そして、つい先ほど大学の寮に戻ってきました。来週からはまた大学であった面白いことを報告していく…予定でございます。
今日、うちに新しい家族が増えた。そいつはものすごい美少女で、しっかりしてそうで、とにかくすごい奴だった。
そんな奴が義妹になったんだから、これから毎日が相当楽しくなるだろうな。…そう思っていた時期が俺にもありました。
「…」
「…」
「…」
…あれ、なにこの重っ苦しい空気。何でこんな黙々とチャーハンをモソモソ食わなきゃならんのだ?あれ、今日って結構めでたい日じゃなかったっけ?新しい家族が増えためでたい日じゃなかったっけ?あれ?
何でこんな事になってんだ?だって状況だけ見たら相当珍しい…って言うか楽しげな状況だぞ?義妹とボーカロイドとはいえ、美少女二人と一つ屋根の下生活するんだから、色々と新しい刺激があって楽しそうじゃん。なのになんでこんな過ごしにくい空間が完成してしまったのだろうか?
…ダメだ、何かちょっと混乱してきた。ちょっと状況を整理しよう…。
♪ ♫ ♬
「はい!絶対にご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします!」
「絶対迷惑かけるんだ!?」
しまった!思わずツッコんじゃった!…いや、でもこれはしょうがなくない?最初の挨拶が「絶対にご迷惑をおかけします」だったらツッコまざるをえなくない?不可抗力じゃない?
とかそんな感じで誰に対してでもなく脳内で弁明をしていると、里香ちゃんは里香ちゃんでビックリしたように「はわわっ!?」とか奇声を上げていた。
「ご、ごめんなさい!やっぱり迷惑ですよね私なんでいないほうがいいですよね帰ったほうがいいですよねすみませんでした!」
「ま、待って!そうじゃないから!ビックリしただけだから!」
「ううぅぅ、ごめんなさい、ごめんなさい…。あうぅ…私ってやっぱり、人を不幸にしちゃうんだ…。お父さんとお母さんもいなくなっちゃうし、奏さんにも迷惑かけちゃうし…」
俺の言葉が微妙に聞こえているのか聞こえていないのか、泣きながら走り去る事は無かったがえらく落ち込んでしまった。…やばい、どうしていいかわからない。
「え、えーと、はじめまして、初音ミクです!マスター、つまりあなたのお兄さんの専属のボーカロイドとしてこの家に住ませてもらってます!よろしくお願いしますね、里香さん!」
助け舟を出そうとしてくれたのか、ミクが少し元気すぎるくらいのテンションで里香ちゃんに挨拶をしてくれた。すると幸運にも、少しびっくりしたのか何なのか、里香ちゃんが反応を示してくれた。
「…ボーカロイド?」
「あれ、ボーカロイド知らないですか?」
「外国だとまだマイナーなのかも知れないな」
「…よぅし、マスター!私たちの目標はたった今、世界進出に決定しました!」
「無茶言うな、英語も喋れないくせに」
「…マスターだって、曲作れないくせに」
「作れないんじゃない、作らないんだ」
「なお悪いですよ!」
「なはは…。…あ」
…とまぁ、そんな感じですっかりミクとの会話に熱くなってしまったせいで、里香ちゃんへの対応をすっかり忘れてしまっていた。慌てて里香ちゃんのほうを見ると…。
「…ほ、本当にごめんなさいミクさん。知ってなきゃおかしいですよね、そうですよね、嫌な思いをさせてしまいましたよね?ごめんなさい、やっぱり私はダメな子なんです、世間知らずなダメな子なんですぅ…」
…目じりに涙を浮かべながらブツブツとミクに謝っていた。しまった、今はミクなんかにかまってる場合じゃなかった。
「り、里香ちゃん!大丈夫、大丈夫だから!外国ではミクはまだそんな有名じゃないらしいから知らなくても問題ないって!」
「いいんです奏さん、そんな励ましはいいんです。私がダメなのはわかってますから…」
「いや、励ましって言うか…。と、とにかく!いつまでもこんなところで立ち話もなんだし、あがって!昼飯にチャーハンも作ってあるから!」
「チャーハン?…えっと、それって奏さんが作ったんですか?」
「え?あ、まぁそうだけど」
「…奏さんですら作れるのに私ときたら…。やっぱり私はダメな子なんですね…」
…「奏さんですら」ってどういうこと、何かさりげなく失礼なこと言われてない?そして里香ちゃん料理できないんだ。っていうか今の会話にそこまで落ち込まなきゃいけない要素あった?別に料理が作れないことなんてそんな落胆する事でもないような…。
やばい、本格的にこの子の扱いがわからない。だって何を言っても落ち込むんだもの、この子。下手な事言えないからコミュニケーションが取れないんだが。
…とりあえず、まずは何とか昼飯食ってもらうか…。
♪ ♫ ♬
そうだ、なに言っても状況がいい方向に行かないから全員黙々と食ってるんだった。う~ん…この状況、と言うよりむしろ、この何でもネガティブに持ってっちゃう思考回路は何とかしないとだな…。
「…」
「…」
「…」
…そう頭の中で言ってはみたものの、まともなコミュニケーションが取れない以上原因を突き止めることも出来なければ、思考回路を矯正することも出来るはずもなく。それ以降特に会話があるわけでもなく昼食が終わり、里香ちゃんの荷物を持って彼女の部屋に案内してやった。俺が荷物を里香ちゃんの代わりに持った時も一悶着あったのだが…まぁ、ご想像にお任せしますと言うことで。
そして舞台は再びダイニング。テーブルには今部屋で荷物の整理をしている里香ちゃんを除き、俺とミクの二人が向かい合って座っている。
「…何ていうか」
「…強烈でしたね」
どちらともなくため息が漏れる。…あまり言いたくはないが、先ほどまで里香ちゃんがネガティブオーラを放っていたせいで、ダイニング中を妙な居心地の悪さが覆っていた。その発生源が今二階に移されたことによって、ようやくダイニングにいつもと同じ空気が戻ってきたと言うわけだ。…我ながらもの凄く嫌な言い方をしてしまっている自覚はあるが、事実そういうことなのだ。オブラートに包んだところで溜まったストレスが消えるわけでもないし、こんな所で嘘をついても仕方がない。
「…どう思う?」
「めんどくさいです、凄く」
「…正直な感想をどうもありがとう」
「マスターだって同じようなこと考えてたくせに」
「…」
「…それで、どうする気なんですか?」
「…まぁ、
「…そうですか、頑張ってください。私も出来るだけサポートはしますから」
「あぁ、サンキュ」
俺がそういうとミクは小さな微笑を浮かべてから勢いよく立ち上がり、長い髪の毛を頭の後ろでポニーテールの形に縛ってから、勇ましい足取りで二階に向かった。
俺も食器を片付けようと椅子から立ち上がったその瞬間。
『り、里香さん!ちょっと失礼しますよ!』
『わひゃぁあ!?み、ミクさん!?え、ど、どうしたんですか、ひょっとして私がまた何かしちゃいましたか!?』
『ち、ちがいますちがいます!そうじゃなくて、えと…わ、私に、荷物の整理のお手伝いをさせて頂けませんか?』
『え、ええぇぇ!?そ、そんな、悪いです!大丈夫です、これくらい一人で頑張れますから!』
『い、いいから私にも手伝わせてくださいってば!』
『いいですいいです、そんな私なんかのために!』
二階から二人の叫び声と、ドタドタとやかましい物音がダイニングまで響いてきた。…後でミクになんてお礼を言うかを考えながら、里香ちゃんとどう接していくべきかに考えを巡らせた。
♪ ♫ ♬
「…ふぅ」
食器を全て洗い終え、ダイニングの椅子に座って小さくため息をつく。女性陣二人は夕食が終わってからも部屋の準備の最終段階に取り掛かっているので、現在居間とキッチンはほとんど音が無い。…特に見たい番組があったわけでもないのだが、テレビをつけてBGM代わりにしてみる。さ、寂しかったわけじゃないんだからねっ!
…疲れた。食器洗うのはいつもの事だから別にたいした事じゃない。問題は…まぁ言うまでもなく、我が義妹のことである。
まず第一に、ネガティブすぎる。多少ネガティブなくらいなら別に文句も何も無いのだが、あいつの場合はちょっと尋常じゃないというか…なんていうか、「意地でもネガティブな方向に持って言ってやる!」みたいな執念を感じるほどにネガティブに考えを持っていく傾向にあるきがする。…もちろんそんなはずも無いのだが。とにかくもう少し前向きになれるようサポートしてやりたい。
第二。何か妹って気がしない。いや、まぁ来たばっかりだからしょうがないっちゃしょうがないんだけど…。でもさ、もうちょっと親しみを持ってくれた方が正直嬉しいんだよなぁ。何かすごい他人行儀だし、敬語だし、俺の事もさん付けだし。…って言うか何でうちの住人は基本俺に敬語なんだ?一緒に住んでんだから普通にタメ口でいいじゃん。…ミクに関してはもう慣れたけど、せめて妹には普通に呼んで欲しい…って言うのは我がままなのだろうか?
「…何か飲も」
昼過ぎから色々と考えっぱなしだったせいか、思考が若干里香ちゃんと同じようにネガティブっぽくなっている気がする。気分を変えようとキッチンにある冷蔵庫からジュースを出して、コップに注ぐ。…気分転換のはずだったが、やはりその間も里香ちゃんの事が頭を離れなかった。
…うん、やっぱこのままは良くないよな。よし、多少強引にでも兄妹の関係に持っていくか!…ジュース飲みながら決心する事ではないけどな。
とまぁそんなわけで決心をしつつ居間に戻ると、部屋の準備が終わったのか、いつの間にか里香ちゃんがソファーに座ってテレビを見てた。チャンネルはさっき見てたのとは違うらしく、俺の記憶が正しければ毎週この時間にやっているバラエティだったはずだ。
里香ちゃんはどうやら見入ってるらしく、俺がダイニングに戻ってきた事に気付いてないらしい。特に邪魔する理由も無いので静かに椅子に座ったのだが、座ったときの音に気付いたのか里香ちゃんが少し驚いたように慌てて振り向いた。
「あ、か、奏さんっ!?」
「ゴメン、邪魔するつもりじゃなかったんだけど」
「い、いえ、こちらこそごめんなさい!何か無視しちゃったみたいで…」
「気にしないでいいよ。それより結構見入ってたみたいだけど、毎週見てるの?確かそれって毎週この時間からやってるよね?」
「え!?あ、いえ、そ、そういうわけじゃないんですけど…。というか奏さん、もしかして何か見てたんですか?」
「え?」
「だ、だって私が来たときは別のチャンネルが移ってたから…。でも誰もいなかったからいいかなって…ご、ごめんなさい!わ、私はいいですから、奏さん好きな番組見てくださいっ!」
「いやいやいや、ちょっと落ち着いて!大丈夫だって、何も見てなかったから!」
「いいんです、気を使う必要なんて無いですから!私は本当にいないものと思ってください!じゃないと本当に迷惑かけちゃいますから!」
…今のはちょっとカチンと来た。
「いないものと思ってください」?馬鹿なこと言うな、そんな事出来るわけがない。俺は今朝、里香ちゃんの「よろしくお願いします」に対して、ちゃんと「よろしく」って返したぞ?それに妹としてこの家に住んでもらうことをちゃんと了承したし、むしろ嬉しいと思ってる。
それなのに、本人が「いないものと思って」なんて言っちゃダメだろ。これはあれなのか?この子が発揮してるあの超絶ネガティブ思考が原因なのだろうか?だったら…やっぱ改善しないとだめだ。
…多少強引にでも。
「里香ちゃん!…じゃなくて、里香!」
「ふぇ!?あ、は、はいっ!?」
「お前はこの番組見たいのか?」
「え?あ、いや…。…そ、そんな事、ないですよ?」
「正直に言わんと明日朝飯抜きにするぞ」
「ふぇええぇぇ!?えと、その…み、見たいです…。ご、ごめんなさいっ!」
「そのすぐ謝るのも直さないとな…。とにかく、お前は語の番組が見たいんだな?」
「…は、はい…」
「うん、じゃあ見ればいい」
「え?」
「まぁ正直俺はテレビ見てたわけじゃないし、別に見てていいよ」
「き、気なんか使わないでください!わ、私は本当にいいですから!」
「だから気なんか使ってないし…。っていうか、妹のわがままを聞くのは兄の義務だし、別に」
「ぎ、義務って…」
「とにかく、この家では遠慮しない事。それから、敬語もなし。呼び方も『奏さん』じゃなくて家族的な呼び方な。『お兄ちゃん』、『兄貴』、『奏』とかその辺な」
「何か要求多くないですか!?」
「ほらそこ敬語」
「あぅ…。な、何か要求多く…ない?」
「まぁそうだけど。でもなんかお前が他人行儀なのが気になったから」
「だ、だって事実他人なんだし…」
「…それ以上俺の事を他人って言ったらちょっと本気で怒るぞ」
「ぇ…?」
今まではかなりヘラヘラと笑いながらやってたのだが、今のを聞いてさっきみたいにまた頭に来た。
「か、奏、さん…?」
「その呼び方はしないでくれって言っただろ?」
「で、でも…」
「…いいか里香。俺はお前を他人だなんて思ってない。お前がうちで俺の妹として生活する以上、お前は俺の妹で家族だ。それを否定するような事は、言ってほしくない」
「ぁ…」
これは俺のわがままでもあるのだ。俺は里香ちゃ…里香に、キチンと家族として認めて欲しい。里香の自分を卑下しているような言い方は自分の事をどうでもいいと言っているように聞こえるが、それよりも俺の事を家族と認めてくれていないみたいですごくいやだった。
俺の言いたい事を少しは理解してくれたのか、里香が静かにうつむいて何かを迷うように黙り込んでしまった。
そのまましばらくの間、沈黙が訪れた。少しキツく言い過ぎただろうかと心配にもなったのだが、口には出さず静かに彼女の返答を待つ。
そうして不安と戦うこと数十秒、ようやく里香が静かに口を開いた。
「…わかりま…じゃなくて、わかった」
一度敬語で言いそうになったのを、直してくれた。…たったそれだけの事なのに、何故かすごく嬉しく感じる事が出来た。
「うまく出来るかわからないけど…私、ちゃんとお兄ちゃんの妹になれるように頑張りま…頑張る。義妹とかじゃなくて、本当の妹ってくらい自然になれるよう努力しま…す、するから…」
「ん…」
「…こ、これから、よろしくお願いしますっ!」
最後には結局敬語に戻ってしまったし、ドタバタと逃げるように階段をかけ上っていってしまったが…今は、それで十分だと思った。
「…これからずっと一緒に住むんだし、焦んなくても大丈夫だよ。ゆっくり、気長に頑張れよ」
今はもうここにはいない妹に向けて、俺は一言励ましの言葉を呟いた。
千歳 里香
日本人とロシア人のクォーター(日本3:ロシア1)。そのため髪の色は黒だが、瞳は緑色という珍しい外見をしている。親の仕事(オーケストラのメンバー)で、世界中を転々としていたため、さまざまな国の言葉をある程度理解できる。両親を亡くした事故がトラウマになり、以降物事を悪い方向、悪い方向へと考えるようになってしまう。
ちなみに千歳家を訪れた時に来ていたセーラー服は、日本で通う事になっている中学校の制服である。
と言うのがにじファンで連載してた頃に後書きに書いていたプロフィールです。よくよく考えたら今回絵が無いからセーラー服かわからないじゃん、とも思ったんですが、とりあえず乗せておきます。ちなみに何の変哲も無い黒いセーラー服でした。