コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第六話 もう一人の化け物

 

 

 俺はソロモンに入ると直ぐにドズル中将に面会した。

 多少気が重い。

 いや、めちゃくちゃ重い。

 これから俺の苦手な説得という奴をしなくちゃいけないからだ。

 おそらく単純な戦闘よりも難しいことになる。

 

「ドズル閣下、これまでの経過説明は後回しに致します。早くソロモン撤退の算段を。戦線が膠着状態に陥っている今なら、損失を出すことなく遂行できます!」

 

 俺の言葉は、分を超えた意見具申だ。

 本当なら一艦隊司令が言えるようなことではなく、重大な戦略判断のことである。

 それを承知で言ったのは気が焦っていたからだ。

 

 俺は連邦が強大なことを骨身に染みて分かっている。何しろ一回死んだくらいだ。

 連邦はソロモンもア・バオア・クーもあっさり踏みつぶせる数を持っている。しかもその差は時間が経つほどに広がっていく。

 

 しかし、その理解はジオンに薄い。

 上の者は末端の悲惨さを見ないし、末端の者は勢いばかりのスローガンを信じ、中間のものは ーー 現実逃避をする。

 ギレン総帥もキシリア少将も本当には分かっちゃいない。だから終戦間際でも、本国やグラナダに残した戦力で何とかなるだろうなんて、楽観的過ぎることを考えたりもする。

 ジオンは緒戦で勝ち過ぎた。

 だから誰も彼も国力差についての認識が甘いんだ。

 

 とりあえずこのソロモン攻防戦、ドズル閣下を何としても説得し、このタイミングで撤退させなくてはいけない。今なら少しの損害で撤退もできるだろう。

 逆にこのまま継戦していったら、どんどん不利になり損害が増すばかりの悲惨なことになる。

 どんなに善戦に見えたところで連邦の数は多く、いずれは飲み込まれる。

 しかし下手に今の戦況が良ければ、それこそソロモンを捨てて退く判断はしないだろう。猛将であるドズル閣下ならばなおさらだ。

 ここは直球で訴えるしかない。

 

「閣下、重ねて申し上げます。戻る途中で出会った連邦の異常なほど濃い哨戒網といい、部隊移動といい、連邦が既にア・バオア・クーを狙って態勢を整えつつあるものと思われます。ソロモンにこだわるべきではありません」

「分かっている。撤退の方策を練っているところだ」

「ソロモンを死守するのはかえって戦力の分散で…… え? ええーーーッ?? ドズル閣下、今何と? 撤退って本当? 聞き違い?」

「何を驚いているコンスコン」

「い、いえ、少しばかり意外でしたので」

 

 驚いた。だがこれは嬉しい驚きだ。

 ドズル中将は全体像を見て判断している。

 

「連邦は少しばかり混乱しておる。撤退なら今だろうな。統率の取れない相手というのは打ち払うのはたやすいが、逆に未練がましくいつまでも取りすがってくるものだ。切りがない」

「た、確かに」

「まあ向こうは新兵器を潰され、ティアンムも斃されたからな。混乱するのも当然だろうが」

「鏡は潰しましたが、向こうのティアンムが?」

 

 ここでドズル閣下が不思議そうな顔をした。不思議なのはこっちだ。

 

「何を言っているコンスコン。ティアンムは貴様が斃したんだろうが。まったく、この戦いは貴様の一人舞台だ。ビグザムすら引き立て役か」

 

 ええーーーッ!!

 狙ってないですが? まさかの偶然!?

 コンスコン機動部隊が唯一大破させたあのマゼランにティアンムが乗ってたの?

 というよりティアンム、前に出過ぎだろ! ドズル閣下のことは言えない。ティアンムも猛将過ぎる。

 

 もちろん連邦の将を斃せたのは大戦果だ。ただし痛し痒しという面がある。戦いというものは単純ではない。

 これで連邦の動きが混乱し、だらだらと継戦を続けていくかもしれない。

 指揮官が軍をまとめてこそ攻めることもすっぱり退くこともできる。

 その緩急がなくなった相手だと却ってやりづらい面がある。乱戦が続けば大軍に付き合って消耗し、いつのまにかのっぴきならないまで負けているといった事態にもなりかねない。

 ドズル中将はそのことを言っているのだ。

 さすがに俺の尊敬する上官である。

 

「ただし撤退といってもな。下手に追撃されては厄介だ」

「それならドズル閣下、方策もあるでしょう」

 

 

 

 その二時間後、俺は憮然とした顔で艦橋に立つことになる。

 艦は、またチベだった。

 本当ならグワジン級戦艦に乗ってみたかったなーっと思うものの、仕方ない。

 

「貴様にグワジン級を充ててやりたいところだが、ソロモンにはグワラン一隻しか残ってなくてな。済まんが当面はチベを旗艦に使ってくれ。貴様の旗艦は沈んだが、チベの人員はそのままなんだろう。人員が足りなくて残っているチベが一隻あるから丁度いい」

「は、はあ、ありがたく拝領いたします」

「そしてできれば十二隻の中隊にしてやりたかったが、これもまだ無理だ。だがムサイを二隻追加してやる。哨戒中隊のものでな、いや哨戒とはいってもかなりの戦果のある奴だぞ」

 

 グワジン級はただ大きい戦艦ではない。ザビ家の者が座乗することを考え、いろいろ豪華に作られている。無駄に階段を付けて赤いじゅうたんを敷いた広間とか。まるで移動する屋敷のようだ。たぶんスタビライザーも高級で、乗り心地もいいんだろう。それはやはりミネバ様やゼナ様が乗るのにふさわしい。それにビグザムみたいなデカいものを搭載するのはグワジンしかできない。

 

 ともあれ俺が乗るのはまたチベになった。グワジンより快速なので、先手を取って戦う俺には向いているのかもしれない。決して、悔しいわけではないぞ。

 

 しかし俺が今渋い顔をしているのは艦のせいじゃない。

 与えられたクソ任務のためである。

 

 今回の撤退に当たって俺は提案した。

 

「攪乱は必要です。囮を使って目を逸らすのが最も有効でしょう。」

「そうだな。しかし、具体的には」

「閣下、それにはマ・クベ大佐の隊がいろんな意味で適任かと。連邦はきっとマ・クベ大佐なら釣られて行きます」

「キシリアのところのマ・クベか? だがなコンスコン、キシリアの手前もある。わざわざグラナダから応援に来てくれた部隊を犠牲にはできん」

 

 俺の提案は難色を示された。さすがにドズル閣下は人が好い。自分を見捨てるところだったキシリア少将に義理立てするくらいに。

 だが囮としてマ・クベほど適任な者はいない。ここぞとばかりに力説する。

 悪かったなマ・クベ君。今度会ったら壺を褒めてやるよ。ハンカチで拭いてやってもいい。たぶん壊すけどな!

 

「大丈夫でしょう。マ・クベ大佐は小官の見るところ、指揮能力は低くありません。負荷が過大でなければ逃げ切るくらいは可能かと」

 

 そしてソロモンからマ・クベを送り出した。悪辣だがマ・クベであることを連邦にこっそり流す。すると思った通り、食いついた連邦の部隊がある。

 

 

 ただ、それが余りにも予想外だった。

 木馬だったのだ!

 

 なんてこった、連邦の囮である木馬がジオンの囮であるマ・クベを追うとは!

 そしてそれが俺に関わってくるとは。なんでそうなるんだ。

 

「コンスコン、もう一度木馬を追え」

「は? ドズル閣下、今何と? 木馬はこの際無視しても良いのでは」

「木馬を追うのは先の任務の内だ。それに、もしマ・クベが危なくなったら助けろ」

 

 こうして俺はチベ一隻ムサイ五隻の計六隻で木馬を追う羽目になった。

 もちろん木馬と本気で交戦するつもりなんてあるわけない。

 何度も言うが、それは無理なんだ。

 

 

 そしてこの六隻の艦隊を連邦が見逃してくれるはずはなかった。

 ソロモンを出てわずか四時間後のことだ。

 航行中、後方へ一定時間ごとに落としておいた自動索敵ブイから信号が届く。何かが接近中であることを探知した。

 それを基に俺は全天索敵から後方へ重点索敵に切り換えさせた。

 オペレーターの数は有限で、全天索敵ではどうしても粗い。範囲を絞ればより細かく、遠くまで見ることができる。

 こういった戦いでは、追われる方は後背を取られるが探知という面では先手を取れる。

 

 そして見つけ出す。

 

「後方より急速接近中の艦隊があります! 詳細判明、マゼラン一隻、サラミス四隻の五隻!」

「第一級戦闘態勢! 各艦、通信再チューニング後、ミノフスキー粒子散布!」

 

 なるほど、連邦の追撃め、全体戦力ではこちらをかなり上回るか。サラミスはムサイより確実に一段強く、マゼランはチベより数段強い。

 ただし相手が俺だったことを不運に思え。

 俺は女の子に告る以外では負けないぜ! いや告ったことないから不戦敗だけどな!

 

「後方のムサイから順次MSを発進していけ! それが終わった艦から反転しつつ散開だ! 方向は任意で構わん。そして反転後は敵艦隊と等距離を保て。凹形陣を形成し、それを決して崩すな」

 

 頭の中で直ちに艦隊戦の全体像を思い描き、実行に移す。先ずは前方にしか撃てないムサイを考慮するのが優先だ。反転して陣形を作る。

 マゼランを仕留められるかが今回の死命を決する。

 

 俺のチベも反転を始めるが、開始時には振動が盛大に発生する。

 艦体に曲がる力がかかるからだ。艦内フライホイールがスタビライジングを始め、細かい振動は打ち消されていく。ただし、次にかかる強い横Gは打ち消されない。

 反転が終わると、俺は傾いた体をやっとこ起こしながら、次の指示を伝える。

 

「各艦、メガ粒子砲斉射準備! 最初の火力がものを言うぞ。それとMSはどこまで行けた? 敵MSの排除を徹底しろ。こっちに寄せ付けるな。それがうまくいったら敵艦隊の攪乱にかかれ」

 

 

 だがしかし、戦いは俺の予想のはるか斜め上を行かれた。

 

「え? 副官、俺は目が悪くなったか?」

「いえ、たぶん、そんなことはないと思います」

「いやでも……」

 

 俺も驚いているが、副官も口を開けて驚いている。だから見間違いじゃないんだ。きっと。

 

 こっちのドムの中の一機が、一発撃つごとに連邦のジムを確実に墜としていく。

 外れ弾が無い。

 全く一つも無い。

 当然、時間と共に向こうのジムは数を減らすばかりだ。みるみるこっちが優勢になる。

 ありえん。こんな戦闘スコアは異常だ。

 

 ただ連邦MSも馬鹿ではないのだろう。戦術を組み替えている。

 その凄腕を囲んで袋叩きにする気だ。上下左右から迫り、同時に仕掛ける。

 俺は危ない、と思った。当然だ。

 しかし、ドムは残弾のないバズーカを捨て、武装を近接戦用のヒートサーベルに持ち替え、その全てを叩き斬っていく。

 1つ、2つ、3つ、…… 撃墜数が加速しただけだった。

 

 なんだあれは!

 化け物か!

 味方でよかった、と思いつつも震えが走る。

 

 しかしそれは序の口だったんだ。

 

 そのドムは僚機から残弾のあるバズーカを受け取ると、敵艦隊へすっ飛ぶ。しかも、重戦艦マゼランの方へ向かってだ。

 俺は他の戦況も忘れて、そっちへ目が釘付けになる。

 

「拡大観測! マゼランと、あのリック・ドムはどうなった?」

「小爆発あり! マゼラン、機関停止の模様!」

「三分待ち、リック・ドムが残弾を使い切って帰投するのを確認、その後メガ粒子砲を叩きつける!」

 

 三分間の内に、サラミス一隻の爆沈までおまけについた。

 その後の戦闘は一方的だ。MSを喪い慌てる敵の艦隊をメガ粒子砲で片付けていく。敵の追撃部隊は全滅だ。

 

 この戦闘の主役は悲しいことに指揮官の俺なんかじゃない。俺の作戦、艦隊行動などオマケだ。

 主役は凄腕のMS乗りだ。

 何なんだ、こいつは。

 

 

 それは、後に「コンスコン三人衆」と呼ばれることになる。シャリア・ブル、クスコ・アルと並び称されるエースだ。

 

 名を、アナベル・ガトーという。

 

 

 

 


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