そんな個人ごとの伝言はさておいて、シーマ・ガラハウ中佐からの連絡事項に意外なことが含まれている。
俺の艦隊の出撃前に、一つの荷物が届けられていたのだ。
それはマ・クベ少将からのものだったのだが、それについての伝言である。
「ぺズン計画からグラナダが引き継いだ遺産があったのでコンスコン艦隊に贈る。有効活用されたし」
その伝言だけでは何の意味か分からないが、サプライズプレゼントのつもりだろうか。
マ・クベ少将らしからぬ洒落っ気である。
とりあえず包装シートを取ってみて驚いた!
それはモビルアーマーの一機ではないか。エルメスより大きく、ビグザムよりは小さい。形はどちらとも違っている。とにかく流線型のスマートな形なのだ。いかにも高速が出そうに見える。スペックシートを見てみると全くその通りで、突撃性能は高く、おまけに対ビームコーティングが本体に施されているという豪華仕様だ。また、搭載火力は主砲副砲ともMS相手にはオーバースペックなくらい威力があるらしい。
これはかなり強力なモビルアーマーだ。特に要塞を翻弄するのにうってつけではないか!
名をヴァル・ヴァロという。
さっそく使ってみよう。
先ずはこのモビルアーマーのパイロットを選定する必要があるが、一人だけ心当たりがある。
以前ガトーから紹介され、カーラ・ミッチャム教授の手術を受けた男だ。
ケリィ・レズナーという。
腕の麻痺は手術の甲斐あって回復してきている。ただし、さすがに負傷する前のMSを自在に操っていた頃のようにはいかない。ならばこのモビルアーマーが適しているのではないか。
本人に打診してみよう。
「ケリィ・レズナー大尉、このモビル・アーマーのパイロットをやってみる気はないか。以前ビグロというモビルアーマーに搭乗していた記録があったが、このヴァル・ヴァロはそれよりはるかに高性能だ。興味があるだろう」
「興味! コンスコン司令、興味なんてもんじゃない。俺をパイロットに戻してくれるのか。それなら、それなら本当に感謝する」
こちらがびっくりするほど大喜びされた。それほどパイロットに復帰したかったのだろうな。
「ならば決まりだ。ケリィ・レズナー大尉、貴官をヴァル・ヴァロのパイロットに任命する。この大きさのためチベ一隻を専用にせざるを得んが、行動はガトーのMS隊に加わってくれ」
「はっ! コンスコン閣下!」
ケリィ・レズナーという男、やはりガトーの戦友というだけあり、武骨で実直な人間だ。おまけにイケメンではないか! 癖のある金髪と筋肉質の体がまた合っている。パイロットに筋肉が必要かどうかは分からないが…… とにかく俺のぷよぷよ腹とは違うよ!
ケリィ・レズナーはあっという間にヴァル・ヴァロに乗り込み、ちょうどそこへガトーからの通信が映される。
「どうだ、ケリィ。再び轡を並べて戦える日が来たな。俺は嬉しい」
「ああ、俺もだ。俺はやはりパイロットだ。それにしてもガトー、お前はこんなところにいたんだな。あのコンスコン司令の下に」
「そうだ。コンスコン司令は必ずジオンの栄光を永遠のものにしてくれると信じている」
この後に行われたソロモン攻略戦において、ケリィ・レズナーの乗るヴァル・ヴァロは特筆すべき戦果を挙げている。
「ヴァル・ヴァロだ!」
そう言って突撃する度、連邦の砲台かMSを血祭りにしないではおかない。
やがて始まるソロモン攻略戦、結論を言えば成功した。
ソロモン周辺宙域における艦隊戦は、問題なく圧倒した。
連邦艦は四十隻近い数だったが、こちらはそれを充分に上回り、内容的には更に上だ。結果的に戦力が二倍どころではなく違うのだから当たり前だ。砲撃戦でもMS戦でも理想的な戦いができる。
海兵隊もシャアの隊も、もちろんこちらのガトー、ツェーン、クスコ・アルも活躍している。新兵の多いシャリア・ブル隊は直掩に残した。今回初めて分艦隊に用いたデラミン准将はやはり堅実で、相手の突進を抑え込む防御に妙があるのを発見できたのは幸いだ。
そして力の差を思い知った連邦は早々とソロモンに引き戻った。
「あはは、よりどりみどり、片づけまくるさね! 小娘ども、こんな真似ができるかい!」
などとシーマ・ガラハウ中佐が言えば、
「次ッ、ほら次ッ、始末するわ! こんなはっきりした勝負に持ち込んでくれたのは上等、見てなさいよ!」
と言いながらツェーンも、そしてクスコ・アルも鬼気迫る戦いをしている。
本気だ。
シーマ・ガラハウ中佐も余裕で挑戦状を叩きつけたかのようだが、その一方で乗りなれたゲルググ・マリーネから少しでも性能の高い試作改良型ガルバルディに替えているのだから周到である。指揮官を長くやっていただけのことはあり、案外と策士な一面があるらしい。
だが結果は皆が渋面を作ることになる。
肝心の戦果、撃墜数で見ればそんな各人の違いより、明らかにララァのエルメスが上だった! 段違いに高いNT能力の結果だ。
これと比べるのは残酷だろう。そのため、勝負的なことが立ち消えになったのは良いことだ。お門違いの勝負をして相手の心を折ろうとしたシーマ・ガラハウも、それを返り討ちにしようと意気込んでいたツェーンとクスコ・アルも拍子抜けだ。
しかし順調なのはここまでだった。
予想外の苦労がここから待ち構えていたのだ。
ソロモンに近づくにつれ、周辺岩石に設置された浮遊砲台の弾幕が濃くなる。こんなところで損害を出したくない以上、MSを近付けさせるのはリスクが大きい。
ましてエルメスはこの場合無力だったのだ。
エルメスの大きさからくる物理的な問題は如何ともしがたい。つまり、いくらNT能力で先読みができても、弾幕が一定以上濃くなれば避けることはできず、必ず被弾してしまう。これは意外な弱点だった。
先ずは艦砲を使うか、それこそヴァル・ヴァロの主砲で岩石ごと吹き飛ばして砲台を沈黙させなくては話が進まない。
「くそっ、勝手知ったるジオンの要塞、地の利があると思ったのは間違いだった。連邦が鏡の兵器で広範囲制圧を狙った気持ちがよく分かる」
それでも単に攻略するだけなら充分可能で、多少時間がかかるだけの話で済む。
しかしそれではいけない。
いつソロモンの連邦軍が全兵で撤退するため一気に発進してくるか分からない。連邦はジオンの動員した戦力を見て、ソロモンを守り切れないと悟っただろう。それなら死守せず、ア・バオア・クーと同様にソロモンを放棄するのは自明だ。
ジオンはできる限り素早く内部にMSを入り込ませ、その一斉撤退を妨害する必要がある。でなければ綺麗な撤退をされてしまうではないか。一番まずいのは、砲台の破壊に時間がかかって、連邦に準備万端の時間を与えてしまい、ようやくこちらがMSを突入させたタイミングで一斉にソロモンから脱出されたら最悪だ。
ん、いや待てよ。連邦としては当然それを狙っているはずだから……
俺はゆっくり確実に浮遊砲台を叩く。
頃合いを見てMSを一度に発進させ、ソロモンに突入させる。
その十分後、予期した通りソロモンから連邦の艦艇がありったけ出てきた。
「やはりか。連邦め、かかったな! こちらがソロモンにかかりきりになったと思っただろう!」
ここで俺は全てのMSに命じる。
「全機、ソロモンから飛び出て連邦艦を追え! 足で跳ねて行け! グズグズすると連邦艦が加速してMSでは追い付けなくなる」
はっはっは、俺は欺瞞を仕掛けたのだ!
MSをソロモンに突入させた際、制圧にかかるフリをさせた。決して内部に入り込まず、姿を隠すだけで直ぐに飛び出られる態勢に準備させておいたのだ。どうせソロモンは無人になっているだろうから造作もない。
連邦は、ジオンMSがソロモンを制圧すべく中枢目指して内部を深く進み、簡単には出てこれないと考えただろうが。
ジオンMSの群れが脱出した連邦艦に迫る。
長く加速すれば艦の方がMSより速くなるのは当たり前だが、短時間の機動力ならMSが上である。これで後背にMSの大群を受け、連邦艦としてはあまりにも絶望的な態勢になってしまう。もちろん連邦にも直掩MSはまだまだ残っているが、戦場をできるだけ早く離脱しようとしている以上、うかつに出すわけにもいかない。
その一方、俺は艦隊を指揮して連邦艦隊の頭を押さえにかかる。先回りし、ティベの主砲の射程に収めた。
勝負ありだ。
もはや連邦艦隊は詰んでいる。俺は撃滅ではなく降伏させるのが狙いなので、まだ撃たず降伏を勧告する。
しかし連邦艦隊は降伏に応じなかった。やむを得ず俺は威嚇の一連斉射を仕掛けたのだが、何を血迷ったか反撃してきたではないか。そこで俺は敢えてガトーやカリウスを前面に出し、おまけに赤いゲルググJで出ているシャア少将にまで要請し、敢えて連邦艦隊に見せつけるような動きをしてもらった。要するにジオンのエースパイロットの勇名を利用して心を折る。
ついに連邦艦隊の抵抗は尽き、降伏の受諾を伝えてきた。
思わぬ反撃によって少しは取り逃がしてしまったものの、残り二十五隻に及ぶ艦艇と人員、そこへ満載されていたソロモンとア・バオア・クーの守備兵、計三千もの将兵を手に入れる。
過度に破壊することもなく、連邦兵の大半を捕虜にするというオマケ付きでソロモン攻略戦は完遂だ。
ソロモンは再びジオンのものとなった。
しかも、これで宇宙における連邦の拠点はルナツーだけになってしまったのだ。ジオンの勢力圏は、ルナツー及び中立のサイド6周辺宙域以外の全てに及ぶ。
さて、次のジオンの手は捕虜交換とそのために発生する謀略戦だろう。
俺の出番はない。あるはずがない。
あくまで現場指揮官が俺の本領だ。そういうことは餅は餅屋、謀略の得意な人間に任せておけばいい。
そう思っていたのは甘かった。
否応なく謀略戦に巻き込まれる羽目になった。
しかも、俺でなければならないという理由付きで。