「やっほー、お待たせ」
図書室のカウンターには、女子生徒が三人ほど集まっていた。
快活な彼女の声に反応し、皆が笑顔を浮かべる。
「拳藤、おっつー!……えーと」
「ああ、この3人は助っ人。あたし1人よりか、何人かいたほうがいいなと思って」
拳藤は、緑谷たちをふりかえる。
「みんなは、委員長会で仲良くなった普通科の友達。この子が図書当番の子からピンチヒッター頼まれたんだけど、急遽行けなくなっちゃって、あたしが代理の代理」
お茶子は訝しげな顔をしている。
相手も同様だ。
「え、ヒーロー科の人が4人も……」
「ホントにいいの?忙しくない……?」
まさか拳藤が3人も連れを呼ぶとは思わなかったらしい。
どうしてこんなことになっているんだろう。
自分達は、相澤先生のことを聞いたはずだ。それを……。
「ケロ……。状況があまりわからないのだけれど、私たちはなにをしたらいいのかしら?」
「図書カウンターで貸し出し管理。バーコードだから簡単だよ」
示されたカウンターは、司書室と一体型になっていた。
司書室に目を凝らすと、パソコンの他に、ガラス戸の本棚も見えた。
赤いシールが背表紙に貼られている。
彼女が理由もなく連れてくるとは思えない。
きっと理由はあそこにある。
「わかった。僕たちでよければ、代理をするよ」
代表して出久が答えると、普通科の女子はぱっと笑みを浮かべ、口々に礼を言って後にした。
「………デクくん、どうして」
「あそこの貸し出し禁止の本棚に、なにか秘密があるんじゃないかと思って」
拳藤は黙って司書室へと誘った。
最後尾の梅雨がドアを閉める。
司書室には四人しかいなかった。
「相澤先生に目をつけられるとヤバイ。ヒーロー科では合言葉みたいになってるけど、1-Aは知らない?」
口火を切った拳藤は、能面のような顔をしている。
「それは……入学式の日に個性把握テストをしたり、最下位は除籍、とか言っちゃったりする先生だけど、でも……」
「それは嘘じゃないって言ったら?どうする?」
お茶子を遮るように、拳藤はなおも問いかける。
「実際に、相澤先生がヒーロー科の人を除籍したってことかしら?」
「……そうだよ。1クラス、まるごとね」
A組3名が息を飲む。
「……確かに、2年のヒーロー科は1クラスしかないみたいだけど、でもそれだったら、もっと騒ぎになってないと」
「あたしも詳しくは知らない。でも実際に、2年は1クラスしかないし、先輩たちだって詳しく話したがらない。どうにか聞けたのは、相澤先生が去年も1年生のヒーロー科の担任をして、入学式の日に個性把握テストをしたらしいってこと」
出久たちにとって、相澤はとっつきにくいが実力は折り紙つきで頼りになる担任だ。
合理的虚偽。
それが例えば嘘だったとしても。
見なくてもいいものを、見せられていないだけだとしても。
「……私は、相澤先生のことを信じたいわ。ごめんなさい。拳藤ちゃんのことを信じられないってわけじゃないのよ」
梅雨の代弁は、きっと1ーA全員が持っている。
「ううん、あたしは気にしない。みんなそれなりに相澤先生とやってるみたいだし、悪いようにはされないんじゃないかな」
つとめて明るく振る舞う姿は、この話は終わりと主張しているかにみえた。
「でも、他の人からよく思われてないのは、なんか、いやだな」
お茶子の言うとおり。
拳藤は、竹を割ったような性格だ。同じクラスではないけれど、人の悪口をいうような女の子じゃない。
過去問のことは別としても、人の話を鵜呑みにするだろうか。
ましてやヒーローを志すのに、誰かの悪い噂なんて。
「ここまで言うから、なにか、他にも知ってることがあるんじゃない?」
彼女は、嘘はつけない。いや、つかない。
出久はそう踏んでいた。
「初めて図書当番やったときにさ」
背中を向けて、拳藤はとつとつと話す。
「全然人が来なくて、そこにある本棚、適当に見てたの。……そしたら、貸し出し禁止の棚から、昔の学級日誌が見つかってさ。興味本位だったんだよ」
手を伸ばし、分厚い辞典を一冊引き抜く。
奥からパラリと破れた日誌のページが現れた。
「読まなきゃよかったって、あたしは思った」
出久、お茶子、梅雨は、日誌をのぞきこむ。
月日:4月1日
記入者:A Mikumo
時間割:入学式、HR
(1-Aは個性把握テスト)
学校生活初日。
A組は、入学式の時間に個性把握テストを行う。
担任の相澤先生から除籍を告げられたクラスメイトが出た。
テスト最下位と、特殊な個性の人がレッドカード。
自己紹介もろくにせず、人数が減ってしまった。
エイプリールフールの嘘だと言ってほしい。