コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第五十八話 収容所の確執

 

 

「フォン・ブラウン周辺宙域を哨戒中ルナツーからの連邦応援艦隊と遭遇、これと交戦しました。残念ながら、撃破できなかったどころか撤退すらやっとのことという体たらく、損失は七隻に達します。力及ばず申し訳ありません」

 

 俺はグラナダのキシリア閣下にそう簡潔に報告した。

 もちろん後でドズル閣下にも報告するが、艦の修理と補給を受けてから本国に行く以上、先に言っておく必要があった。

 それに対するキシリア閣下の返答は斜め上のものだ。

 

「ん? それがどうしたというのだ。分からんな、コンスコン。連邦の応援艦隊を足止めし、フォン・ブラウンの民間人保護を阻止したのだろう。充分な戦果ではないか。これで連邦軍は肝心の民間人保護の役に立たない、その安全を保障できないと政治宣伝ができる。ジオンの寛大さと対比するとてもいい材料になった。それを大戦果と言わず何と言おう」

 

 キシリア閣下は本当にブレが無いな!

 考えるベースが全て政治なのだ。

 

 まあ、この場合は俺も助かるし、キシリア閣下の言う事も正にその通りだ。

 ジオンの悪評もわずかばかりは払拭できるだろうか。それも大事なことだ。地道にそういうことを積み重ねていかないと連邦とジオンの相互不信の溝は埋まらず、戦いは果てしがなくなる。

 

 

 

 その後俺はジオン本国に向け出立した。

 そして部下共々久しぶりにズム・シティを楽しむことができた。まあ、俺はほんの一時だけになったが。

 ドズル閣下への報告の後、何気なく言われたことがあったからだ。

 

「コンスコン、ズム・シティで叙任式がある。必ず出席しろよ。何しろお前が主役のようなもんだ。驚け、今度は大将だからな!!」

「ええっ! いくらなんでも中将になってから二ヵ月も経ってないのでは」

「間に本国会戦があっただろう。そこでの功績での昇進は当然だ。何なら勲章も付けてやろうか。カッコいいぞ」

「いえまさか!」

「まさかとは何だ、新しくドズル勲章を作ってお前を第一号にしてやろうと思ったのに。デザインはゼナとミネバがやった。最高の出来だ」

 

 それ本気だったのかよ! てかミネバ様幼児だろ。どんだけ親バカなんだ。

 

「ドズル閣下、そうではなく、功績といっても会戦で何とか勝てたからで、それで昇進とは。ノイエン・ビッター准将やユーリ・ケラーネ少将が地球で苦闘しているのを考えれば…… 地球のジオン軍はまさに会戦すらかなわぬ乏しい戦力と物資の中で」

「そこまで考えるな。それに、将官ではデラーズ、カスペン、マ・クベ、シャアもそれぞれ少将にする予定にしている」

「……」

「お前が昇進しなければ、その下の者も昇進できなくなる。当たり前のことだ」

 

 

 う~ん、大将か……

 ほんの少し前までドズル閣下のいた地位ではないか。何とも実感の湧かないものである。

 そんなことを考えながら歩いていたら、俺は実直そうな顔をした将に偶然出くわした。

 

 トワニング准将だ。

 そして思いがけず向こうから話しかけてきた。

 

「コンスコン閣下、ズム・シティはいかがでしょう。戦時中とは思えぬ明るさと清潔感なのでは」

「あ、ああ、そのようだ。ここは照明も空調も制限がないのだろう。いいことだ。せめてズム・シティくらいはこうでなくてはな。戦時中だからこそのどかな場所があってもいい」

 

 確かに今歩いている政府関係ビルの谷間の道路は清潔で、きちんと行き届いている。

 しかし、トワニング准将の言いたいことはそういうことでは無いのだろう。

 

 トワニング准将は長くギレン総帥の傍にありながら、キシリア閣下やドズル閣下へも親交を結んできた。いや、そのための人材といって過言ではない。あまり戦闘指揮官としてのキャリアはなく、調整を取り持つタイプで、だからこそギレン総帥は重宝したのだろう。

 下手に才能が有りすぎると野心が大きくなってしまう。

 ギレン総帥なら才能は自分一人で充分、部下には無い方が従順で使い易いこともあるのだ。

 そして今となればドズル閣下とキシリア閣下の意思疎通は問題なく良好であり、調整というトワニング准将の本来の仕事は必要なくなった。先のズム・シティの混乱を収めてから、その流れでズム・シティを含む本国の保安や警備という閑職に就かされている。

 

 つまり簡単に言うと俺とは接点がない。

 話をしたこともこれまで数えるほどしかない。それなのにここでいかにも話しかけてきたのは、俺におもねる気持ちがあるに違いない。

 対抗心を抑え込み、ズム・シティの様子をさりげなくアピールして自分のポイントを稼ぎたいのだ。

 

 そういうところで俺はわずか不快感を持ったが、すぐに考え直した。

 トワニング准将は宇宙で命のやり取りを繰り返している俺のような経験はしていない。前線指揮官でなければ、その方が普通だ。そうなるとやはり目の前の地位や出世に囚われてしまうのは人間として仕方がないことなのだ。

 もう一つ、同情すべき点がある。

 ドズル閣下は准将組の昇進の話をしていたが、そこにトワニング准将の話は確か入っていなかった。つまりトワニング准将は今回昇進せず、他の准将と差を付けられてしまうということだ。おそらく本人もそういう情報は入ってきているに違いない。必死さにも拍車がかかろうというものだ。

 同情を通り越して哀れな気にさえなった。

 俺としてはできるだけ丁寧に接し、話を合わせてやろうじゃないか。

 

「エネルギー事情も良く、清潔で、治安も良さそうだ。これはトワニング准将のおかげだな」

「そう言って頂けるのは何よりです。苦労してズム・シティだけでも快適に」

「ん、その言い方だと本国の他のコロニーは違うのか?」

「残念ながらそれは当然、努力はしていますが、なにぶん割ける人的物的リソースには限りがありますので」

「まあ、そうだろうな。トワニング准将が頑張っても今のジオンでは仕方がない。特に人的には逼迫しているのだろう」

「あらゆる点で人が足らず、工業も農業も戦時体制では…… 唯一増える労働力として捕虜収容所があっても、うまく回ってくれず、投入したリソース以上にはなかなか…… むしろ食い潰す有様で。捕虜は反抗的なばかりか先日来事件を絶えず起こし、私としても頭が痛いところです」

「何? 労働力はともかく、捕虜収容所が今、本国に?」

 

 

 それは初耳だった。連邦兵の捕虜収容所は元々サイド5周辺か、ア・バオア・クー周辺宙域にあったはずだ。今は本国にあるのか…… それならはトワニング准将が責任者になるのも分かる。

 

「コンスコン閣下はご存じありませんでしたか。捕虜収容所は戦況悪化とともに本国の21バンチに一本化されたのです。下手に連邦が奪還作戦など考えないよう、本国深くへ」

「なるほど、それも道理だ。しかし捕虜を何かの生産活動に使おうという意図があるようだが、まさか酷使したりしていないのか。それが元で反抗的になっているとか」

「まさか! 南極条約にて決められた捕虜待遇はきちんと守っております。それでも反抗して事件を起こす始末で」

 

「そうか、実情も知らず、憶測だけで失礼なことを言ってしまった。トワニング准将、前言は撤回する。まあ、連邦の兵士はジオンに敵愾心を持っている場合が多いだろう。これまでの戦争の経過を考えればそれも当然だ。そこを運営するのはなるほど難しいだろうな」

「それでも今までは良かったのですが、本国会戦後に新しく捕虜が入ってきたとたんに問題が急に増え、しかも捕虜同士で争いが始まるとは困ったものです」

「それは何だろう、連邦兵同士で争うとは、いったいどうなっているんだ…… 具体的にはどんな事件を起こすのだろう」

「まあ、閣下にお聞かせするような話でもないのですが」

 

 そう言ってトワニング准将が一つの例えとして、典型的な事件の話をした。

 俺はそれを普通に聞いていたが、思わず途中で声を上げてしまった!

 

「な、何だと! その者は知っている!」

 

「閣下?」

「何かの間違いだ。変な騒ぎなど起こすはずがない! こう言ってはなんだが立派な奴らなんだ。サウス・バニング大尉とヘンケン・ベッケナー中佐は!!」

「し、しかし報告では……」

「その二人は最初にこちらの艦隊で捕虜になったという縁がある。だから知っている。トワニング准将、越権行為ということは重々承知しているが、調査をもう一度やった方がいい。もっと詳しく経過を追えば結論は変わると思う」

 

 

 

 

 ジオンのコンスコン艦隊での拘禁生活は愉快ではないが、少なくとも不快ではなく、虜囚であることを意識させられることもなかった。

 暴力どころか嘲笑すらなく拍子抜けだ。

 ただしこれは、おそらくこの艦隊がたまたまそうだったというだけでジオン全体が捕虜に対し丁寧ということはないだろう。

 そう思ったのはサウス・バニングもヘンケン・ベッケナーも同じだ。

 どちらもコンスコン艦隊に捕虜としてしばらく逗留し、そこそこの待遇を受けている。そこで二人は言葉を交わすことがあり、似た者同士でそれなりの絆を持った。

 歴戦の勇士であるところも、連邦の在り方に一家言あるところも同じなのだ。

 

 コンスコン艦隊が本国会戦に赴く前、この二人を含む捕虜たちは降ろされ、移送された。

 そしてジオン本国にあるコロニーの一角を使った収容所で過ごしている。そこでは一応強制労働はあったが過酷ともいえない。確かに食事は若干貧相だったが労働時間は守られ、放射性物質などの危険物を扱わされることもなかった。

 耐えられない環境ではないため、捕虜は大規模な反抗やサボタージュを企てることはない。

 中にはジオンの兵器を作らされることに拒否反応を示す者もいたが、決して多くはない。

 サウス・バニングもヘンケン・ベッケナーも連邦に戻りたいとはもちろん考えていても、無理な脱走などは考えなかった。

 

 

 そんな折、本国会戦終了後に新たな連邦捕虜が大量に入ってきた。それだけなら一時的に混乱するだけの話だ。

 

 ただし、とある過激な男が入ってきたことからにわかに騒がしくなる。

 その者は上背があり、態度も尊大で周囲に威圧感を放っている。話すことは徹底したスペースノイド差別主義だ。

 

 名前をバスク・オム中佐という。

 

 

 


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