コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第五十一話 グラナダ攻略

 

 

 もう一つ、グリーン・ワイアットには考えることがあった。

 

「そういえば、ジョン・コーウェンの奴はどうしているのだろう。グラナダも危ないということを理解しているのか」

 

 グリーン・ワイアットは明晰な頭脳で頭に戦略図を描き、ジオンの次の狙いを読もうとしていた。

 ジオンは大会戦に勝利した今、このまま連邦を押し戻すことを考えるか…… ア・バオア・クーやソロモンを奪い返して。

 いや、そうではない。

 それらは重要な防衛拠点ではあるが、それ以上のものではない。なるほどジオン本国を守る盾にはなる。しかしそれで戦争には勝てない。ジオンにとって戦略的には生産工場と通商港湾をきっちりと抑えることこそが重要になるのだ。

 そう考えるとグラナダが狙われる公算が大きい。

 

 本心を言えば、ジョン・コーウェンにも失脚してもらいたい。グリーン・ワイアットに隔意を見せるジョン・コーウェンもまた潰しておきたいのは山々だ。グラナダでジオンと勝手に戦って死んでくれるのが理想的である。

 

 しかし、グリーン・ワイアットも連邦軍人としての本分はわきまえている。グラナダはジオンにとって重要なのと同様に、連邦にとっても重要なところであり、陥とさせてはならない。

 この先、戦争が終わった後のことも考える。

 位置的なことから、ルナツーとグラナダの二つを軍事的に拡充し、スペースノイドを抑えるのが肝心だ。

 ジオンなどがこんな戦争を起こしてしまったのは、元をただせば直接戦力をコロニー近くに配置しなかったせいなのだ。どうせ地球連邦に逆らう度胸などないと高を括り、コロニーに駐留している連邦軍は過少にすぎた。本当にコロニーが戦う気になった時に全く無力だったのだ。そしてティアンムなどのいたルナツーはサイド7を除く各コロニーからは遠すぎたため初動があまりに遅くなった。

 あらゆる意味でグラナダこそ連邦としては戦略的に保持しておくべきである。

 

「ステファン・へボン君。一応ジョン・コーウェン少将に連絡してくれたまえ。ジオンの動きに充分注意するように、そしてこちらも牽制程度はする、と」

 

 ただし、ルナツーからグラナダへ応援艦隊を派遣することはできない。

 あまりに遠すぎるのだ。物理的距離、こればかりはグリーン・ワイアットもどうにもできない。

 厳密に言えば、絶対に出せない訳ではないが、ジオンの艦隊規模などの情報がないうちに応援を出したらそれこそ戦力の逐次投入にもなりかねない。そうなれば目的を遂げられないどころか損害ばかり目立つ結果になる。そうでなくとも偽情報などで釣りだされ、途中で待ち伏せになど遭ったらそれこそ目も当てられない失態になるだろう。

 

 

 ワイアットの懸念は当たっていた。

 ジオンではその頃、次の一手はグラナダ奪還と決めて動いていた。その戦略方針はマ・クベ准将がグラナダの重要性を説いた時から既に決まっていたからだ。そのためジオンの動きは誰の予想よりも素早かった。

 

 連邦艦隊への長躯追撃に出たキシリアの艦隊、カスペン准将、コンスコン中将を除くジオンの戦力、つまりドズル大将の本隊とデラーズ准将の艦隊は補給と修理を済ませてグラナダ攻略のため出撃した。

 グラナダに駐留している連邦艦隊は三十から四十隻と見積もられた。

 それに対し、ジオン側は併せて六十隻以上で攻める。充分に勝算が見込める戦力比になる。

 

 

 

 俺が追撃戦を終えてジオン本国近くに戻ってきた時、ドズル閣下とデラーズ准将の出撃を知った。

 ドズル閣下のメッセージが残されている。

 充分に補給と休養を済ませたら、キシリア閣下と共にグラナダに来るように、だ。元々グラナダはキシリア閣下の領分なので再び任せ、ドズル閣下とデラーズ准将はグラナダに長居しないつもりなのだろう。

 

 もう一つ、俺は面白いものを発見した!

 

 ドズル閣下は本国会戦の終了後、勝利演説を行っていたのだ。本人はかなり嫌がっているのが分かる。ギレン総帥なら喜んで演説したろうが、ドズル閣下がそういうのが苦手なことは自他共に知っている。

 半分怖い物見たさに記録映像を再生した。

 

 

「…… 本当に俺が演説か? 俺は兄貴のように上手い演説なんかできんが、承知の上なら聞いてくれ。皆知っての通り、ジオンはこの本国会戦に勝った。連邦艦隊はジオンの力を思い知り、尻尾を巻いて逃げた。ソロモンやア・バオア・クー以来、待ちに待ったジオンの勝利だ! 本国にもう連邦の手は伸びない」

 

 おお、ドズル閣下、意外と言ったら失礼だが出だしはまともな演説ではないか!

 

「…………」

 

 しかし、この後の言葉が続かない。

 考えがまとまらないのか? 丸々三十秒が過ぎ、だんだん不安になったところでいきなり始まる。

 

「つまり、俺は嬉しいんだ! 本当に嬉しいぞ! お前たちも嬉しいだろう! みんな嬉しい! いや待て連邦は嬉しくないな。ま、どうでもいい」

 

 えええ!? ここ笑うところ?

 本当に思うまま述べている。

 

「とにかくだ、俺は感謝している。みんなが頑張ったおかげだ。そしてこれからも勝つ! ジオンの力を集め、どこまでも勝つ! なにがなんでも勝つ!」

 

 ドズル閣下らしい勢いの良さだ。

 生で聞いていればその音量に圧倒されたかもしれないな。

 

「なぜなら、俺たちは正義だ! ジオンが正義なんだ! その理由は、俺にもよく分からん! 頭が悪い上に、兄貴の話を真面目に聞いてなかったからな。知りたい奴がいたら後でキシリアにでも聞いてくれ」

 

 なんだそりゃ! 俺は腹を抱えて笑った。

 

「あ、コンスコンでもいいぞ。奴なら俺よりはマシだ」

 

 俺に振らないで下さい。お願いします!

 てかドズル閣下と比較されるレベル……

 

「だが、これからだ。戦いは続く。皆、力を貸してくれ。俺たちは皆ジオン、これからもジオンだ! それだけでいい。俺たちはやるぞ! 必ず連邦を倒す!!」

 

 それで終わってしまった。

 ドズル閣下の演説はグダグダだ。

 実にドズル閣下らしく不器用なものだ。正直意味不明である。本人の言う通り、亡きギレン総帥とは演説の巧みさにおいて雲泥の差がある。俺も途中で大いに笑ってしまった。

 しかし最後は不思議と胸に響いたのだ!

 力が湧いてくる。心が元気になる。聞いていた者は皆そう思ったろう。

 俺もまたドズル閣下への忠誠を厚くした。

 

 

 

 一方、ドズル大将とデラーズ准将はグラナダを分厚く包囲した。戦力差を活かした定石だ。

 これに対しジョン・コーウェンもまた一点突破という定石で応える。

 むろん、ドズルもデラーズもそれを許すほど下手な用兵家ではない。しかもジオンの繰り出すエース、シン・マツナガとラカン・ダカランは期待に応え、連邦を押し返すことに成功する。

 こうなるともうジョン・コーウェンには手がない。多少戦いを引き延ばすくらいが精一杯で、だがそれをしたところで早期に応援が見込めない以上意味が無い。

 

 ドズルに向け、グラナダから通信が入る。

 

「グラナダ駐留連邦軍司令官ジョン・コーウェン中将だ。ジオンの指揮官と話がしたい」

「ジオンのドズル・ザビ大将だ。降伏の話か?」

「降伏などはしない! 交渉だ。そこを勘違いしないでもらいたい」

「交渉など笑止ではないか。この態勢から降伏以外、何の交渉だ」

「二度も言わせるな。降伏ではない。こちらも武人、戦って死ぬのを躊躇しているわけではないのだ!」

「…… む、そうか。失礼した。では何の話なんだ」

 

 ジョン・コーウェンは堂々として卑屈なところがない。ドズルもまた話を聞こうという気になった。

 

「このグラナダには民間人も多い。こちらが徹底抗戦に持ち込み、戦い続ければグラナダは破壊され兵はおろか民間人まで被害が及ぶだろう。こちらがグラナダのメイン反応炉を自爆させなどしたら確実にそうなる。そういった事態を避けたい。そこでこちらの脱出を認めて発砲しないでくれれば、グラナダの施設を破壊したり、トラップを仕掛けたりしないことを約束する。むろん、こちらの首くらいは差し出してやるが、他は逃がしてやってくれ」

 

 それは降伏とは違う、無血開城の取り引きだった。自分以外の連邦兵の脱出を認め、無用な攻撃をしなければ代わりに施設の破壊をしないというものだ。

 

「…… ジョン・コーウェンとやら、そうすれば自分は捕虜になり、それだけならまだしも連邦軍内では戦いを避けた卑怯者と呼ばれるぞ。下手をしたら命冥加にもあえて早めに捕虜になったと謗られかねん」

「そんな個人の名誉など、部下の命には代えられないことだ。まして、大勢の民間人に迷惑はかけられん。人を守るのが軍人だからな」

 

 ここでドズル閣下とデラーズ准将が話し合う。

 

「どうするデラーズ。向こうのジョン・コーウェンとやらも立派な奴だ。そこまで部下と民間人のことを考えているとは。ここは話に乗るか」

「ドズル閣下、その意見に小官も賛成です」

 

 あっさり意見は一致した。

 敢えて言えば、ドズルとエギーユ・デラーズには共通する項目がある。それは「武人」というところだ。

 武人は戦い抜くべき時には恐れを知らず戦い抜く。死んで魂になってさえ戦う。

 しかし、相手もまた武人であることを知った時、戦う相手にも敬意を払う。そして無駄な殺生はせず、真摯に対応する。そういう性質がある。

 

 もしここにキシリアがいれば結果はまた別になっただろう。取引材料にするため他にも将官を要求するか、交渉を長引かせて焦りを誘うか、他にも何かの手を使ったかもしれない。ただし逆に連邦側が態度を硬化させ、死に物狂いで戦った可能性もある。そうなればジオン側の損害も少ないものではなく、第一グラナダが灰燼に帰してしまえば元も子もない。

 

 グラナダの無血開城は受け入れられた。

 ジョン・コーウェン中将を残し、グラナダ駐留連邦艦隊は粛々と出て行く。その艦隊はいったんソロモン方面に向かったようだが、最終的にルナツーなのかもしれない。

 

 ともあれグラナダはたいした犠牲も無しにジオンの手に戻ったのだ。

 

 

 ただしここから動乱が起きるとは誰も予想しなかった。

 それには月面の他の都市、主にフォン・ブラウン市が関係している。

 

 

 

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