コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第九十九話 意外な火種

 

 

 そこでマ・クベ少将の話は終わることなく、更に続いている。

 

「コンスコン大将、その次の話に移らせてもらう。過去のぺズン計画の中でドム系機体は幾つかあった。しかしながらドワッジは陸戦用のため凍結、リック・ドムⅡは満足できる性能ではないため却下、ドワスはそこそこの性能になる予定だったがやはり却下している」

「確かそうだった気がする…… しかしそれは昔の話ではないかな、マ・クベ少将」

 

「わざわざこの話を持ち出すのは意味がある。地球降下作戦でコンスコン大将のところのサイコ・ドムが成功を収めたと聞いている」

「ん、それは事実だ。ダリル・ローレンツ少尉の活躍は凄いもので、正直驚いた」

「その復活を考えられてはどうか。機構の違うガルバルディやケンプファーにサイコ・リユース・デバイスを新たに組み込むのは不可能ではないが手間がかかってしまう。しかし、ベースが同じドム系機体なら、それを組み込むのは比較的容易になると思われる。つまり試作途中までいって放置されているドワスを利用できないだろうか。それが使えれば、ドワスの基本性能がゲルググに遜色ないものであるからには、単にまた余っているドムに組み込むよりよほどいい。その可能性を含めカーラ・ミッチャム教授に伝えておいてもらいたい」

 

「そういうことか! ではまたダリルがMSで活躍できるということに。しかも今度はサイコ・ドワスとして、よりいっそう強く!」

 

 それはいいことだ。ダリルはサイコ・ドムが失われて落ち込んでいるように見えたからな。やはりMSで戦いたがっているのだろう。地球でまみえたあのガンダムへの雪辱をしたいということかもしれない。

 

 

「そして最後にもう一つある」

「まだあるのかマ・クベ少将。なんだか凄いことになってきたな」

「今度はエルメスの話になる。今現在、エルメスにはビットが搭載され、パイロットはそれを操って敵にオールレンジ攻撃をかけるものだ」

「確かにそうだ。ここのクスコ・アルもビットを5つは操れる」

 

「しかし、ここでビットとは違う概念のものが出てきた。それをファンネルと呼んでいる」

「ファンネル? 確かに聞いたことがない」

「ファンネルとはそれ自身にジェネレーターを持たず、本体からの充電で動く小型のものだ。それだけならビットの劣化版ともいえるが運用方法がまるで違う。ビットのように精密に操って敵を狙撃するのではなく、多数を群れとして使って弾幕を張る。これだとだいたいのところで操ればよいので、総合的な火力が上がるのにむしろパイロットの負担が減ると見込まれる」

「なるほど、そういう使い方をするものか。良さげだな」

「詳しいところは私も門外漢だ。それに関してはカーン准将の方が詳しいはずだ。なぜなら、そのファンネルの可能性を探るため、息女がそのモックアップ作りに協力している」

 

 そしてカーン准将が言葉を添える。

 

「ジオン本国に来るまで日数がかかった。その間の暇を利用して、このハマーンにファンネルを想定した模型を使い、それの群体操作が可能なのかやらせてみたのだ。結果は充分に可能であり、どうやらこのアイデアは実現できそうだ」

「この少女で、それを試した?」

 

 

 ここに俺は引っ掛かった。

 無理だ。

 

「カーン准将、申し訳ないがそれは受け入れられない」

 

 そのファンネルの有効性なんかどうでもいい、そういう気持ちになってしまった。

 

「息女はまだ12歳だろう。そんな者を戦争に協力させるわけにはいかない」

 

 俺だって本当は言いたくないんだ。マ・クベ少将もカーン准将も全く悪気はないことは知っている。少しでもジオンの旗色を良くするために考えたことなのだ。

 むしろ俺がワガママなんだろう。

 本当に済まなく思うのだが、やはり黙っていることはできない。

 

「息女は今は研究の手伝いという程度かもしれない。後は他の者に引き継げばいいということかもしれない。しかし確信を持って言うが、きっとそれでは済まなくなる。ファンネルや、それを使うNT用モビルアーマーなんかが開発されたら、いずれはそれらを熟知した者として使われてしまうに違いない。必ずそうなる。息女は戦いの場に駆り出され傷つくことになってしまう」

 

 カーン准将はさすがに大人であり、反論することなく、俺の言葉を聞いても静かな表情を保っている。

 

 一番分かりやすいのはケリィだった。

 

 大げさにうなずき、どうだ聞いたか、と言わんばかりなドヤ顔ではないか!

 

 うちのコンスコン大将は、そこらにいる戦力しか考えない軍人とはモノが違うんだ、その度量が分かるか、とでも言いたいのだろう。

 またしてもケリィに対する好感度を限界いっぱいまで上げてしまったようだが、頼むから後でガトーに話さないでくれよ!

 

 そうなるとガトー君からいっそうキラキラした目で見られることになるじゃないか。

 

 ガトーやケリィ、カリウスといった男くさい連中は正義が大好きで、自分が正義に立っていることを最重要にしているからなあ。

 

 

 そして意外なことにハマーンという息女もわずか反応していた。

 何も言わず動きもしないが、目を3ミリほど大きく開けている。

 そんなことを軍人が言ってくるなんて信じられない、という顔で。

 

「カーン准将、努力に水を差すようで心苦しいが、子供が戦場に送られることは何としても避ける。ジオンの依るべき正義を曲げてはいけない。国家が筋を通さなくなったらお終いだ。そのファンネルの話は、後ほどの検討課題にしておいてもらえるだろうか」

 

 

 俺がそこまで話すと沈黙が二呼吸ほど続いたが、マ・クベ少将がそれを引き取った。

 

「コンスコン大将、そういうことにしよう。さて、話はだいたい以上で終わるが、ついでに連邦側の話もしておいた方がいいだろう。あまり嬉しくないことだが、ルナツーの連邦MSは新型のジム・カスタムへ急速に置き換えられつつある。コンスコン大将は地球作戦で旧型のジム・コマンドとばかり遭遇したそうだが、宇宙での配備状況はそれとは全く違う」

「そうか、そうだろうな。連邦も馬鹿ではなく、きちんと優先順位を考えた配備にしているのだろう」

「更に言えば、これが半年後ともなればまたしても新型が出てきて、それが主力になる可能性が高い。いや確実と言うべきだろう。それどころではなく、二度以上も新型に置き換わることすら考えられる。おまけにこちらが連邦技術の取り込みを図っているように、連邦だってジオンの技術を解析して利用しようとしてもおかしくない」

「道理だな。何をどうやっても連邦の進歩自体は止めようがない。オーガスタの開発拠点を破壊しても、研究人員は残っているし、第一データはどうせバックアップしてあるだろうから大した打撃にならなかったろう。おまけにジオンが開発を進めるほど連邦も予算を増やして開発が加速すると考える方が現実的だ」

 

 それでこの有意義な会合は終わる。

 カーン准将は娘と、俺の方はケリィ・レズナー、クスコ・アルを連れて戻る。

 

 その終わりにハマーンという娘が振り向きざまに俺のことをずっと見つめていたようだ。

 俺が、あの子供に好感度を上げたということなのか? まさかな。

 

 通路を曲がり、姿が見えなくなる最後の最後まで視線を外すことがなかった。

 

 

 

 そこから早くも四ヶ月が過ぎ去った。

 

 しばらくジオンと連邦が会戦を演じることはなかった。

 

 しかしいつでもアクシデントというものがある。えてしてそういうことから戦火が広がってしまうものだ。

 今回、それが意外なところから始まった。

 中立コロニー、サイド6がその発端になるとは誰が予想しえただろう。

 

 

 


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