コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第七十二話 戦場のカオス

 

 

 俺は壊された桟橋から空中に投げ出されたショックで一瞬意識が薄くなる。

 

 しかし次に来た感触に慌てることになる。湖に落ち、冷たい水に触れて意識を取り戻したのはいいが、このままでは大いにまずい。

 

 俺は泳げないんだ!

 

 コロニー育ちの俺が泳ぎの練習などするわけがない。

 しかも重い服を着ていればなおさら沈んでしまう。

 しかし、落ち着けば湖のその辺りは浅瀬だったのだ。コロニー内の湖がそれほど深いわけはなく、慌てないで立てばなんとか呼吸できる程度の深さだった。俺は一呼吸入れた後、ジンネマンの姿を認めた。ジンネマンも意識はあり、動いているようだ。俺は安心してひとまず岸辺まで移動する。

 

 だが岸辺までもう少しというところで気付いた。ライラという連邦軍人とマリーダという少女が湖から上がってこない。俺やジンネマンより岸辺から遠くの位置に落ちたようだが、姿が見えるのに動いていない。

 

 おまけに湖のその辺の色が変わっている。

 血の赤だ。その二人のうちどちらか、あるいは二人とも負傷し、動けないのだろう。このままでは溺れてしまう。

 ジンネマンもそれを見たようだ。岸辺から湖に向かって引き返そうという動きをしているではないか!

 だが俺もジンネマンも柔らかい泥を全力で踏みながら移動してきたため、直ぐに動ける体力は残っていない。

 

 その時に気付いた。ロケット弾がほとんど止んでいる。

 

 

 同じ時、俺の艦隊から応援が来ていたのだ!

 こんなにも早く応援が来れたのは理由があった。

 

 クスコ・アルがカリウスとシャリア・ブルに頼み、MSの模擬戦をやっていた最中だったのだ。なぜなら、クスコ・アルは普段エルメスにしか乗っていないのだが、ここサイド6にはエルメスを持ってきていない。ティベはMSを載せるだけで手一杯であり、大型モビルアーマーのエルメスやヴァル・ヴァロを入れるゆとりがなかったという単純な理由である。

 そのため、クスコ・アルはどうせだからMSの搭乗訓練をしようと思い付いた。

 観光に二度とも外されてしまった憂さを別のところに向けたかったというわけでは、ない。まあ訓練といっても場所がサイド6のベイである以上火器が使えるはずもなく、せいぜいMSの身のこなし程度の基礎だ。

 

 そこに応援要請を受け取ったのだから、正に間髪を容れず出撃できる。

 

 一番早く到着したのはシャリア・ブルである。素早く状況を確認し、一番近い所にいた連邦MSに突進しその足を斬り飛ばす。連邦の方がどういうつもりであれ、火器はやはり使わない方がいいと判断した。

 最初にするべきことは自分達が危険な存在であるアピールだ。連邦MSたちの注意を引き付け、作戦を中断させることが肝要である。

 連邦MSは思わぬ邪魔に驚き、もちろん応戦してくる。連邦側もまたビーム兵器は使っていない。狙いが逸れたらビームは直進していく以上、コロニー内のどこかに必ず当たってしまうからで、さすがにそれはまずいと判断している。結果的にシャリア・ブルに対してビーム・サーベルを使って斬りかかるスタイルで戦おうとするが、連邦MSが数で勝るとしても、やすやすと片付けられるようなシャリア・ブルではなかった。

 そこへ続いてカリウスが到着した。素早く一機を大破に追い込むと、眼下にガトーがいるのを見つけ、拡声器で伝える。

 

「ここは食い止めます! 早く行って下さい!」

 

 カリウスもまた腕は確かだ。そしてシャリア・ブル同様に一歩も退かず、連邦MSの足を止めるのに専念する。連邦MSは決して弱くはなかったが、どちら側も接近戦を選択しているため決着はつきにくい。

 遅れて到着したクスコ・アルは怪しげな操縦であっても、さすがにNT、少なくとも一機を引き付けその攻撃を紙一重で避け続けることだけは可能だった。

 

 

 信頼するカリウスの声を受け、ガトーが一直線に走る。

 

 湖の岸辺に近付いたところで俺とジンネマンの無事を確認できたようだ。ただしここで俺がガトーに叫ぶ。

 

「ガトー、俺たちはいい。湖にまだ負傷した二人がいる。そっちを助けてやってくれ!」

 

 ライラという女を助けたら、またもやジンネマンを狙ってくるかもしれない。助けることは本当はまずいのだろうか。

 しかし、だからといってここで溺れ死ぬのを黙って見ているなどできないではないか!

 ジンネマンに裏切りを強要し、おまけに中立地帯なのにMSを使った攻撃を仕掛けてきたのは連邦、赦せるものではないがそれとこれとは別のことだ。

 

 ガトーはこの命令を聞き、湖に向かっていく。もうわずか遅ければ水に完全に没して見えなくなっていたところだった。

 

 驚くほど速く進みガトーが辿り着く。そこから水面に血の赤色を引きながら二人を岸辺近くまで持ってくる。俺やジンネマンも協力しようやく陸地に引き上げた。

 二人とも負傷していた。

 紫髪の少女の方は軽傷だがライラと呼ばれる女の方が重傷だ。右脇腹から出血している。おそらくライラの方が着弾の瞬間少女をかばったのだろう。見たわけではないが自然にそう思える。

 やがて二人とも息を吹き返す。それでも少女の方は意識が混濁しているのか、何かぼやっとした感じのままだ。一方のライラという女は体を横にして動かせず、片膝をついたガトーに圧迫止血を含めた応急処置を受けていた。

 だがこっちは意識が戻ると直ぐに口を利いてくる。ジンネマンや俺に対してではなく、すぐ横のガトーに向かって。なぜだ。

 

 

「ふっ、またお前か。助けてもらったのは二度目だな」

「…… 不思議なことを言う。どういうことだ。前に助けたことがあるとでも言いたそうだが」

「あるさ。一度目は戦場で助けてもらった。私はこんな諜報部員のような真似なんかやりたくてやったんじゃない。普段はMS乗りだ。そしてお前はかつて戦場で私のMSに勝ち、そしてMSの爆発から助けてくれたんだ。まあ、そんなことを普段から何度もしているのなら、思い出してもくれないのかもしれないが」

「……」

 

 単に助けてもらった礼か?

 いや違う!

 俺はまた妙な会話を聞く羽目になったじゃないか!!

 

 

「いつか礼を言おうと思っていた。いや、もう一度会えればと思っていた。できたらバーのカウンターでグラスを合わせたかったが、まさか湖の中で会うとはな。完全に意表を突かれた。お前はいつだってとんでもない男のようだ」

「こっちも好き好んでとんでもないことをしているつもりなはい」

「誤解するな。貶しているんじゃない。そういうハプニングならいつでも大歓迎だと言いたい。ただし戦争が終わって二人とも生きていれば、その時こそバーに誘ってやるぞ。美味いカクテルを作る店を知ってるんだ」

「その前にMSで戦うことが無ければいいが」

「全く同感だ。ガトー少佐、お前は強いからな。また戦っても勝てる気がしない。勝負なら酒の飲み比べで頼みたいものだ」

「そういう平和な勝負なら望むところだな」

「ふふっ、言ったな。約束だぞ。言っておくが、私は執念深いんだ」

 

 えええっ!?

 ちょっと待って下さいお願いします。

 相手は年頃の女とはいえ、ガチガチの連邦兵なんだよ? いや、連邦兵じゃなくても問題がある。

 本当、ガトー君、そこは遠慮したまえ……

 俺は岸辺が泥じゃなければ頭をガンガン打っていたところだ。

 

 

 

 その時も連邦MSとこちらのMSとの戦いは続いている。

 連邦の指揮官は決して無能ではなかった。事態の急変があっても柔軟な戦術を取り、適切なカバーをしてくる。そして戦いの目標を見失うようなこともなかった! ジオンMSの目的が足止めにあると見透かした上で、部下をこれに当て、自分の一機だけで目標中心地である湖の岸辺に向かう。

 近付けばより精密に狙いが付けられる。範囲殲滅などという時間のかかることをしなくて済む。ジオン側のMSが今の三機だけなのか、あるいはそれ以上来るのか分からない以上、戦術の切り替えが妥当と判断した。

 そして敵の姿を捉えたら直ちに始末し、作戦終了にする。

 

 だが、MSから視界に入ってきたもの、正確に言えば見えた人物に対し驚愕することになる!

 

「な、何だって!! くそっ、こんなことがあるか!」

 

 岸辺にいる一団へ更に近付くと拡声器を使う。腕は下したまま、武器を使うつもりがないことを見える形で示しながら。

 

「おい、そこにいるのはコンスコンの大将じゃないか! そしてライラ? いったい、何がどうなっていやがる!」

 

 

 俺たちは近付いてくる連邦MSに対し身構えていた。味方のMSは数が足らず、やはり抑えきるまでには至らなかったようだ。

 しかし、不思議なことにその連邦MSは撃ってこない。

 さっきまではあれほど撃っていたのに。

 そして響いてきた声に驚いた!

 

「そ、その声は、まさかサウス・バニング大尉か!」

「おいおい冗談だろ? 大将、本物か?」

「それはこっちのセリフだ! サイド6でロケット弾とは何だ。しかもここに連邦の女性兵までいるんだぞ!」

 

「これは任務だったんだが…… やっと捕虜から原隊復帰できたと思ったらいきなり作戦行動、それがここの範囲殲滅だったのさ。銃声が響いたと思ったら直ぐに攻撃命令が出た」

「なるほど、しかしここはサイド6の中立地帯だろうが」

「そいつは俺だって知っているが、しかし、ジオンのテロを未然に防ぐため止むを得ないものと聞かされててな…… コンスコンの大将がそんなことをするわけもないか」

「当たり前だ! テロは連邦の方だ。銃声まで待ってからにしたのも何か言い訳を作るための姑息な策だ」

「…… 大将、あんたは嘘を言う人間じゃない。たぶんその通りなんだろうな。ライラがいる以上、込み入った事情があるという気がする。後でライラから顛末を聞かせてもらう。こっちは引き上げだ。なあに、連邦兵の回収と保護を優先したっていう名目がありゃあ、上官と渡り合えるってもんさ。せいぜい嫌味を食らうだけで済む」

 

 

 


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