「あ、そうだ海翔。あとカナも」
「ん?何?」
「俺はついでみたいに言いやがって…」
俺は文句を言いつつ、寝そべっていた体を起こして葵の言葉に耳を傾ける。海翔も同様に読んでいた漫画を閉じて葵の方を見ている。
ちなみに今は土曜日の放課後、時刻は1時半。葵が「何もすることないからカナん家に行きましょ」とか何とか言って海翔と一緒に押しかけてきた。まぁ特に予定があったわけでもないし全然かまわないんだが。
「学校の近くにモールあるじゃない?」
「あるね。ひょっとして先週オープンしたアイススケートリンクの話?」
「あれ、何だ知ってたの?」
「それなりに話題になってたし、僕自身も興味あったからね。で、葵が言いたいのは僕たち4人で行かないかってことでしょ?」
「さすが、飲み込みが早くて助かるわ」
「…」
…え~と、何か葵と海翔の二人でどんどん会話が成立しているが、正直俺には何がなんだかサッパリわからないんだが。いや、なんとなくわかるからいいけどさ。要するにアイススケートに行かないかって話しだろ?
「もちろん僕は賛成だよ」
「そうこなくっちゃ!ミクとカナは?」
「行くのは当然賛成だけど、いつだ?」
「今から」
「急だな」
「いいじゃない、どうせこの後やることなんて別にないんだから」
「まぁな。俺はいいぜ、海翔は?」
「僕も大丈夫。まぁアイススケートに行くならそれなりに寒くない格好に着替えてから再集合、ってことになるだろうけどね」
「決まりね、じゃあ学校前に2時集合でいい?」
「了解」
というわけで今日はアイススケートに行くことになった。ちなみにミクは冬服を持っていないので葵に借りるらしい。俺は素早く適当な服を引っ張り出して着替え家を出た。
♪ ♫ ♬
「ふわぁ…」
ダウンジャケットにミニスカートという、防寒したいのかしたくないのか良くわからない服装をしたミクがリンクを見て感嘆の声を上げた。俺、葵、海翔の三人も同じく唖然としている。
というのもこのアイススケートリンク、大きさが尋常じゃない。よくテレビで見るようなリンクの軽く3倍はありそうなほど大きく、人が結構いるのに全然スペースに余裕がある。競技用として使う気はなく、完全に遊びに来る人全員が快適に滑れるスペース確保を優先したような感じだ。こちらとしてはありがたい限りなので、何の文句も無い。
「マスター!早く行きましょう!」
「わかったわかった、そんなはしゃぐなって」
目をキラキラと輝かせながら俺をリンクに引きずって連れて行こうとするミクに苦笑しつつ、カウンターに行って人数分の靴を借りる。ミクにも渡してやると、何故かキョトンとした表情で見られた。
「…マスター、この靴なんか普通の靴と違うんですけど。何でこんな武器みたいなのついてるんですか?」
「まぁスケート靴だからな」
「…」
「…おい」
…あ~、何かいやな予感がする。色々めんどくさい事になりそうな、そんな予感。
「ミク、お前アイススケート知らないだろ?」
「…ソ、ソンナコトナイデスヨ?」
「目をそらすな、目を。ったく、だったらもっと早く言えっての…」
「だ、だってやってみたかったから…」
「…はぁ、まぁいいや。滑れるのか?」
「た、たぶん…」
「…葵、海翔」
心の中でため息をつき、隣で靴を履き替えている二人に声をかける。すると二人とも俺の言わんとしたことを察したのか、特にこちらを見ることもなく、
「うん、僕たちは僕たちで勝手に楽しんでるから」
「なるべく早く合流するようにね」
とそれぞれ言い残し、スタスタとリンクへ歩いていってしまった。心の中で二人に感謝しつつ、改めて実際にため息をついた。
「…だとさ。というわけで、練習だな」
「…ごめんなさい、マスター」
「なぁに、迷惑かけられるのはこれが初めてじゃないし、もう慣れたさ」
「…ありがとうございます」
「礼を言うのはちゃんと滑れるようになった時で十分だ。さてと、そんじゃあ早速始めるか」
「はい!よろしくお願いします、コーチ!」
「コーチって…」
俺は苦笑交じりに最後に靴紐をぎゅっと結び、スクッと立ち上がる
「…わわっ!」
ミクも同じように立ち上がろうとしたようだが、どうやら慣れていないせいかバランスを保てずに転びそうになっている。…氷の上にいないときは比較的バランス取るのは簡単なはずなんだがなぁ…。
前途多難になりそうな予感を感じ、俺は本日二度目の嘆息をして、ミクを支えるために彼女に近づいた。
「じゃあとりあえず立つ練習からだな。立ってみ」
「わ、わかりました。い、行きますよ…」
ゆっくりと立ち上がり、若干フラフラしながらも何とかバランスを保って立ち上がる。…が、
「わ、わわっ!」
3秒ともたずにバランスを崩し倒れかけるミクを慌てて支える。…最近気づいたんだが、こいつは結構不器用なんじゃないだろうか?
「ご、ごめんなさい、ありがとうございます…」
「…言いたかないけど、前途多難だな」
「…すみません」
「まぁ気にすんな、初めてなんだからこんなもんだろ。まずは掴まって立つ所から始めないとかな。俺の肩とかに掴まってみ」
「わ、わかりました…」
そう言ってミクが手を伸ばし俺の肩に掴ま…ろうとしたのだが。
「…マスター、背高すぎです」
「…お前が小さすぎるんだ」
俺の身長は大体185、ミクのは…測ったことないけど、160くらいか?というわけで相当な身長差があるわけで、そりゃそんな高い手すりに掴まったところで安定するわけもない。
「じゃあ手でもいいや、とりあえず掴まって立つ練習」
「えっ!?」
「…なんだよ?」
「え、あ、あれ...?ご、ごめんなさい、なんでもないです…」
ミクの怪訝な態度に首を傾げつつ、今度は手を繋いで体を安定させて立つ練習。最初は何故か知らんが顔真っ赤にしてフラフラしてたが、しばらくすると30秒くらいはそれなりにバランスを保つことが出来るくらいには上達した。その後すぐにバランスを崩して倒れそうになったが、さっきの3秒に比べたら大きな進歩だろう。
それからしばらくの間同じ方法で練習を繰り返すうちに、立つのはマスターしたらしく、俺が手を離しても結構危なげなく立てるようにはなった。が、ここにくるまでに1時間以上かかってしまった。もう滑り方なんて教えてる時間はないので、とりあえず氷の上に移動する。
「ま、マスターちょっと待って!滑る、滑るっ!!」
「当たり前だろ氷の上なんだから」
「そうじゃなくて!いやそうですけどそういう問題じゃなくて!」
実際にスケートをやったことがある人にはわかると思うが、氷の上ってのはかなり普通の地面とは違って…まぁ当たり前のことなんだが、物凄く滑る。始めてやる人は大抵その違いに驚いてちゃんと滑れないんだよなぁ…俺もそうだったからよくわかる。
「落ち着けって、さっきと同じでバランスキープしながら立てばいいんだよ」
「お、落ち着いて…バランスキープ…」
呟きながら必死にバランスキープをしようとするが…
「はわわっ!?」
物凄い勢いで引っくり返りそうになるのを慌てて支える。…なんか今日はこればっかりだ。
「ご、ごめんなさい…」
「いや、まぁいいけどさ。って言うか何でお前そんなおっかなびっくり掴まってるんだよ?もっとしっかり掴まれ」
「へ!?あ、いや、それはその…。お、恐れ多いというか…」
「恐れ多いって…何を馬鹿なことを言ってんだ」
「あ、あぅ…」
「…まぁ何でもいいけど、掴まってないで転ぶと一番困るのは多分お前だぞ?」
「え?」
「お前今日ミニスカだろ?転んで引っくり返ったらパンツ見えるぞ」
「!?ったわ!」
言われて気づいたのかミクは慌ててスカートを押さえにかかり、それによりまたバランスを崩し、それを俺が支える。…もうすっかりパターンになったな、この流れ。
「ったく、何でお前はスケートにミニスカなんてはいて来るかね…」
「だ、だってスケートって何か知らなかったんでもん!」
「『もん!』じゃなくてだな、そうならないためにも早くスケートを知らないことを教えて欲しかったんだが…」
とにかく言い争ってても埒が明かん。観念したのかミクは俺の手に力強くしがみ付き、懸命にバランスを保とうとしている。
しばらくするとコツを掴んだのか、バランスを崩す回数が心なしか少なくなってきた気がする。
「慣れてきたか?」
「な、慣れてきたかどうかはわかんないですけど…少しやり方はわかってきた気がします」
「そっか」
…じゃあ少しくらい手を離しても大丈夫だよな?
ちょっとしたイタズラが頭に浮かんだ。…いや、イタズラっつってもちょっと手を離すだけだけど。
と言うわけで、実行。
パッ。
「あ、ちょ、マスター!?」
「少し一人で頑張れ。慣れてきたから大丈夫だ」
「ま、待って!無理、無理無理無理!!」
俺の手が離れた事でちょっとしたパニックに陥ったミクが手をバタバタさせながら必死で転ぶまいと頑張っている。さっきコツを掴んだ為か、予想通りすぐに転ぶようなことはなかった。というか、それどころか予想以上に耐えている。
「おぉ、結構頑張るね」
「呑気な事言ってないで助け…きゃあ!?」
「あ」
本当は転ぶ直前で助けてやろうと思ったんだが、思ってたよりも持ちこたえてたから油断した。感心してるうちに引っくり返ってしまった。派手に転んだように見えた割には盛大に尻餅をついただけらしく、特に怪我をしたわけでもなく俺に抗議の視線を向けてくる。心なしか若干涙目になってる気がする。
「う、ううぅ…。痛いです…」
「悪い悪い、大丈夫か?」
「…何で助けてくれなかったんですか」
視線だけでは俺の態度が変化しないと悟ったのか、今度は言葉に出して非難してくる。しかし、俺は尚もからかう姿勢をやめなかった。
「いやぁ、まぁちょっとしたイタズラ心がな」
「…見ました?」
「何のことかよくわからないけど、見えなかったよ」
「…ホントに?」
「ホントホント、白と緑の縞々なんて見てないよ」
「マスターなんて大ッ嫌いです!!」
ミクの怒鳴り声が広いアイススケートリンクに木霊した。…ちょっとからかい過ぎたか、あとでちゃんと謝っとかなきゃな。
そう反省しつつ今度はちゃんと謝って手を差し伸べる。しばらく座ったまま目じりに涙を浮かべてその手を睨んでいたが、やがて諦めたように「今度はしっかりしてくださいね?」と文句を言いつつ、その手を握ってくれた。その後は俺もからかうことなく真剣にレッスンに集中し、一日が終わることには普通に楽しめるほどには上達していた。次に来る時はみんなと一緒に楽しめそうだ。
ひ、一つだけ言い訳させて頂くと、実は明日から友人数人とディズニーランドに行く予定でして、それの準備に色々集中してたと言うか…ハイごめんなさい申し訳ありませんでした…;;;
さてさて、次回はようやくにじファン時代から「あれ、この子ミクより人気あるんじゃね?」と若干危惧していたあの娘が登場です。…いや、登場はしないか。まぁとにかく、次回もどうぞよろしくお願いしま~す。