コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第六十八話 宇宙はカレイドスコープ

 

 

 そういうわけで俺はいつまでもドズル閣下の下で働くのだ。

 俺がしばしそんなことを考えていると、キシリア閣下の話はもう先に進んでいる。

 

 そこから紡がれた言葉もまた、驚くべき内容だった。

 

「ところでコンスコン、連邦がなぜジオンの独立を許さないか考えたことがあるか」

「えっ、そ、それはもちろん、ジオンが独立するため、戦争を仕掛けてきたからでは……」

「そう思うか。私の考えではそれは結果に過ぎない。順序が逆だ。連邦の方がずっと以前から、ずっと根深く、ジオンを許さなかった。その理由はありていに言えば社会構造の問題だ」

「しゃ、社会構造……」

 

 いきなり何だろう。オウム返しになるのは俺でなくとも当たり前だ。

 キシリア閣下の話は飛び過ぎていてついていけない。

 戦争の理由だって? 一体何の話になるのか。

 

 

「そうだ。宇宙に移民が始まった初期、フロンティアといえば格好良いが、実態は過酷だった。地球は余った人口を宇宙に追いやったのだ。文字通りの棄民、宇宙に捨てた。その時に生じたわだかまりが今日にまで引きずられ、スペースノイドの潜在的な恨みになっている。しかし私はそれを話したいのではない。もっと直接的なことなのだ。移民の混乱から格差というものが生じてしまった。それはコロニー発展の陰でさらに拡大されていき貧富の差はどんどん広がっていった。そして固定化され、最終的に特権階級というものが誕生し、それが今日まで引き継がれてきた」

「……」

「それはサイド3に限った話ではないが、一番はっきりしていたのはサイド3だ。その特権階級の中でも突出した地位と権力を持つ六つの家がある。具体的に言えば我がザビ家と、その他にラル家、カーン家、サハリン家、セロ家、トト家、この六つだ。実質的にこの六大家がサイド3に君臨していたといってよい」

 

 そう、ジオンの社会体制は歪み切っていた。

 この階級社会は、何か大きな物事でもない限り是正できないほど根強く。

 それは俺も聞くまでもなく分かっている。

 

「お前もよく知っている通りだ。そしてそれを嫌っていたはずだな。コンスコン、いやコンスコン・セロ」

「!」

 

 

「皆はコンスコンと呼び、あたかもコンス・コンであるかのように誤解している。いや、させられている。だがお前の名はコンスコン・セロ、名門セロ家の者だ。それどころか次期当主の地位にいた。しかしお前は何を思ったかその座を弟に譲り、あっさり家を捨て出て行った。その後まもなく士官学校に入ったのだったな」

「確かにそうですが……」

「誤解してほしくないが、そのことを咎めようというのではない。咎めるべき理由は何もない。私だって偶然に知ったのだ。実はお前とは別に、同じように名を捨てた者がいるのだが、その者の行方を辿っていくうちに知っただけだ」

「……」

「ついでに言えばお前は家柄の重みと階級社会に嫌気がさしてそんな無謀なことをしたのだろうな。私の勝手な想像だが、そんなに外れてはいないだろう。まあその気持ちは分からんでもない」

 

 ここでそんな話になるとは思わなかった!

 俺自身の話とは思わず冷や汗が出る。

 

「ドズルの兄者は知っていたんだろう。たぶん、家柄が何だというのか、お前はお前だ、それでいい、とでも言ったのではないか? ドズルの兄者の言うことなど容易に想像がつく。皆がコンスコンとしか呼ばなくなったのも兄者の配慮かもしれない。私には理解できないことだが、男の友情、とかいうものなのだろうな」

 

 ドズル閣下はキシリア閣下から顔をあさっての方に向け、目を泳がせている。口笛を吹かないだけマシかもしれない。

 それはともかくキシリア閣下の言うことは当たっていて、ドズル閣下はまさにその通り、生まれなんかよりどういう人間になりたいかの方がはるかに重要だと言ってくれたものだ。

 

「繰り返し言うが、それが悪いと言ってはいない。だがな、一言言っておきたい。個人的な忠告というやつだ、コンスコン。出自というのは自分が思った以上に付きまとって離さないものだぞ。宿命というのは、重く、抗えない場合が多い」

 

 キシリア閣下の声は、最後の方で思いのほか沈んでいる。

 

 まるでその運命というのが自分について言った独り言のようだ。もちろん、高慢で陰湿だったセロ家なんかの比ではなく、ザビ家に生まれた宿命というものがどれほどのものか俺の想像の範疇にはない。

 しかし、キシリア閣下は自分の中に沈みかけた思念を振り払い、言いたかったことの核心へと話を紡ぐ。

 

 

 

「お前についての話はここまでだ。次に進めよう。連邦はジオンの階級体制をずっと苦々しく思い、いつか手を入れ、御しやすいように作り替えようと考えていたろう。その証拠など言うまでもない。考えてもみろ。連邦は軍組織を作っていたが、多数の宇宙艦を備え、明らかに地球向けではなく宇宙移民に向け着々と準備されていた。その上、コロニーに駐留していた連邦軍の大半はサイド3に置かれていた。これはおかしなことではないか。確かにサイド3には先端工業が置かれ、それなりの力があるのは確かだが、サイド1やサイド2の方が古くてずっと人口も経済力も上だろうに。これはサイド3を狙い撃ちするつもりだったと考えて間違いない」

 

 キシリア閣下の話は壮大になってきた。

 確かに連邦は、ルナツーを除けばサイド3に最も規模の大きい兵舎や輸送基地、そして武器庫を置いていた。ガルマ・ザビとシャア・アズナブルの暁の蜂起はよく成功したものだ。

 

「連邦はサイド3をひっくり返すか、潰すか、どちらかをやると決めていた。今回の戦争はジオンが仕掛けたものだが、タイミング上そうなっただけで逆になってもおかしくなかった。いずれ戦争は起きるものだったのだ。そして大事なことを言うが、戦争はジオンの社会体制を連邦が許容できるようにしなくては終わらない。今はもちろん連邦はジオンに勝って完全占領をしてから作り替えるつもりだろうが、しかしそれ以外なら、つまり戦いで多少勝とうが負けようが和平にはならない」

「…… そ、それでは、いったいこの先どうすれば……」

「そう、ジオンが例え優勢になっても連邦は和平のテーブルに着くことすらないだろう」

 

 

 キシリア閣下は、このままでは落としどころが無いと言っているのだ。

 頑張ってジオンを優勢にしようとしている俺や将兵たちには救いのない話である。もちろん逆に連邦を完全占領してやれば問題ないのだろうが、そんなことは戦力的にも人員的にも考えられない。かつてジャブローまで攻め込んだのは超短期戦だったからで、再び繰り返せるはずもない。しかもそれでも連邦は和平など言いはしなかった。

 戦争はどちらかが消滅するまで戦うのは現実的ではなく、どこかで手打ちにすべきなのに、それができないのか。

 しかしキシリア閣下の言うところは何ら矛盾がなく、否定のしようがない。

 

「戦いを始めるのも政治、終わらすのも政治だ。市民感情的に地球の者どもはジオンを相当恨んでいるだろう。ブリティッシュ作戦の傷跡はあまりに深く、ジオンはやり過ぎた。しかしそんな感情が和平への最大障害になるのではない。政治はあくまでも連邦政府の高官が決めることであり、奴らには末端の者の犠牲も感情もどうでもよく、思想や体制といった物の方が大事なのだ」

 

 もうお腹いっぱいだ。

 キシリア閣下の政治能力と洞察力はよく分かったが、多少ここで整理しておきたい。

 

 

「キシリア閣下、話が壮大で、今の情報戦の話とはどこに繋がるのでしょう」

「済まん、口が滑らかになり過ぎたな。実際にすることは単純なことなのだ。私はグレミー・トトを利用してジオンの特権階級を潰したい。この機会を利用し、グレミー・トトの話を特権階級にリークして、それに乗ってきた者どもを一掃するのだ。それは六大家であっても例外ではない」

「それはしかし、一歩間違えば争いの種になるのでは…… この情勢で揉め事など」

「もちろん、実害が出ないようにこの私がコントロールする。うまいことにザビ家の責任には決してならない。なぜなら実行犯は連邦工作員だからな。これは笑える道化になる。連邦は調子よく各家を説いて回るだろう。我らのためにせいぜいタダ働きをしてもらうのだ」

 

 俺も少し分かった。

 さっきのキシリア閣下の話は連邦との最終和平に向け、ジオンの社会体制を変え、下地を作るつもりなのだ。

 悪辣にも連邦の工作を逆利用することで。

 しかし、肝心のことが抜けている。キシリア閣下自身については? それにザビ家は他にドズル閣下、そして次世代にはミネバ様がいる。いったいどうするというのか。

 そういえば、キシリア閣下はグレミー・トトを利用するがトト自身を害しようという考えはないようだ。

 しかしそこまで聞いても答えは返してくれないような気がした。

 

 

「思い返せば、ジオン・ズム・ダイクン、彼は偉大な政治家だった。ラル家の後ろ盾があったとはいえよくあそこまでできたものだ。しかも目指すところは権力ではなく社会改革だった。つくづく惜しい。足元を掬われることさえなければ…… そして後継ぎが同じような理想主義者であってくれたなら」

 

 何を言うのか? ダイクンの後継ぎ、その二人の子は死んだはずだが? 旅客船事故で。

 

「皮肉なことにダイクンの目指したものはギレンの兄者が実行した。それが功績と言えるのだろう」

「それがギレン総帥の、功績でしょうか」

「私の言う功績は軍事的な作戦のことではなく、演説の上手さやカリスマ性でもない。特権階級を叩き、権力も財力も取り上げ、国庫を潤したことについてだ。結果、財政が改善したが、それ以上に庶民からの人気は熱狂的なまでになった。苦しい戦争でもジオンの結束が崩れず、これまでやってこれたのはギレンの兄者の演説が理由ではなく、これがあったせいだ。権力を求め独裁への道筋を作るのが目的だったのはダイクンと真逆だが、やることが同じだったとはな」

「……」

「その速さはさすがギレンの兄者、天才といえる。ダイクンのような穏健派では成し得なかったろう。しかしそれでも半分しか完成していない。特権階級というのは姑息で隠れ蓑を作るのが上手いからな。だから残りは私が片付けてやるのだ。いやコンスコン、また話が逸れてしまった。お前はサイド6で連邦の工作を翻弄してくれればそれでいい。お前に期待するのはそれだけだ。しっかり頼む」

 

 

 

 捕虜交換調印式のセレモニー、その模様は全宇宙的にテレビ中継されていた。

 万民にとって喜ばしいニュースであり、兵舎を含めてどこにも検閲なしで流されていた。

 それは俺の知らないところでいくつかの波紋を呼んでいたのだ。

 

「あれは…… 確かにあの男だ!! 見間違いじゃない。ザクの改良型に乗っていた男だ!」

 

 ここは連邦軍士官用宿舎である。

 その自室でそう叫んだのはライラ・ミラ・ライラだった。

 

 あの時のことは片時も忘れていない。激しい大会戦の中、MS戦で自分に勝ち、次に自分を救ってくれたジオンMSのエースパイロットのことだ。士官権限でデータベースにアクセスすると、名はアナベル・ガトー、ジオン軍の少佐であることは突き止められた。しかしそれ以外のプロフィールは知りようがなく、行き詰っていた。

 思いがけないところで再び姿を見ることができようとは。

 

「捕虜交換調印式にいるということは、ジオン将官の護衛といったところか。MSの操縦だけではなく地上戦もできるということだろう。そして将官から充分に信頼されていることが分かるな。しかしまあ、何とも涼やかな男だ……」

 

 分析などついでのことだ。

 あの時、ノーマルスーツのバイザー越しにわずか見えた顔、それを今はっきりと見た。

 ガトーの生き様をそのまま現すかのような佇まいに見とれてしまう。それこそ自分で自分が苛立たしくなってくるほどに。

 

 この日、ライラ・ミラ・ライラは心が騒ぎ、一人でグラスを四杯も空にして酔いつぶれることになった。

 

 

 その夜半のことである。

 呼び出し回線のけたたましい音で叩き起こされた。

 さすがにライラ、一瞬のうちに、それが緊急出撃を命じる音ではなく通信呼び出しの音であることを聞き分けた。しかしそれならばそれで、上官への通信画面で寝ぼけた顔をするわけにいかない。

 

「ライラ・ミラ・ライラ中尉、こんな夜半に済まない」

「いえ、いつなりと」

 

 敬礼で答えたが、ライラには不思議なことがある。いつもの上官が画面に見えるのだが、横にもう一人の者がいて、そちらから話かけられたからだ。

 

「私は連邦情報部の者だ。君に秘密任務を与える」

 

 

 宇宙は、いつでも万華鏡(カレイド・スコープ)のようなものである。

 

 

 

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