コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第八十二話 オーガスタ、急襲!

 

 

 連邦はマス・ドライバーによる作戦とサイクロプス隊の陽動によって乱れた。

 

 そしていったん異動命令が出て、所属が変わったばかりの隊は即応が難しいのだ。軍であるからには命令系統自体はしっかりしているが、それでも上司と部下というものは阿吽の呼吸というものが存在する。上司は部下の能力と忠誠心を把握して始めて使いこなせるものだ。逆に部下は上司が信頼に足る者かどうか常に推し量っている。部隊の異動と所属の変化はいったんこれをご破算にすることでもある。

 おまけに前線部隊以上に後方勤務の者は忙しくなってしまう。部隊の移動だけでも大変なのに、補給物資生産や購入、連絡窓口など考えることは山ほど出てきて膨大な処理に追われる。

 

 

 そこを突き、ついにジオンの地表作戦は本番に入ったのだ。

 

 コンスコン機動艦隊はザンジバル級六隻を中心としてムサイ五隻、輸送艦三隻を従えながら降下する。

 

 ザンジバルはいったん降下し、MSを含めた部隊を送ったのち再び上昇、成層圏上層で待機に入る予定である。

 一方のムサイは大気圏航行能力は無いためそのまま降下・着地させた後は動かず、ただの砲台になって作戦支援に回る。最後の最後に人員だけ脱出させ、自沈する使い捨てだ。

 

 それともう一隻、シャアのザンジバルもまた同行し支援に入る。

 ザンジバル級は大きさに比べてあまり積載量は多くなく、MSは通常九機しか載せられない。その一方で砲撃力はチベよりずっと弱く、砲撃戦にも向いていない。そういう意味で大気圏内ならともかく宇宙ではたいそう効率の悪い艦なのだが、シャアは以前から好んで旗艦に使い続けているのだ。それは大推力を持ち、ここぞという時の加速に優れるせいである。

 自分もMSで突撃するシャアのこと、オーソドックスな砲撃戦ではなく機を見て一気にMSで勝負を決める戦法をとるのに大変使い勝手がいい艦なのだ。

 

 

 俺はついに作戦開始を指示する。

 

「先ずはムサイを先行させる。目標、連邦オーガスタ基地上空で逆噴射をかけながら自然重力で降下、途中早いうちに対空ミサイルポッドを見つけて潰す、それが仕事だ。そしてオーガスタ周辺を封鎖するように着地しろ。同時に別ルートからザンジバル級全隻で大気圏滑空に入る」

 

 こうして急襲の手筈を整えていく。考えに考えた作戦である。

 

「そして目標のオーガスタ基地の直前まで来たら機首を上げ、失速によりスピードを落とし、ガトーらの降下部隊を発艦させる。その後艦は上昇、旋回しながら輸送艦から目一杯推進剤を受け取り続ける。輸送艦は空になれば連邦のMS格納庫目がけて墜としてやれ」

 

 待ってろよ連邦オーガスタ!

 半日で片付けてやる!

 

 

 作戦通りムサイたちが降下に入った。

 たちまち熾烈な対空砲火に迎えられ、それをかいくぐらなくてはいけないことになる。だがムサイたちもそれに対し反撃を始め、連邦オーガスタ基地対空陣地に打撃を与える。

 これは必須のことなのだ。

 大気圏中ではミノフスキー粒子はあまり濃くできない。そのため、旧来のレーダー兵器やホーミングミサイルといったものも至近では有効になってしまい、これを叩かないと危険だ。

 おまけに地球表面に限り熱核エンジンを使わないいわゆる戦闘機も脅威になる。そして、こちらの襲撃に気付いた連邦が最も早く送ってくる戦力は歩兵ではなくそういう戦闘機なのは自明である。

 いかに宇宙空間では無敵のMSとはいえ、地球重力下で自由には動けない。高速で三次元移動ができる戦闘機が優位に立つこともありえる。それらの排除も担うのだ。

 

 ムサイの頑張りを確認し、次の段階に移行する。

 俺の乗る艦を含め、ザンジバル級が一斉に大気圏に突入し滑空を始める。その強靭な外壁耐熱剤が摩擦熱によってたちまち高温になり暗赤色に変わっていく。その性能を試すかのごとく耐熱温度ギリギリで航行する。もちろん滑空ではなく単に落下する方が速いのは当たり前だが、それでは減速する時に推進剤を大量に消費してしまい、上昇できなくなってしまうのでこうするのが合理的である。

 完璧に空調が効いているはずの艦内だがわずか温度が上がったような気がした。緊張で汗ばんできたせいだろうか。

 

 ようやく連邦オーガスタ基地が見えてきた。

 そこから十秒もすると格納庫らしきものから連邦MSが出てくるのが分かる。まるで動く砂粒のように小さく、また数が多い。

 連邦オーガスタ基地は想定よりも大規模だったのだ。ジオン側が情報を入手した時点から更に拡充されたのだろう。連邦の重要な開発拠点として発展し、当然のように守備も決して手薄ではない。

 

 

 だからといって作戦を中止することはない。

 ザンジバル級が次々と機首を上げ、失速により最後のブレーキをかける。

 だがここで驚くべきものを見る。

 

「な、何! もう発艦しているMSがいる!? この高度で、まさか!」

 

 こちらの艦隊からMSが一機もう出ているではないか。

 誰が出撃したのか。

 考える必要はなかった。それが赤いMSであるからには、シャア少将しかあり得ない。

 もちろんそのシャア少将から作戦指揮官である俺に通信が入る。

 

「コンスコン司令、予定通りのMSによる強襲、先に行かせて頂きました」

「シャア少将、どうしたというのだ! あまりに危険だぞ! 単機では降下中に狙い撃たれたらどうにもできない。中高度からのパラシュート降下では逃げようがないではないか」

「パラシュート? ああ、コンスコン司令、それならばご心配なく」

 

 全くいつもの調子を崩さず、人を食ったような態度のシャアに俺も唖然とする。

 そして表示器にシャアの乗るゲルググJ改のスペックシートを出させてはじめて、俺にもその自信の根拠が分かってきた。

 ゲルググJ改、装甲も武装も平凡である。しかし推力だけが馬鹿みたいに大きいのだ。なるほど、それでは短時間なら降下にパラシュートが必要ないということか。ついでに言えばパラシュートを付けていなければシャアは降下中に狙撃されたとしても躱す自信があるらしい。

 

 実はこれまでシャアは技術部からガルバルディ改への移乗を勧められていた。しかし、あっさりと断っていたのだ。

「別に機種を変えたくなくて言ってるんじゃない。必要があれば私はいつでも変えられる。だが今のところその必要はなさそうだ。ゲルググJ改は私の戦闘スタイルにとてもよく合う」

 

 

 しかし、降下した後でもしばらく単機ではないか。その危険性は変わらない。

 もし撃破されたらシャアの自業自得というだけでは収まらず、事はジオン全軍の士気に関わる問題になる。

 シャアの思わぬ独断専行に複雑な気分になっていた俺になぜか艦橋のセシリア・アイリーンが言ってきた。

 

「司令、シャア少将の動機はスタンドプレーなどではなく、たぶん単純で、可愛いものですよ」

「動機? どういうことだろう。シャア少将は昔から自信過剰で戦いに際して派手好きだが」

「女だから女のことは分かります。あのララァという女は従順なようでいて恋人を縛り付けるタイプ。今、シャア少将は一人で羽を伸ばせる機会を待ちかねたのでしょう。母が大好きでどうせ母の元に帰るのに、それでもたまには一人で冒険したい子供のようなものです」

「なるほど。シャア少将は子供、か」

 

 それで気持ち的にはなんとなく納得できた。

 しかし早めに後続のMSを出さなくてはいけないのは同じである。

 

「高度40、完全静止を待たずにMS隊は順次発艦だ! 先頭はガトーの隊とする」

 

 

 ついにこちらのMS隊が出撃して戦闘に入る。

 信頼性のあるガトーやカリウスのMS隊総勢十六機が降り立つ。ハッチが開かれたとたん、吹き込む風にMSが巻かれる 。それをものともせず出て、そのまま風を切りながら落下し、最後は脚部の着地と共に重い音を立てる。宇宙しか知らないパイロットがいたらおそらく戸惑っただろう。そんな風や音は地表ならではの洗礼だ。

 そして早いところ連邦MSを派手に葬り続けていたシャアと合流する。それは、シャア自身の部下であるMS隊が追い付いてくるまで一時的に合同で戦うためである。

 次にシャリア・ブルの隊十四機、そしてツェーンの隊十三機が続いて発艦する。今回の作戦、モビルアーマー乗りの二人のうちケリィは悔しさをこらえて残留に回ってもらった。もう一人のクスコ・アルはもちろんシャアのララァ・スンと共同で別の仕事がある。

 

 突撃していくこちらのMS隊は実に頼もしいものだが、対する連邦MSもまた想定より多かった。

 ざっと見ても百機以上はいるのではないか。

 もちろん全部を倒す必要はさらさらなく、こっちの作戦行動を邪魔されないようにすれば問題ない。まあ、戦意を刈り取るには半分は倒さねばならないだろうが。

 連邦MSはその内容的に、今となっては旧式に分類されるジム前期型、あるいはジム・コマンドばかりなのは幸いだ。既に高性能機の方は残らず宇宙に送られてしまっているのだろう。

 それならばこちらの主力であるジオン最新鋭機ガルバルディ改の方が数段上の性能になる。地表の大気や重力に慣れてしまえばこちらのもの。分断されて袋叩きにされない限りまず負けることはない。

 

 ましてやこちらにはジオンでもエース級がいる。戦いぶりを見れば明らかだ。

 

 シャア少将は全く連邦MSを寄せ付けず、撃墜スコアを伸ばし続ける。もはや「赤い彗星」の恐怖に連邦MSは立ちすくんでいるように見えた。

 

 事実、地球に残っている連邦将兵でシャアの伝説を知らない者はいない。

 

 それは赤いシャアズゴックが何と振り向いて見ることすらせずに横から来たジムを一撃で斃した、というものである。

 そして今、伝説を再現するかのようにゲルググJ改のビームナギナタが閃く。

 ただ黙々と戦うのではなく、一連の動作で前方のジム、後方のジム、二機を同時に片付けたりしている。

 

 そんな華麗な技が赤いMSとよく似合う。

 

 

 そして俺の方は、シャアやガトーなどの活躍を見るだけではなく、隠し玉と連絡を取ったのだ。

 これが初の実戦投入となる。

 

「カーラ・ミッチャム教授、どうでしょう」

「それはもう神経接続は完了、ダリルのサイコ・ドム、いつでも行けます!」

 

 

 


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