コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第八十一話 未来は二人で

 

 

 そこから二人は様々な話をした。

 

 クリスチーナはジオン降下部隊があの連邦試作MS機をどうしたか知りたかった。聞いた限り、特に機体情報を探って持ち帰られたりはしていないようだ。この点でも安堵した。本当のところはクリスチーナの尋問のために予定外の時間を使ってしまったサイクロプス隊が移動優先のために放置した、つまりクリスチーナは立派に役に立っていたのだが。

 それ以外にも二人は、互いのこと、他のこと、話が尽きることはなかった。

 互いの印象は強く心に刻まれていく。

 

 朝になって北極圏特有の斜めの日差しを浴び、バーナード・ワイズマンは大きく手を振って別れを惜しむ。

 

「元気で! また会えるといいね。いや、きっと会いたい!」

「そうね、私もそうよ。会いに行くわ、年下君!」

 

 

 クリスチーナ・マッケンジーはそこからまた集落を経由して北極基地に帰投した。すぐさま一般兵用のジム・コマンドに乗り、自分で大破した試作実験機を回収し終わる。

 

 一方、その頃にはサイクロプス隊はほぼ任務を果たして後は宇宙に還るだけだ。

 予定通り連邦軍を引っ掻き回して混乱を引き起こした。陽動の任務は必要十分に行ったのだ。

 北極基地からの連絡により、被害の大きさからジャブローの連邦軍首脳部はジオンの有力部隊の降下とそれによる地表侵攻と判断した。そのため全体的な兵力の移動を指示してしまっている。

 

 

 サイクロプス隊は早めにザンジバルとの合流地点に到着した。だがここで一波乱が起きてしまう。

 最後の最後、連邦軍の索敵機に見つかる。そして連邦側は各MS中隊をとりまとめ、総勢三十機ものMSで包囲しサイクロプス隊に仕掛けてきたのだ。

 戦力的にも状況的にも厳しくなった。

 負ければもとより、宇宙に還れなくなったらその時点で終わりだ。

 

「慌てる必要はない。もうじきザンジバルが来る。いつもの戦法でいなしてやれ」

 

 シュタイナー隊長がそう指示する。

 ケンプファー改が一団となって連邦MSの密集地帯の中まで躍り込む。

 それは余りに速い。連邦側の反応の遅れを突き、至近から四方へ火器を放っていくという凶悪な攻撃だ。その銃弾に加えて接近戦のビームサーベルが閃く。これに慌ててしまい算を乱す連邦MSの背後から、伏せた姿勢でビームライフルを地面に固定したゲルググが狙い撃つ。

 この連携も幾度か繰り返すうちに板についてきた。

 

 しょっぱなから大きな損害を食らってしまった連邦MS隊だがさすがに馬鹿ではない。

 それに対応した戦術に切り替えてきた。

 前進速度を大きく落とし、そして無駄撃ちを厭わず牽制射撃を密にする。

 これでうかつに距離を縮められることなく射撃戦のみで決着をつけるのだ。数の優位を活かす。

 おまけに射撃戦なら実弾兵器を使うジオンMSは補給がない以上、撃てる回数に制限があるはずだから、その弾切れを待てばいい。堅実かつ合理的な策だ。

 

 この状況でもサイクロプス隊に焦りはなかった。皆がシュタイナー隊長を信じている。

 

 

 

 その時、結構な轟音と共に周囲に三回ほど爆発がある。

 今、やっとザンジバルが降下してきたのだ!

 

 そこから艦砲を牽制のために撃ち込んできた。もちろん味方への誤射を考えたら戦場にやたらと撃つことはできないが、周辺に撃ち込むだけでも連邦MSを浮足立たせるのには役に立つ。

 そして地面スレスレに降下していく。

 

 だが連邦MSも混乱から立ち直り、思いの外早く事態を飲み込んだ。

 

 それにはクリスチーナが関係している。ジム・コマンドのまま連邦MS隊の中に加わっていたクリスチーナが叫んだのだ!

 

「あれは…… 宇宙に撤収するための艦艇だわ!」

「今のは誰だ? クリスチーナ・マッケンジー中尉か? 君がそう見た根拠は?」

「あの艦は背中に大型のロケットブースターを持っています! つまりペイロードを降ろすために来たのではなく、目一杯積んだ状態で宇宙に戻るための形でしょう」

「なるほど…… そう言われれば理にかなっている。さすがに技術畑の君だ。感服したよ」

 

 

 今、連邦MS隊が緊急に考えるべきなのはあのジオン艦が増援を連れてきた可能性だった。ジオンが地表侵攻を本当に意図しているなら、今対峙しているのは威力偵察隊と考えられ、あの艦が増援を連れてやってきたと思うべきだ。そうであれば連邦MS隊としてはただでさえ早期決着が無理なのだから、更に形勢が不利になる前にいったん撤収した方がいい。その判断を迫られていた。

 

 だが、クリスチーナの言葉に連邦MS隊の隊長も納得した。

 

 言われてみればジオン艦は背中に大きなロケットブースターを持っている。つまり、決して増援を連れてきたのではなく、むしろジオンMS隊の撤収のためと推定される。

 

 ジオンのザンジバル級巡洋艦は地球大気圏でも航行できるよう大推力を持っている。また胴体部で揚力を得られる機体形状にもなっている。

 しかし、さすがに静止状態から加速して宇宙に飛び出るのは無理がある。

 そこまで上昇する前に推進剤を使い切ってしまうだろう。そのため多少なりともロケットブースターの力を借りなくてはならないが、特に今はMSを十一機も収容してペイロードが本来の上限を超えてしまう。そのため通常よりはるか大型のロケットブースターを背中に連結した形になっていたのだ。

 

 ジオンMS隊が撤収にかかっているのなら急進してそれを妨害すればいい。そう連邦MS隊は判断した。

 

 再び熾烈な射撃戦が展開される。

 

 手早く収容されるジオン側が早いか、有効射程に入ってそれを妨害する連邦側が早いか。

 そしてサイクロプス隊は慌てることもなく動作も速かった。

 連邦MSを近付けさせないまま収容作業を進め、もうあと数機を残すばかりになる。

 だが全てを終える時間はなかったのだ。

 

 その前にザンジバル級の収容ゲートを連邦MSが捉える時が来た。

 

「時間がない。一斉に撃つことはせず、照準をつけた者から順次放て!」

 

 そう連邦MS隊の隊長が指示する。

 

 前進していたクリスチーナ・マッケンジーもきっちりその命令に従いビームライフルを構える。

 スコープを位置にセットすると、数機のジオンMS、その背中が動いて見えている。

 そして最も狙いやすい最後尾にいるMSを捉え照準を固定した。

 

 ここで撃つ!

 

 だがしかし、最後の最後、クリスチーナはその射軸をわざと遠く外した。

 ビームがむなしく逸れて飛んでいく。

 

 ふう、と一つ大きなため息を吐いた。

 

「ホットミルクが美味しかったわ。年下君」

 

 

 

 ケンプファー改もゲルググも全てを収容したザンジバルはようやくそのロケットブースターに火を入れる。

 轟音と白煙を引きながら、最適角度のカーブを描いて飛翔していく。

 たちまちマッハを超える加速に入ってしまえば連邦から攻撃する手段はない。

 

 サイクロプス隊はこうして宇宙に戻ったのだ。

 

 

 

 

 …… そしてちょうど四年が過ぎた。

 

 クリスチーナ・マッケンジーはとっくに連邦軍を退役している。

 元々彼女は軍ではなく純粋な技術者の方が向いている。MS操縦の技量はたまたま天から与えられたギフトの一つであっただけの話で、惜しくはない。

 バーナード・ワイズマンもまた退役し、新興のジャンク屋の中でも一番勢いのある、ブッホ・カンパニーの腕利きの仕入れ人として忙しい毎日を送っている。

 

 どちらから探し当てたのか、あるいはどちらも探していたのだろうか、二人は再び運命の出会いを果たした。

 

「アナハイム・エレクトロニクス社新規開発部門第三課のクリスチーナ・マッケンジーです。ブッホ社のリサイクル工程を確認しに来ました」

「それはこちらにまでわざわざ…… あ、ええっ!」

 

「お邪魔するわ、ジオンのパイロットさん」

「き、君は!! あの時の…… 間違いないよね」

「エマよ。いいえ、エマじゃなくクリスチーナだけど」

「探していたんだ! ずっと僕は探してたんだ!!」

 

 

 

 そこから間もなくのことである。

 

 リボーコロニーにウェディング・ベルが鳴り響く。

 

 コロニーには誰が決めたのか、粋な規約が一つ存在する。

 それは、結婚式がある時間だけはこれでもかというほど快晴にすることになっているのだ。

 その青空を白い鳩が舞う。

 皆が二人の結婚を祝った。皆が二人の明るい未来を願った。若干一名、「憧れの隣のお姉ちゃん」を取られてむくれているアル少年を除けば。

 

 結婚式はいくつかの祝辞が済み、その次にはバーナード・ワイズマンの元部隊の皆による下手な合唱の番になる。さっぱり調子の合わない男性合唱で、リード役のシュタイナー隊長も苦労していたが最後はどうにでもなれと投げ出している。さすがに歌には作戦行動ほどの責任感はないようだ。しかし歌う方も酔っているが聴く方も酔っているのでちょうどいい塩梅なのかもしれない。

 

 それが終わると更につまらない余興があった。

 

 カンガルーの着ぐるみが出てきたのだ!

 

 酔っぱらったミーシャが入っているので大きな着ぐるみになっている。

 そこに可愛らしさはどこにもなく、造形も素人臭くてかなり雑だ。おまけにふらついて宴席のテーブルにぶつかって歩くから大騒ぎになる。

 もちろん、このカンガルーは二人のなれそめに関係している意味なのだ。

 一部の出席者には大受けしたが、クリスチーナは渋面を作った。

 

 

 

 その夜のことだ。二人はいつものように楽しい会話を交わす。

 

「式は大変だったけど、楽しかった。羽目を外した連中のことは赦してくれよ、クリス」

「そんなことはいいわよバー二ィ。でもみんな、こんなご時世によく来てくれたわ」

「そうだね…… 本当に感謝だ。できれば歌も練習してくれれば良かったんだけどね。あ、そういえば余興で出てきたカンガルーの着ぐるみ! いつあんなの用意したんだろう」

「え、それの話? あの時のこと思い出しちゃうわよ。やめてほしいわ、まったく」

 

「それはそうだろうさ」

「こっちは大変だったんだから……」

「しかしあの時のクリスは凄かったよ! よく嘘を言い通したね。あれでみんな騙されて、君を疎開してきた民間人だと誤解したんだから」

 

 これを聞いて驚いたのはクリスチーナである。

 

「ええっ! まさか、まさかだけどバーニィ、あの時の嘘がバレてなかったとでも思ってるの!?」

「だから君がオーストラリアから来た話だろ? よく考え付いたもんだ」

 

 

 はあ、と力のない溜息をつくのだった。

 そしてクリスチーナは今さらながらの説明をした。

 

「どうやったらそう思えるのよ。バレてないわけないじゃない。あの時のジオンの隊長さんは分かっていたんだわ。でも、隊が敵地での隠密行動である以上、連邦の捕虜を連れて歩けるわけはない。しかし連邦の兵と分かって釈放することもできない。だったら理由を付けて殺してしまうしかなくなってしまうじゃない。けれど隊長さんは私を殺したくないと思ったのよ。だから私のくだらない嘘にこれ幸いと乗って、こじつけた。カンガルーの話なんて本当はどうでもよかったんだわ」

「 …… 」

 

 

 バーナード・ワイズマンは元からシュタイナー隊長を尊敬していたが、更に大きく感謝を加えるのだった。

 

 

 


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