コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第九十八話 開発の妙

 

 

 そこからマ・クベ少将は淡々と語り続ける。

 誰が相手でも、何の内容でも、口調が変わらないというのはある意味凄いことだ。

 

「ジオンにおけるMS開発は残念なことに手詰まりにあった。なるほどガルバルディ改とケンプファー改の生産は皆の努力により順調に進み、間もなくジオンの主力MSといえるほど置き換えられるだろう。比率としてはガルバルディ改が3、ケンプファー改が1といったところか。先頃の捕虜交換で戻ってきた兵、コンスコン大将が地球から救出してきた兵、彼らにもそれら新造MSを与えることができる。その意味でMS戦力の底上げは嬉しいことに予定通り進んでいる。しかしながら次が見えないのだ」

 

 いつもながら声のトーンは平板、うっかり聞き逃しそうになるが、内容的には重大なことを含んでいる。

 

「今のMSをチューンナップ、あるいは小改良を施してもすぐに性能に限界がきてしまう。そこを何とかするため、小手先ではなく基本設計から抜本的に変えないといけないが、それが分かっていても手を付けられなかった。ジオンの技術部にはそんな余裕はなかった。ただでさえ少ない技術者もじっくり落ち着いて研究してもらうことはできず、生産現場の方へ回ってもらうしかなかったからだ。結果的に今あるジオンMSのベースはどれもこれも半年前からそのままである。ジオンの開発状況がそんな足踏み状態なのに、その一方で連邦はどうか」

 

 そんな比較は聞かれるまでもなく、答えなんて明らかだろう。

 

「悔しいことに連邦の方は着実に進歩している。連邦は量産汎用機タイプのMSをジムと呼んでいるが、それは主にコストと生産設備の流用を示すだけのことで機体性能上の縛りはさほどない。そこで連邦は膨大な開発リソースに物を言わせ、複数の開発チームによって幾つもの新しい設計を同時にこなし、アイデアを試しつつ、その中から使えるものを選ぶ方式をとっている。予算によって変わるかもしれないが、これでは進化自体はあきれるほど容易だ」

 

 ああ、やっぱりそうなるだろう。

 連邦はジオンと生産力も人的資源も、なにもかも地力が違う。

 その差は絶望的に大きい。

 

 

「そしてとどめに連邦にはガンダムという超々高級機の存在がある。これを目指すべき一つの性能極大点として、開発のリファレンスに使える利点も大きい」

 

 それを聞くと俺もなおさら気分が落ち込む。

 確かにそうなんだ。

 ガンダムは戦って強いばかりでなく、その存在自体が連邦のMS開発でも役に立つ。

 これではジオンは勝てない。

 エース機どころの話ではない。それどころか、せっかくのガルバルディ改もケンプファー改も、数ばかりか性能面でもいずれは逆転されその後は置いていかれる一方になるのだろうか。

 

「ここまでの理解はよろしいか。だが今、ジオンMSの更なる発展の芽が出てきたのだ」

 

 

 少しばかり驚きがある!

 

 マ・クベ少将の話は今までジオンの憂うべき現状のことだったのに、それと違うことがあるのか。

 

「え、発展の芽!? そんなものが、どこに」

「まず一つ、コンスコン大将が地球表面から持ち帰った連邦の技術データ、これが大きい。それらの中から公平な目でジオンより優良な技術を細かく選び出し、置き換えていくというアプローチを最初に考えた。ただしそれは言うほど簡単ではないのが分かった。やはり基本の設計思想の違い、そして今までの流れというものが大きく、一部を取り入れた継ぎはぎは現実的に難しい」

「そうなるか…… マ・クベ少将、ジオン技術と連邦技術を融合させてまとめるのは簡単ではなかった、ということか」

「その通り。具体的なところを上げれば関節駆動やエネルギー分散構造などは変えようがない」

 

「…… マ・クベ少将、一ついいかな。それならばジオンMSに連邦技術を入れるのではなく、連邦MSを丸ごとコピーし、ここで造ればいいのではないか。つまり持ってきた技術データからジオンでもガンダムは造れないのか」

「 …… 」

 

 自分でもいいことを思いついた。そう、こっちもガンダムを持つんだ!

 

「そうなれば凄いぞ。ジオン製のガンダムさえできれば!」

「コンスコン大将、それは努力しても無理と思われる。ガンダム製造に要求される部品の精度、スペックは文字通りケタ違いに高く、今のジオンの無理をした工業生産では絶対的に及ばない。連邦さえたじろぐほどのコストを敢えて度外視したとしても、ガンダムは残念ながら分厚い工業集積のある連邦でしか造れない」

「なるほど。分かった。それなら仕方がない。素人くさい発想で申し訳ない」

 

 やっぱりそうなるのか。そうはうまく行かないようだ。

 

「しかし話はここから朗報になる。連邦技術をもっと大きなブロックごとなら置き換えられる可能性もある。それにはスラスターや武器アタッチャーなどいくつかあるが、ジェネレーターが一番分かりやすい。今まではジオン製ジェネレーターの方が全体的に高性能だったが、連邦の次世代MS、あるいはその次になればジオンを越えてくる。エネルギー出力の点でもそうだが、一番は効率がいい分冷却が簡単になり、結果的にかなりの軽量にできる」

「MSのパワーの基になるジェネレーターの性能で連邦に逆転されてしまうということか、大ごとだな…… だがそれが朗報とはどういう意味だ? いやそもそも次世代のことなどどうして」

「それこそが今回判明した核心部分といえるもの、連邦の最新MS試作機はジムⅡということが分かったのだが、実はそれどころではなく、設計段階ではその次、更にその次まで存在するらしい。さすがに連邦だ。しかしその技術情報までこちらが手に入れてしまった。とすれば、連邦にはまだ存在しないジェネレーターまでジオンが先に実用化してしまえる、そうすれば優位に立てる」

 

「マ・クベ少将、そういうことだったか。素晴らしい。そんな方法で連邦の一歩先に行けるとは…… だがしかし、肝心の基本設計は変わらないでも大丈夫なのだろうか。初めの話と矛盾するように思えて仕方がない。ジェネレーターを進歩させることはともかく、今の設計のままではいけないということではなかったか」

「それは当然の疑問、しかしその答えはアクシズにあった」

 

 

 ここでマ・クベ少将はマハラジャ・カーン准将に目を向ける。話がアクシズのことになったので説明の続きを振り向けたのだろう。

 それに応じてカーン准将が口を開く。

 

「では私から話そう。アクシズは皆も知っている通り、一大工業拠点ではあっても軍事拠点ではなく、そしてもちろんMSには全く関係ない。しかし、MSの原型とも言うべき有人作業機械ならばどこよりも多く、またその技術ノウハウは豊富にある。いや、それらの頑健さとメンテナンス性の良さならば軍事用のMSさえ上回るレベルと自負している」

 

 アクシズ、それは火星軌道よりやや外側に存在する小惑星帯の基地である。

 

 宇宙世紀が始まり、本格的にスペースコロニーが建設されるようになると地球から資材を運ぶことは土台無理な話だ。直径6㎞のコロニーの重さなど計り知れない。それは月表面から調達することになるが、それでも掘削や月重力という問題が残る。

 そのため小惑星帯を資源として利用する案が浮上した。

 浮かんでいる岩石や氷を直接使う。その方法を使ったからこそ短期間で百以上のコロニーを造ることができたのだ。宇宙世紀はエネルギー資源を木星から、建設資材は小惑星帯から、それぞれ調達することで支えられるようになった。

 

 小惑星帯にたくさんの採掘基地が造られた。アクシズもそうして始まった小さな基地の一つだったのだ。

 そんな中、アクシズは工業を発達させていき、精錬や部材生産までも行い始めていった。すると、コンパクトにしてから輸送できる分、コストが下がり他より優位に立てるのは自明である。この好循環が回り始めると雪ダルマ式にどんどんアクシズへ集約されていき、なおさら発展していく。

 今では各種大規模工場の他、従事する住民のための立派な住居施設、おまけに娯楽施設まで作られコロニーに準ずるほどになっている。

 そして何より、カーン准将の言う通り鉱石採掘のための大パワーの作業機械を使うだけではなく何と自前で開発する能力を持っている。

 

 政治的には、アクシズは事実上サイド3の管轄にある。

 それの戦略的重要性は言うまでもない。サイド3のジオン公国宣言と同時にそこへ実力のある将を送り込んで防衛を図る必要があった。まあ、結局のところ連邦はアクシズまで遠征艦隊を送ってくることはなかったが、それは連邦もジオンも長期戦略をとらないという推移によるものであり、正に結果論に過ぎない。

 そしてアクシズに置くのは能力だけでもいけない。

 ジオン本国との距離を考えると下手に独立叛乱を起こされたらたまらない。そこでザビ家と特に交友関係が深いカーン家の当主、忠誠心の厚いマハラジャ・カーン准将がずっと赴任していたのだ。

 

 

「そのアクシズへ到着した一団がいた。以前ぺズン計画に携わっていたMS開発技術者たちが、ジオン本国に居づらくなったためにやってきた。ハマーンが来る少しばかり前のことだ。彼らはアクシズ独自の技術蓄積に興味を持ち、さっそく新たな開発に夢中になっていたので好きにさせている。先ほど通信で確認したところでは、かなりの進展と成果が見込めるそうだ」

 

 何ということだ!

 かつてのフラナガン機関に併設されていた研究所のことか…… その名をまたしても聞くことになった。俺がやった行動が回りまわってそんなことになっていたのか。

 

「具体的には新規開発MSのコンセプト策定と性能目標までは決まっている。ぺズン計画同様、ドム後継にドライセン、ギャン後継にジャジャ、ザク後継にザクⅢという仮称まで」

「…… そこまで …… 凄いな」

「まあしかし、期待させて何なのだが、達成すべき技術ハードルは各部に渡ってとんでもなく高い。つまり今の技術でまとめるのではなく、未来においてできるだろうことを盛り込んでしまっているからだ。開発という言葉さえちょっと語弊があり、いわば紙に描いた理想のようなものと思えばいい。そのため、無数にあるハードルを全てクリアし、きちんと実機にできるのはどんなに頑張っても年単位で先になってしまう。一番容易に思えるザクⅢでさえも」

「カーン准将、やっぱりそうだろうな。全く新しいMS開発など簡単なことには思えない。ではこの戦争には全然間に合わないということか……」

「そのはずだった。だがしかし、ここで連邦の技術、スラスターや高性能ジェネレーターを利用できれば他のところに注力でき、もっと早く形にできる可能性が出てきた。努力次第では半年から一年後というくらいに。もちろんやっつけ仕事になり意図した性能にとても及ばないだろうが、曲りなりに形にだけは」

 

「なるほど! 簡単に言えば、ジオン技術に連邦技術を取り込み、その上でアクシズ技術でまとめ上げるという方法か。それで一気に開発期間を短縮、いやあそれはいい」

「繰り返し言うが、想定したスペックにはとうてい及ばない……」

「それは構わない。なに、ザクⅢじゃなくともザク2.5でも、なんとなればザク2.1でもいいじゃないか。今のジオンMSより少しでも性能が上がるのならば。それに生産数なら試作程度でも先ずは御の字だ。最低限、エースが乗る分さえあればな。直ぐに開発を進めてほしい」

 

 それは奇跡だ。

 いくつかの条件がピタリとはまり、ジオンの新しいMS開発が可能になっているとは。

 ただし半年以上後というのが微妙に悩ましいが、それは戦略次第ということになろう。ジオンも連邦も今すぐ決戦はできない。いずれ決戦は行うが、その時期はジオン主導で決めるつもりだ。

 

 

 とにかく朗報だった。マ・クベ少将とカーン准将の話を聞いた甲斐があった。

 

「今のマハラジャ・カーン准将の話にいくつかの補足説明を加えたい」

「マ・クベ少将、それは何だ」

「先ずは一つめ、これはMSのことではないのだが、アクシズでは面白いモビルアーマーが造れるらしい。既存のモビルアーマーとはコンセプトが違い、その延長線上というよりはビグザムのマイクロ版のようなものだ。単座で高機動も可能、モビルアーマーに対する天敵であるMSとも十二分に渡り合える仕様だ。先に送らせてもらったヴァル・ヴァロよりも性能は上になる。コンスコン大将が気に入れば設計から試作へ進めよう」

 

 

「な、なに!! ヴァル・ヴァロよりも良いモビルアーマーだと!?」

 

 そう叫んだのはケリィだ。

 おいおいおい、横から口を出すだけでもダメなのに、将官相手に敬語をすっかり忘れているよケリィ。

 だが気持ちは分かる。

 モビルアーマー乗りである以前に、こいつはメカにこだわり、いやメカをこよなく愛する男だからな。新しい設計のモビルアーマーの話が出れば思わず反応するだろう。

 

「そうだ。アクシズでそれを実現できる目算がついているとのことだ。名前は今のところノイエ・ジールと予定している」

「ノイエ・ジール……」

 

 なるほど、それは楽しみだ。乗るのはやっぱりケリィ・レズナーになるだろう。

 試作をしてもアクシズから持ってくるまでに時間がかかるだろうが、これからの戦いに光明になるかもしれない。

 

 

 


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