コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第六十五話 知らぬが仏

 

 

 その一方、宇宙の違うところでは短くも激烈な戦いが展開されていた。

 ソロモンから脱出してきた連邦艦の撤退支援のため、やはりルナツーから艦隊が来ていたのだ。

 指揮はもちろんこの男である。

 

「…… ステファン・ヘボン君、作戦には重大な齟齬があったようだ。ア・バオア・クーから撤退させ、ソロモン要塞に合流させたのは、より大きな戦力にして安全に退かせるためだった。それなのにまたも要塞に籠ってしまったのでは何の意味もない。ジオン側の準備ができる前にソロモンを諦め、さっさと退くべきだった」

「それはそうですが、閣下……」

「特にソロモンにやってきたジオン軍はコンスコン大将らしい。コンスコン大将なら、半端なことをするはずがない。やれやれ、私の指示が甘かったようだね」

「ワイアット閣下、結果として、どちらの要塞の守備兵も助けられなかったのは残念です。しかし最悪というわけではなかったではありませんか」

「確かに君の言う通りだろう。この少数だけでも救えるのは幸いだ。ソロモンで少しは戦ってくれたおかげで、私が間に合ったとも言えるのだから。しかし、悔しいね」

 

 

 ソロモン宙域から連邦艦が十隻近く逃げ出し、ルナツーに向かう途上にあった。

 それをデラーズ艦隊とカスペン技術大隊が捕捉したのだ。直ちに追跡にかかる。

 

 ほとんど同時にグリーン・ワイアットの連邦艦隊も到着したのだ。

 

 ソロモンからの脱出艦隊を巡り、一方は阻止するため、一方は支援するため対峙することになる。

 ここにいるジオン側艦艇は計四十隻程度、連邦側は脱出してきた艦艇を戦力に入れずとも五十五隻だ。これはルナツー駐留連邦艦隊の1/3にもなる。

 先の本国会戦で敗け、ルナツーへ命からがら逃げ込んだ連邦艦は結局百隻以上あったが、後から来たものほどボロボロだ。結果として状態のいい六十隻を除いて廃棄せざるを得なかった。損傷艦を下手に大規模修理をしたのでは、新しく造るよりもコストが高くつくからである。つまり本国会戦で連邦が被った被害は最終的に甚大なものになっていたのだ。

 その残った分だけが元からのルナツー駐留艦隊四十隻と合流している。

 だがそこから連邦は恐るべき工業生産力を活かし、次から次へと地球から新造艦を送り届け、再び数が膨れ上がってくる。今、このルナツー周辺だけでもジオン全軍より多いくらいだ。フォン・ブラウンを失ったのは確かに大きな痛手になり、生産ペースに陰りが見えるようになったものの、連邦はジオンと比較にならない底力を持つ。

 そして今回、ワイアットは単一作戦行動としては破格の動員をしている。残兵を綺麗に収容するためには大兵力を用い、可及的に速やかに行うのが一番、そのセオリーを守ったせいだ。

 

 グリーン・ワイアットはこの戦力差と自身の戦術能力の自負により負けはないと踏んでいる。

 

 だが一方、ジオンのデラーズも敵味方に闘将として知られた男だ。

 あっさり尻尾を巻くことはない。

 

「せっかくコンスコン大将がソロモン攻略戦を成し遂げたのだ。それをジオンの完勝にできるかどうかの瀬戸際、儂が何もせず引き下がれるか」

 

 兵は拙速を尊ぶ。

 それを知るデラーズは下手に戦術を検討して機を逃すのではなく、直ちに激烈な砲火とMS展開を仕掛け、先手を取る。

 

 このデラーズ艦隊に呼応し、カスペン技術大隊からもMSが発進していく。

 

「連邦め、調子に乗ってんじゃないよーーーッ!」

 

 どちらが調子に乗っているのか分からない。

 技術大隊も、もう慣れたものだ。アクト・ザクを駆るキャラ・スーンのメチャクチャな高機動とその度を越したハイテンションには。

 

 

 戦闘は激しい。だがしかし、戦局としてはまるで動いていなかった。いかにジオンが猛攻を仕掛けようとも連邦の艦列に隙はできず整然としたままだ。防御陣は乱されるやいなや綺麗に修復され、崩れるところを見せないのだ。

 艦隊がそんな状態にあるため、理想的にコントロールされた対空砲火に牽制されてジオンMSはあと一歩対艦攻撃に届かない。

 更にMS同士の戦いもまた一進一退、均衡は崩れそうになかった。むしろ対空砲火に誘導されたジオンMSに撃墜が相次ぐ。

 実のところそれも予想外である。

 ジオンのMSはやっとガルバルディの量産が進み、主力機としての位置にいる。もうドムやザクは脇役に押しやられた。そのために全体としてMSの性能は上がり、連邦の新鋭機ジム・スナイパーⅡに対しても優位を保っているはずなのに。

 確かにジム・スナイパーⅡは強力かつ高精度のビーム兵器を持ち、おまけに俊敏さも兼ね備えたMSかもしれない。だがガルバルディはパワーと防御力に優れた傑作機である。

 

 

 デラーズは膠着した戦況に苦渋の決断をすることになった。無理押しは長く続けられない。歴戦のデラーズには均衡の裏に見えるものがある。今はいなされて若干の距離を取られ、どちらにも大した損害はないが、いずれはこちらに損害が増えるばかりになる。

 

「無念だが、仕方がないか。連邦にはまだ余力があるようだ。消耗戦にするわけにいかん」

 

 そう言いながらデラーズは後退に転じるよう命じた。

 それに対しワイアットもまた追撃などすることなく、ソロモン脱出艦を収容すると綺麗に引き下がった。

 

「ステファン・ヘボン君。ジオンにも人材はあるものだね。先ほどのは結構な猛攻だったよ。もう少し続けば私も涼しい顔をしていられないところだった」

「閣下、ご謙遜を」

「まあね。ともかく作戦は終了、こちらも欲張ることはなく、ルナツーに戻ろう」

 

 

 砲火が収まり、誰もが安堵する。

 しかし一部の人間にそれは当てはまらない。カスペン技術大隊の解析部にはまだ仕事が残っている。

 妙なデータがあるのだ。

 先ほどの戦闘で、連邦軍のMSはジム・スナイパーⅡを主体とし、少数のジム・コマンドを加えて成り立っているはずだった。

 

 しかし、それに当てはまらないMSの存在が示唆されているのだ!

 

 この戦闘に技術大隊が加わっていたのは幸いなのか不幸なのか、だからこそ見つけられたかすかなデータだった。

 恐ろしい想像をすると、連邦はジム・スナイパーⅡに飽き足らず、早くも新型機を開発したのかもしれない。その先行タイプを実戦テストしている可能性がある。

 

 解析結果が出た。担当していた技術大隊モニク・キャディラック特務大尉がそれを知り、慄然とする。

 

「ああ、そ、そんな…… 本当に、連邦のMSに新型がいた…… 」

 

 まさかそんな、嘘だと思いたかった。

 しかしこれは現実、めまいがするような衝撃を受けた。

 

「し、しかも、二種類も……」

 

 

 

 俺はソロモン攻略の後、いったんズム・シティに戻った。

 その後腰を落ち着ける間もなく、何とサイド6への航路にいる羽目になった。乗っているのはもちろんティベだが随伴するのは他にチベ三隻だけだ。

 

 捕虜交換を連邦政府が受諾した。

 

 そして、水面下で協議された結果、その捕虜交換は中立コロニーであるサイド6で行われることになったのだ。これはどちらにも受け入れられる結果である。ジオンとしてはもちろん地球表面での捕虜交換は論外であり、のこのこと降下することはできない。かといって連邦としてもジオン制宙権下の宙域で行うのは認められない。

 必然的に数少ない中立地帯であるサイド6を使うしかない。

 それに先立ち、調印式もまたサイド6で開かれる予定である。これはテレビ中継もされる大々的なセレモニーになる。なぜなら格好の政治ショーになるからだ。南極条約以来、連邦とジオンでこういった接触はなく、嫌でも注目を集めるだろう。

 

 調印式に地球連邦からゴップ大将が出席するとの通達が来た。他にも随伴する将がいる。しかし逆に言えば軍部の者しか来ず、政府高官が含まれているわけではない。これはおかしなことで、おそらく彼らは宇宙に行くのを怖がって逃げたのだろうと推測が付く。

 まあ連邦の都合のことはさておいて、とにかくバランス上からいえばジオン側も大将クラスが調印しないと格好がつかない。

 当然こちらはキシリア閣下が出席するはずだった。地位が大将であるということの他、政治ショーならキシリア閣下しかいないではないか。微妙な呼吸を読んでの駆け引きなどは常人にはできない。

 しかし不思議なことにキシリア閣下は別の用事があるとのことで来られなくなった。

 

 結果的に俺にお鉢が回ってきたというわけだ。適材適所などまるで無視、大将という地位のためにこんな似合わない任務をするとは……

 もうさっさと済ませたい。

 

 

 後から思えば、俺はこの時もっと考えるべきだったのだ。

 

 キシリア閣下がこの最重要のセレモニーに来ることができないほどの用事、それほど重要な用事が何かということを。

 

 

 

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