コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第五十六話 月下の死闘 ~連邦の魔術師~

 

 

 俺はティベの艦橋にいる。

 

 艦隊はもう月面から離れているが、それでも視界に大きく月が映っている。

 ただしそれでも戦いの様子まで見えるわけではなく、ジオンの侵攻状況は通信によって知るしかない。

 そしてその状況は狙った通り進んでいる。ジオンはこれで月表面全域を手中に収めることだろう。

 主な目的であったフォン・ブラウン市、そのアナハイム・エレクトロ二クスの一大拠点も得ることができる。もちろんアナハイム・エレクトロニクスの拠点は一つだけではなく、地球表面にも多く存在していることは分かっているが、それでも大きな収穫に違いない。

 当然、侵攻を受けた時点で技術データの消去や設備の破壊くらいはあると思われるが、予測の内だ。逆に言えば、もしもうまく復旧できるデータがあれば、連邦の軍事技術さえ手に入るかもしれないではないか。

 その中に連邦MSなどの核心技術があるかもしれず、運しだいではあるが見つけられれば凄い。それは正にマ・クベ准将の頑張りに期待する。

 

「フォン・ブラウンの為政者も後悔しているだろうか。皮肉にも若者を見捨てたフォン・ブラウンが今度は連邦軍に見捨てられるのだからな」

「コンスコン司令、キシリア閣下から入電! 作戦は成功し、フォン・ブラウン市の鎮圧はほぼ終了。ついては脱出する民間艇を牽制し、部分的拿捕に協力されたし、とのことです」

「そうか。了解、と返しておけ」

 

 拡大して見ると確かにフォン・ブラウンから飛び立つ民間艇は多い。まあ、これを全部抑えるのは現実的ではなく、重要なものだけ抑えるという判断をしたのだろうな。

 俺はその支援作戦のために艦隊の再編と移動を指示しようとした。

 

 

 

 しかし、このタイミングで恐るべき報告がもたらされた!

 

「た、只今、索敵航路ブイに反応あり!! 接近する艦隊を捉えました。ジオンの識別信号なく、これは連邦艦隊です!」

「な、何だと! 連邦の応援とは早すぎる! 各艦直ちに厳戒態勢から戦闘態勢へ! エンジン出力目いっぱい上げておけ!」

 

 俺は対応を指示しつつも、思いもかけないことに慌ててしまったのは事実だ。あらゆる意味でおかしい。

 

「連邦の応援艦隊はいったいどこから来た! 到着時刻、規模はどれくらいか、分かり次第報告しろ!」

 

 

 しかし、次々入ってくる報告に驚くばかりである。

 

「このままの速度では、あと二時間以内に接触! 連邦艦隊の規模、およそ三十から三十五隻!」

「そこまで近付けさせたか…… うまく忍んできたものだな。向こうの指揮官の腕がいいのだろう。そしてなかなかの数ときている。こいつは厄介だ」

「進行方向から推察して、ルナツーから来た可能性大!」

「何! そんなことがあり得るのか? もし本当ならジオンの作戦前にルナツーを出て来たことになるではないか」

 

 疑問は大いにあるが、それを細かく考えている時間はなく、現実を優先だ。

 とにかくきっちり戦闘態勢を整え、陣形を決めなければならない。こちらは二十二隻、相手は確実にこれより多い。生半可なことではやられる。

 

「連邦艦隊の数が確定しました! 三十四隻です。艦種は、見えるものだけで全てサラミス! 戦艦、駆逐艦とも見当たりません!」

「それは…… 何とまあ思い切っているんだ……」

 

 連邦艦隊の指揮官はかなりの知恵者と見た。なるほど、全てサラミスにすることで統率を容易にし、行動速度を極限まで増したのだろう。

 ただしそれは諸刃の剣、逆に単一艦種では戦術バリエーションは極端に少なくなってしまう。サラミスは火力も防御も航続距離も優れた万能型の巡洋艦だが、さすがにジオンのチベやティベからのアウトレンジ砲撃に対処できない。おまけにMSに肉薄されたら、対空弾幕も充分ではない。

 しかし向こうの指揮官はリスクを完全に承知の上でそうしたと思われる。胆力があり、しかも戦術構築に相当の自信があるという、恐ろしい奴だ。

 

「連邦艦隊の陣形が分かるか? MSもいるはずだが、どうなっている?」

「サラミスの大半は、紡錘型に整えた上で中央に配置の模様、やや下がって左右に二つの分隊が展開しています。MSはまだ見えません」

「なるほど、戦理にかなっている。こちらの数を見切った上で打撃力と柔軟性を両立させた陣形だ。中央本隊は数の優位を確保しながら戦い、左右の分隊は遊撃あるいは決定戦力に残すということか。こいつはかなりやるな。感心している場合ではないが」

 

 

 やってきた連邦艦隊の方では、グリーン・ワイアットもまた気を引き締めている。

 

「かなり隠蔽には気を遣ったつもりなのだが…… ジオンの艦隊はもう動き始めているとは、さすがに早い反応と言うべきか。まあ、相手がコンスコン機動艦隊だったこと自体は僥倖だ。しかも数の上で優位を取れたのは大きい」

 

 ワイアットの狙い通りといえばそうだが、幸運を感謝せずにいられない。

 ジオンのコンスコンと対決する機会が得られたのだ。

 しかも周囲に他のジオン艦隊はいない。おそらく月表面で作戦行動中なのだろう。そのためジオン側の応援は直ぐに来れやしない。

 宇宙船自体はひっきりなしに飛んでいるのが見えるが、全て民間用のものだ。本当ならそれを支援し警護すべきだが、ここにコンスコンのジオン艦隊がいる以上、それは不可能だ。つまりお互いに戦わないでは済まない。

 

「さて、どう出るかな。お手並を見せて欲しいものだ、ジオンのコンスコン中将。ここまで来たのだから期待に応えてくれるだろうね」

 

 

 

「よし、こちらも対応した陣形を取る。全体として半月陣にするのだ。再編急げ!」

 

 俺はコンパクトな半月陣を最善と判断した。

 艦数に劣る以上、相手を包囲殲滅などは考えず、機動力優先の形にする。

 つまり局所的な打撃力を高めて、連邦艦隊を早めに瓦解させるための陣形だ。こちらは二十二隻とはいえ小型の駆逐艦ガガウルまで含めての数字であり、平均的な質でいえば残念なことにサラミスに劣ってしまう。だが、逆に言えばコンスコン機動艦隊には規格外の砲撃力を持つこのティベの存在がある。そして全幅の信頼を置くガトー、クスコ・アルなどの強力なMS隊もいる。戦い方を間違えなければ勝てるはずだ。

 

 始めに連邦の右翼にいる分隊を狙って前進するという偽装を仕掛けた。

 連邦としてはそれをされたら数の優位を削り取られてしまう。思った通り全体陣形を回転させてきたのは、右翼をカバーしつつこちらの横を襲える可能性があるからである。

 狙い通りだ。

 俺は確信を持って命じる。

 

「今だ! 進路を修正しつつ、半月陣を鋭くして連邦の本隊へ突入しろ! ティベの主砲で奴らの鼻先を叩くぞ。その後、各MS隊は一斉に発進、連邦本隊の中心部を引っ掻き回し、指令系統を潰せ。それで連邦艦隊の戦意を刈り取れる」

 

 

 俺は急戦によって決着をつけるつもりで突入を命じた。それに対し、連邦本隊はあっさりと後退していく。艦が反転回頭したわけではないので、こちらが追い付けないほどの後退速度には至らない。

 しかし決して狼狽したようなものではなく、整然とした後退であることに違和感を覚えざるを得ない。

 

 

「この動き…… してやったり、罠に嵌めたとでも言いたげな行動だ。いや、本当にそのつもりなのだろう。しかし、ダリル・ローレンツの砲撃まで読み切っているのか、もしもそうなら褒めてやるぞ、連邦軍!!」

 

 俺はティベを駆り、砲撃の間合いまで距離を詰める。

 

「よし、連邦艦隊前列に向け、主砲撃てーーー!」

 

 これでたちまちサラミス一隻を轟沈させる。

 やはり連邦はティベの主砲の間合いを見誤っていたようだ。

 序盤の駆け引きには勝った。だが戦いはまだまだこれからである。

 

 

「コンスコン司令、連邦MS多数が展開しつつ急速接近、一次迎撃ライン突破されつつあり!」

「何、早い…… そういうことか。全体としてこちらは追い、向こうは後退する。MSの接近速度はその分向こうが早くなるという理屈だな。そこが狙いだったのか! しかし慌てることはない。向こうに空母がない以上、出せるMSの数に大差はないはずだ」

「連邦MS総数、約五十機!」

「やはりか。よし、こちらのMS隊を連邦艦隊には向かわせず、全機艦隊直掩にして迎撃、時間を稼ぐ。連邦艦隊とはこのまま砲撃戦で決着を付ける」

 

 戦いは相手のあること、刻々と変わる情勢に臨機応変に対応し、手の内を探りながら、連邦の策に対処するのだ。そうしている間にもう一隻サラミスを葬った。

 

「連邦MSが、盛んに撃ってきます!」

「MSが? 確かに火線が見える。こちらの砲撃を邪魔する牽制のつもりか…… 確かにまぐれでも艦橋に当たることはあるからな…」

「あ、ガガウル一隻撃沈! もう一隻、ムサイ直撃三発、大破! いえ続けて直撃、撃沈!」

「何だと、偶然か…… いやそうじゃない! まさか、あの連邦MSは新型なのか! これは遠くからでも撃って当ててくるぞ! 急ぎ弾幕管制を遠距離にして再セット、直ちに撃ち始めろ! そして迎撃に出たMSのうちドムは下がらせるんだ。連邦MSのいい的にしかならん」

 

 今度は俺の方が見誤ってしまった。

 俺は連邦の新型MSの存在について、本国会戦でシャリア・ブルが戦うのを見て知っていた。むろんジム・スナイパーⅡという名前まで分かるはずはないが、正確な遠距離射撃を仕掛けてくるのは見ている。

 そんな新型をこれほどの数まで揃えているとは驚く他ない。実は本国会戦でララァがそんな中隊と戦っていたのだが、まだ戦いの総括をしていない以上、俺のところまで情報が来ていなかったのだ。

 恐るべき性能を持つ新型を試作などではなく既に量産化していたとは連邦の底力を垣間見るようでぞっとする。

 

 

 素早く考え、俺の艦隊ではまともにこいつと戦えるMSはガトーやカリウスなど少数だけだと計算する。性能的にドムでは対処させられない。これで艦のみならずMSでも数的優位を作られてしまったとは、何という体たらくだ。

 逃げ遅れた新兵のドムが爆散するのが見えた。貴重な若者なのに…… ジオンのため、覚悟を持って軍に来たのだろう。崇高な精神なのか、英雄になってみたいという野心があったのか、それとも別の何かがあるのか、そこまで分からない。だが少なくとも家族の側では今も帰りを待っているはずなのに。

 

 

 

 くそっ、この逆境、何か手はないのか…… 考えるんだ。

 

「やはり機動力を叩き付けるのが最善だ。策としてドムは各艦に入らず艦壁に縋っておけ。その上で全艦最大戦速、連邦本隊へ接触と同時に離艦し、艦の速度を得て一撃離脱の攻撃を仕掛けるんだ。艦砲と併せて一瞬だけ最大火力を得られる。これで連邦に出血を強いながら突っ切るぞ」

 

 俺は一度しか使えない変則的な策に出る。全てを一丸とした高速の一撃離脱戦法だ。

 しかし、これだけではいけない。

 

「背後に連邦MSを残すことになってしまう。ムサイなどは前にしか撃てない以上、防空の役に立たず、やられる一方になる。ガトー、ツェーン、クスコ・アルは後背からのMS接近を何とか阻止してくれ」

 

 

 そして彼らを送り出す。

 やはり俺の艦隊のエースクラスは凄い。

 接近戦になればいくら頑張っても数で押し込められるのを理解している。積極的に動きながら、射撃を仕掛けていく。そして俺にとっても予想外なことに、ただの牽制で終わっていない。あの射撃の強い連邦MSのお株を奪うごとく斃していくではないか。

 クスコ・アルのエルメスならば、ビットによる射撃が本業であるので理解できる。しかしツェーンのガルバルディまでも射撃を当てている。最近NT能力が増しつつあったのは理解していたつもりだがそれを目の当たりにするとは。

 

「すぐ傍にいるんだから…… ここで活躍を見せとかなくちゃ、いつするのよ……」

 

 そんなツェーンの思惑は黒かったが、小声なので俺には聞こえていなかった。

 

「くっ、絶対チャンスと思っているわね。小娘、そのせいで実力以上の動きを! ま、負けているわけにはいかないわッ!」

 

 NTであるクスコ・アルはツェーンのNT能力の程度も分かるがゆえに、その尋常でない気迫の出どころも知っている。

 

 

 連邦MSを慎重にさせて、艦隊への接近阻止という役割を果たし終わるとドンピシャのタイミングでガトーが帰艦を指示する。そこで戦闘は終わりだ。

 

「帰艦するぞ。二人とも、よくやったな」

「……」「……」

「どうした。二人、どちらも戦果を挙げて良かったじゃないか」

 

 俺の艦隊が前方へ加速を続け、MSよりも速くなればガトーらは取り残され敵中に孤立してしまう。そのギリギリを見計らっての帰艦、やはりガトーは冷静で、戦いというものを分かっている。逆にそれ以外のことは全く分かっていないのが変だ。

 

 

 艦隊の方は一気に連邦本隊へ迫り、接触する。

 

「今だ! 全MS、発艦!」

 

 そのタイミングで、シャリア・ブル、カヤハワ、カリウスが先導する形でドムが一斉に離艦していく。艦の速度にMSの推力を足し算する格好になり、直線を猛スピードで飛んでいくのだ。そして存分に火力を叩き付ける。

 しかし得られた戦果は思ったより多くなく、勝ちには至らない。連邦側では直前で俺のやろうとすることを見抜き、既に退避行動に入っていたのだ。

 連邦指揮官の洞察力はいまいましいほど優れている。

 だが全体として連邦の陣形を突き崩し、戦場を突っ切ることには成功していた。

 

 距離を取り直し、お互いに陣形を整えていく。衰えない戦意のまま再び対峙する。

 

 

 戦いの第一幕は痛み分けの格好だ。

 俺の方も連邦も、自分の強みを理解しそれを活かす策を駆使したのだ。俺は主に個人の力量を、連邦は主に新型MSの性能を。

 結果、どちらも数隻の損失を出した。MSもそれなりの数を失った。

 俺としてはそれも手痛いことだが、考えるべきは連邦側の司令官の力量である。連邦にも傑物はいるものだ。

 

 

 しかしその認識すら甘く、連邦指揮官の戦術能力、いや魔術を見せつけられるのはこれからだった。直ぐにその事実を思い知らされることになる。

 

 

 

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