●不意の査察とプレゼント
カメラに写しだされたのは、ザクが盾を構えて砲弾の中を突撃する姿だった。
慌てて戦闘ポットが機銃で迎撃するのを弾きながら、ワイヤーで引っかける。
引き寄せながら体当たりを掛け、周囲を確認した後に、まだ態勢を立て直して居ない別の機体に左手の機銃を放った。
他にも盾に隠れヒートホークを振るったり、ザクマシンガンと交互に機銃を放つ姿がモニターに写されている。
奇妙なのは見慣れない士官や技術者が、真剣な目でその画像を眺めていることだ。
「あれは何をやっておるんだ?」
「最初は、ここ最近の我隊の戦績が査問対象になったそうで」
ランバ・ラルが尋ねると副官のクランプは肩をすくめて説明を始めた。
新たに査察が何故必要になるのか疑問が増えた。
「何故だ? 普通に哨戒拠点を攻略しただけだろう。別に基地と言う程でも無かった」
「受け取った補給の質を知っていた人間がいましてね。報告が過大過ぎると疑義を呈したそうですよ」
その話を聞いてラルは溜息を突こうとして止めた。
嫌がらせで壊れたザク程度しか渡らないようにして置いて、なんとかしたら功績を疑ってきたらしい。
「失敗するか、通信で誰かに頭を下げるかさせるつもりだったのか?」
「というよりも、単に功績を上げたのが気に食わないのでしょう。現に技術者連中は好印象です」
最初から罠だったのか?
そう尋ねると、クランプは首を振って憶測を付け加える。
嫌がらせが上手くいかなかったので、驚いて査問をしようと邪魔者が言い出した。
だが検証の為に連れて来た技術部の方は、功績を上げたのは確かなので、現地改修が優秀だったのだろうと回答したらしい。
どうも北米やオーストラリアに降りた部隊では同じ様に、現地改修した機体が活躍した例もあるとか。
ユーラシア大陸への降下作戦が遅れているが、その時には改修機のデータを揃えた新型機が投入されるかもしれない。
「それでですね。大尉さえよければデータを持ち帰って登録したいと」
「データは軍の物だ。私が口を出すべきことではないな。連中の判断に任せておこう」
必要だったから現地改修という手段で壊れたザクを運用できる様にしただけだ。
功績として報告する気はないし、持ち帰って有効に利用するのも、上がもみ消して無かった事にするのも好きにすれば良い。
ラルはそう言って次の作戦の準備に向かうことにした。
あえて言うならば報酬は補給パーツが欲しい。
そんな事を誰かが告げて居たのか、技術部は試作パーツを送って寄こした。
1つめ、今と同じ手が機銃になった物
2つめ、指先が稼働出来るように相当な改良をした物
3つめ、手首の回りに機銃を付けられるようにした物
キッチリ左腕だけで他のパーツはなし。
受け取ったラルは、テストまでやらせる気かと、今度こそ溜息を吐いたと言う。
●戦果の考察
会議は査問会と言うよりは、既に戦果の検討会になって居た。
開戦して暫く、モビルスーツ対策をしてきた連邦の影響で、当初ほどの戦果はない。
その中で目覚ましい活躍を見付け、早速、考察が行われていた。
「……この戦果に嘘はないのだな?」
「はい。ランバ・ラル隊のモビルスーツは、フレーム単位でコンマ……」
「技術的な用語はよい。判り易く説明してくれ」
本当に戦果を上げたということで、軍の上層部を交えて評価考察が始まる。
「理由は二つ。一つ目は接近戦仕様になっていることで、スムーズな武器の切り替えが可能なことです」
「なるほどな。固定兵機があれば持ち替える必要はないということか。さすがはラル」
判り易い情報が出た所で、弁護を兼ねて肯定意見が出る。
当然ながら元になった査問会には、ラルを援護する役の者もいるからだ。
「はい。接近する途中で、向こうから仕掛けてくれば迎撃。回避すればレンジを合わせた武器を使用します」
次にヒートホークを構えて突撃して居る時に、避けた敵へ左手の機銃を使用する姿がピックアップされる。
これは最も有効な組み合わせなので、いつもこれほど速く行動を変えられる訳ではない。
だが同じ格闘戦を挑む場合でも、ヒートホークとワイヤーでは有効な距離と半径が違う。
迷わない様に行動基準さえ決めて居れば、一つの動作変更で可能な行動が増えているのは確かだ。
「それは見れば判る。もう一つの理由は何だ?」
「まさに、この会議の主題が原因です。連邦はザク対策をしていましたが……。これらの改修機は、その対策に対抗して居るのです」
次に表示されたのは、弾数や装甲厚の数字だ。
見なれたジオン側の数字が表示された後、それを上回る様に重ねられた連邦側の数字。
設置型の大型砲だけならまだしも、機銃が増加されたり、大型砲を強引に切り詰めて戦闘ポッドに括りつけたものまであった。
連邦は数で押して来るのは前からだが、最近は露骨にザク・シフトを組んで来る。
弾が減るまでは接近する事は避け、砲門による長距離援護を行い、あるいは銃列を組んだ戦闘ポッドで援護して来た。
優良な指揮官が減ったとしても、マニュアルを持たせれば何とでも成るのが連邦軍の恐ろしさであろう。
もちろん一つ一つは熟練の技や戦術でなんとでもなる段階である。
数で補うのが連邦であり、戦争である以上は、いずれ平均化されてしまうだろう。
「虎の子のザクが既に丸裸ということか」
「それだけに戦果が急がれますが、連邦が座して待つ訳も無し」
内容がジオン軍全体の事に移ったこともあり…。
ラル隊の査問をきっかけにした、検討会の流れが変わった。
もちろんジオンとしても何もして居ない訳でもない。
新型機の開発や新兵機の開発を命じているが、それも直ぐに上がる訳でもないのだ。
「……待て。ランバ・ラル隊は連邦の対策に対抗して居ると言ったな?」
「はっ。はい。……偶然の可能性もありますが」
トップに近い筋の発言に、出席して居る技術者も背筋を正した。
他の者ならいざ知らず、この人物は無視できない。
「お前たちとて無策ではあるまい。今回の件は、たまたまその一つに重なった……」
「本社と測って、日夜研究に励んでおります。その一つに近いモノがあるやもしれません」
質問に答えながら、技術者は目線を紙の資料に移した。
それらの機密は同業他社に渡さない為に、迂闊なデータはしていない。
そこには新型機のバリエーションとして、ラル隊の改修機に近いモノ。
そして持ち帰ったデータで、早速改良したモノのデータが載って居る。
「では良い。その資料に必要なデータを集めせてやろう。連邦とて我軍のザクを鹵獲して研究しているはずだな?」
「ああ……なるほど」
軍高官の視線を受けて、士官の一人がワザとらしくデータを漁った。
「探せば拠点の一つ二つ見つかる筈です。十分な支援を付けて闘わせてみましょう」
もちろん危険な場所としてピックアップしてあったし、苦々しく思って居たのは確かだ。
だが連邦の警戒は厚く、一番警備の薄い場所でも危険極まりないので放置して居た。
「それは良いですね! 次の資料があれば、新型機の開発が一気に速まる筈です!」
「うむ。成果に期待しているがいい」
当然過ぎてあえて語らなかったが、連邦軍の基地に飛び込むのはラル隊である。
技術者としても、コンセプトの近くない機体で試されても迷惑なので、あえて聞きはしなかった。
ただ、語らなかったことで確認されなかった事が存在する。
十分な……とはどれだけの援護なのか?
そもそも支援とは、補給物資や、増援の事を示すのか?
それらを一切語らないままに、トントン拍子で作戦が計画されて行れていく。
ルナツー攻略作戦をサポートする為に、付近にある基地に陽動攻撃を掛けよとの命令がラル隊に出された。
と言う訳で、今の時期ならばグフみたいな機体は便利だよ!
という評価が下り、早い段階で繋ぎの機体を作るべく、ランバ・ラル隊に辞令が下ります。
まあサイド7とはいわんが、近くの基地に特攻して鹵獲ザクやザニーと戦ってこいとか言う話ですね。
●オマケ
作中でもチラリと書かれていますが、原作とは降下作戦が変更されています。
コロニー落としで被害が出た、北米とオーストラリアだけ侵攻。
ユーラシア大陸へはフリだけするか、邪魔するハラスメント作戦で降下する予定。
理由としては原作が放映された当時は、冷戦の影響で東側にも工業力があるとされていましたが
今では東ヨーロッパに降下する理由がなく、いきなり西ヨーロッパに降りると、今度は資源地帯から離れてしまう。
よってヨーロッパは最初から降下する意味が無く、アフリカは行くだけで大変だから、後回しと言う感じですね。
まあ北米とオーストラリアを完全占拠して、そのままジャブロー目指した方が速いというのもありますが。
●MS06-GF、または、MS-06JG
グフに近いザクのバリエーションが、ザクタンクの様に正式登録された場合の形式番号。
原作があった当時と違って、今の概念でハードポイント性が無い訳はないので、装備は変更し易くなっているはず。
右手のハードポイントにワイヤーを付けるか、肩越しにランドセルから放つのかはまだ検討中らしい。
左手は三種類研究されているが、先行パーツがランバ・ラル隊に送られたとか。