●視点の変更
ランバ・ラル隊は新たに受けとったザクマリナーと陸戦隊を先発、海岸線の調査に向かわせた。
同時に自らはキャリホルニアベースに戻り、使えそうな物資の捨拾選別に取り掛って居る。
中にはアリゾナの物資集積所にて回収した、砲台代わりの戦車類もあった。
「ルナタンクは駄目なんだな?」
「地上用に改修中、放棄された物です。このまま修理しても出力が足りません」
接収しても良いとは言われたものの、ルナタンクは戦力として望み薄だった。
ミノフスキークラフトで飛べると言うのは魅力的だったのだが……。
「浮力か移動力かメガ粒子砲か、どれかを上げたら他が劇的に下がります」
「……ならば考え方を変えるしかないな。『戦力』としては諦めよう」
ラルは考え方をシンプルに切り替えた。
戦おうとするから問題なのだ。潜入工作に使えるか否かで判断すれば良い。
「低速で砲が使えなくとも良い。仮に浮力を限界まで上げたらモビルスーツ……物資だけでも運べるのか?」
「やってみないと判りませんが、ドダイと違って良い的になるだけですよ」
ラルは可能そうだと知って、想定を変えることを宣言した。
仮に低速でもザクを運ぶことが可能であったり、ザクは無理でも武装を運べるだけでも意味は大きいからだ。
「何も戦場で堂々と使うとは言っとりゃせんよ。夜中に潜水艦から岩礁地帯の上を運ぶとしたらどうだ?」
「ああ! それでしたら使い道がありますね!」
「もしザクが無理でもマゼラトップを運ぶと言う手もあります!」
ようやく呑み込めてきたスタッフに、ラルは満足そうな笑顔を浮かべた。
撃ち合いの最中で浮かんでいるから的になるのだ。
こっそり物資を運ぶだけならば、空を飛べると言うだけで、大きなアドバンテージがある。
基本は重量物を密かに運び、人員を運んだり偵察を行う時だけ高速で移動できれば良い。
あるいは航空機の居ない戦場で高空から爆撃するとか、隠れて曲射砲撃が可能ならば恩の字だ。
騒音が問題になるのであれば、ボートやザクマリナーを先行させて周囲を探ってから使えば良い。
「まさかホバ-クラフトの代わりに利用しようとは……。目から鱗とはこの事です」
「似た様なアイデアを聞いたことがあります。ドダイを移動補助用に改修を検討しているとの事ですが……。低空で障害物を避ける程度の高度で良ければ、実用試験を兼ねて持って来れるかもしれません」
「まあそういう事だ。でいる限りで構わん、頼んだぞ」
ラルはそう言って工廠を後にする。
輸送手段が増やせるならば、作戦が随分と楽になるからだ。
このアイデアが新しい内に、作戦を練り直す事にした。
ルナタンクを輸送用に使うと言うアイデアや、もしかしたらドダイを使えるかもしれないと告げてから、副官のクランプ達と考察する。
「この際だ。視点の変更を大々的にやってみようと思う。ジャブローを直接目指さないのは話したな?」
「聞いてますが、ユカタン半島の裏口やユーラシアからの荷揚げ港だと対して変わりませんが……」
副官のクランプは話に応じつつ、一応は否定意見を口にした。
ラルの意見は基本的に認めるつもりだが、危険要素を洗い出すのも仕事だからだ。
ジャブローへの入り口を見付ける意義と同様に、他の二つは意義も危険が大きい目標だ。
ユカタン半島は連邦が要塞化して北米からの侵入を阻んでいるが、後ろからならば抵抗は少ないかもしれない。
荷揚げ港を叩ければ、ユーラシアからの増援を阻めるかもしれない。
だが、それらに付けられた防備は半端ないだろう。
それこそジャブローに飛び込むより危険な場合もあった。
「だからその辺は狙わんよ。……その上で、連中が警戒するような上陸ポイントや降下ポイントは全て捨てる」
「どういう事ですか? 効率が悪いと援軍どころか増援も呼べませんが?」
効率の悪い場所ならば警戒が薄いかもしれない。
だがそこでは上陸作戦や降下作戦を可能する様な、十分な戦力は期待できない。
南米に攻め込んだと言う実績だけを作るならば別だが、それではジオンのユーラシア降下作戦はそのままだろう。
わざわざ自分達が危険を冒してまで、南米に攻め込む必要性は無かった。
「何も同じ地域で全てをやる必要はないだろう? チリから最低限のザクを持ち込み、ギアナ高地なり海岸を目指しても良い筈だ」
「南米大陸の横断とはスケールの大きな話ですな」
一つ目の潜入作戦をやり易い場所から、二つ目の増援作戦をやり易い場所に移動すればいい。
最終的に三つ目の降下・上陸作戦を実行しても、問題の無い戦力を集められれば良いのだ。
「陸戦隊と06Mで上陸地点を幾つか探しておく。最初に持ち込む数機はとにかく見付けられない場所」
現時点でザクマリナーと陸戦隊を先発させていたのが大きい。
上陸に向いた海岸のうち、警戒度の低い場所をチョイス。
そこから出迎えた増援を隠し易い場所へ。最終候補地に移動してその部隊で上陸・降下作戦を援護するのである。
「そこは少々遠くても良い。次にその数機が援護すれば、速やかに上陸が可能な場所に移動すると言う事ですな? ザクの残骸もあれば偽装工作も可能そうです」
偽装に使うのは補修不可能になったザクでも良いが、それこそアリゾナで倒した偽ザクでも良い。
襲撃時点と数があっていれば、ひとまず安心するモノだ。
仮に三機を持ち込んで監視ポイントを兼ねた拠点に攻め込み、十機を増援として呼び込むとする。
そこで去り際に三機の残骸をバラまいておけば、暫くは安心だろう。
速やかに移動して、本格的な降下作戦なり上陸作戦まで、疑惑の段階で済めば良いのである。
●物資半減す
ユーコンに改修し終わったU型潜水艦の数は足りないが、改修中の艦をランバ・ラル隊は抑えていた。
単に水中を輸送して、周囲が暗くなってから出撃するだけなら、使えなくもない……という程度だが。
潜入作戦にはそれで十分だと言えた。
一度目の移動でルナタンクと最低限の武装だけを輸送し、次の便で改修が間にあえばドダイとザクを輸送する。
後は可能な限り往復させつつ戦力を充実、実行可能な算段が付いた段階で橋頭堡確保の作戦を決行。
この作戦が成功すれば、待機させているガウなりユーコンが、ザクやマゼラアタックの部隊を送って来る。
それを出迎えて、南米戦線が可能な様に準備を行うのだ。
本土の参謀本部が認めれば戦線を続行するし、中断命令が出ればザクを放棄してでも撤退する予定だった。
「潜水艦を抑えた時点で嫌な予感はしていましたが……」
「言うな。腕の立つ援軍が居ると思えば、これほどありがたいことは無い」
笑えない冗談が起きていた。
潜水艦隊を組織し始めていた突撃機動軍が、可能だと判断した段階で、援軍と称して部隊を送って来たのだ。
それそのものは望ましい。
精鋭部隊ゆえに戦力としては心強いし、功績や責任問題など、ラルには興味が無かった。
「しかし、しかしですよ? 我々が苦労して輸送した物資を半分以上持って行かれるだなんて……」
「それに関してはスマンと思って居る」
ラルは部下の不満を宥めながら肩をすくめて両手を開いた。
「だがな……考えて見ろ。我々だけでは、とうていこの作戦は無理な話だった。潜水艦も水陸両用機もだ」
「その段階から泳がされていたと言う訳ですかね? 上手く行くなら功績を一人占めにして、失敗したら責任だけを押しつける為に」
誰もが考える不満を口にしつつ、クランプとラルは冷静に考えていた。
話題を誘導しつつ、最も肝心な作戦成功率を高める方法を、だ。
「元はゲリラ屋だったんだ。ゲリラ屋のやり方で何とかするだけだ」
「兵たちもその方が喜びます。しかし、現実問題としてザクの武装はあまり持ち込めなくなりそうですが」
ゲリラ屋に戻って陸戦で片付ければ良い。
忍びよって見張りを片付け、監視装置があればこれを無力化する。
そうすれば良いと言いながら、話題は最終手段であるザクに回帰した。
なにしろマシンガンやバズーカなどを十分な量持ち込んだ筈なのに、ソレを持って行かれるのだ。
手持ちにも幾らか残せるが、相手の攻撃で壊れる事を考えれば、少々心もとない。
弾薬の方も友軍部隊に予備を持たせる事を考えれば、相当に厳しくなるだろう。
「クランプは全体の監督を行って、陸戦隊の潜入と計測を万全にしておけ。アコース達は復帰したタチに任せる」
「了解です。しかし計測と言う事は……」
ラルはニヤリと笑ってクランプの問いに答えた。
全機が戦い抜けるだけの物資が無いのであれば、全機を同時に使わないだけの話しである。
「タチ隊はマゼラトップ砲で計測射撃を行え。作戦は06FGで行う」
「白兵戦のみで片をつけるつもりですか? それならば何とかなりそうですが……」
陸戦隊が発光信号なりケーブルで連絡を送り、曲射砲撃を行う。
そして白兵戦が得意な機体だけを素早く送り込み、可能な限りサーベルやヒートロッドだけで片を付けるのだ。
それならば十分な命中を確保できるし、正面戦闘を行わないのでマシンガンは最低限あれば良いだろう。
バズーカは最初から持ち込まず、作戦にはマゼラトップ砲と35mmの弾があれば良い。
最悪の場合、共通化して居るマゼラアタックの弾薬だけを確保しておくのだ。
どうせ友軍部隊は戦車を伴う気は無いので、当面の弾薬は確保出来るだろう。
「そういうことだ。トーマスとフレデリックには迷惑を掛ける」
「い、一人前と見なしていただき、光栄であります!」
「この隊で一人前なら、どこででも食っていけそうだな。……まっ問題ねえよ」
すっかり頼もしくなったものの新兵臭さの抜けないブラウンをからかいながら、一同は笑いあって任務に向かいあう事になった。
●偶然が続けば必然と成る
そして作戦の第二段階決行日。
早速、手違いが起きた。最初に潰しておく為の拠点に、予想外の戦力が居たのだ。
「大尉、ザクです。見なれない機体が二機居ます」
「連邦側の教導部隊かな? ……上陸作戦の進捗を知らせろ」
最初に疑ったのは、キシリアの寄こした部隊だ。
自分達の作戦成功率を上げるために、ラル隊を売ったのかとすら思った。
しかし、虎の子である筈の連邦制モビルスーツを置いておくわけがない。
おそらくは連邦でもモビルスーツの配備が始まり、各地で訓練を積み始めているのだろう。
「ザクは何とか。……しかし戦車隊が手間取って居ます」
「流石に多少改造した程度では、潜水艦から戦車は難しいでしょうしね」
「仕方無い。最悪マゼラトップだけ飛ばして、下は途中で放棄してもらえ。上陸失敗のカモフラージュに使う」
今回選んだ浜辺はジオンの勢力圏から離れており、上陸にはそれほど効率が良い場所でも無い。
だからこそ連邦も訓練の場所に選んだのだろうし、ラルも盲点だと思って上陸地点に選んだのだ。
思わぬ偶然であり、同時に必然でもあった。
だが、現実に作戦は始まっている。ここで中止する訳にもいかないだろう。
「逆に考えよう。
「使えるモノは親でも使えと言いますしね。了解です、マシンガンやバズーカがあれば頂いて行きましょう」
「けっ。相手の装備を利用するたあ、海賊みたいで楽しくなって来るじゃねえか」
こうしてラル達は監視拠点を襲撃し、敵モビルスーツ隊と戦うことになった。
とはいえ相手は不意の上陸作戦に対し、急いで向かってる所だ。
脇を突くことで打撃を与えることは難しくない。
「大尉。先制できそうですが?」
「あの新型、都合良くここだけに配備されてはおらんだろう。今の内に稼働データを取りたい。一機だけは外しておけ」
「了解です」
敵部隊がマゼラトップ砲の射程を横切った時、ラルはその内の一機を見逃す事にした。
横撃で鹵獲ザクの頭に砲弾を降らせた後、タチ隊は拠点の方に向かっていく。
「手加減したは良いが、逆襲でお死ぬなんて御免だぜ?」
「そいつは傑作だな。……森に引き込んで苦戦を演出しろ」
奇襲できる間に叩いた方が良くないか?
そう主張するクルツの弁を一部だけ入れた。
どのみち、後で偽装工作をせねばならない。
視界の開けない森で戦い、壊れたパーツを撒き散らす事にしたのだ。
それはこの機体で戦い続けるうち、森や洞窟のような場所での戦闘に向いているという判断でもあった。
「あいよ。フレデリックはそのまま下がっとけ。オレと大尉でやる」
「了解です。トーマスさんも気を付けて」
ブラウン機は35mmで牽制した後、反撃を尾試みる新型を嫌って森に撤退。
その援護に向かう形でクルツ機が飛び出し、その間にラル機がザクやタンクを片付けるという作戦だ。
「この地形では問題無かろうが、無理はするなよ」
「そっちこそ時間欠けてもらった困りますねえ」
森に引き込みながら、クルツ機はヒートロッドを振るった。
細い木々を薙ぎ払い、太い木々を迂回して鞭が連邦の機体を打ちすえる。
その間にラル機も同じ様に、遮蔽物へ隠れた戦車やホバートラックを狙った。
はっきりといって、鹵獲ザク相手の心配はして居ない。
森ならば戦車も恐ろしくは無いし、問題なのは新型のパワーがどの程度のゲインを持って居るかだ。
圧倒的な強さを持って居れば、クルツが言った様に、奇襲で倒してしまうべきだったろう。
「こいつ! ザク以上の装甲かよ!」
「こりゃたまげた。さっきの砲撃を食らって、まだ動けていたとはな」
驚いたのは、先制で叩いた方の機体も追い掛けて来たことだ。
てっきり中破以上で、動けない物だと思っていたのだが。
そしてその機体はランドセルに装備された棒を引き抜き、閃光を伸ばしたのである。
「っ! この輝き、メガ粒子か! 連邦の技術力はバケモノだな」
「だがやれるぜ! オレの盾はまだ保つ!」
保つ……。
それが全てだった。
メガ粒子を束ねた閃光の剣は、大盾を半ばまで切り裂いて居る。
流石にヒートソードと打ち合えば有る程度減衰するだろうが、それでも長時間戦うのは難しかろう。
「これ以上は危険だな。余裕は捨てろ、まずは全機で損傷機から叩く」
「「了解!!」
下がったブラウン機も合わせて、相手二機を追い詰める。
老練なラルは更に傷付いた機体を狙い、その後に残った一機を追い詰めたのである。
振り下ろされるヒートソードをビームサーベルが受け止める。
出力に置いて優位なソレも、先んじて制するのはラルの方だ。
即座に引いて盾で腕を叩く様にして反らし、胴を薙ぐ一撃をあえて回避させた。
「今だ。回り込め」
「判ってるよ!」
クルツ機が35mmを猛然と放射しながら接近。
左手だけでなく、頭に追加装備した物も利用してその場を制する。
頑丈な連邦の機体はその多くを弾くが、衝撃は殺せないし、接近するまでの牽制というのが大きい。
「この!」
「フレデリックは迂闊に接近するな」
「はい!」
クルツ機がヒートロッドで足を狙い、無理に回避しようとしたところを体当たりで揺らがせる。
ブラウン機を牽制と援護に残し、ラルも飛び込んでようやく切り伏せたのであった。
「やれやれ。これではノーマルの06では相手にならんぞ」
「こっちが白兵戦仕様で助かったぜ。でなきゃ余裕なんか残せてねぇ。くそっ!」
三機で一機を袋叩きにした後、予定通り壊れたパーツをばらまいておいた。
そして先に倒した鹵獲ザクも合わせて、偽装工作を行い撤退したのである。
増援を運び込む作戦そのものは成功した。
だが現われた強敵に、苦いモノが混じっているのを感じざるを得なかったのである。
と言う訳で、サクサクと南米大陸へ潜入。
部隊を拡充し、増援として戦車や特殊部隊が来援して居ます。
このままガウが定期便の爆撃をすると見せ掛けて、降下作戦や上陸作戦を行う事になります。
●ランバ・ラル隊の戦力
・MS-06FGx3
・MS-06Jx3
・MS-06Mx1
・ルナタンク(輸送のみ)
・ドダイYS試作型(低空飛行のみ)
味方A:精鋭。存在し続ける限り、予備武器や弾薬を持って行きます
味方B:ザク数機と戦車隊ですが、戦車は数台のみ持ち込めました
味方C:降下・上陸作戦後に参加。大きな例外を覗いて基本的にザクになります
●敵
・鹵獲ザク
・ザニー(ザクをベースに、連邦のパーツを組み込んだ機体)
・先行量産型G
・陸戦型G