コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第六十六話 セレモニー

 

 

 平和への第一歩とも受け取れるこの捕虜交換調印式、連邦側を刺激しないよう俺は最小限の艦数で来ている。

 それは必要だ。

 ただ調印すればいいというのでなく、ジオンの礼節を見せよう。

 そもそも地球連邦はジオンを独立国家と認めていない節がある。勝手に辺境が蜂起し、挙句の果てに開き直り、国と名乗っているならず者集団とでも感じているのだろう。悪くすればコロニー住民を洗脳して手先に使うテロリストと思っていても不思議ではない。国と名乗れば対国家間の話になり、悪行を糾弾されずに済むという姑息な計算をした悪党という見方もできる。

 ここはジオンもまたきちんとした礼儀を守る集団という印象を与え、少しでも信用を得るべきなのだ。

 

 艦が少ないといっても、俺の護衛としてはガトー以下最高のメンバーが一緒なので実際の戦闘力に不足はない。もしも万が一連邦が騙し討ちを企んでも返り討ちにしてやれると思えるメンバーなのである。実際にはそんな事態にはならないだろうが。

 

 

 さてティベが進み、サイド6宙域に入ったところで意外なところから待ったがかかる。

 

「ジオン公国重巡洋艦に告げる。こちらはサイド6宙域管理局。捕虜交換調印式に向かうコンスコン大将の艦隊と見受けられるが、どうか」

「いかにもそうだ。入港許可を求める」

「では監察官として私カムラン・ブルーム監察主任の同乗と、決められたルートのみを通るため、水先案内に従うことをお願いしたい」

 

 おや、とは思ったが俺に否はない。

 素直に従い、ティベにカムラン・ブルームという監察官を乗せる。無線のやり取りではいかにも居丈高だったが、実際会うとメガネをかけた気弱そうな若者だった。おそらく侮られないように敢えて気を張って話をしていたのだろうか。

 

「監察官、以前はこんな手続きは必要無く、ジオン軍艦でもコロニー宇宙港に直接入れたように思うのだが」

「おっしゃる通りですが軍用艦には厳しく保安対策が強化されましたので。万が一にでも核のような広範囲殺傷兵器がコロニーに持ち込まれてはなりません」

「なるほど、核か…… いや、そういう心配があることは理解した」

「一応お伝えしますが、連邦艦にも同様の処置をお願いしています」

 

 案外と丁寧な監察官に、少しばかり聞いてみたいことがあった。

 

「連邦とジオンを同等に扱っているという理解でよろしいか。しかし、以前はどちらかというとサイド6はジオンへ友好的だと思っていたが、それは違うのだろうか。同じスペースノイドの立場としてのよしみがある。ジオンのために、例えば、艦船修理のため浮きドックを提供していたはずだ」

「政治的な話は避けてもらいましょう。私が話せるのは、入港の監察においては連邦もジオンも平等に扱うという事実のみです」

「分かった。サイド6がこのまま中立を保つのもいいだろう。逃げ場のないコロニーで戦いに巻き込まれるのは悲惨だからな。特にサイド6のコロニーは大きな湖を持っていて、宇宙で一番豊かに地球の生態系を再現していると聞いている。白鳥さえ飛んでいるとか」

「ええ、それはもう! 美しい湖はこのコロニーの自慢です」

 

 俺は監察官の言葉から、コロニー愛というべきものを感じ取った。ここに住んでいる者もまたふるさとに愛着を持っているのだ。

 

 もう一つ分かったことがある。おそらくサイド6の上層部は以前のジオン寄りの立場から中立に移行しているのだろう。連邦とジオンの力関係を敏感に感じ取り、ジオンが地球から叩き出されたことで立ち位置を変えているのだ。それは理解できる。誰しも負け組に入り、とばっちりを受けたくはない。

 しかし俺はこのことをむしろプラスに捉えた。

 ふらふら立場を変えるなら、逆にジオンが優勢になればまた擦り寄ってくるに違いない。下手に首尾一貫しているよりよほど見込みがある。いずれジオンがこのサイド6を味方につけなければいけない時がやってくるのを考えればその方がいいのだ。

 まあ、先ずはジオンの優勢を見せなければ話にもならないし、それが一番難しいのだが。

 

 

 

 さて、入港し一日置いてセレモニーだ。有名な湖も白鳥も見そびれた。

 

 逆に、今見えているもの、それはやや太り気味の老人である。

 ゴップ大将だ。

 連邦軍の補給や生産を一手に担い、後方業務のカリスマとも呼べる人物である。事実上、ゴップ大将がいなければ連邦軍は回らないとされている。もちろん、連邦側の戦略策定にも関わっている。

 その横にがっしりした体形の将、ジョン・コーウェン中将と紹介を受けた者がいる。俺は先のグラナダ攻略戦に参加していないために顔を知らなかった。ジョン・コーウェンはグラナダで一時ジオンに捕らえられたが、捕虜交換とは別に既に外交ルートを通じて引き渡されていたのだ。

 セレモニーが始まり、俺はそれらの連邦の将と真向かいにいる。

 

 こちらは俺とデラミン准将である。連邦よりちょっと見劣りする気がしないでもないが、こんな形ばかりのセレモニー、さっさと調印して済ませれば問題ない。

 

 他の随員も見ないことにしよう。

 こちらには護衛のガトー、ケリィ、クスコ・アルも同席しているのだが、連邦側の随員はもっと多い。おまけにこの場にはサイド6の高官もいるため、いちいち覚えていられない。

 サイド6で一番大きいホテルの広間で行われていたのだが、隙間なく人がいる。

 

 クスコ・アルなどはやはり場違いなところにいるせいか落ち着きがない。

 ガトーは微動だにせず、連邦の将を前にして眼光鋭い。さすがだ。

 俺はといえば調印とか握手とか慣れない作業をするのに必死である。俺がビビり症だというわけでなく、誰でもこうなる、と思いたい。しかし、アップにされているだろう調印の指先が震えて見えないか心配、とまで思うのは我ながら小物だと思う。

 

 

「コンスコン大将、高名な貴官に会えて光栄に思っとる。先の本国会戦の作戦立案者と聞く」

 

 ようやくそういった作業を済ませ、天井のでかいシャンデリアを見ながらぼーっとしていると、ゴップ大将から話しかけられたではないか。

 

「いえ、こちらこそゴップ大将に会えて光栄です。ジオンを戦略で苦しめる立役者であるゴップ大将、お手柔らかに願いたい」

 

 それだけで、別に中身のある話をすることもない。お互い形ばかりのセレモニーでたまたま会っただけだ。

 調印自体はすぐに終わり、次に空虚な謳い文句が続くが、聞き流せばいい。どうせ実務の話し合いはついている。

 

 ジオン側から一万四千人の連邦捕虜を引き渡す。これは主にヘンケン・ベッケナーらを含むジオン本国の捕虜収容所にいた者たちだ。それに加え他の捕虜収容所の者、そしてソロモン攻略戦で得た捕虜、おまけにレコア・ロンドなどのグラナダで捕虜待遇とされていた者を合わせた数字である。

 これとぴったり同数のジオン捕虜が帰還してくることになる。

 捕虜の数自体は、今でも連邦に囚われているジオン捕虜の方が少しばかり多いので、連邦が揃えるのは簡単だろう。

 初めから急戦を選択したジオンは地球表面に戦線を拡大し過ぎ、そのあげく取り残されてしまった兵が多いからだ。結果的に捕虜になってしまう。もちろん、そればかりではなく今も抗戦し続けている者たちがいる。ジオンのために奮闘し、主にインド洋からアフリカ方面に合流しつつ戦っていると聞いた。

 とにかく、捕虜交換が済めばジオンはかなり強化されるだろう。残念なことに引き渡せる連邦の将官が豊富ではないためジオン将官級の返還は望めないのは仕方がない。

 逆に佐官クラス、尉官クラスについて言えばジオンが引き渡す分だけ連邦もまた相応の者を用意したことが渡された名簿で分かる。連邦はあまり姑息なごまかしをするつもりはないようだ。俺はそれを連邦の誠意と見た。

 

 捕虜の受け渡しはどちらにもリスクがないように考えられ、引き続きサイド6を使いながら少しずつピストン輸送されるはずだ。

 

 

 

 セレモニーは済んだ。

 だが俺はすぐにサイド3へ帰る、というわけにいかなくなった。ティベに戻って出発しようとした瞬間、ドズル閣下から通信が入ったせいである。

 

「おおコンスコン、ようやくティベに戻ったか。いやなに、サイド6が盗聴する可能性があるのでな、ホテルの方へ通信をするわけにいかなかった。ティベなら安心だ」

「それはドズル閣下、用心に越したことはありません」

 

 ドズル閣下らしからぬ用心深さだな、と少し驚いたが、通信画面を見れば納得がいった。

 画面にはキシリア閣下も映っていたのだ。

 ティベに戻るまで待つようにしたのはキシリア閣下だろう。

 それはそれでなぜその二人が並んで俺に通信をよこしたのか謎だ。しかも、それほどまで用心深くしなくてはならず、俺がサイド3に帰るまで待てない用件とは。

 

「それでドズル閣下、どういったことで……」

「用件というのはだな、コンスコン、ジオンを裏切ってはくれないか?」

 

「はあ? え? えーーーーッ! そ、それはいったい何を、ドズル閣下!!」

「何を驚くコンスコン。あ、いや済まん済まん。言い方が悪かった」

 

 俺はあらゆる意味で驚いた! いやもう驚いた!!

 ジオンを裏切る?

 いったいなぜ、この俺が?

 しかも敬愛するドズル閣下がそれを言ってくるとは! おまけに当たり前のように言っているではないか。

 

 俺があまりに混乱して二の句が継げなくなっていると、画面の隅にいたキシリア閣下が険しい顔をして、おまけにドズル閣下に思いっきり体当たりしてどかした。

 さすがのドズル閣下も画面から消えていく。痛くないか。

 今度は画面の中央に立ったキシリア閣下が言う。

 

 

「しかしここまで…… ドズルの兄者は説明が下手だとは思っていたがこれほどとは…… やはり最初から私がしゃべるべきだった。コンスコン、今の意味について説明しよう」

「は、はあキシリア閣下、よく分かりませんがお願いします」

 

「コンスコン、この捕虜交換で連邦から工作員が紛れ込んでくるのは避けられない。それはお前も分かるだろう。まあ、だからこそ連邦は捕虜交換を受諾したのだろうからな」

「それはそうでしょう。連邦も間抜けばかりではなく、この機会を狙って工作員を送ってくるでしょう。残念なことに大勢の中から工作員を見分けるなど事実上不可能ですから」

「もちろん逆もまた考えている。情報戦だ。抜かりなくジオンからも工作員を送り込む。ただしそれはスパイとしてのもので、連邦政府をひっくり返そうというものではない。そこまでの工作はさすがに不可能だ」

 

 俺にも少しずつ分かってきた。キシリア閣下の考えというものが。

 

「ただし、連邦としてはジオンをひっくり返そうとするだろうな。きっとそうするだろうことには確信を持っている。独裁体制を倒す方がその逆より楽だ」

「実際、それを行うには……」

「もうお前なら分かるだろう、コンスコン。連邦側はザビ家でないお前に接近し、取り込み、ジオンに反乱を起こさせようと企むに違いない」

「なるほど……」

「お前は戦術家として名が売れている。それこそ、お前が自分で思っているよりずっと大きく。もちろん評判通りの実力を持ち、指揮下に置く戦力も多い。おまけに反乱を起こす大儀名分を作るのは簡単だ。連邦と和平をしてサイド3を発展させるとでも言えばいかようにも名目が立つ」

「それはまあ……」

「連邦側は反乱が成功しても失敗してもどちらでもいいのだ。ジオンが弱体化すれば何でもいい。本当に連邦にとってはノーリスクでおいしい作戦だろうな」

「……」

「だから囮としてサイド6に留まれコンスコン。そして返り討ちにするのだ」

 

 

 ややこしいことになったなあ。

 だが、キシリア閣下の話はこれで終わりではない。続く話こそキシリア閣下ならではの本当の謀略だった。

 それは思いがけず、ジオンの暗部へとつながっていたのだ。

 

 

 

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