コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第九十七話 アクシズからの客

 

 

 俺の抱えている問題、それはMS戦力のことである。

 是非とも解決しなくてはならない大きな問題なのだが光明が見えない。

 

 今現在、乗り手を選ぶのが難点ではあるがジオンMS最高性能を誇るアクト・ザクは失われてしまった。もはやガトーを含めたエースの乗るべきMSが無くなってしまっている。それは直接的には地表作戦で勝利を得た代償ともいえるが、いずれはこうなると分かっていたことだ。しかも俺の艦隊ばかりの問題ではない。デラーズ艦隊のラカン・ダカラン、キマイラ隊のジョニー・ライデン、それぞれのエースの乗るアクト・ザクも近いうちに稼働不可になるのは明らかだ。

 その他のエース機、シャアのゲルググJだけはベースがゲルググであるだけに補修部品はかなりのところを流用できるのだが、それでも有限なことは確かである。

 

 これはジオン全体の戦力からすれば由々しき問題になる。

 エースクラスのMSパイロットにその能力を発揮してもらわなくては影響が大きい。直接的な戦闘力以外にも全体の士気が低くなってしまう。そして何より艦隊司令官級に対し、その戦術選択の幅を狭めることになり作戦立案においてかなりの負担を強いる結果になる。

 

 エースの乗るにふさわしいフラッグシップMS、その高性能MSをどう調達するか。

 

 既存の改良で何とかできるのか、あるいはこれから新規開発をするのか、そもそもどうやっても無理なのか、そろそろはっきりさせたい。

 

 だが実は俺がそんなことを考えていても仕方がない。

 一番ふさわしい人物に聞くしかないではないか。

 すなわちジオンのMS開発を一手に担うマ・クベ少将のところへ相談に行くのが早道である。

 

 俺は技術開発部にいるマ・クベ少将に連絡をつけたところ、面倒くさがるどころか歓迎してくれる様子だった。しかし、なぜか不思議なことにしっかりと訪問日時を指定してきたのだ。

 妙だとは思いながらも俺はその時間に合わせ技術開発部へ向かった。

 ここで共に連れて行ったのがケリィとクスコ・アルの二人だったのは、それ以外の組み合わせにしてしまうと色々とややこしそうだったからだ。特にガトーを絡めるとガトー本人の問題ではなく取り合わせに考えることが出てきてしまう。俺も妙な気苦労をするものだ。

 

 

 そして俺はマ・クベ少将のオフィスへ入ったのだが、意外な人物が見えたではないか!

 

「あっ、これはマハラジャ・カーン准将! お久しぶりです」

 

 これは俺にとって思いがけない。

 本当ならマ・クベ少将のオフィスなのだから、足を踏み入れれば真っ先に白磁の壺でも見ることになるのかと思っていた。いつもマ・クベ少将はずらりと並べた大小さまざまな壺を見せつけるのが普通だからである。まあ、本当なら見せるだけでなく壺の説明まで延々と語りたいのだろうが、どうせそれを聞いても俺は分からない。第一見た目の違いも分からない。だからマ・クベ少将には残念だろうが俺は下手に話をそっちに振り向けることは避けている。

 まあしかし、マ・クベ少将が白磁の壺を愛好すること自体はおかしなことではなく、心情を理解もできる。

 スペースコロニーにおいては育つのに何十年もかかる木材は超高級品だ。金属なんかとは比べ物にならない価値があり、高値で取り引きされている。それを家具などに加工して使うならともかく、惜しげもなく窯で燃やして焼き物を作るなど非現実過ぎてできるはずがない。つまり白磁の壺は芸術的価値以上にスペースノイドにとっては地球で作られたモノという象徴でもあるのだ。

 

 それはともかく、オフィスには今、マ・クベ少将とそのウラガン副官の他に先客がいた。

 俺が思わず声を上げてしまった相手、それがマハラジャ・カーン准将である。

 

 

 俺よりかなり年齢は上で、当然のように軍歴も長い将である。戦いでは特に守勢で粘り強いことに定評があり、良将と言われる。

 だがマハラジャ・カーン准将の何よりの特徴はもう一つの立場を持つことだ。何とサイド3六大家の一つカーン家の当主でもある。

 だから貴族同士の交流で、俺がセロ家にまだいた頃、幼児から少年時代までも知られている。園遊会で幾度も会っていたわけだが生意気な少年とでも思われていたのではないかな。それ以下でなかったことを願いたい。俺の方では少しばかりしか憶えていないのだが、マハラジャ・カーンは謹厳過ぎてちょいと苦手なオッサンというイメージなのである。

 

「おお、これはコンスコン大将、こちらも会えて嬉しい」

 

 そう言って手を握られる。マハラジャ・カーンは貴族らしからぬ裏表のない笑顔だ。

 俺の方では「アクシズからいつ戻られました?」という言葉を飲み込んだ。それは先日、キシリア閣下から、ジオン六大家の動静を確認するという政治的意図のためカーン准将をわざわざアクシズから呼んだと聞かされていたからだ。

 

 

 俺の内心を知ってか知らずかカーン准将の方からそれに触れてきた。

 

「いや、驚かれるのも無理はない。実はキシリア閣下から呼ばれてサイド3に戻ったのだ。やはり遠いな。高速巡洋艦でも八十日かかってしまったよ。娘などはせっかくサイド3からアクシズに向かってきていたのに、到着直前でとんぼ帰りになってしまいいささか機嫌が悪い」

 

 

 その言葉を聞いて、俺はあろうことかちょっとした頭痛を自覚してしまった。何ということだろう。

 実はこのオフィスに入った途端、体調が悪い感じはしていたのだ。そしてマハラジャ・カーンは一人でいたのではなく、横にもう一人少女を連れていたのは分かっていたのだが、そちらを無意識に見ないようにしていたのかもしれない。それが体調不良の原因と感じとって。

 しかし今、マハラジャ・カーンの言葉によってその少女をまともに見た。

 そして頭痛に見舞われたというわけだ。大したものではないのだが、シャア少将と一緒にいる時に感じるものとほぼ同質のものである。

 

 その少女、マハラジャ・カーンの娘はまだ十二歳くらいなのだろうか。

 なぜか着ている服は子供服とは程遠い。深い赤紫色とその同系色だけでまとめられていて、形もやけにぴっちりしたものだ。そのために痩せているのがいっそうはっきりして小さく見える。

 だが何よりも先にピンクの髪が目を引く。切りそろえられたピンクの髪がちょっとばかり変わった印象を持たせている。

 その少女は俺に対し普通に挨拶しようと口を開いた。

 

 

 しかし思いがけず、俺の隣にいたクスコ・アルが先に声を上げた!

 

「ああっ、ハマーン! ハマーンじゃないの! ここで会えたなんて…… 無事だったのね。良かったわ。それが分かって本当に嬉しい」

「…… フラナガン機関では世話になった。改めて礼を言う」

「そんなのいいのよ。それよりもあなたの無事をララァにも教えてあげないと。きっと喜ぶわ」

「…… まあ、それは構わないが」

 

 思わぬことに俺は傍から見ているだけだが、ちょっと違和感がある。

 このハマーンという少女はなんだか硬い。

 会話に使う言葉が大人びているのだ。そのため少女である見かけと会わない。

 

 それ以外にも妙なことがある。

 クスコ・アルの方はこの思いがけない再会を単純に喜んでいるようだ。

 俺も前に聞いたことがあるような気がするが、クスコ・アルはフラナガン機関でララァとハマーンという可愛い妹分がいると言ってたような。おまけにその妹分は二人ともとんでもなく強力なNTだと。

 ただしこの場で見る限り、クスコ・アルの純粋さと違い、ハマーン・カーンの方はそれほど無邪気な表情ではない。

 子供にしてはすっと切れ長の目をしているのだがそれを引き絞ったままなのだ。そこに笑みはなく相好を崩したりしていない。

 俺は想像するのだが、おそらくこの娘はフラナガン機関であまりいい目に遭わなかったのだろうな。だからクスコ・アルに対して悪気はなくとも、フラナガン機関を思い起こしてしまうため、戸惑ったというところだろうか。

 

 しかしまあ、俺が言うのもなんだが、クスコ・アルはそんな空気を見事なまでに読めていない!

 

 クスコ・アルはやっぱりポンコツなところがある。そういう部分を含めてクスコ・アルの良さといえばそうなのだが。

 

「クスコ・アル大尉だったかな。娘がよく話してくれたから知っているが、大変お世話になった。なに、娘の言い方は気にしないでくれ。昔からぶっきらぼうで分かりにくい娘だが、君に会えて本当は喜んでいるのだ。その証拠に表情が2ミリほどいい方向に動いている。親である私には分かる。本当にどうでもいいときには、この俗物、とでも言わんばかりな表情になる」

 

 俺と同じことを考えたのだろう、マハラジャ・カーンがそう言ってとりなしてくれた。

 

 

 その時、この場にあってしばらく傍観者でいるしかなかったマ・クベ少将が口を挟む。

 

「……その辺でよろしいかな。ここで旧交を温めるのも結構だが、元々このセッティングを行ったのは私だ。コンスコン大将、マハラジャ・カーン准将、ご両名にいてもらえるようにわざわざ合わせたのだ。それには重要な意味がある」

 

 ここから本題が始まるらしい。

 

「先ずは現状の認識が先に来るだろう。それを理解する上で私がまとめたところを先ず言わせてもらう」

 

 俺がMS調達の相談をするためにマ・クベ少将を頼ってジオン軍技術部に来た甲斐があるのか。

 しかし、俺の方はそういう明確な用事があって来たのだが、一方でマハラジャ・カーン准将はどうして? マ・クベ少将や技術開発部との関わりが分からない。

 

 まあ、焦ることはない。先ずはマ・クベ少将の言葉を待とう。

 

 

 


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