コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第七十六話 侵攻前夜

 

 

 俺はズム・シティに着くまでにいろいろと作戦案を考えている。

 もちろん地球侵攻に関するものだ。

 

 俺から提案した以上、ふわっとした方針などではダメで、少なくとも現実的な案を考えておかなくてはいけない。それが責任というものだ。皆の生死とジオンの未来がかかっている。

 俺は考えに考え、これしかないというものを作り上げた。

 

 作戦の骨子は、正面突破など論外である以上、陽動が中心となる。

 

 かといってリスクのある陽動は避けたい。

 ここで俺は一つのアイデアを持っている。人員を使わない仕掛け、それを可能にするものがたった一つ存在する。

 

 月にあるマスドライバーだ。

 もちろん、マスドライバーとは兵器ではなく、コロニー建設用の資材を月から打ち上げる装置のことである。月表面の工場で鉱物から製錬・加工された資材は、動力を使って宇宙に戻され、コロニーとして組み立てられるのだ。

 マス・ドライバーは月の重力が地球の1/6しかないためにできる芸当である。エンジンを使う宇宙船にわざわざ資材を乗せて運搬する手間を省き、資材のみを輸送することができるので、非常にコストが安くなる。

 そんなマス・ドライバーは月表面にいくつも存在するが、もっとも主要なものは小規模月面都市エアーズの近郊にあり、もちろん今はジオンの手中にある。

 これを調整しコロニーではなく地球に向かって岩石を打ち込む。当然岩石は落下により強いエネルギーを持つ。

 だが単純に考えれば兵器として使うには問題があり、有効とは言えない。

 なにしろ月から地球までは最短距離でも四十万kmもあるのだ。途中で修正しない打ちっぱなしの場合、いくら計算しても着弾点にブレが出て、特定の施設を狙うのはとうてい不可能である。

 加えて俺としても流れ弾で地表に被害を及ぼすのは本意ではないのだ。そのため、多数の岩石を散弾的に使い、各岩石の大きさは大気でぎりぎり燃え尽きる程度にしておくつもりである。

 

 ただしジャブローの連邦中枢部は慌てるだろうな。さぞかし肝が冷えるだろう。

 可能性が極小でも、でかい岩石がジャブローに直撃したら核爆弾以上の破壊力で地下施設といえども無事に済むはずがないからだ。

 

 連中の思考力を奪い、その隙を突いて更に陽動部隊を降下させる。

 これはヨーロッパか中央アジアあたりがいいだろうか。いかにもマ・クベの忘れ物を取りに来たふうを装うのだ。もちろん、白磁の壺ではなく隠した鉱物資源を狙ったように。

 

 

 そっちへ連邦の実戦部隊が釣られたタイミングを見計らい、俺の艦隊が目的である連邦の研究所を急襲するという算段である。

 誤差を極小にして一気に降下できるとすると、軌道上から数時間で到達できる。

 そこからの行動もモタモタしていられない。救出を素早く済ませて、一方で連邦の研究施設は徹底的に叩く。フラナガン・ロムの研究施設も、新型MSの開発施設もまとめて灰にしてやるのだ。

 更に脱出路について案が二つある。連邦の動きが早ければ俺はそのまま宇宙に還る方を選び、アフリカに集中しているジオン地球残存部隊との合流はもう一度改めて行う。

 しかし連邦の動きが鈍く隙を突けるようならそのままアフリカへ向かえばいい。

 

 裁可を得たこの作戦、さっそく準備行動が始まった。

 

 

 

 さて、予定通りジオン本国で俺を待ち受けている者が一人いた。

 キシリア閣下のところから送り返されてきたカーラ・ミッチャム教授である。

 

 そして教授は俺と会うや否や、ダリル・ローレンツと俺を格納庫に引っ張っていったのだ。途中からはたと気が付いた。確かキシリア閣下は教授を返すだけでなく「お土産」を付けてくれると言っていたではないか。なるほどそれを見せるためなのだろう。

 

「教授、格納庫の中にある物とは、何かの新しい兵器ですかな?」

「そうだとも言えるし、そうでないとも言えます」

 

 妙な言い方だな、と思ったがそれでも期待しつつ中に入って教授の指し示すものを見る。

 それはまばゆくライトに照らされてはいたが……

 

「な、何だこれは…… 」

 

 俺はちょっと意表を突かれてしまった! いや、落胆といっていい。

 あのキシリア閣下が意味ありげに「お土産」と称したものがこれだったとは。

 

 ただのドムじゃないか!!

 

 各所がリファインされているような気がするが、既に見慣れてしまったドムには違いない。これが今さらどうだというのだろう。

 俺ばかりではなく、ダリルも同様に困惑している。

 しかし不思議なことにカーラ・ミッチャム教授はそれに見とれているようなのだ。

 

「ええと、教授、分からんのですがこのドムがお土産とはいったい……」

「コンスコン司令、このドムはダリル専用なのです」

「ダリル・ローレンツの専用? で、ではダリル・ローレンツ少尉はMSに乗って戦えると?」

「正直これの開発は気が進みませんでした。なにか、フラナガン博士のレールに乗ってダリルを兵器とするようで。しかし、気が変わったのです。神経接続技術が進んでも、本物の腕や足のような義手義足を作るのにはまだ時間がかかるでしょう。小型の支援計算機やジェネレーターが作れないからです。しかし、大きさに制約がないMSならばもっと早く完成できます」

「するとつまりMSという形はとっているものの、教授としてはダリル・ローレンツ少尉を自由に動かせるための……」

「そうです。いずれ手術で右腕だけは必ず取り戻します。しかしそれ以外を早く動かせて上げたかった。でもそれだけではありません。ダリルは司令のためにもっと戦いたがっているんです。どうか地球作戦を行うならこのドムで連れて行って下さい」

 

 なるほど。それではただのドム、ただの兵器ではない。

 

 カーラ・ミッチャムのダリルに対する愛ゆえに造り上げられたMSだった!

 

 ダリル・ローレンツの当座の義手義足の代わりになるMSなのだ。

 結論だけ見ればフラナガン・ロムと同じことのようでも、動機は100%、まるっきり違う。ならばこれは当然使ってやるべきものだ。

 ダリルはやはり感激していた。

 義手をカーラ教授に伸ばす。それは申し訳程度の義手であり、ただの細い棒きれでしかなく、傷病兵を見慣れたはずの俺から見ても気の毒なものである。

 それなのに教授はダリルの本物の腕であるかのように胸で抱き留める。

 お互いの気持ちは充分に通じ合い、更に二人の距離は縮まっていく。

 

 おいおいおい、熱いよ! 相思相愛のお二人さん。こんな戦争の最中でも、いやそんな刹那にこそ育つものがあるとは。

 しかし、頼むからそういう姿をセシリアやクスコ・アルなどには見せないでくれ。

 あの連中を下手に刺激すると暴走しかねず、司令官である俺の心労が増すばかりなんだから。

 

 

「名前はサイコ・ドムとでも言えばいいでしょうか。ドムが余っているようなのでそれをベースにして、いくつも失敗はしましたがようやく形にできました。かつてフラナガン博士が試験的に造ったサイコ・ザクはかろうじて伝達がつなげられたという程度ですが、これはそんなものではありません。自分の手足以上の感覚と反応速度で動かせます。もちろん、MSとしての基本性能だけでもザクより上でしょう」

 

 確かにカーラ・ミッチャム教授の言う通り、ジオン全体として急速にガルバルディへ機種転換が進められている今、ドムは余っている。

 もちろん外したエンジンなどは他にいくらでも使い道があるし、各部材もリサイクルはされている。だが教授の実験に使う分くらいは余裕があり、キシリア閣下も快く許可したのだろう。

 

 何にしろ助かった。

 地表作戦に俺のティベを持っていくことはない以上、せっかくのダリル・ローレンツの射撃の腕が無意味になってしまうところだった。

 このサイコ・ドムを使うことでダリル・ローレンツを戦力として加えることができれば大いに役立つ。もっと言えばドムは元々地球表面で使うように設計されたMSであり、その意味でも適切だ。

 

 

 後の世にコンスコン三人衆と呼ばれる圧倒的な戦果をもたらす三人がいる。

 アナベル・ガトー、クスコ・アル、シャリア・ブルである。しかし俺の艦隊には他にもツェーン、カヤハワ、カリウス、ケリィといった名脇役が存在するのだ。

 

 ここに今、サイコ・ドムを駆るダリル・ローレンツという強力な戦力が加わる。

 

 

 

 


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