コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第九十五話 ジオンの結束

 

 

 ズム・シティの市民にさえ影を落とす社会不安、その原因を考えるのは難しくない。

 それはキシリア閣下にあった。

 

 以前キシリア閣下はサイド3の社会的改革を成し遂げると俺に語ったことがあった。

 ギレン総帥のやりかけたことをどうしても自分がやると言って。

 

 ついにそれに手をつけたのだ。

 

 今このタイミングでキシリア閣下はジオン六大家とそれに連なる名家を集め、次々と「適切な処置」を下している。

 その政治的経済的激震があらゆるところに及び、市民にも先の見えない不安を与えてしまっているのだ。

 俺はそれをまずいと感じている。

 連邦との戦局は一時的な小康状態にあるとはいえ、いずれ激しく矛を交えるに決まっている。それなのにジオン国内が乱れるとは。

 キシリア閣下がそんなことを考慮していないはずもないが、万が一にもそれを軽視しているようではいけない。これは真意を聞く必要がある。

 そこで、どのみちキシリア閣下に地球作戦の報告をするのだから、それについて聞いてみようと思ったのだ。

 

 

「キシリア閣下、ついでに申し上げますが、その、ズム・シティの雰囲気が少しばかり良くないというか、悪くなっているというか、そんなような」

「 ………… で?」

「あくまで一般論としてですが、何かの政策実行には摩擦が付き物というか、感情というものは往々にしてそれについていかない場合があるというか、なんと言いましょう」

「はっきり言えコンスコン。つまり私に文句が言いたいのだろう」

 

 キシリア閣下の表情は苦笑いを崩していない。

 おそらく俺が意見したがっていることも、その意見の内容もとうに分かっているのだろうな。

 

「完璧に理解しろとは言わないがコンスコン、一応の説明はしといてやろう」

「お、お願いいたします」

「先ずは私の行った事実からだ。初めにサイド3六大家の一つ、トト家には退場願った。トト家の持つ債権のほとんどは国庫に納め、せいぜい上級市民として生きられる分だけを残した。これはトト家がグレミー・トトを利用して画策しようとした罰だ。正直自分では甘過ぎる処置だと思うが…… 未遂でもその証拠を掴んでいると言ったらトト家は震え上がって納得してくれた。そして次にサハリン家だ。これも当主ギニアス・サハリン、その妹アイナ・サハリン共に行方不明、よって親類縁者がいくら騒ごうとも後継者不在により資産は凍結、しばらく様子をみてから国庫に入れる」

 

「そ、それは大胆な…… トト家が軽挙なことを考えたとしても、こちらが敢えて泳がせていた連邦工作員に乗せられただけでは…… あ、それでキシリア閣下、グレミー・トトという幼児はいったい?」

「ああ、言い忘れたな。グレミー・トト自身は私の手元に置く。誰かに利用されないためにはそれが一番いい。それにな、変なことを周りから吹き込まれて育てばねじ曲がった信念を持ってしまう。それは必ず不幸を招くことになる。周りにはもちろんのこと、グレミー・トト本人にも。おまけに資質が優秀なほど不幸も大きくなる。それだけは避けたいのだ」

 

 ここでキシリア閣下は一息入れた。なぜか少し疲れているようだ。

 

「話を進めよう。ここから先は今からの予定のことになる。肝心の我がザビ家については私とドズルの兄者が話し合い、父デギン公王の持っていた資産分は国庫に納めることにする。私も兄者もケチではないからな。これはけじめとして率先してやらねばならん。次に、ラル家はそこそこの戦争協力金だけで済ませる。ラル家にはいろいろ言いたいことも積もり積もっているのだが、結論としてはそうする。同じようにセロ家も協力金だけだ。言っておくがコンスコン、お前がセロ家だからという理由ではないぞ。お前の弟の現当主はそこそこ立派な運営をしており害はなく、次期当主、マシュマー・セロも健全な成長をしていると聞く」

 

「そ、それはまあ……」

「協力金は、ジオン国家に対する影響力を大幅に削ぐことになるが貴族家として立ち行かないほどではない。そして最後にカーン家、これには少しばかり策を用いた。当主のマハラジャ・カーンをわざわざアクシズ駐留から本国に呼び戻して様子を見ても、トト家や連邦工作員の口車に乗るそぶりはなかった。その忠誠により、協力金くらいに済ませるつもりだ」

 

「キシリア閣下、なるほどそれぞれ六大家へ合わせた処置、理にかなっていることは分かりました。ですがそれほどまでのことを、ここで一度に…… それでは社会不安が増大するのは当たり前では。昨日までの常識が今日通じないとなれば」

 

 どうしてもそれを言う必要がある。

 例え良いことをするのであっても、タイミングというものがあるだろう。

 

「そう言うと思ったぞコンスコン。だがな、これはジオンの発展には必要なことだ。それだけではない。いつぞやも言ったが、サイド3の貴族支配を終わらせることは、連邦との和平に向けて必ずしなくてはならない、地ならしなのだ。その象徴たる六大家の力は早いところ削がねばならん」

「し、しかし、一時的にでも生産力にまで影響することも考えられます。それがジオンの戦力の低下へと。おまけにキシリア閣下がご存じないこともあります」

 

「それはいったい何だ? コンスコン」

「直接戦力の低下に結びつくことがあり得るのです! 実際に戦う将兵の動揺のせいで。なぜなら 将兵は必ずしも一般市民だけではありません。何らかの形で六大家に結び付いている者も多いのです。むしろ軍だからこそ貴族階級の出である者が多くいます」

「コンスコン、お前のようにか。それは特殊な例としても、確かに貴族の子弟が軍に行く場合は多い。それは私も理解できる。しかしな、それくらい何とでもできる。いやお前が何とかしろ。私としてはお前こそジオン結束のキーだとさえ思っているのだぞ」

「……」

 

「お前がギレンの兄者のように演説をしろとは言わないが、まあそれは無理でも、少しはカリスマを使ったらどうだ」

「カ、カリスマと言われましても……」

「何だ。自覚もないのか。ジオンのコンスコン大将、普段はのっそりしていても戦えばほぼ常勝のくせに。しかも、これまでどんな難しい局面にあっても必ず策を出し、それを見事に当てて切り抜けてきた。結果的に驚くべき勝利を続け、おまけに死傷率は異常に低い。ジオン将兵がお前をどう思っているか、ちょっと考えたら分かりそうなものだが」

 

 ま、まあガトー君やケリィ、ダリルくらいには受けが良いのは分かっているが、他の将兵に対してはどうだろう。ツェーンなどは今でも邪険にしてくるような感じだ。

 俺は男にばかり人気があるような気がするが、考え過ぎか? そうではないと思いたい。

 

「そうだコンスコン、具体的なことは可哀想だから言わないが、ついでに見かけをもう少し変えたらどうだ。きっと受けも変わってこよう」

「ええっ、そんな…… しかも何をどう変えろと…… 」

「冗談だ」

「……」

 

 持ち上げられて落とされたような気がしたぞ。

 

「コンスコン、話を戻すが、お前は何か勘違いをしている。今はジオン国民も動揺しているようでも、この処置はいずれ結束を強めるように働く。国民の一体感として必ず実を結ぶ。そしてそれは連邦との戦いに勝ちを収める上で必要不可欠なことでもある」

「なるほど、しかし必要不可欠とまで…… 」

「当たり前だ。そうでなくては戦争に勝てるはずがない」

「……逆に言えば現状のまとまり程度では勝てないと」

「もっと詳しく言わないといけないのか、コンスコン。考えてもみろ。今、ジオンが行っているエネルギー戦略が連邦を締め上げるだけでなく、ジオンの方にも影響しないと思うか」

「ジオンの側に、それは?」

 

「本格的にエネルギー戦略を進めれば、おそらく連邦からジオンに入ってくる物もまた無くなるだろう。今でもサイド6を経由した迂回貿易で民生用品の横流しはあるのだからな。もちろん、木材などの贅沢品が入ってこなくともどうでもいい。しかし地球表面でないと手に入らない希少金属などもある。残念ながらマ・クベの持ってきた資源ははぼ軍事用に限られたもので、民間へ供給するには足りるはずがない。このままだと民間用、市民生活用の核反応炉の修理さえできなくなる。早急ではなくとも」

 

「要するにこれからジオン側も窮乏する一面があると。しかもそれが一般市民にも深刻に及ぶレベルで」

「そうだ。だからこそ今のうちに改革を成し遂げて、ジオンは一丸とならねばならない」

「そうしないと勝てない……」

「コンスコン、戦争はもうそのレベルになったと知っておけ。私はそこを見ているのだ。この戦争は撃ち合いが重要ではない。結束を崩さない方が勝つ。崩れた方が負ける。そういう戦いになった」

 

 

 そうキシリア閣下に言われてしまえば、俺はそういうものかと思ってしまう。

 

 正直分からない面もあるのだが、「政治のキシリア」閣下の考えなのだからたぶん正しいのだろう。

 ジオンでただ一人、あの連邦の狸どもと渡り合えるキシリア閣下なのである。そのジオン随一の政治センスによって俺とは見えているものが違うのだ。今はその片鱗を知った。

 

 俺はそんなことを思いながら退出した。

 

 

 

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