コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第四章 永遠のコンスコン
第七十七話 ララァの黒い計算


 

 

 粛々と作戦準備が進められる中、困っている人間が一人いる。

 それはクスコ・アルであった。

 

 以前コンスコン機動部隊がフラナガン機関を急襲したことがあったが、その際囚われていたNTの卵たちを発見し、収容できたのはクスコ・アルのおかげでもあった。居場所をなんとなく感知し救出部隊を誘導できている。

 しかしそれはクスコ・アルがそれらの者たちと知り合いであり、精神をよく知っていたからこそできた芸当である。

 

 今度行う地球降下作戦では連邦研究所が狙いであり、そんなわけにいかない。

 自分が検知できるとはとうてい思えない。

 確かにサイド6でロザミアという少女とはチラリと邂逅した。だがロザミア自身はNTではなくクスコ・アルと精神感応したわけではないため、また認識できるかと言われたら全然無理だろう。

 

 作戦自体はジオン情報部の探り出した情報を基に行うわけだが、破壊だけならともかく囚われている人間の救出というものは難しい。その最後の発見に自分が頼られるかもしれず、いや、期待されていないとしても役に立ちたい気持ちがある。

 

 

 だが解決策が全く存在しないわけではないのだ。たった一つ可能性がある。

 

 その策とは自分より強力なNTの支援を受け、思念を拡張し、能力を増幅してもらうことである。

 それを可能にするだけのNTをクスコ・アルは二人だけ知っている。

 どちらも強力無比なNTであることは折り紙付きだ。しかも年下であり、かつてフラナガン機関で妹分としてたいそう可愛がっていた者たちである。逆にそれらの者たちはクスコ・アルを頼りになる姉ではなくむしろポンコツなところをカバーしてあげようと生暖かく見ていたのだが、そこまでクスコ・アルが知っていることはない。

 

 その二人のうち一人はララァ・スン、もう一人はハマーン・カーンのことだ。クスコ・アルは天性のNT能力でこの二人に敵わないのを自覚している。

 その中でハマーン・カーンはそもそも軍属ではなくサイド3六大家の一つカーン家の令嬢であり、おまけに今は父マハラジャ・カーンのいるアクシズに向かって旅立っているはずだった。

 ならばララァ・スンしかいない。

 本来は他部隊の者と接触する前にコンスコン司令に話を通すべきものである。これは作戦に関わることだから。しかしその方法が可能かすらも分からない以上、先にララァに聞いてみる。

 

 

 ただしクスコ・アルは多少気が重い。

 作戦に巻き込んでしまうことになれば、ララァにはきっと迷惑になる。

 ララァはクスコ・アルを積極的に手伝おうと思わないはずだ。それは別に仲が悪いわけではなく、今回の作戦が地球だからだ。

 なぜなら地球表面でエルメスは使えない。そのためララァは直接的な戦力になることはできない。例えシャア少将が同行したとしても、こちらの手助けにはなるがシャア少将に対する手伝いにはならない。

 決して気分の良いことではないだろう。

 クスコ・アルの知るところ、ララァはシャア少将を護ることを生きがいとしているだけで、ジオンなど本来どうでもいいのだから。

 

「…… というわけでお願いしたいなあ、なんて思って……」

「お姉様、それができるかやってみなければ分からないでしょうけど、とりあえず地球に行けばいいんですね」

 

「へ!? ララァ、あなた本当にいいの?」

「だって、否もなにも、軍とはそういうものでしょう」

「 …… 」

 

 驚いたことにララァはあっさりと了承した。

 クスコ・アルとしては嬉しい誤算というか、拍子抜けだ。シャア以外何も見ていなそうなララァの口からそんな正論が出るとは思わなかった。

 その澄ました顔を見ても何も分からないがとにかく協力は得られそうだ。

 

 

 

 話はその一日前に遡る。

 

 今回の作戦行動と前後して各部隊に新しい兵士の補充がある。

 当然のことながら、地球降下作戦に参加する隊には精鋭の熟練兵、もしくは最優秀の学徒兵が与えられるのだ。その逆に参加しない隊には一般的な新兵を中心として配属されることなっている。

 

 シャアは当初降下作戦に参加の予定ではなかった。

 エネルギー戦略の実行部隊としての働きの方を期待されているからだ。

 そして出撃の合い間のひととき、思い立って新兵の教習を見に行った。それを統括しているカスペン少将のところである。

 

 シャアはララァを伴い、カスペン少将と挨拶を交わす。シャアとカスペンの間に特に因縁はなく、デラーズを始めとして敵の多いシャアにしては珍しくフランクに接することのできる相手だった。

 

「カスペン少将、どうかな、新兵の様子は。私も別に自分の隊を大きくしようとは考えてもいないが、優秀な部下は常に欲しいものだ」

「シャア少将は先頭を切って自分でMSに乗るからには…… ヒヨッ子の中でも精鋭MSパイロットを補佐につけてやりたいもの。この中でエース候補の実力があるのはキャラ・スーン、戦闘中は少しばかりおかしくなっているので扱いに注意が要るが、普段はそういうことはない」

「なるほど、しかし一人ということはないだろうし、他は」

「それを除けば五十歩百歩…… そういえばシャア少将、地球降下作戦には参加しないそうですな。ならばエースではなく必然的に平均スコアの者をあてがわなくてはならず、残念ですが」

「それは確かに残念なことだが、全体方針だから仕方がないな」

 

 それはちょうど昼時であった。新兵たちの休憩時間なのだろうか、思い思いにくつろいでいるようだったが、見るとその一か所になぜか人だかりができている。何かを中心にして集まっているようなのだ。

 それがシャアの目に留まった。

 

「いったい何だろう、カスペン少将」

「ああ、あれは、せめてジオン本国での研修期間だけでも家族との交流を許可しているので、おそらくジョルジョ・ミゲルという訓練兵の妹さんが昼食でも持ってきたんでしょう。その妹さんは可愛い盛り、訓練兵たちのちょっとしたアイドルになってしまったようで、来れば毎回あの始末に」

「そうなのか? 兵たちに過度の緊張がないのもいいものだが」

 

 その時のことだ。

 急にララァがシャアの袖を引っ張る。有無を言わせないほど強く。

 

「ん、どうしたララァ。そうか、カスペン少将の時間を取り過ぎてしまったな。済まなかったカスペン少将、新兵の補充については任せるとしよう。では」

 

 そう言ってシャアとララァはカスペン少将のところを離れる。

 もちろんララァには感知するものがあったのだ!

 NT能力のゆえなのか、ただの女の勘なのかは分からないが、あの場にいたら危険な邂逅があるのを予期した。それでシャアを強引に引き離す挙に出たのである。

 

 結果的にシャアとジョルジョ・ミゲルの妹ナナイ・ミゲルが出会うことはなくなった。

 

 

 しかしそれでもララァには懸念が残る。

 シャアからそれまで新兵補充についての詳しい話は聞かされていなかったが、地球降下作戦に参加しないシャアには平均的な新兵が補充されることになるらしい。だとすると、ひょっとしてその妹を持つ新兵がシャアの配下にやってきてしまうかもしれず、とすれば妹にも何らかの拍子に出会うということがあり得るではないか。

 

 

 そんなところへクスコ・アルが何と都合の良い話を持ってきた。

 ララァとしては一も二もなく乗るしかない。

 ララァ自身が地球降下作戦を手伝うのなら、おそらくシャアはララァだけをクスコ・アルに同行させることはない。シャアの隊もまた地球降下作戦に参加するよう願い出るに違いない。そうなれば、話を聞いた限り精鋭の方が補充されその新兵が来ることはなくなるだろう。

 

 ララァの黒い計算、ほんの小さなそれが波紋となる。

 

 元々シャアはエギーユ・デラーズとはどうしてもソリが合わず、一緒にエネルギー輸送船団を襲う作戦に従事しているのは窮屈に感じていた。

 更に、今回の地球降下作戦にはできるだけ多くのザンジバル級が必要とされる。

 コンスコン機動艦隊へ優先的に集められた新造のザンジバル級は六隻あるが、そこへシャアの旗艦であるザンジバルが加わるのは戦力的に心強い。

 

 こういったベースのあるところにララァの口添えが決定打となり、シャアとジオン上層部を動かす。

 地球降下作戦はコンスコン機動艦隊、キシリア配下のサイクロプス隊、シャアの部隊が担うことと正式に決定された。

 

 

 運命の作戦が発動される。

 

「3,2,1,ゼロ!! メインコイル動力接続! ガイドレーン良し、冷却装置正常、インジケーターオールグリーン!」

 

 それは美しく華麗なものから始まった。

 戦争開始以来長らく使われてこなかった月面のマス・ドライバーが突如稼働を始めた。

 真空の月面で音が響くことはないが周囲の岩盤に振動が伝わる。目で見て分かる震えが、音が無いだけにかえってエネルギーを感じさせる。

 

「予定エネルギー、フルチャージ! 制御コンピューター指示出ました!」

「よし! 続いてフィードエレメント装填、射出、開始!」

 

 ついに射出口から小岩石が撃ち出された。それは次々と途切れることなく続いていく。

 狙いは本来の目標である建設中のサイド5から地球への落下軌道に変えられた。予想落下地点はジャブローを含む広範囲だ。

 

 月面都市エアーズのみならず付近の都市の中央反応炉はフル稼働し、その全てのエネルギーがマス・ドライバーへ巨大電力として供給されている。

 

 マス・ドライバーから撃ち出され、地球落下軌道に乗った小岩石は文字通り加速度的にスピードを増し、しかし地表に到達する前に表面熱で爆裂する。また更に粉々になりながら最後は大気との摩擦で燃え尽きる。

 それは全く美しい。

 岩石の温度と鉱物の具合により赤にも黄色にも輝き、膨大な流星群となって夜空を彩るのだ。

 

 

 


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