コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第七話 その名はアナベル・ガトー

 

 

 俺は戦闘終了後、直ぐに副官の報告を聞く。

 

「連邦のマゼラン一隻及びサラミス四隻撃沈、そして発進してきた敵MS約二十機を全機撃墜。こちらの損害は艦には皆無、そしてリックドム大破三機、小破五機です」

「完勝だな」

「ええ、コンスコン司令。死者なし、軽傷だけです。ここまでの勝利はめったにありません」

 

 それもこれもめちゃくちゃ強いMSがこちらにいたせいだ。

 ほぼMS戦で方がついたようなものだ。俺の作戦要らなくね? 凹む。

 

「連邦の脱出艇は追うな。救助活動も邪魔するなよ」

「は、去るに任せます、司令」

「そして向こうが去ったら、一応こっちからもドムを出して残骸を調査しろ。もしノーマルスーツからの救難信号があれば、取り残しを救助してやれ。向こうも慌てていれば取り残しも出てくるだろう」

「移動手段もなく、残骸にいるのは悲惨ですね」

「そういうことだ。敵でも同情するさ。ここまで生き残った者は、最後まで生き残る権利がある」

 

 

 

 そして全てが終わってから、俺は艦ごとにMS乗りと会うことにする。

 

「何考えてんの司令官!! 馬鹿なの? 死ぬの?」

 

 やっぱり罵倒からか。

 こいつはツェーン。まだ二十二歳の女だ。チベ搭載の十二機のリック・ドム、その隊長機に乗っている。

 クリーム色の短髪、見かけも良く、兵たちから人気も高い。コンスコン機動部隊の士気向上に一役買っている。

 性格は…… まあ言葉通り、乱雑な奴だ。今も正面から罵倒してきやがる。

 

 ただし俺がこいつを隊長機にしているのは純粋に能力を買ってのことだ。

 俺は自分ではパイロットに成れないのだが、パイロットを選ぶことには昔から自信がある。特にどこを見ているということもなく、直感で選んで、なぜか不思議なことに外れた試しがない。

 皆、水準をはるかに超えたパイロットになる。俺がこれまで戦果を挙げて出世してきたのはその勘のおかげかもしれない。

 

 ドム隊のほとんどは男だが、こいつを含めて女も数人だけいる。ツェーンの横で心配そうに見ている副隊長カヤハワなどもその一人だ。

 普通にはMSのパイロットに女は居ない。

 部隊全体でいうなら、女性兵は珍しいことはなくそこそこの割合を占める。連邦は女性の参画権とかいうややこしい理由で、ジオンは人員不足という実際的過ぎる理由のせいだ。しかし女性兵は整備や糧食が主な仕事で、パイロットには普通ならない。

 だがツェーンは俺が最初にパイロット適性を見出し、ここまで育てて来た。

 そんな昔からの腐れ縁のためか、なぜか俺に暴言を吐いてそれが平気になっている。

 それでいいの? 俺は仮にも准将だよ? 軍では凄く偉いんだよ?

 

「あ、まあ、悪かった。済まん」

 

 ヘタレだ! 俺はスーパーヘタレだ!

 

 相手に強く出られると反射的に退いてしまうんだ。理由が分からなくてもだ。これはもう一生治らない癖である。

 ただこの場合、よくよく話を聞いてみると、確かに向こうが怒る原因があった。

 ソロモンで俺がチベを乗り捨てた時、司令官なのにノーマルスーツで宇宙に出た。その無謀さを怒っているんだ。確かに流れ弾一発でも来ていたら即、死んでいる。つまり、こいつなりに俺のことを心配して言ってくれているんだ。

 

「今度やったらただじゃおかないんだからね。どんくさいくせに」

「ぃやもうその辺で…… 」

 

 ツェーンの捨て台詞を、カヤハワが抑えている。黒髪身長低く、性格穏健のカヤハワだが、ちょっと声が小さいぞ。

 

「ふん、蹴りを入れて負傷させればいいんだ。そうすりゃあ陣頭にも出てこないだろうさ」

 

 別の誰かの小声が聞こえた。確認の必要は無い。パイロットの中にフィーナというツェーン以上の過激派がいるんだ。俺はとりあえず無視してその場を後にした。とりあえずっていうのは、まあそういう意味だからな!

 

 

 

 次は、念願の凄腕パイロットに会う。

 最初からこれが目的だ。

 あの活躍を見せたパイロット、どんな奴か興味がある。

 ざっと調べたところ、今回合流してきた哨戒のムサイはこれまでMSを四十九機撃墜という記録を持っている。え、哨戒勤務に所属してたんじゃなかったの? 哨戒でその撃墜数って、どうやったらそんな数まで積み上がるんだよ!

 しかも驚いたことにムサイが搭載していたMSは三機だけだ。

 つまり一人のエースがむちゃくちゃ稼ぎ出してるスコアじゃないか。

 

 そいつはノーマルスーツを着て、ヘルメット部分を外し、きれいな敬礼で出迎えてくれた。身長はやや高い。

 

 そして驚いた。きれいなのは敬礼の型だけじゃない。

 イ、イケメンじゃないか!

 シルバーグレイの髪を垂らし、整った顔立ちだ。目元が特に涼やかだ。

 

 見かけだけでなく、たぶん性格もいい。言葉を交わす前から分かる。爽やかな雰囲気で辺りを照らしているんだ。

 ま、負けだ俺の。

 俺はイケメンを見ると張り合おうという気持ちがない。そんな闘争心すらない。かといって屈辱とも違う。ほー、そういう世界の人なんだーっていう別物を見る感覚である。もう俺の人生は負け犬過ぎたんだろうか。

 

 そのクッソイケメンのため一瞬の間が空いてしまったが、俺は言葉を紡ぎ出す。

 

「アナベル・ガトー大尉だね。この戦闘で君に助けられた。見ていたが本当に凄かったな」

「ガトー大尉であります! 司令官のフォローのおかげでうまく戦えただけであります」

「いやいや、君の活躍は本当に素晴らしい。もう負ける気がしなかったよ。アナベル・ガトー君」

「ガトーであります。過分なお言葉、感謝いたします」

 

 ? なんかおかしいな。いちいちガトーと返してくるなんて。

 

 俺は閃いた!

 おそらくだが、このアナベル・ガトーという男は、アナベルという名を気に入っていないんだ。明らかに女っぽい名前だからだろう。アナとかベルよりはマシだと思うんだが。

 ついでに言えばガトーというのも甘そうだけどな。

 しかし、名前を気にするというのはよくある話だ。

 他人からすればあまり大したことではなくとも、本人にはまた違うんだろう。

 俺はこの男に親近感を持った。

 

 俺は多少コンプレックスのある奴が好きなんだ。何もコンプレックスのない奴は、得てして共感性能が低い。深く分かり合えない気がする。

 

「コンスコン閣下の下で働けます事、光栄に思っております。ええ、本当に!」

「へ? あ、ああ、そう言ってもらえるのは嬉しいが……」

 

 反対に向こうは俺のことをどう思っているか。

 間もなく分かった。非常に驚いたことに、向こうは何だか俺に好感を持っているんだ。憧れというか、好意的オーラを感じる。

 懐かれるのは嬉しいけど、とっても嬉しいけど、な、なぜだ……

 

「先の戦いでますますそう思いました! コンスコン閣下はやはり素晴らしい方です!」

「んー、と、よく分からないが。さっきの戦いなら君が活躍していただけで、俺は何もしていないようなものだぞ」

「いいえ、閣下のようなことは、なかなかできることでないと思っております。戦いが終わって、連邦の兵まで救助するとは! 戦っていなければ敵も一人の人間であり、そこに手を差し伸べて当然、閣下はそういうお考えなのですね!」

 

 あ、そこに感動していたんだ。

 こいつは、漢だ。

 純粋な感性を持っている。一本気なんだな。

 

 将来、悪い誰かに騙されるなよ! ガトー君。

 

 

 

 そういった収穫を得てから俺はチベの艦橋に戻る。

 そろそろコンスコン機動部隊の航路予定を出さねばならない。

 

 追う側は、対象をもちろん見ながら追うわけではない。

 そんなことをすれば逆撃を食らう確率が高くなるだけであり、姿を現すのは仕掛けると決めた最終局面だ。

 

 ではどうするか。この宇宙には敵味方、ブイやビーコンが無数に浮いている。その情報をかき集め、探知された敵影の情報を精査し、欺瞞を排除して追っていくのだ。

 もちろん相手の進路の予想が不可欠だ。宇宙ではむやみやたらと進路変更はしない。そんなことをすればエネルギーが尽きてしまう。だから読みが利く。

 精密な観測、的確な読み、そして最後は勘を使って相手の位置を突き止めていくのだ。

 

 随時入ってくる情報を総合的に分析し、俺は結論を出した。

 

「木馬は、サイド5へ向かっているな」

「コンスコン司令、確かにそのように感じます。しかし、そこに何があるんでしょう」

「分からん。しかも木馬がサイド5を目指しているのか、先行したマ・クベを追っているだけなのかも不明だ」

「しかしサイド5とはラッキーですね」

「そうだな。幸いなことに、サイド5は岩礁地帯か、コロニーといえば唯一残っているテキサス・コロニーしかない。絞り込みはたやすい」

 

 そして俺は岩礁地帯から先に航行していく。

 慎重の上にも慎重にだ。

 いきなり連邦の白いMSが不意打ちを食らわせてきたら、と思うと正直生きた心地がしない。

 

 その心配はなかった。

 あっさりこちらの方が先に探知した。

 向こうが戦闘に入っていたためだ。

 相手はもちろん俺の艦隊ではない誰かだ。暗い岩礁地帯の中、時折岩が強烈な光に照らされる。明らかに何かと何かが戦い、光を発している。

 

 木馬と戦っているなら当然ジオン軍である。こんな場所で遭遇戦か? 運悪く木馬に出会ってしまったのか?

 

 

 俺は関わり合いたくないが、ここで友軍を見捨てることはできない。

 どんな事態なのかと思って詳しく探ると、ジオンの艦はそこにいなかった。見たこともない物体が戦っていたのだ。

 形態は、分類すればモビルアーマーである。ウニのようなずんぐりとした形だ。その本体から何本か竿のようなものが伸びている。理解不能な形だ。

 

「何だあれは! 最大解像度で出してくれ!」

 

 驚いたことにそのモビルアーマーから撃っているんじゃない。

 連邦の白いMSをめちゃくちゃ連続射撃で攻撃しているんだが、本体が主役じゃない。紐付きの、リモコン小型砲台を駆使して撃っている。一体の生物のようだ。

 

 しかしそれもまた奇妙な話だ。リモコンを多数同時に使っているんだぞ。まるでリモコンに目があり、あらゆる方向から全てを同時に見ているのでない限りそんな真似はできない。

 恐ろしい戦いをしている。

 だが、だがしかし戦いを受けている相手もまた化け物なんだ!

 

 いろんな角度から来る攻撃を全部躱している。これもまた信じられない。全方位が見えているのか。そして撃たれてからも避けられるようなのは気のせいか。

 そして白いMSはリモコン砲台を叩き落としていくじゃないか。戦況としては刻々とリモコン側の数が減り、モビルアーマーの不利に傾きつつある。

 

「あのモビルアーマーを見殺しにもできん。全艦、メガ粒子砲用意! 射程外で構わん。牽制だ」

 

 その間に最後のリモコン砲台が墜とされる。モビルアーマーにもう攻撃手段はなく、絶対絶命のピンチである。

 

「一斉砲撃だ。その後、ゆっくり後退しながら木馬との距離を開けろ。MSは出さん。どうせあの白いのには敵わん。そして下手に出せば、収容の機会を失って逃げられなくなる」

「同期設定、チャージ完了!」

「撃てーーーー!!」

 

 一瞬遅かったのかもしれない。

 こっちが牽制の砲撃をするのと、白いMSがモビルアーマーを撃ったのは同時だった。

 

 

 

 


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