「マスター、早くしないと遅刻しますよ!」
「わかってるよ、急いでるだろ!?」
上の会話を見ただけで何が起こっているか理解してもらえると思う。うん、ごめんなさい寝坊しました。
「教科書とかちゃんと入れました!?」
「大丈夫!昨日ちゃんとやっといた!」
「朝ごはんは!?」
「食べてる時間無い!いってきます!」
着替えを終えて、靴も適当に履いて家を飛び出す。途中転びかけたが、何とか体勢を立て直して走り続ける。
時計を見る。…よし、まだ大丈夫。歩ける余裕はないが、全力疾走しなきゃ間に合わない時間じゃない。
俺は多少安堵して走る速度を緩める。そしてジョギング程度のスピードで走り続けること10分、3分ほど余裕を残して学校に到着。クラスメイトに多少からかわれつつ席に着き、
「…あ゛」
そこで気付いた。
「…カナ、どうしたの?何か凄い声出たよ?」
「…弁当忘れた…」
脱力して机に突っ伏す。隣の海翔が同情するような笑顔を向けている。
「ボクのお弁当でよければ半分あげるからさ、元気出しなって」
「…ん、悪いな。サンキュ、海翔」
「どう致しまして」
やっぱこいつはいい奴だ。葵なんか話を聞いてきたくせに、弁当を分けてくれる気など毛頭無いのかそっぽを向いて口笛を吹いている。薄情なやつめ…。
はぁ、朝からいい事ねぇな…。まぁ結果オーライか、忘れてきた弁当はミクが適当に食うだろ。
♪ ♫ ♬
「…」
どうも皆さん初めまして、ボーカロイドの初音ミクです。
別に全然初めましてじゃないんですが、初めて私視点なのでまぁ気分的に言ってみました。
さて、それはさておき、現在私はある一つの問題に直面しています。現況は、今私の目の前にある箱。
マスターがお弁当箱を忘れて行っちゃいました。
「う~ん…」
どうしましょう?これは届けるべきでしょうか?それとも今日は学食か何かで済ませてもらうことにして、このお弁当は食べるか冷蔵庫にしまっておくかしておくべきでしょうか?
「…よし」
やっぱりここは届けるべきでしょう。このまま家にいたって面白く無いし、マスターが通ってる学校に行く正当な理由が出来たわけですから、これを有効活用しない手はありませんよね!
というわけで、早速ゴー!…と思ったんですが。
「…そういえば私マスターの学校の名前も場所も知らないじゃん」
肝心なことに気付き、いきなり出鼻をくじかれて撃沈。…まだ始まってすらいないのに。
「…いや、こんなところで諦めちゃダメ!」
項垂れていた自分に活を入れて再び気合を入れなおす。とりあえず二階に上がってマスターのパソコンを起動し、インターネットでこの家周辺の地図を出す。マスターは自転車通学でも電車通学でもないはずなので、この辺りにある学校に通ってるはず。だからこの家の一番近くにある学校にマスターが通ってる可能性は十分にある、という結論に至って、今こうして地図を開いているわけです。
「…ここかな?」
地図上で家に一番近い高校の場所を覚えて、制服から私服に着替える。私は別に制服のままでも良いんですが、マスターが「外に出るときはなるべく買った服を着て欲しい」と言っていたので素直に着替えます。マスターの言うことには従わなきゃいけないですしね。
というわけで素早く身だしなみを整え、今度こそゴー!私は家を飛び出して、さっき見た地図をを思い出しつつ道を歩いていく。
♪ ♫ ♬
「い、いない!?」
到着した学校の職員室を訪ねてマスターの教室を教えてもらおうとした私でしたが、返ってきた答えを聞いて悲鳴に近い声を上げてしまいました。
「えぇ、この学校には『千歳奏』って生徒はいないわね。ホントにこの学校にいるの?」
私の対応をしてくれた女性の先生が視線をパソコンのモニターから私に移し、尋ねてくる。
「い、いえ、実はどの学校に行ってるか知らないんです。で、家から一番近いこの学校にいるんじゃないかな、と思って…」
「なるほど、じゃあ…」
そう言って先生は再びパソコンに向き合い、地図を開いて私に見せてくれた。そこには別の高校の場所とルートが記してあった。
「その学校に行ってみなさい。この近くにある学校はそこだけだから、ここにいないならそこにいるはずよ」
「ほ、ホントですか!?ありがとうございます!」
「どう致しまして、じゃあ気をつけてね」
「はい、ありがとうございました!」
私は先生に深々と礼をして、職員室を出た。そのやり取りが私が本当に学校に通ってるみたいで、少し楽しくて笑ってしまったのは内緒です。
♪ ♫ ♬
そんなわけで、今度はさっきの学校で教えてもらった学校の職員室でマスターがいるかどうかをたずねてみました。
「あぁ、千歳ならあたしのクラスにいるよ。2年D組」
「ホントですか!?」
「ホント。そっか、あいつ今日何か妙に元気がなかったからどうしたのかと思ったけど、そんなしょうもない理由だったんだ。届けるなら行ってきて良いよ、今自習中だから」
「わかりました、ありがとうございます!」
私はさっきと同じように深々と礼をして職員室を小走りで飛び出した。「廊下は走らないようにね~」と出る直前に注意されたので、慌ててスピードを緩めて歩き出す。マスターは確か2年生だったから、多分教室は2階にあるはずだと判断して階段を上がり、先ほど先生に教えてもらった2年D組の教室を探す。
「…あった、ここだ!」
2年D組と書かれた看板を見つけてその教室の前に立ち、勢い良くドアを開けた。
「マスター、お届け物ですよ♪」
♪ ♫ ♬
「マスター、お届け物ですよ♪」
まじめに自習している生徒など3人いるかいないかといった状況の教室のドアが急に勢いよく開いたかと思うと、そんな明るい声が教室中に響いた。
全員ドアのほうを見て呆然としている。俺も同じように呆然とドアを開けた人物を見ることしか出来なかった。そこにいたのは…
「…ミク、お前なんでここに?」
「だから、忘れ物を届けに来たんですってば」
さも当然のように答えるミク。その声は間違いなく、いつも家で聞いている彼女の声だった。
教室中がポカンとしているに気付いているのかいないのかはわからんが、ミクは教室を横切り一直線に俺の前までやってくる。そしてその手に持った風呂敷を静かに机の上に置いた。
「はい、どうぞ」
「…あ、あぁ。ありが…と」
「どう致しまして♪へ~、ここがマスターの教室ですか…」
ミクが珍しいものを見るように教室を見回しながら歩いている。時折足を止めて何かを観察したり撫でたりしている。それを数分間続けた後、
「じゃあマスター、私は満足したんで、もう帰りますね。勉強頑張ってください♪」
妙に高いテンションのまま、教室を出て行った。
教室内が沈黙する。と思ったら次の瞬間、
『何だったんだ今の!?』『何だったの今の!?』
俺、葵、海翔の三人を除いたクラス全員が揃って叫んだ。そしてそのままの勢いで俺に詰め寄ってくる。
「千歳、今の何だ!?いや、何かはわかってるけどどういうことだ!?」
「千歳君、今の凄く可愛い子誰!?彼女なの!?しかも『マスター』って…!?」
「何でボーカロイドがお弁当届けてくれるんだよ!?」
「もしかして一緒に住んでるの!?不潔だわ!」
「なにぃ!?なんて羨ま…けしからん!」
クラス全員の耐えることのない質問攻めに戸惑いつつも、俺は何とか事情を説明した。それによって皆事情は理解してくれたようだが、なぜか納得はしてくれなかった。何でも、
「あんな可愛い子と同棲なんて羨ましすぎる」
とか、
「歌うためのロボットにあんなことまでさせるのはどうなの?」
とか。…別に俺が頼んだわけじゃなくてあいつが自主的にやってくれたことなんだが。あと『同棲』とか言うな!何か生々しくてイヤだわ!
♪ ♫ ♬
さて、そんな出来事の翌日。
「おはよ」
俺は教室に入ってからクラスに挨拶する。するとクラス全員が俺のほうを見て、
『おはよう、ロボコン』
と声を揃えて言ってきた。…なんだこの一体感、というか「ロボコン」ってなんだ?
「おはよう、カナ」
とそんなことを疑問に思っていると、いつものように海翔が声を掛けてきた。
「おう、おはよ。…なぁ、クラスが俺のことを『ロボコン』と呼ぶんだが何か知らないか?」
俺がそう聞くと、海翔は苦笑いを浮かべた。その隣の葵が海翔を代弁するかのように、俺の疑問に答えてくれた。
「『ロボット・コンプレックス』」
「…は?」
思わず聞き返してしまった。葵は少し意地の悪い笑みを浮かべて繰り返す。
「『ロボット・コンプレックス』」
「…」
「つまり、ロリコンのロボットバージョンね」
「…そんなんいやじゃあああぁぁぁ!!」
俺の絶叫が、朝の教室を木霊した。
今週は…もうアレですよ、燃え尽きたよ、真っ白にな…
もう勉強以外にした記憶が無いってくらい勉強しまくって、疲労困憊状態です。でもそれもようやく終わったんで、今日からはひたすら好きなだけ寝るぞー!というわけで、また次週お会いしましょう~w