コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

75 / 152
第七十五話 マ・クベの思い付き

 

 

 その頃、マ・クベは深い悩みの中にあった。

 

 少し前まではそんなことはなかった。むしろ技術者としての興奮の中にあったのだ。

 フォン・ブラウンに残されていた連邦技術をいくつも発見、接収している。それにより、ジオンの艦艇やMSの技術も更なる発展が見込めていたからだ。その中でも特にチタン大量製造技術はジオンMSの性能を飛躍的に向上させるはずのものであり、マ・クベを小躍りさせるのに充分だった。

 せっかくジオンMSは基本設計で優れているのに、素材技術でネックがあったことに長いこと歯噛みする思いだったからだ。

 コロニー建設の関係上、宇宙ではとにかく鉄材ばかり多く求められている。そのため鉄系合金は安価で豊富であり、当然ジオンMSは鉄系で作られ、そのためにあれほど短期間で多数を製造できたのだ。

 しかしながら後で登場した連邦MSの素材はチタン系、明らかに鉄系より軽量で強い。絶対的な性能を考えたらMSにはチタン系を用いる方が優れている。ますます高性能化するMSに、この先も鉄系を使い続けるのが無理なのは明らかだった。

 いつかその限界が来ると怯えていたからこそマ・クベはあれほど地球表面で鉱物資源に執着を見せていたのだ。

 

 そして事実、ガルバルディに大量生産された高強度チタン合金を惜しげもなく用いると見違えるような性能になった!

 防御力が飛躍的に上がっただけではなく、軽量になった分だけ元々のパワーを存分に活かし機動性も段違いだ。

 この成果を見るやいなやマ・クベは決断した。

 テストや先行量産をすっ飛ばし、マ・クベは即座にガルバルディの生産ラインをチタン用に切り替えさせた。型番を新しくすることも考えたが、設計自体に変更点は多くないためガルバルディのままだ。後期型と呼ぶのも長たらしいのでガルバルディ改と仮に呼んでいる。

 

 続々とロールアウトする新しい機体、このガルバルディ改によってジオンMSの優位性は圧倒的になるはずだった。

 

 

 ところがここにカスペン少将から報告が届く。

 連邦MSもまた驚くべき速さで開発が進んでいたのだ!

 しかも連邦はその恐るべきマンパワーを活かし、同時にいくつものMSを設計・開発しているのだ。開発チームが複数あり、競う形で数多く設計し、その中から使えるものを絞り込むというやり方だろう。開発者そのものが桁違いに多いからこそできる芸当なのだ。

 そして今、連邦の新型と目されているMSの予想性能は恐ろしく高い。投入も至近に迫っている。

 そして考えたくもない想像だが連邦はその次、更にその次も考えているのに違いないのだ。

 

 無限に続く開発レース、命を懸けたデッドヒートであり気の休まる暇がない。

 しかしそのことだけなら、技術者マ・クベの本懐でもあるし、高性能MSの開発にひたすら没頭すればいいだけだったかもしれない。

 

 

 しかしある意味それ以上に大きな問題が立ち塞がっていた。

 ジオンが苦労して捕虜交換をお膳立てしてまでも手に入れた復帰将兵に問題があった。

 彼らは主に地球表面で戦ってきた者たちだ。

 ほとんどはザク、稀にそれが陸戦特化されたグフに乗っていた。貴重なMSを整備しつつ戦ってきた彼らにとってMSとはザクと同義語であり、正に愛機なのである。

 

 結果的に機種転換がうまくいかない。

 

 ザクとガルバルディでは違い過ぎる。

 そもそもジオニック社とツィマッド社で設計思想が異なるところへ設計年代が違うのだ。むしろ新兵がガルバルディに乗れるのに、復帰してきた兵が実力を出せないでいる。

 だが、困ったとばかり言っていられない。

 せっかく復帰した熟練兵を活用しなければジオンの未来はない。

 かといってまたザクに乗せるのは論外である。もはや熟練の技量があっても連邦MSとの性能差はどうにもならない。

 

 

 解決策はあくまで技術によって見出さなくてはならない。

 では単純にザクにチタン合金を応用したらどうか……

 いや結論から言えばそれもダメだ。

 ザクの設計のままではバランスを崩してしまう。アクト・ザクがそのいい例ではないか。操縦性があまりに悪化してしまい、それでは何にもならない。

 

 ダメ押しにもう一つ問題があった。地球からの熟練兵は実弾兵器を好みビーム兵器を使いたがらないのだ。確かに実弾兵器は地球表面においては信頼性があり、それに慣れ親しんでいるのは分かる。熟練兵なら実弾兵器を主体とした接近戦が適していることもある。

 また、確かに実弾兵器がビームに勝ることもあるのだ。

 弾幕運用ならば一瞬で通過するビームよりも実弾が有効になるのは当たり前だ。

 そして、敵の密集地帯で散開して子爆弾になるいわゆるクラスター弾などは実弾兵器ならではの使い方であり、ビームに真似はできない。

 

 いったい、彼らを乗せるべき最善のMSはないものか…… 考えに考える。

 

 

 

 時はわずか遡る。

 

 ジオンの戦略はエネルギー資源戦略なのは変わっていない。粛々とそれを継続している。

 主にそれを担当しているのはデラーズ艦隊であり、茨の園から反復攻撃を加えている。

 その出撃の最中、驚くべきものを発見したのだ。

 

「な、なんだ! あれは…… そんな、あり得ない!」

「どうした! 何を言っている」

「れ、連邦MS隊の中にザクがいます! 本当です!」

「そんな馬鹿なことが……」

 

 その時の指揮官はバロム准将だったが、見間違いかと一笑に付すことはなかった。

 連邦がザクを使っている? それは決して幻ではなかった。ジオン側では当初、鹵獲されたザクが連邦に使われたのかと認識した。

 しかしそれにしては動きが速いのだ。

 バロム准将から報告を受けたエギーユ・デラーズはそのデータを直ちにカスペン技術大隊に送った。

 今のジオンは以前とは異なり、ずいぶんと風通しが良くなっている。各部の連携が改善されているのが幸いした。さすがにデラーズはキシリア派閥のマ・クベに直接データを渡すことはしなかったが、自分のところだけに情報をとどめておくことはなかったのだ。

 

 データを解析したカスペン技術大隊はまたしてもため息をつくことになる。

 

 わずかな違いからそれはジオンのザクではなく、またしても連邦側の試作MSという結論が出たのだ。

 それがザク型とは何という皮肉なことだろう。しかもザク型ということは、連邦はジオン側の技術も柔軟に取り込み、試験をしていると思われた。ジオン側が連邦技術の解析にやっきになっているのと同じくらい連邦もジオン技術を参考にしている。そして、面子にこだわらず大胆にジオンの真似をしよう、そういう発想をもった開発チームもあったに違いない。

 実際それは当たっていた。

 連邦の技術部の一チームはザクをベースに、フィールドモーターとチタン複合材という連邦技術を一部組み込んだ簡素で安価なMSを企画した。それはハイ・パフォーマンス・ザックという仮称で呼ばれる試験機だ。

 結局のところこのMSが採用されることはない。それは連邦兵にとってザク型MSなど悪い冗談である。戦争が終わって時間が経てばともかく、今はザク型など見たくもない。とうてい受け入れられるものではないのだ。結果、量産性に優れると思われたこの企画は無駄に終わっている。

 

 ただし、これはジオン側に予想外の効果をもたらした。

 カスペン技術大隊からその要約を受け取ったマ・クベはこれを悲報とは受け取らなかった。

 

「連邦がザク型に興味を…… まだザク型に可能性があるということか」

 

 実のところマ・クベはザク型に興味を失っていて、熟練兵の問題もザク型で解決しようとは全く思っていなかった。しかしこの時もう一度考えてみようと思ったのだ。もちろん新規設計のザクⅢともいうべきものを作れる時間的余裕があるはずはない。といって連邦の試験機を真似しようとも連邦技術がどこにどう使われているか分からない以上、不可能である。

 

 だが、一つのアイデアが降って湧いた!

 

 ザク型で新規設計のものがジオンにもあるではないか!

 それはぺズン計画の遺産とも言うべきケンプファーである。

 敵地突入を想定して設計された特異なMSではあるが、それでもザク型の系譜に連なる機体で、操縦はさして変わるところがない。

 だが設計自体は新しく、何より凄い点はその強大なパワーだ。1550MWという常識外れのエンジンが積まれている。こればかりはアクト・ザクどころか大パワーを誇るガルバルディすら軽く上回り、もちろん予想されるどの次期連邦MSより上だ。

 実弾兵器しか使えない仕様だが、熟練兵が使う分には問題ない。

 可搬性というコンセプトのため犠牲になっていた防御力は、いまやふんだんにあるチタン系合金を使えば補って余りある。おまけにゲルググ生産の終了に伴い遊んでいたジオニック社の生産リソースを活用できるではないか。

 

 正にこれしかない。

 マ・クベはケンプファーを素材換装したケンプファー改の生産開始を指示した。

 

 これ以降、ジオン量産MSは一般兵向けのガルバルディ改、熟練兵向けのケンプファー改の二つでいくことになる。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。