僕たちのいたアカデミア   作:香枝ゆき

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合理的虚偽

英雄的犠牲で全てが丸く収まるとでも思ったか?ヘドが出るね。

死んで英雄になろうとするな。

生きてヒーローになれ。

それができないんなら……。

ヒーローになることを、やめちまえ。

 

……………………◇

 

「そういえば、雄英の1年、1人も脱落者出てないんだっけ?」

相澤の隣で、傑物学園の教師がなんともなしに投げ掛けた。

この会場では、1年A組の20名全員が仮免試験に挑んでいる。

「珍しいな、あんたにしては」

抹消ヒーローはなおも黙る。

個性「爆笑」のスマイルヒーローは笑う。

「雄英が最難関のヒーロー科と言われているのは、ヒーロー科を卒業するのが難しいから。この8年で卒業できたのは166人。……定員は変わってないよね?」

「わかってることを聞くな。合理性に欠ける」

雄英高校ヒーロー科の受け入れ人数は、毎年2クラス合わせて40名。順当にいくと、相澤が雄英に勤めはじめてから320人がヒーローとして巣だっていくはずだった。

この8年、ヒーロー科に入学した数と卒業できた数は一致しない。

「将来有望か」

「でなければ残さない」

「さすが、除籍指導回数、154回の男は違うなあ、あたしには真似できないや」

勝手に納得し豪快に笑う。

笑うことで何かが変わるとでもいうように。

「真似をする必要はない。お前にはお前の、俺には俺の指導方針があるだけだ」

「うんうん、じゃああたしの指導方針も試してくれるかな?」

辛いときこそ、とにかく笑う。

好きなものはお笑いで、ヴィラン退治も笑わせて行うほどの狂気的な笑わせ屋。

「……やめろ」

「あー、また個性消した~」

Ms.ジョークの個性はかけられる前に消してしまうに限る。

仮免試験会場では、彼らの教え子たちが未来のために戦っていた。

 

 

雄英高校の昼休み。

食堂はピークの時間帯となり、どこも混んでいた。

「ここ、一緒してもいい? 」

食事をしていた1-Aメンバー三人が顔をあげる。

トレーを持った拳藤が、緑谷出久、麗日お茶子、蛙吸梅雨のところにやってきたのだ。

4人がけのテーブル席だが、3人とも小柄な方なので、あと2人ほど座れる余裕がある。

「委員長会が長引いちゃってさ。飯田と八百万の席なら、別のところ探すよ」

「大丈夫よ拳藤ちゃん。一緒に食べましょ」

「ありがと、助かるよ」

梅雨に笑いかけ、拳藤はトレーを置き、箸をとる。

「拳藤さん、このまえは情報教えてくれてありがとう」

彼女はキョトンとしていたが、緑谷の顔を見て心当たりが見つかったらしい。

B組ながら拳藤は、詳細不明の定期試験(実技)過去問を、A組へシェアしてくれたのだ。

「あはは、先輩情報ね。結局は試験方法が変更になったから意味なかったけどさ」

「でもすごいよ!拳藤さん、顔が広いんだね!私たち、先輩とのつながりってあんまりないからさ」

純粋そうな麗日に、少しだけ眉を下げた。

「……あー、そっか、入学式も、A組は出てないんだよね」

同じヒーロー科のB組は、他科の生徒と同様に、式に参加した。入学式に出なかったのは、個性把握テストを行っていたA組だけだ。

「……ねえ拳藤ちゃん。気になっていたのだけれど、相澤先生のことで、なにか知っていることはないかしら?」

ぴくり。

かすかに眉間にシワが寄ったのを、出久は見逃さなかった。

梅雨はいつものように、人差し指を顔にあて、小首をかしげている。

「ほら、入学式のこととか、USJのときの襲撃で、先生の責任を問う声があったのだけれど、それにしては、いろいろと風当たりが強い気がするの」

「……蛙吸は」

「梅雨ちゃんと呼んで」

「……梅雨ちゃんは、相澤先生のこと、信頼してる?」

「ええ」

寸分の迷いのない返事に、快活でさっぱりとしている 拳藤が黙った。

「……そう、じゃあ聞かない方がいいと思うよ」

いつになく歯切れが悪く、そして彼女らしからぬ拒絶だ。

「なんでそんな事……!」

絶句するお茶子。

それまで唇を噛み締めていた出久が、真っ直ぐに拳藤を見据える。

「拳藤さんは、なにか知ってるんだね」

「緑谷たちが知らなくてもいい」

「…………知らなくてわからないまま生きるのと、知った上で後悔するのとじゃ、僕は、知る方を、選ぶよ。だから拳藤さん、知っていることがあるなら、教えてほしい」

「…………ごちそうさま」

拳藤は立ち上がる。

なにも、できなかった。

出久は、うなだれた。

「…………ついてきて。ここじゃ話したくない」

3人は慌ててトレーを持ち、拳藤の後を追った。

 

 

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