コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第九話 ギャン

 

 

 よほどシャリア・ブルを強奪してやろうかと思った。

 どうせ間もなくア・バオア・クーの戦いが始まることを知っている。

 その後、戦争はジオンの負けに終わり、指揮系統もクソもなくなる。軍としての体裁がなくなってしまう。ジオン軍は降伏するもの、行くあてのないもの、それでも連邦に抵抗するために潜伏するもの、バラバラだ。

 今ここで俺がフラナガン機関と一悶着起こしても構わないのではないか。罰則食らう前にア・バオア・クーだ。

 しかし、俺がそんなことをすればしめしがつかないのも事実だ。それにドズル中将にも迷惑がかかる。そのため自重した。

 

 

 俺は多少むしゃくしゃしていたんだろう。

 

 そのわずか三十分後に遭遇した艦隊戦をまるでうさ晴らしのように行った。

 

「テキサス・コロニーのベイ付近で、艦隊戦観測!」

「何? 詳細精査、そしてモニターに強拡大!」

 

 艦橋にオペレーターの声が響く。

 テキサス・コロニーへ近づくと、明滅する光が見えてきた。これは艦同士の砲戦だ。

 

 一方はジオン、チベ一隻とムサイ一隻だった。

 そして相手はもちろん連邦だ。一隻だけだったが、何とマゼラン級戦艦じゃないか!

 これはかなり無理な戦いだ。火力でも防御力でも敵う相手じゃない。

 実際、チベもムサイも直撃をいくつも食らっていた。エネルギー伝達系統がやられたのか、撃てる砲も見るところ半分以下、足も止まっている。このままではあとわずかで爆散の運命だろう。

 俺は直ちに戦いに加わる。

 

「連邦のマゼランめ、コンスコン機動部隊の戦いをじっくり味わうんだな!」

 

 牽制をかけてジオン艦を逃がすだけにとどめる気は無かった。気が高ぶっていたせいか、マゼランを墜とすつもりだ。

 もう作戦の骨子は決めている。

 

「今回は、MSに頼り過ぎず行くぞ。砲戦で決めてやる。フラナガン機関などという邪道ではない戦いを見せてやる」

「ええ、そうです司令! そして作戦は?」

 

 俺と同様、ノリノリの副官へ作戦を伝える。おいおい、副官というのは司令官が沈んでいれば励まし、浮かれていれば諫めるのが仕事なんだけど!

 

「あのマゼランの前方へ急行しろ。その後チベと、ムサイ五隻は左右に分離だ」

 

 その通り、ムサイ五隻は固まり、チベと距離を置く。

 

「よし、ここからだ。全艦、マゼランとの距離を詰めろ! MSも発進!」

「間もなくレッドゾーン、射程内です!」

「MSはマゼランに接近し過ぎなくていい。対空砲火に当たらないよう注意しろ。ただし間断なく撃ちかけ、主砲の管制を邪魔するんだ。それだけは頼む」

 

 マゼランはこちらのドム隊をうっとおしく思いながらも砲撃戦に入ろうとした。対空砲火に注力せず、主砲を優先して使う気になった。確かに母艦を潰されればMSは無力化される。その判断自体は正しい。

 同時に俺の方も動く。

 

「メガ粒子砲、発射!」

「コンスコン司令、まだレッドゾーン前ですが?」

「構わん、撃て。チャージが終わり次第もう一度撃て。派手にやれよ」

 

 チべの砲撃はマゼランに当たらない。それは計算の内だ。

 そしてマゼランはこのチべを最優先で片づけるべきと思ったのだろう、こっちに向いて主砲を撃ってきた。

 チべの横を至近弾が通過する。

 さすがに威力の高い戦艦の砲撃だ。

 光の筋がチべを明るく照らし出す。艦橋の中まで光が差し込み、いっときオレンジに染め上げていく。窓枠の影が黒くくっきり描かれる。

 一瞬後、シャッという音が聞こえる。さすがに戦艦のメガ粒子砲は強く、当たらなくとも撒き散らされる粒子がある。そのこぼれ粒子がチベの外壁を叩いた音だ。

 

「間合いがまだ遠いんだ。こっちが射程外で撃ったから向こうも焦ったんだろう。そして、やはり引っかかったな」

 

 チべとムサイがいたら、誰でもチべが主役でムサイが陽動だと思うだろう。

 火力でも防御力の点でも。普通はそうだ。

 だがしかし、マゼランはこの場合考えるべきだった。ムサイ五隻が全く撃っていないことを。

 

「予定通りだ。ムサイは完全静止。スタビライジングかけろ。目標ピンポイント」

 

 砲撃は艦が安定していればいるほど、精度が高くなる。

 俺は今回の主役をムサイに決め、静止の命令を出している。その結果、砲撃予定精度が上がっていく。

 その上で狙いはマゼラン機関部だ。ただ艦に当てるだけじゃない。場所まで絞り込む。

 

 マゼランが陽動のチべの方を向いたおかげで、ムサイたちからすればマゼランは斜め横方向になるのだ。そのためにチベとムサイの距離を置いたのだから。

 それはすなわち、艦後方の機関部まで見えてきて、そこをムサイが砲撃で狙えることを意味する。

 

「計算完了したか!」

「ムサイ全艦計算完了、誤差確率10%以下!」

「よし、ムサイ主砲、一斉砲撃三連、撃てーーー!!」

 

 ムサイ五隻の主砲が全てマゼラン後方の機関部に吸い込まれる。よく揃った同時着弾だ。

 普通にはマゼラン相手に大してダメージにならない軽巡ムサイの砲撃でも、多数が同じ個所に当たれば違う。そしてこれは重なっていく。

 

 一撃目でマゼラン機関部の外壁が吹っ飛ぶ。

 

 二撃目でエンジン防護壁に穴が開く。

 

 三撃目でエンジン直撃だ。

 

 狙った通り、マゼランはエンジン誘爆で轟沈した。ただの残骸へと変わり果てる。

 コンスコン機動部隊をなめるなよ!

 

 

 

 そして俺の艦隊が救ったジオン艦から通信が来た。

 

「危ないところ応援、感謝します! しかしお見事です。マゼランを討ち果たすとは」

「それはともかく、貴官らはなぜ逃走が遅れたのだ?」

「申し遅れました。我らはマ・クベ大佐麾下バロム分隊。テキサス・コロニー内に突入したマ・クベ大佐を待っていたところです」

「何? マ・クベ大佐の? 大佐はどうしてテキサス・コロニー内へ突入を? ここは連邦の木馬も近くにいるはずだ。危険だぞ」

「大佐はその木馬を討つため出撃したのです。ギャンに搭乗しコロニー内でまだ戦っておられます」

「え? ええーーッ! マ・クベ大佐がMSで!! ウソでしょ!」

 

 ホントかよ!?

 ギャンはただのMSだよ?

 艦隊指揮官がMSに乗るっておかしいだろ! しかもマ・クベ大佐は明らかにデスクワーク組だろうが! 横にいつもいる副官の方がまだマシだ。

 壺より重い物持ったことあるのか?

 いや、家に巨大な壷があるのかも知れないけどさ。考えたくないな!

 

 無茶苦茶だよ! そうは思ったが、マ・クベ大佐の意図もまた理解した。

 確かに指揮官がMSで戦うとなれば、兵士たちからの人気も支持も天井知らずに上がるだろう。ちょうどシャアのカリスマのように。

 もちろん上官からの見る目も変わってくるに違いない。ああ、そうか、そのためか。上官といえばキシリア少将だから。マ・クベの無謀さに眉をひそめるかもしれないが、しかし、勇敢さだけは認めざるを得ない。マ・クベを男として評価するだろう。

 

「 ……仕方ない。マ・クベ大佐を救出に向かう。大佐はジオンにとって有能な人間であることも確か、おまけにドズル中将の命もある。見殺しにもできん」

 

 

 

 俺はMSの半数とムサイを割いて当座のバロム分隊の援護に就かせ、自分はチベでテキサス・コロニーのベイに入る。直ちに残りのMS隊を発進させ、コロニー内を探らせた。

 

「いいか、敵MSを発見しても絶対に交戦するな。絶対だぞ!」

 

 俺は隊のMSを一人たりとも失いたくないんだ。そこだけは厳命した。

 そして間もなくマ・クベ大佐と敵の白いMSを同時に発見することになる。

 

「こちらドム隊ツェーン、マ・クベ大佐のものと思われるギャンと連邦のMS発見しました。激しく交戦中!」

「映像送れ! ツェーン、その場を動くなよ! 見つけられないように伏せておけ」

 

 ツェーンのドムから送られてくる映像は多少乱れていたが、状況は分かった。

 砂地の上で二機のMSが戦っている。

 一方は例の白い化け物MSだが、もう一方はギャンだ。もちろんギャンの姿はジオンの新着データ上で知っていただけで、実機を見るのは初めてだ。ギャンは細身でスピード重視の機体に見えた。これにマ・クベ大佐が乗っているのか。

 

 少し観察しただけだが、俺は驚くことになる。

 マ・クベ大佐のギャンがそれなりに戦いになっているとは! 白いMSと斬り合いになっている。凄いじゃないか大佐。不思議だ。

 だが白いMSと対等という意味ではなく、一撃でやられないというだけだ。ギャンの盾も切り裂かれているようだ。このままでは撃破される。

 

「ガトー大尉は側にいるか! 接近し、連邦の白いMSを抑えろ。マ・クベ大佐のギャンが撤退する契機を作れ。ただし、白いMSを牽制するだけで、仕留めようとは思うなよ。タイミングを見て逃げるんだ」

 

 俺はこっちのドムの中で、ずば抜けて技量の高いアナベル・ガトーを指名し、向かわせた。ギャンを助けるだけならできると期待してだ。

 

 ギャンと白いMSの交戦にガトーが割って入る。

 誤射の可能性のあるバズーカは使えず、ヒートサーベルを使う。白いMSは思わぬ敵に驚いたようだが、それでも向かってくる。常に全力、どんだけやる気なんだよ!

 ガトーがなんとかいなしている間、辛うじてギャンが離脱することができた。思ったよりギャンのダメージは大きいようだ。ほうほうの体である。だが決してカッコ悪いとは思わないぞ、マ・クベ君。自分でMSに乗るなんてやるじゃないか。

 

 後は頃合いを見てガトーが逃げるだけだ。

 さすがにアナベル・ガトー、善戦している。ただし勝てるわけではない。

 ガトーもこの白いMSが尋常な相手でないことを短時間で理解した。反応速度が明らかに自分を上回っていることを知る。そういう技量の判断ができるところも実力の内、ガトーも並のパイロットとは別モノだ。

 

 ただし、そこで思わぬハプニングが起こってしまった!

 ツェーンが飛び出している。今なら、白いMSを倒せると踏んだのだろう。普通ならそう考えてもおかしくはない。相手が化け物でなければそれもいいだろう。

 だが、この場合はダメなんだ!!

 

「ツェーン、戻れ! 馬鹿、やめるんだ、ツェーン!!」

 

 俺の声も空しく、そこで映像は終わった。

 ツェーンのドムのメインカメラが破壊されたのだ。

 

 

 


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