のことを過少評価していることは事実である。これは今説明しても無理だ。だいたいにして俺自身もかつてそうだったんだから、分かってもらえないだろう。

 仕方がない。

 説得は諦め、この場だけでも何とかしよう。

 逆に考えるんだ。最悪じゃない。閣下が木馬へ立ち向かおうとまでしないだけで良しとしよう。もしそうなったら目も当てられない。

 

 

 俺はドズル中将との通信の後、急ぎ副官に命じる。

 

「総員退艦だ! 急いでチべから離れろ! このチべはドズル閣下のため、特攻を仕掛ける」

「え! コンスコン司令、特攻っていったい? 相手は、というかどうして砲撃やMSじゃなくて……」

「砲撃はダメなんだ。当てられるくらいなら最初から苦労するものか! MSも論外だ。かなうわけがない。チべをぶつけるしかないんだ」

 

 いや、本当はそれでもダメなんだけどな! しかし足止めにはなるだろう。

 

「グズグズしてる暇はない。直ちに総員脱出シャトルに移れ。ドムも発進、その護衛につかせろ。シャトルに間に合いそうもない奴はノーマルスーツを着てドムに曳航してもらえ」

「し、司令はどうなされるのです!」

「どうしたその顔は。ん? まさか副官、俺が死にに行くとでも思ったのか?」

 

 そんなわけないだろ! しかもそうする必要はまるでない。

 コースが分かっているからだ。

 白い化け物MSはビグザムを目指して真っすぐやってくる。その途中に置けばいいだけの話だ。最後の最後までチベを操艦し続けることはなく、直前で脱出すればいい。

 

 

 俺も急いで、なんとか窮屈なノーマルスーツを着る。辺りを見渡すと話のどこに感動したのか、副官の他にも艦橋要員が退避せずに残っているではないか。よくわからんが偉いな。

 自分で総員退艦と言っといてなんだが、やっぱり残ってくれると心強い。実のところ死ぬ気はなくともちょっと縮み上がるところはあったんだ。一人は心細い。

 

 ノーマルスーツは彩度の低い薄緑色だ。どうしてこんなダサい色なんだろ。草原で戦うわけでもあるまいに。

 

 なんてどうでもいいことを考えながら着終わると、次に艦橋から宇宙に直接出られる特殊避難用ハッチをゆっくりと開けさせる。脱出に備えて最初から艦橋の空気を抜いておく。

 真空に変わったことでノーマルスーツはわずか膨らみ、それでかえって体が楽になる感じがする。特に腹回りが。やっぱり痩せよう、と心に思う。

 同時にやはり肌寒さも感じる。

 久しぶりに宇宙と直接接している実感がしてきた。

 スペースノイドを自称しているとはいえ少し緊張するな。

 

 そうこうしている内、ついにあの化け物MSがビグザムを狙い定めたようだ。

 明らかにビグザムを目指し加速をかけている。

 

 あいつを止める!

 

「エンジン出力全開! 限界出力だ! 焼き切れても構わん、ただし十秒だけだ」

 

 計算済みの言葉を言う。

 そしてきっかり十秒後、今度は脱出にかかる。

 艦橋要員と副官はバーニヤを使ってハッチから外に飛び出す。俺はというと副官に手を持たれて飛んでいる。少々情けないが、俺はバーニヤの扱いがそれほど上手くない。

 

 宇宙空間で一機のドムを待機させていた。ドム隊の隊長機だ。そのザイルにつかまり、離脱する。ソロモンへ入るのだ。

 そして薄紅色の慣れ親しんだチベを見送る。

 チベよさようなら。

 お前は本当にいい艦だったよ。

 家であり友でもあった。俺でも感傷的にならざるを得ない。

 

 

 後は俺にできることは何もない。

 

 白いMSより先に連邦のモビルアーマーがビグザムに到達しようとしている。

 だが、ビグザムの硬い装甲にバルカン砲など通じやしない。

 すると何とモビルアーマーなのに接近戦を仕掛けた挙句、特攻のように散っていったじゃないか。敵ながら称賛に値する奴だ。ただしかし、それでもビグザムは爆散どころかせいぜい中破程度の損傷に過ぎない。

 

 だがちょっと無理をし過ぎたと思ったのだろうか、ドズル閣下もソロモンへ後退を始めた。

 

 そこを逃すまいと白いMSが更に速度をアップした。

 さすがに速い。あっという間にビグザムとの距離を詰めてきた。

 

 しかし、そのタイミングでチベが割って入ったのだ。

 惜しくも白いMSにチベが当たることはない。ぶつけることはできなかった。

 

 しかし次に俺の思った通りの展開になる。

 白いMSはチベを無視することはなく、ビームサーベルを振りかざして攻撃してきたのだ。

 

 若いな、と思う。

 そういうところを見るとあのMSのパイロットは若いのだろう。

 チベなど無視してもよかったろうに。

 

 白いMSは流れるような動作でビームサーベルを引き抜く。艦の主要部を見極め、それを突き通した。普通なら必殺の攻撃だ。

 

 

 だが、何も起きない。

 

 すぐに爆散すると考えていたのだろう。確かにいつもはそうだったから。

 戸惑いながらも、白いMSはまたビームサーベルを使い憎たらしいほど的確にエンジン部を貫く。

 それでも何も起きない。

 

 それもそのはずだ。

 俺はチベのエンジンを目一杯使った後、逆に思いっきり臨界点以下に火を落としたのだ。再起動を考えないくらいに。

 その状態でいくらダメージを食らっても、少なくともエンジンは爆発しない。チベの艦体に穴が開くだけだ。

 

 

 俺は白いMSを引っ掛けた。

 はっはっはー!

 中年の悪知恵をなめるなよ!

 

 この時間稼ぎは成功した。

 白いMSがチベを無視すると決めるまでのわずかな間、ドズル閣下とビグザムはソロモンへ向かっている。

 

 ソロモン近辺にはまだまだジオンの分厚い艦列が見える以上、白いMSも断念せざるを得ない。

 ようやくチベの内部が発火し、メガ粒子砲のエネルギー残滓でも解放されたのだろう。チベは中央から割け、そして小さく爆散した。

 それを最後に白いMSも帰投していったのだ。

 

 

 

 


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